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上林朋広(文学部)『ズールー語が開く世界 : 南アフリカのことばと社会』

<教員自著紹介>

この本は、ズールー語という南アフリカのことばを学んだ私の体験記です。ズールー語とは聞きなれない言葉かもしれません。しかし、11言語も公用語のある(!)南アフリカでもっとも母語話者の多いことばで、普段は別々の言葉を話しているアフリカ系の人々の共通語にもなっています。

いかにことばを学んできたのかについて書くことは苦労自慢のような気もして恥ずかしくもありますが、この本ではいつも書いている学術的な論文では取り上げることはできないけれど、多くの人に伝えたいと感じている事柄を描いてみました。

クリック音という舌打ちのような音を含むことばを聞いた時の新鮮な驚きや、日本人である著者がズールー語を話すことで引き起こされた現地での様々なエピソード、そして困難な状況下でズールー語の作品を残した作家たちが母語で書くことに込めた思いなど、小さな本ではありますが、いろいろと詰め込んでみました。ぜひ手にとってみてください。

『ズールー語が開く世界 : 南アフリカのことばと社会』
■ 上林朋広著. — 風響社, 2022.10. — (ブックレット《アジアを学ぼう》 ; 別巻27)

■ 請求記号 894.7//2005
■ 配架場所  図書館   1F 教員著作
■ 著者所属  上林朋広(文学部)

平野淳一(法学部)『図録 政治学』

図録 政治学 西山 隆行(編集) - 弘文堂

 

<教員自著紹介>

授業の教科書が文字ばかりで読むのが大変だという方も多いと思います。

この図録政治学は、そうした皆さんも読みやすいよう、イラストや写真が多く使われています。高校までの授業で使用された資料集をイメージしてもらえると良いです。説明も分かりやすく書かれていますし、公務員試験で出題されやすいトピックも多く扱っているのも特徴です。

興味のある方はぜひ読んでみてください。

『図録政治学』
■  西山隆行 , 向井洋子編 ; 阿部悠貴[ほか]著 , 弘文堂 , 2023.2

■ 請求記号 311//2226
■ 配架場所  図書館   1F 教員著作
■ 著者所属  平野淳一(法学部)

中村 聡一(マネジメント創造学部)『「正義論」講義 』

<教員自著紹介>

甲南の皆さん、西宮キャンパスの中村聡一と申します。私の新刊書が発売になりました。

タイトル: 『「正義論」講義・世界名著から考える西洋哲学の根源』(東洋経済新報社)

以下に本書の精神を記します。ご愛顧賜れれば幸甚です。

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要点

・NYコロンビア大学の政治哲学授業は、米国エリート教育の原点だ。プラトンとアリストテレスに主眼をおく。

・現代ビジネススクール(MBA)に象徴される”功利主義”の価値観をもって”アメリカ的”と捉えるのは誤りだ。

・「魂」を磨くこと。「正義」は人間の内にこそある。「アレテー」(徳)という言葉に集約される。

・「正義」が「幸福」(エウ・ダイモニア)をもたらす。昔も今も世界は不正義に満ちている。故に”魂の哲学”は私たちに普遍的な意義をもたらす。

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NYコロンビア大学には100年以上の歴史を誇る名物哲学授業があります。米国リベラルアーツ教育の原点であるこの”Contemporary Civilization”(現代文明論)という授業を私は研究しています。その真髄をさがすことで深淵な”真理”を見つけられるかも知れないと考えています。

”アメリカ的”な価値観=”利益至上の合理主義”か。 そう感じる皆さんも少なくはないと思います。しかしそうではありません。むしろ真逆です。

・「得」(utility・便益, pleasure・快楽, profit・利益) or ・「徳」(arete・アレテー・魂の卓越性)

利益至上の合理主義、つまり”ユティリタリアニズム”(功利主義)は、”得”(便益、快楽、利益)の最大化に目標を設定します。

対して、”徳”(アレテー・魂の卓越性)の視点から思想史を概観していくのがこの授業の特徴です。

では、ここでいう”徳”とはなにか。”アレテー”(arete)という古代ギリシャの哲学用語を知る必要があります。

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1.プラトンとアリストテレス哲学の土台「アレテー」とは…

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日本語訳では「徳」という表現で登場することが多いです。しかし根っこをおさえておかないとミスリーディングです。なぜかといえば、古代ギリシャの「徳」、つまり「アレテー」は日本語には存在しない概念だからです。ギリシャ哲学において「徳」とは、「魂」の能力のこと、どれだけフルにそのポテンシャルを発揮しているかです。「魂の卓越性」とも訳されます。

皆さんはご自分の魂のはたらきに自信がありますか?そうした設問からイメージいただくと良いでしょう。

いくつか関連の重要語句を紹介します。

・カキア(悪徳)とは…

「悪徳」が徳の反対だというのは自明です。魂のはたらきが本来そうあるべきとは違うところにあります。「カキア」とは古代ギリシャの誘惑の魔女です。堕落へと人びとを誘います。

・ペートス(あるいはパトス・情動)とは…

魔女カキアの誘惑に呼応して人びとの魂のはたらきを左右するのが「ペートス」(情動)です。魂が情動に支配されたら悪徳の道へ踏み込むことになります。

・フロネーシス(知性)とは…

そこで人間ならではの理性がはたらきます。私たちはさまざまな知性をはたらかせて理性的に生きることができます。なかでも「フロネーシス」のはたらきが人間の倫理行動を考える上で大切です。

フロネーシスは、日本語訳では「知慮」とされているようです。「熟慮」の「慮」と「知」をかけあわせた言葉です。「熟慮して知る」というほどにまずはイメージしておきましょう。

・フィリア(愛)とは…

人間社会は、人と人との結びです。その仕方といえましょう。では、人と人とを結びつけるのは何でしょうか。

大きく3つあります。便益(utility)、快楽(pleasure)、そして人間性(arete)です。これら3つは複雑に交錯して人間の結びつきの仕方を規定します。

結びつきの仕方が良好である場合、それをフィリア(愛)と呼びます。日本語で「愛」とすると曖昧なところが多分にありますが、古代ギリシャの「フィリア」は明快です。良好な人間関係、友人愛とでもまずはイメージしましょう。

・エートス(倫理)とは…

3つの結びつきの要因のうちの「人間性」によるものが本来的な意味での「良好な人間関係」となります。

では、善き人間性はどのように育まれるのでしょうか。それが「エートス」です。「人となり」ということです。

アリストテレスの格言を紹介しましょう。

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善く生きるから善き人に、悪しく生きるから悪しき人になる。

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・イデア(観念)とは…

「自由」とはさまざまな正義のうちでも大切なものとなります。では、「自由」とは何でしょうか。

社会、あるいは人間関係のうちに生きていれば、そのなかでの完全な自由はありえません。これはお分かりだと思います。

しかし自分自身の内にそれを見いだすことはできます。どんな人間でもどのような境遇におかれようとも、人間の頭の中の自由だけは誰にも奪うことはできません。この自由が作り出す世界観が「イデア」(観念)です。哲学の世界では、「形而上学」と呼びます。

プラトンが大御所になります。

・プラッティン(実践)とは…

しかるに、人間は経験を重ねてそこからさまざまなことを学ぶのも事実です。経験とは「プラッティン」(実践)あってのことといえます。

・ゼーン(生)とは…

どのように人生の実践を行うかが問われます。だから、こうした側面の考察に軸足をおく哲学の類型を「経験主義哲学」と呼びます。

アリストテレスが大御所です。

・エウ・ダイモニア(幸福)とは…

政治哲学の大命題は、「エウ・ダイモニア」(幸福)です。さまざまな「善」のなかでも最高にして唯一の「最高善」です。

「エウ・ダイモニア」(幸福)とは、「神々の祝福」を意味します。社会から「祝福」を得る、そういうような「幸福」です。

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2.”真理”は魂の内にある~キーワードは「信念」だ!

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「魂」のこと、つまり、人びとの善き「徳」や「人間性」そして「信念」を生育するしかありません。

そこで「正義」の出番となります。正義が大切だということに異論はないと思います。

しかしはたして役にたつのか得なのか、最後には勝つのか、となると意見は大きく別れましょう。

リンカーンは次のように言っています。

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アメリカの自由と独立との城壁をなすのはなにか。軍艦や軍隊ではない。われらの胸底に神が給うた自由を愛する心である。

正義は力であるとの信念を持ち、この信念にたってわれらの義務とするところを敢然と最後まで果たそうではないか。

(リンカーン戦没者追悼演説より抜粋)

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こうした考え方は、25世紀ほども遡る古代ギリシャに始まります。

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われらの政体は他国の制度を追従するものではない。ひとの理想を追うのではなく、ひとをしてわが範に習わしめるものである。

われらはあくまでも自由につくす道をもち、また日々たがいに猜疑の目を恐れることなく自由な生活を享受している。だがこと公に関するときは、法を犯す振舞いを深く恥じ恐れる。法を敬い、とくに、権利を侵されたものを救う掟と、万人に廉恥の心を呼びさます不文の掟とを、厚く尊ぶことを忘れない。

(ペリクレース戦没者追悼演説より抜粋)

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賢人たちの優れた教えが人びとの「信念」にまで高まることで「理想社会/幸福国家」が実現します。

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3.「正義」が”幸福”をもたらす!

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プラトンの主著で『国家』という書があります。政治哲学の嚆矢とされます。師ソクラテスを主人公にさまざまな登場人物との対話を通して語るものです。(余談ですが、私の新刊書もプラトンとアリストテレスの師弟の対話により話が進む趣向にしました。この書から着想を得ました。)

師ソクラテスの言葉を通してプラトンが示した信念が語られます。

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正義がある。そこに幸福がある。幸福がたくさんある。すると、正義がたくさんあることが見出だせるのだ。

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目標は、一つしかありません。この理想を実現することです。

それが「信念」です。人びとの信念を善く醸成すること。唯一の方法なのです。

100年以上の歴史を誇るコロンビア大学の名物哲学授業は、それに先立つ2000年以上前の古代ギリシャの哲学者が提示した大命題を後世の思想家がいかに咀嚼し時代時代でどのように語り論じたかを見ていきます。

戦争や分断、格差に”正義”はありません。昔も今も不正義は世界に社会に満ちています。

だから米国の最上位校ではプラトンとアリストテレス哲学を学びます。”先ず”学びます。”必ず”学びます。私は、日本でもそうなることを願っています。

簡単にはなりましたが、以上で、私の解説と致します。米国リベラルアーツ教育の真髄(コア)とそのミッション(使命)を皆様がより身近にお感じになったならばまことに嬉しく思います。

以上

<参考文献>

・『教養としてのギリシャ・ローマ~名門コロンビア大学で学んだリベラルアーツの真髄』(東洋経済新報社)

・『「正義論」講義~世界名著から考える西洋哲学の根源』(東洋経済新報社)

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以下の紀伊國屋書店さんの本書紹介ページには、リベラルアーツの世界名著の数々が紹介されています。ぜひご覧ください。

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紀伊國屋書店の本書紹介ページ

『「正義論」講義』がもっと面白くなる 

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsd-107004001036003001–

(抜粋)

古代ギリシャより賢人らが問い続けてきた「正義」についてコロンビア大学でリベラルアーツを学んだ中村聡一さんが論じた1冊『「正義論」講義』が発売になりました。

これを記念して、『「正義論」講義』の中で触れられている作品と『「正義論」講義』をもっと深く理解するための20冊をご紹介いたします。今、現実に起きている戦争・分断・格差などについて考えるヒントが見つかれば幸いです。

 

■『「正義論」講義
■ 中村 聡一著 , 東洋経済新報社 , 2023.2
■ 請求記号 158//2017
■ 配架場所  図書館   1F 教員著作
■ 著者所属  中村 聡一(マネジメント創造学部)
amazon著者紹介

新見まどか(文学部)『唐帝国の滅亡と東部ユーラシア : 藩鎮体制の通史的研究』

<教員自著紹介>

本書は、中国の唐王朝(7世紀初~10世紀初)が滅亡する過程とその背景を考察したものです。300年の長きにわたって栄えたこの帝国は、時代の変化に対応し、敵対勢力すら利用してしたたかに延命を図りました。

しかし、やがてこれまで支えてきてくれた人々を切り捨てはじめ、最後は誰からも見放されてしまいます。斜陽の時代の中、最後まであきらめずに生き残りをかけて戦う人々の姿を、ぜひ読んでみてください。

■『唐帝国の滅亡と東部ユーラシア : 藩鎮体制の通史的研究
■ 新見まどか著 , 思文閣出版 , 2022.12
■ 請求記号 222.048//2020
■ 配架場所  図書館   1F 教員著作
■ 著者所属  新見まどか(文学部)

三谷 宗一郎(法学部)『戦後日本の医療保険制度改革 : 改革論議の記録・継承・消失』

<教員自著紹介>

中央政府で働く官僚たちは、どのように新しい政策を生み出しているのでしょうか。この本では、1950年代から90年代までの厚生官僚が新たな政策を創造し、継承していった過程について、厚生省の非公表内部文書やインタビュー記録などをもとに明らかにしました。公務員を目指している方だけでなく、イノベーションを生み出す組織のダイナミズムに興味がある方にもぜひ手に取ってもらいたいと思います。

『戦後日本の医療保険制度改革 : 改革論議の記録・継承・消失
■  三谷 宗一郎著 , 有斐閣 , 2022.12
■ 請求記号 364.4//2056
■ 配架場所  図書館   1F 教員著作
■ 著者所属  三谷 宗一郎(法学部)

鵤木 千加子(共通教育センター)『バドミントンの歴史 : スポーツの国際化・グローバル化の軌跡』

<教員自著紹介>

本書は、バドミントンというイギリス誕生のスポーツが、どのように世界へ広がり(国際化)、現在のヒト・モノ・カネが地球規模で動くもの(グローバル化)へと変化してきたのかを紐解く一冊です。

スポーツはその誕生から変化して今に至り、これからも変化していくでしょう。歴史を知ることは、未来を考えることに繋がります。スポーツ競技に取り組む人だけでなく、多くの人に読んでもらいたいと思います。

『 バドミントンの歴史 : スポーツの国際化・グローバル化の軌跡 』
■ 鵤木 千加子 著 , 大修館書店 , 2022.9
■ 請求記号 783.59//2011
■ 配架場所  図書館   1F 教員著作
■ 著者所属   鵤木 千加子(共通教育センター)