2.おすすめの本」カテゴリーアーカイブ

【第9回 甲南大学書評対決】 高橋則夫著 『刑の重さは何で決まるのか』

10月22日(火)に開催された第9回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

法学部教授 竹内 健互 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名 : 刑の重さは何で決まるのか
著者 : 高橋則夫
出版社:筑摩書房
出版年:2024年

竹内先生3冊目のおすすめ本です。先生のご専門分野の図書を紹介してくださいました。

 

以下、先生の書評です。

 

「刑が軽い」。裁判実務と日常感覚の「ズレ」はどうして生じるのでしょうか。世界三大発明と言えば、火薬・羅針盤・活版印刷ですが、「ルール」も人類にとって偉大な発明の一つです。

本書では、刑法学の世界、処遇論の世界、量刑論の世界、刑法学の新しい世界という5つの寄港先立ち寄りながら、「犯罪とは何か」、「なぜ刑が科されるのか」という刑法(ルール)に投げかけられる究極の問いに向けて航路を進めていきます。

本書で、その「答え」は時代や社会の価値観などに伴って「変更可能性」を免れないものであるおとが示されていrます。「人間とは何か」という一筋縄ではいかない難問(アポリア)も背後に待ち受けています。だからこそ、「考えるのが面倒だ」と思うかもしれません。しかし、刑法は「他人ゴト」ではないのです。唯一絶対の「答え」もありません。でも、そこにこそ「刑法」の奥深さと醍醐味を感じてもらいたいと思います。

 

 

第9回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

も合わせてご覧ください!

【第9回 甲南大学書評対決】 筒井康隆著 『残像に口紅を 復刻版』

10月22日(火)に開催された第9回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

法学部教授 竹内 健互 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名 : 残像に口紅を 復刻版
著者 : 筒井康隆
出版社:中央公論新社
出版年:2022年

竹内先生2冊目のおすすめ本です。50音が世界からなくなっていく世界の結末を知りたくなる、そんなプレゼンをしてくださいました。

 

以下、先生の書評です。

 

「ダザイスト」に「ハルキスト」。筒井康隆も「ツツイスト」と呼ばれる愛読者層が形成される有名な作家です。

なぜ数ある筒井先品の中から本書を選書したのか。一つには、本書の舞台が「御影」だからです。筒井はかつて御影に仕事場を持っていました。

理由はそれだけではありません。本書では、物語が進むにつれて使われる文字見(音)が一つずつ消えていく「リポグラム」という手法が採られています。冒頭から「あ」が消えます。これにより「あ」が名指す対象(例えば、「明日」や「iCommons」)はその言葉も含めて存在もろとも作中世界から忽然と消え失せます。使える言葉が減っていく中で世界からは次から次へと言葉が指し示す対象(あるいはその「イデア」)が消えていくわけです。そうした制約と仕掛けの中で物語は進みます。

「最後に残る文字」とは何か、タイトルの「残像に口紅を」とはどのような意味か。それは本書を読んでの「お楽しみ」です。

 

 

第9回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

も合わせてご覧ください!

【第9回 甲南大学書評対決】 ミシェル・フーコー著 『監獄の誕生 : 監視と処罰 新装版』

10月22日(火)に開催された第9回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

法学部教授 竹内 健互 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名 : 監獄の誕生 : 監視と処罰 新装版
著者 : ミシェル・フーコー
出版社:新潮社
出版年:2020年

竹内先生1冊目のおすすめ本です。学生のうちこそ背伸びして高い本を読んでみてほしいと紹介されました。

 

以下、先生の書評です。

 

学生時代こそ背伸びして「分かりにくい」本を手に取ってみましょう。本書はそんな一冊としてオススメです。

かつて刑罰は身体刑が中心でしたが、近代以降、犯罪者を「監獄」に収容して精神を矯正させる刑へとあり方が大きく変化しました。この刑罰制度の大転換は「人道主義」の成果なのでしょうか。フーコーによれば、そうではありません。「君主権的権力」から「規律権力」へという権力メカニズムの変容によるものです。建築様式としての「パノプティコン」という刑務所施設では受刑者は常に誰かに監視されているかもしれないと意識する結果、自分で自分を監視して規律を内面化するようになり、従順な個人が効率的に作り出されます。フーコーは、こうした「監獄」のシステムに、工場、軍隊、病院に代表される近代の管理システムの原型を見出しました。

本書は約半世紀前のものですが、今も現代社会を分析する視角としての有用性を失ってはいません。

 

 

第9回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

も合わせてご覧ください!

湊かなえ著 『白ゆき姫殺人事件』

 

 

文学部 2年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 白ゆき姫殺人事件
著者 : 湊かなえ著
出版社:集英社
出版年:2014年

私が紹介する本は、湊かなえさんの『白ゆき姫殺人事件』というミステリー小説です。化粧品会社で働く美人社員、三木典子が黒こげの遺体で発見された次の日から物語が始まります。

赤星という記者が、容疑者として浮上した三木典子の同僚、城野美姫という女性の周辺人物に取材を始めます。その周辺人物の証言によって話が進んでいきます。その証言は不確かで、城野美姫が犯人と決まったわけではないのに話を盛ったり、噂話を広げて話したりと、城野美姫という一人の女性の人物像を勝手に作り上げる自覚のない悪意で溢れています。ネット上でも、匿名により他人が好き勝手に話し、様々な憶測が飛び交い、人の自覚のない悪意がどれほど怖いのかを感じることができます。

また、この小説の面白いところは、最後まで犯人の予想ができないところです。周辺人物による証言の中の噂話に、読んでいて振り回されているなと感じました。城野美姫が犯人で違いないと思う時もあれば、殺人などしなさそうだと感じる旧友の証言もあり、犯人は城野美姫なのか、他の人なのか、最後まで予想できないところが面白かったです。

『白ゆき姫殺人事件』という作品は、事件自体に焦点が当てられるというよりかは、この事件を取り巻く様々な噂話、人々の憶測、自覚のない悪意に焦点が当てられています。自覚のない悪意は、現実のネット社会にもはびこっていると言っても過言ではなく、噂話が大きくなって、歯止めが利かなくなっていく怖さには非常にリアリティーがあり、人間の怖さが感じられる作品です。

 

[藤棚ONLINE]知能情報学部・木原眞紀先生推薦『博士の愛した数式』

図書館報『藤棚ONLINE』
知能情報学部・木原眞紀先生より 

日々,理系離れ・特に数学離れが多いことをひしと感じる今日この頃.
1人でも多く数学に興味を持ってくれる方が増えてくれたら良いなと思ったので,この本を紹介するために筆をとりました.
私,木原の昔話や,研究者とは?という内容にも少し触れるため,長くなりますが,お付き合いいただけたらと思います.

みなさんは自分の記憶がある日を境にきっちり80分間しか持たないとしたら,どのような日々を送るでしょうか.
例えば,友人とお昼に食べたパスタ,家族と交わした会話,そして,自分が学んだこと・考えたことの全てが失われるということです.
この本は,80分しか記憶の持たない「博士」,とその「博士」の家で家政婦として働く「私」そして,「私」の10歳の息子「ルート」が,数学を通して優しく穏やかな時間を過ごす,そんな心温まる物語です.
このブログを執筆するにあたり,久しぶりに読み返してみましたが,やはり何度読んでもあたたかく,優しい気持ちになれる1冊でした.

例えば,中学生や高校生の頃に学んださまざまな数学の定理があると思います.
それらの定理はかつての数学者たちが
「その主張は正しいか」「どんな時でも必ず成り立つのか」「成り立たない例はあるのだろうか」
などのことをたくさん考え,きちんと整備してきた結果,今私たちが「公式」のようにツールとして扱うことができるのです.
これらのことを調べるために,数学者たちは何日も,何週間も,何ヶ月も,時には,何年,何十年という長い時間をかけて取り組むのです.
そのような数学者にとって,すでに数学に関する基礎知識は十分にあったとしても80分しか記憶が持たないということは,考えついたアイディアを取り組んでいるそばから忘れてしまうし,仮にそのメモを残していたとしてもそこに至る過程すらも忘れてしまう,非常に致命的で恐ろしいことです.
しかし,そこでの苦労などが記されているわけではなく,記憶できなかったとしてもなお数学を愛している「博士」と「私」と「ルート」の穏やかで温かな日々だけが描かれているのです.

この本と私の出会いは,中学生の頃付き添いで行った本屋さんで母に購入してもらった日だったかと思います.
この本は,中学生の私を含め多くの数学者でない人に数学の美しさを知らせた作品であるということで,日本数学会にて出版賞を受賞しています.
中学生といえば「数学ってそもそも何の役に立つの?」,「数学の勉強って意味があるのかな?」などの疑問を少なくとも1度は抱えたことがあるのではないでしょうか.
中学生の私も例に漏れずそのうちの1人でしたが,そんな私に「数学とは,そこにあるだけでとても美しく,素敵なものである」と思わせてくれたのがこの1冊でした.

この本は,何度も読み返している作品の1つなのですが,その理由の1つとして「博士」の数学との向き合い方にあります.
「博士」は数学を愛し,数学に対して決して驕らず,謙虚で誠実な方です.
例えば,「数」は,そして「数学」は人間が発明したものではなく,「発見」したものだと「私」に話します.
なぜならば「博士」は
『数学は人間が発明したものではない。人間が生まれるずっと以前から、誰にも気づかれずそこに存在している定理を掘り起こすんだ。神の手帳にだけ記されている真理を、一行ずつ、書き写してゆくようなものだ。その手帳がどこにあって、いつ開かれているのか、誰にもわからない。』
『人間が発明したのなら、誰も苦労はしないし、数学者だって必要ない。数の誕生の過程を目にした者は一人もいない。気が付いた時には、もう既にそこにあったんだ。』
のように考えているからです.
数学を扱う研究者となった今の私(純粋数学が専門ではないので数学者というのは躊躇いますが,応用数学ということで…)にとって,「博士」のこの考え方は,恐れ多くも共感せざるをえません.

他にも,実は研究者をやっていると「その研究は何の役に立つのか」を問われることがとても多いです.
もちろん,世の中の役に立つこと,それは研究の大きな意義です.
しかし,例えば1つの数学の性質を見つけたからといって,それが世の中の役に立つとは限らないことも少なくありません.
たまに「この発見は意味がないかもしれない」と落ち込むこともあります.
そんなとき『実生活の役に立たないからこそ、数学の秩序は美しいのだ。』という「博士」の一言に救われたりします.

さらに「博士」は数学の知識をあまり持っていない高校中退の「私」や10歳の「ルート」に対してもとても真摯に素直に向き合います.
例えば2人が発見したどんなに拙い数学の性質や数学への取り組み方であっても,絶対に否定したり馬鹿にすることはありません.
「博士」にとって,そして「私」と「ルート」にとって,
『博士の幸福は計算の難しさには比例しない。どんなに単純な計算であっても、その正しさを分かち合えることが、私たちの喜びとなる。』
だからこそ,「博士」は2人の主張を丁寧に聞き,どのように考えその結論に至ったかを尊敬し,賞賛します.
そしてこれは主張が正しいときにだけそのようにするわけではなく,何も答えられない・突拍子もない間違いすらも愛を注いでくれるのです.
大学の先生を含め研究者は皆,日々自身の研究について,悩み,ひたすらに真摯に,そして謙虚に研究に向き合って仕事をしていると思います.
学生さんたちの中には,先生は「怖い」「厳しい」「何を考えているのかわからない」と感じている方がもしかしたらいらっしゃるかもしれません.
ですが,安心してください.
その先生もきっと,「博士」が記憶が80分しか持たない病気になったとしてもなお数学を愛しているのと同じように,自身の研究について考えることをやめられない,自身の研究を愛している人々です.
そして,「ルート」や「私」,そして学生の皆さんのように突拍子もない間違いや答えられない,ということを散々経験してきた人々であり,かつ,それに愛を注いでくれる「博士」と同じ研究者なのですから.
疑問に感じること・気になること・困っていること・知りたいことがあったら,「ルート」や「私」のように,素直に話してみるといいかもしれません.

数学に関する難しい知識を持っていなくとも,この1冊を手にしてくださった方をきっと穏やかな気持ちにしてくれる,そして今までやってきた「数学はこんなにも美しいのだ」と教えてくれる,そんな1冊かと思います.
良ければ手に取って読んでみてください.
そして,願くば1人でも多くの方が数学に少しでも興味を持ってくれますように.

小川洋子 著
『博士の愛した数式』新潮社, 2003 2階中山文庫 913/O
文庫版  1F開架小型北 SB913/O

伏瀬著 『転生したらスライムだった件15』

 

 

知能情報学部 4年生 Nさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :転生したらスライムだった件15
著者 : 伏瀬著
出版社:GCノベルズ
出版年:2019年

「転生したらスライムだった件15」はジャンルとしては、ファンタジー、異世界転生ものに分類されるライトノベルです。この巻の魅力としては圧倒的なまでの戦闘描写とこの作品にはなくてはならない「名付け」の重要性の再認識、様々な伏線の回収にあります。

この作品には、自身のエネルギーを引き換えに魔物や物に名前を付けることで名を与えられた者と与えた者との間につながりができ、与えられた者は飛躍的に成長、または進化し、強大な力を得ることができるという設定があります。また、相互に名前を付けあうことによって対等な関係を築くこともできるという設定もあります。これらの設定がこの巻では大きく活躍しています。

この設定は第一巻目から存在しているものですが普通に読んでいるだけでは仲間を成長、進化させるために必要なプロセス、戦闘能力インフレを加速させるためのシステムとでしか認識できないがこの巻を読むことで、「名付け」の真の意味が分かってきます。この巻で主に主人公が行ったことは3つあります。1つ目が配下の悪魔の召喚、2つ目が盟友である竜種ヴェルドラを取り込む、3つ目がスキルへの名付けの以上3つのことを行いました。主人公リムルがこれらの行動を行いによって、自分を含め、周囲に与えた影響、読者に与えた影響は非常大きいと考えられます。これらの行動は、それぞれ共通点として「名付け」に影響された行動であると考えられます。逆に今までの作品の中での「名付け」を漠然と読んでいただけではそこまでの驚きはないかもしれません。しかし、再度読み直すことでなぜ、「名付け」というシステムを成長、進化のためのプロセスに組み込んだのかが分かる巻となっています。

これらのことを総じて「転生したらスライムだった件」第15巻は、今までの作品の中で重要だったことを再認識させてくれる作品だと考えられます。ぜひ読んでみてください。