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[藤棚ONLINE]法学部・濱谷和生先生 推薦『THINK AGAIN』

図書館報『藤棚ONLINE』
法学部・濱谷和生 先生 推薦
『THINK AGAIN : 発想を変える、思い込みを手放す』

 この6月あたり、私は大学でのある仕事やある授業クラスの運営について、どうすればもっと有意義に、かつ、建設的に行っていけるかについて相当深く悩んでいた。本書は、そんなとき、本屋の新刊コーナーでふと手にして、深い感銘を受けた一般書である。

 日常生活、仕事や勉強においてタスクや物事に関わる困難に直面するとき、私たちはよく「自分を変えなきゃ」とか、「自分を進化させよう!」等のフレーズを聴く。でも、実際にどうすれば自分の思考や行動を自覚的に変革できて、また、自分の属性を意識敵に進化させることができるかは、さほど上手に実践できるわけでない。この本は、そんな悩みに方法上の具体的なヒントを与え、思考や行動の変革に向けた動機付けをもたらしてくれる。

 本書に依れば、自分を進化させるための要諦は、あたかも不動・不変であるかのように自ら刷り込んでしまっている従来の思考や行動の様式を疑って「発想を変え」、自分と自分に関わる物事やタスクを縛っている「思い込みを手放す」ことにある。だが、個人的に思うに、それが未来志向であったとしても、誰しもいまの自分のありかを自ら崩す、あるいは外部から強制的に崩されるのは尚更に、直感的にとても怖い。認知的に暗闇のなか徒手空拳で前に歩くことは恐怖以外の何物でもなく、これは言うは易く行うに難いのだ。

  しかし、組織心理学・経営学の著名な研究者であるこの本の著者は、様々な市井の人々の苦闘・奮闘に係る幾多のエピソードを引いて、その方法論を具体的・実践的に指南してくれる。例えば、自分の思考モードを再考するには、「思考の盲点」に気づき、また、自分の「間違いの発見に喜び」を感じるようにと言う。あるいは、他者との対話においては、「敵」ではなく「ダンスの相手」と思って、「穏やかな傾聴」に他者の心を開くチャンスがあると述べる。また、学び、再考し続ける社会・組織を構築していくには、「批判的に考察」し「建設的に論じる」こと、「過ちから学べる組織」を作り上げることが重要であると促す。

 本書を読んだからと言って、冒頭に述べた私の悩みが直ちに雲散霧消して、私の思考や行動が一気に変革され、私に人格的進化が顕著にもたらされたはずは、もちろんない(いまも悩み続けている)。ただし、この本の読後、私は、自分の思考や行動の基点、その過程および結果や成果を少しは客観視することに努め、他者からの批判や見解にいっそう耳を傾け、過ちの発生自体をおそれるのではなく、それを見て見ぬ振りをしてまたはそれに気づかず放置してしまうことの方により注意を払うようには、なってきたかも知れない。

 思い返すに、2016年末の米国トランプ前大統領当選以降、Brexit、核兵器禁止条約の成立と発効、新型コロナウィルスの感染拡大、ウクライナへのロシア軍侵略、そしてマネーの世界的な過剰供給からインフレ経済への急激な移行等々、「これまでかくかくであったから、これからもしかじかであろう」というたいていの経験則は最早成り立ちにくくなってしまった。私たちは見通しが極めて不透明・不確実で、混迷が深まる一方の世界に置かれていると、馬齢を重ねるまま61歳に至ってしまった私はしみじみ実感している。

 さような時代状況の只中で、本書を読んで、私は、自ら描いてきた過去の軌跡の延長上に未来の自分を据える必然は何もなくて、本当におそれるべきは頑迷固陋に自分を変えない自分自身、自分を進化できない・させられないままに固定化してしまう自分自身なのだ、と分かった気がする。己を不断に更新することに向けられる高い志(社会や組織、授業クラスの理想像や夢)、それを持続的に追求する逞しく粘り強い日々の努力、そしてそれらを支える簡単に折れない心(あるいは深い知的洞察に支えられた勇気と胆力)。こうした態度・姿勢や価値をこれからも大切にしていきたい。また、この本を通じてそのエッセンスをこの場の読者の皆さんにもお伝えできたらばと念願し、本書をご推薦申し上げたい。

[藤棚ONLINE]経済学部・足立泰美先生 推薦『「家飲みビール」はなぜ美味しくなったのか?』

図書館報『藤棚ONLINE』
経済学部・足立泰美 先生 推薦
『「家飲みビール」はなぜ美味しくなったのか? -コテコテ文系も学べる日本発の『最先端技術』』

「家飲みビール」はなぜ美味しくなったのか?

 緊急事態宣言により外出自粛や時短営業となり巣ごもり需要が増えるなかで、いわゆる「家飲み」が定番に。居酒屋で飲むからうまいはずだったビールが、家で飲んでも意外にうまいというお話。みなさんもお聞き及びでありませんか?

 その美味しさの秘密には、日本発の最先端技術、東京大学の藤田誠教授らによる結晶スポンジ法に起因します。しかしながら、実用化されるまでには、研究者による根気よく、ひとつのことを追求し、何度も繰り返し失敗し、諦めることなく、前に進め続けた地道な時間が存在しています。

 本書を通じて、日常の生活に隠された「なぜ」という疑問から、発明に至るまでの原動力。その科学者の本音と姿勢に触れてみませんか?

[藤棚ONLINE]理工学部・須佐 元 先生 推薦『科学の発見』

図書館報『藤棚ONLINE』
理工学部・須佐 元 先生 推薦
『科学の発見』

本書は、昨年残念ながら他界されたノーベル物理学者のスティーブン・ワインバーグ氏による科学史に関する本です。

20世紀を代表する理論物理学者のうちの一人である著者が、古代ギリシャから現在までの、物理学・天文学を中心とした科学の歩みを講義してくれます。既に多くの書評があって、過去の科学者にダメ出ししているかなり激しい側面を多く取り上げています。確かに過去の科学者たちの考え方がいかに現在の科学的価値観と隔たったものであったかを、厳密に取り上げています。しかしながら著者も述べている通り、これによって「科学」それ自身が数千年にわたって紆余曲折を経ながら進化してきたこと、その過程で多くの科学者が苦闘し、それによって形作られてきた現在の科学の価値および未来への教訓を伝えようとしているのだと思います。

途中やや専門的で難しいところもありますが、サイエンスに携わる・志す人々一般にとって、手にとってみる価値はある本であると思います。

【第4回 甲南大学書評対決】A・A・ミルン著 石井 桃子訳 『クマのプーさん』

6月16日(木)に開催された第4回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

経済学部  寺尾 建先生からのおすすめ本です。

書名 : クマのプーさん
著者 : A・A・ミルン著  石井 桃子訳
出版社:岩波書店
出版年:2000年

 クマのプーさん(Winnie-the-Pooh)のことを知らない人は、いないと思います。しかし、クマのプーさんのことを知っている人の数に比べると、この原作を読んだことのある人の数は、はるかに少ないのではないでしょうか。

 原書は、1926年にイギリスで出版されました。現在までに30以上の言語に翻訳されていますが、日本語訳が出版されたのは1940年、太平洋戦争が始まる前年でした。ちなみに、ディズニーが「プーさん」の商品化権を獲得したのは1961年のことで、その後、「プーさん」の初のアニメーション作品を公開したのは1966年のことです。

 以降、現在に至るまで、世界的にみると、ディズニーの影響力の方が原作の影響力よりもはるかに大きなものとなっているせいで、「プーさん」といえば、「かわいくて、明るい笑いを誘う愉快な存在」であると広く受け止められています。それは、まったくの間違いというわけではないのですが、大きな誤解もしくは曲解であることもまた、否定できません。

 プーさんは、詩をつくるのが大好きで、自作の詩をよく口ずさみます。しかしながら、ディズニーは、プーさんから人や物事の本質をとらえる優れた能力を奪い取ることによって、プーさんをわかりやすいキャラクターへと変えてしまいました。

 プーさんは、詩人です。ぜひとも原作を手にとって、プーさんの「わかりにくさ」に触れてください。

【第4回 甲南大学書評対決】浜田廣介著 『浜田廣介童話集』

6月16日(木)に開催された第4回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

経済学部  寺尾 建先生からのおすすめ本です。

書名 : 浜田廣介童話集
著者 : 浜田 廣介著
出版社:角川春樹事務所
出版年:2006年

 浜田廣介(はまだ・ひろすけ)は、1893年(明治26年)に山形県に生まれ、1973年(昭和48年)に東京で亡くなりました。坪田譲二(1890-1982)や小川未明(1882-1961)と並び称される、日本を代表する児童文学者の一人です。

 この本には、浜田廣介が書いた童話が計20話収録されていますが、泣く子も黙るほどの、というか、笑っていた子も思わず涙してしまうほどに圧巻なのが、この本の冒頭に収録されている「泣いた赤おに」(初版は1933年)という作品です。

 悲しい、寂しい、悔しい、あるいは、嬉しい──人が涙を流す理由は一つではありませんが、作中で最後、赤おにが涙する理由は、説明するのがとても難しいものです。しかし、赤おにが感極まって一人涙を流すことには、ほとんどの人が深い共感を覚えることでしょうし、「赤おにの涙にもらい泣きをしないような人は、人の心をもっていない!」という主張には、多くの人が同意するのではないでしょうか。

 「正しく」「強く」「朗らか」──これらの言葉を空語として口にしないようにするためにも、一読をおすすめします。

【第4回 甲南大学書評対決】サン=テグジュペリ著 河野万里子訳 『星の王子さま』

6月16日(木)に開催された第4回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

経済学部  寺尾 建先生からのおすすめ本です。

書名 : 星の王子さま
著者 : サン=テグジュペリ著  河野 万里子訳
出版社:新潮社
出版年:2006年

 本書の初版がアメリカで出版されたのは1943年、第二次世界大戦の真っ只中でした。当時の世界の総人口は25億人で、現在の3分の1ほどでしたが、第二次世界大戦では、5,000万人から8,000万人が犠牲になったと言われています。
 
 本書が最初に日本語に翻訳されたのは、原書の出版から10年後の1953年ですが、初版の出版から現在に至るまでの80年間で、計200以上の国・地域の言葉に翻訳されています。

 タイトルから、子ども向けの本だと思われがちですが、実は、本書は、大人(正確にいえば、子どもの心を忘れてしまった大人)に向けて書かれたものです。たとえば、人が、あるものを「愛しい」と思うのは──そして、他のものについてはそのように思わないのは──いったいなぜなのでしょうか?「大人」とは「自分の心の動きに驚かなくなった人」と言い換えてもよさそうですが、この本は、「読む人々が、自分の心の動きについての驚きを取り戻しますように」との願いを込めて書かれました。

 子どもから大人になりかけている年頃のみなさん。ぜひ本書を手にしてみてください。