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[藤棚ONLINE]法科大学院・宮川聡先生推薦「米朝置土産 一芸一談」

図書館報『藤棚ONLINE』
法科大学院・宮川聡先生推薦「米朝置土産 一芸一談」

桂米團治監修
淡交社, 2016

 今回私が紹介したいのは,第2次大戦後の上方落語復興の立役者の1人である三代目桂米朝さんが1989年4月から1990年10月まで朝日放送ラジオで放送されていた「米朝のここだけの話」という番組で行われた様々な分野の著名人との対談の内容を文字起こしした「米朝置土産 一芸一談義」という本です。2016年に淡交社から発行されていますが,桂枝雀さんが担当されていた「前説」も収められています。なお,編者の桂米團治さんは米朝さんの息子さんです。

 この本では,後に紹介する13名との対談が取り上げられているのですが,実はこの本の前編というべき「一芸一談」(この本でも13名との対談が文章化されています。)が1991年に公刊され,2007年に文庫化されています(ここでは,藤山寛美,13世片岡仁左衛門といった人たちとの対談が文字起こしされています。)。ただ,残念ながら,現在は古書を手に入れるしかなくなっているようですので,続編というべき「置土産」のほうを取り上げることにします。

 「置土産」では,①夢路いとし・喜味こいし(漫才師),②菊原初子(地歌筝曲演奏家),③朝比奈隆(指揮者),④吉村雄輝(上方舞台吉村流の家元),⑤小松左京(小説家),⑥島倉千代子(歌手),⑦小沢正一(俳優・俳人・エッセイスト),⑧橘右近(落語家・書家),⑨高田好胤(薬師寺管長),⑩阪口純久(きく)(上方料理「大和屋」の4代目女将),⑪立川談志(落語家),⑫茂山千之丞(大蔵流狂言師)という各分野を代表する著名人との対談が再現されています。現在大学で学んでいる皆さんにとっては,あまりなじみのない名前ばかりかもしれませんが,非常に興味深いお話が展開されています。

 個人的には,SF作家として著名な小松左京さん(代表作は,「復活の日に」,「日本沈没」など)との対談に最も興味を覚えました。米朝さんと小松さんは,その昔,ラジオ大阪で「題名のない番組」(題名のない音楽会ではありません)という番組を担当されていたので,気心が知れているうえに,博識なご両者の口から話がよどみなく流れ,それがそのまま文章化されているので,読みやすいことこの上ないという感じでした。

 東芝が開発した日本語ワープロ1号機について,使ってみようかと考えたが値段が600万円(正確には630万円だったようです)といわれてあきらめたと発言されている小松さんは,その後,安くなったワープロを使うようになられたのですが,ワープロの操作に慣れていないときに,誤ってせっかく作成した文書(400字詰め原稿用紙2枚半)を消去してしまい,入力しなおさなければならなくなり,大慌てをした話などが出てくるのですが,私にも同じような覚えがあるので思わずぞっとしたりしました。また文壇との付き合いが嫌で関西にとどまっているというような極めて率直なお話が出てきて,人付き合いが苦手な私はここでも「よくわかります」と感じてしまいました。

 30年以上前に放送された番組ですから,その内容や表現については現在の基準からすると問題がある箇所もありますが,それも含めて当時の雰囲気を感じることにも意味があるのではないかと思います。一度手に取ってみればよいのではないでしょうか。

[藤棚ONLINE]全学共通教育センター・西浦太郎先生推薦「カブール・ノート 戦争しか知らない子どもたち」

図書館報『藤棚ONLINE』
全学共通教育センター・西浦太郎先生推薦「カブール・ノート 戦争しか知らない子どもたち」

山本芳幸著
幻冬舎 2004

 みなさん、こんにちは。今回、皆さんにお勧めしたい本は、「カブールノート」です。

 カブールはアフガニスタンの首都ですが、この国では、過去何十年もの間、何度も戦争が行われてきました。著者の山本さんは、かつて国連の難民高等弁務官事務所(UNHCR)に勤め、戦争により家や土地、家族を失った人々へのさまざまな支援を行ってきました。本書では、現地の人々が生きる状況や、山本さんが紛争状況で人を支援する際の苦悩や葛藤が赤裸々に書かれています。

 日本にも、そして世界にも自分達の想像を超える体験をしている人たちがいます。日本に閉塞感を感じ、世界をもう少し知り、より大きな文脈から見てみたいと思っている方に本書を是非、お勧めします。また、国際協力という分野の実態を知り、日本人特有の考え方について考えたい人にとっても良書です。

 専門的な話も出てきますが、エッセイ調で比較的読みやすいので是非、手に取ってみてください。

[藤棚ONLINE]フロンティアサイエンス学部・川内敬子先生推薦「我慢して生きるほど人生は長くない」

図書館報『藤棚ONLINE』
フロンティアサイエンス学部・川内敬子先生推薦「我慢して生きるほど人生は長くない」

鈴木裕介著
アスコム , 2021

 昨年、恩師が急逝し、精神的に辛い時期がありました。この本は、その時に父が贈ってくれたものです。

 この本には、心療内科医の目線で、穏やかな日々を過ごすためのコツについて書かれています。大切な人が亡くなった時、大きな病気に罹った時、人生において重要な決定をしなければならない時、多くの方は自分の人生のあり方や意味を真剣に考えるのではないでしょうか。私の場合、自分の人生のあり方を真剣に考えるたびに、自分の“ポンコツ”さが嫌になり、どんどん気が滅入ってしまいます。とにかく私の周囲には、恩師も含めて能力が高い方ばかりで、迷惑ばかりかけていることに、反省する日々を送っています。この本には、「人生は、ほどほどに“ポンコツ”がちょうどいい」ということを理論づけて書かれており、ポンコツも真面目に生きていればよいのかなと、少し気が楽になりました。

 他にも、人との上手な関わり方など色々なことが書かれていますが、この本の重要なメッセージは、「間違えた人生などないから、気楽に過ごしましょう。」ということだと思います。今を幸せと感じながら、感謝の心を忘れずに、学生の皆さんとともに楽しい時間を過ごしていきたいと改めて思いました。

 自分のことを“ポンコツ”かもしれないと思ってしまう方に、是非読んでほしい一冊です。

[藤棚ONLINE]マネジメント創造学部・中村聡一先生 コラム「リンカーン」

図書館報『藤棚ONLINE』
マネジメント創造学部・中村聡一先生 コラム 「リンカーン」

学生の皆さん。
西宮キャンパスの中村聡一と申します。
平穏な時代が長きにわたり続きましたが、国際社会は今戦争のリスクにさらされています。
羅針盤になる価値観は永遠に不滅です。それは、”正義”です。
アメリカの分裂危機を救ったリンカーンを紹介します。

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エイブラハム・リンカーン

リンカーン「分かたる家は立つこと能わず演説」「リンカーン・ダグラス論争」「クー パー・インスティティテュト演説」「ゲティスバーグ演説」

The first reading of the Emancipation Proclamation before the cabinet
“The first reading of the Emancipation Proclamation before the cabinet / painted by F.B. Carpenter ; engraved by A.H. Ritchie.”
(内閣における奴隷解放宣言の最初の朗読)
Abraham Lincoln Papers at the Library of Congress(米国議会図書館)より

合衆国の大統領として奴隷解放にあたったリンカーンは、敬虔なキリスト教信者である。
恵まれない移民の境遇から独学で身を興した。
真実の人として知られる。

”I am nothing but truth.”

彼自身の言明である。
建国からほぼ1世紀を経たが、19世後半に至っても自由の国アメリカは厄介な問題には蓋をしてきた。

奴隷制だ。

南部の経済は奴隷制をもっての大規模農園が主体であった。理念以上に実利が優先された。
自由憲法も、この問題には狡猾な解釈がなされる。

「奴隷は所用者の財産であって、憲法の適用範囲外である。」

南部で行われていることは南部の問題であり、合衆国政府としては関与したくない。
いわゆる無関心政策だ。

しかしパッチワークには必ずほころびが生じる。
南部の奴隷州から黒人奴隷が脱走してきたとする。
北部の自由州では奴隷制は認められていない。だから、もはや奴隷ではない。
しかし南部の奴隷の所用者は州政府を通じて、その奴隷の引き渡しを要求する。
放置すれば奴隷の大量脱走が生じる。南部諸州の没落につながる。

法の理念に照らして、引き渡すべきか、否か。
連邦政府としても無関心で通せなくなる。大いなる議論を招く。
南部諸州は、引き渡しは正当な財産の保全であると当然に主張する。

対して、それを認めれば、自由州を含めて、合衆国すべてが奴隷制を追認することになる。
煮え切らない対応に、南部諸州は、合衆国からの脱退も辞さない。大量脱走を食い止めるには自由州とのあいだに国境を作り出すしかない。
連邦政府が阻止するなら戦争も辞さない。
どちらつかずの対応に限界がきた。

「分かれたる家は立つこと能わず」

正と不正のあいだの中間的な立場を模索するというような計略は破綻した。そんなことは「生きてもいない、死んでもいない人間」を探すのと同じだ。
誰もが思うが誰も決して公には発言しない。

リンカーンが言明した。
「黒人を人間と思わず、野の禽獣と扱うとき、こうして呼び起こされた悪霊は、やがて逆に汝自身を裂き破るのではないか。アメリカの自由と独立との城壁をなすのはなにか。軍艦や軍隊ではない。われらの胸底に神が給うた自由を愛する心である。」

すべての人に天与の自由を愛する心。そして互いのそれを尊ぶ精神。
他人の権利を平気で蹂躙する。それは、すなわち、自分たちの独立の精神(本性)をも失することだ。

「正義は力であるとの信念を持ち、この信念にたってわれらの義務とするところを敢然と最後まで果たそうではないか。」

大統領に選出される。
南北戦争の決戦の場となったゲティスバーグにての戦没者追悼の式典。

「87年前、われらの父祖たちは、自由の精神にはぐくまれ、すべての人は平等につくられているとの信条に捧げられた、新しい国家を、この大陸に打ち建てた。」
「この国家が、この精神が、永続できるか否かの試練を受けている。」
「人民の人民による人民のための政治を地上から決して絶滅させないために、我々がここで固く決意することである。」

真実を語る政治家として世界史に永遠に輝く事業をなした。
しかし、大統領2期目の就任直後、凶弾によって死を迎える。

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リンカーンの演説は私の新刊書に収録されています。年明け1月に発売になります。Amazonで予約注文もできます。

『「正議論」講義~世界名著から考える西洋哲学の根源』
https://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4492212531/toyokeizcojp-22/

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(紹介文)
NYコロンビア大学で100年以上の歴史を誇る名物哲学授業を徹底的に研究。そこから導きだした古くて新しい「正義論」を、古代ギリシャの哲学者プラトンとアリストテレスの対話形式で紹介する。
米国エリート教育の原点がここにある!
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(東洋経済ONLINE)
戦争、分断、格差…「力」の前に「正義」は無力なのか | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

【第5回 甲南大学書評対決】 和田 秀寿編著『二楽荘史談』

10月27日(木)に開催された第5回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

ラーニングアシスタントチーム 全学共通教育センター特任准教授 武田 佳久先生からのおすすめ本です。

書名 : 二楽荘史談
著者 : 和田 秀寿編著
出版社: 国書刊行会
出版年:2014年

 甲南が創立される以前、この岡本の地は何がありどんな風景だったか? 想像したことはありますか?
1909年岡本の山の上(ちょうど北校舎の山頂辺り)に日本で他に類をみない変わった建物が出来ました。二楽荘と呼ばれるその建物はまさに現代でいうテーマパークそのものでした。

 世界の国ごとの調度品で飾られたテーマ室があり、果樹園、気象台、印刷所や学校まで併設。日本で初めてのケーブルカーで山下とつながっていました。ある時は1日に数万人もの来場者を集めたということです。

 残念ながら原因不明の火災で跡形もなく焼失し、その跡地は現在に至るまで立ち入りを制限されている謎の多い建物です。

 この書は二楽荘という建物を紹介しながら、甲南がこの地に 建った時代の雰囲気がよく伝わってくる内容です。

【第5回 甲南大学書評対決】 リンダ・グラットン, アンドリュー・スコット著 ; 池村千秋訳『Life shift (ライフシフト) : 100年時代の人生戦略』

10月27日(木)に開催された第5回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

ラーニングアシスタントチーム 全学共通教育センター特任准教授 武田 佳久先生からのおすすめ本です。

書名 : Life shift (ライフシフト) : 100年時代の人生戦略
著者 : リンダ・グラットン, アンドリュー・スコット著 ; 池村千秋訳
出版社: 東洋経済新報社
出版年:2016年

 先日甲南女子大学との連携講座でも紹介した書です。私が甲南大学の学生時代、将来60歳まで働き年金受給して老後を過ごすといった人生が当然のように思えました。これは世間一般の常識でもあったと思います。ところがいまは人生100年時代と言われます。

 私たち世代の多くはいままで描いていた人生設計を修正せざるを得なくなったと思います。この書は人生100年時代を想定し、またその将来に向けて備えることの大切さを語っています。
 まさに「常二備へヨ」です。