図書館報『藤棚ONLINE』
文学部・福井義一先生 推薦
『愛を科学で測った男 : 異端の心理学者ハリー・ハーロウとサル実験の真実』
大学で心理学を学ぶと,必ず目にするのがハーロウによる残酷な実験の写真です。そう,赤ちゃんザルが,ミルクは出るが剥き出しの針金で作成された代理母人形ではなく,ミルクは出ないけど布を巻いた代理母人形にしがみついている,あの写真です。
本書は,あの実験を行ったハーロウの人生を丹念に追った好著です。破天荒な天才心理学者であるハーロウが,いかにして「愛」を解明していったのかを,当時の時代背景や彼を取り巻く人物からの綿密な取材を経て,活き活きと描き出しています。
今でこそ,人間(もちろん,動物も!)の成長には「愛」が必要であることを疑う人はいないでしょう。しかしながら,当時は親子を隔てる子育てが推奨されていました。こうした残酷な子育てを駆逐するための実証的基盤を初めて提供したのが,隔離ザルを研究したハーロウだと言えるでしょう。本書からは科学と現実の複雑な相互作用を学ぶこともできます。
同じ心理学者として感銘を受けたのが,実験に使用したサルを治療したことです。通常,実験動物は実験が終わると殺処分されます。本書の著者は,本書の執筆前に「なぜサルを殺すのか?:動物実験とアニマルライト」(白揚社)を刊行し,ハーロウを攻撃していました。しかしながら,彼は隔離されて精神に異常を来したサルの治療も研究していたのです。これにより早期の養育に起因する困難からの回復可能性が示唆されたのです。
心理学に関心を持つ学生だけでなく,「愛」に関心を持つ学生,つまり全ての学生にお勧めしたい一冊です。