2.おすすめの本」カテゴリーアーカイブ

川上 弘美 『神様』

  文学部 1年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:神様
著者:川上 弘美
出版社:中公文庫
出版年:2001年

小説の物語は常に現実が描かれている必要は無いと私は考える。私は現実の中に当たり前のように非現実的なものが混ざり合っている物語が好きだ。共に居合わせないものが共存する短編集、それがこの小説だ。

くまにさそわれて散歩に出る。この一文から始まる「神様」から、四季折々に現れる不思議な〈生き物〉たちとのふれあいと別れが9つの物語で描かれる。この小説は一冊を通して、全ての物語に共通することとして、[不思議な生き物・出来事との遭遇、それを当たり前に受け入れるわたし]がある。そして、それに伴う[切なさ・喪失感]がテーマとなっている。

著者のデビュー作でもある「神様」は、最近3つ隣に引っ越してきた【くま】と河原に散歩に行く様子が描かれる。【くま】にまるで当たり前のように人として接する【わたし】と、【くま】の熊としての一面がとても対象的に印象深く感じられる。梨の畑に現れる不思議な生き物との夏の思い出が描かれる「夏休み」は、まるで夏の終わりのような小さな喪失感が胸に広がる物語となっている。5年前に死んだ叔父がふと現れてはとりとめのない会話を続ける「花野」では、【思ってもいないことを言えば消えてしまう】という設定が最後の叔父のひとことに切なさを含ませていると考えられる。壺から現れた【コスミスミコ】とのクリスマスが描かれた「クリスマス」では痴情の縺れで壺に閉じ込められたコスミスミコと過ごす倦怠感をまとった一夜が描かれている。雪の降る日に迷い込んだ世界で不思議な男と恋をした【カナエさん】が語る「春立つ」では、春と冬で変わる季節感の描写にちなんだ不透明な恋愛が幸せと答えの一つを描き出している。そして最後の話となる「草上の昼食」では、「神様」に続き私とくまの日常の終わりが描かれる。人として馴染めきれなかったというくまが私に永遠の別れを切り出して去ってしまう中、わたしはまた次の約束を手紙で求めてしまう。心情の描写が現れる言葉と行動が切なく、小説中で一番の喪失感を感じる物語となっている。

様々な解釈のできる独特な世界感に溺れてみてはどうだろうか。

関静雄著『ミュンヘン会談への道 : ヒトラー対チェンバレン外交対決30日の記録』


書名: ミュンヘン会談への道 : ヒトラー対チェンバレン外交対決30日の記録
著者: 関静雄
出版者: ミネルヴァ書房   出版年: 2017.11
場所: 1F開架一般   請求記号: 319.33//2021

本書は、ヨーロッパで戦争勃発の瀬戸際にあった1938年9月、「ミュンヘン会談」に至るまでの30日の間、ヒトラーに対する英国首相チェンバレンほか各国の首脳、側近、閣僚、外交官が、戦争を回避するため、何を考え、どのように行動したのか、資料に基づいて克明に記したものです。

各国の外交戦略や内政事情、さらには個人の信念や思惑まで詳細に記述されていますので、当時の欧州外交の様子を細部までうかがい知ることができます。

一般に、ミュンヘン会談を象徴とする宥和政策が第二次世界大戦を招いたと批判されています。(例えば、『第二次世界大戦』チャーチル〔河出書房新社, 1975〕)

しかし、本書を読むと、結果だけを捉えた批判は無価値であることがよくわかります。

また、英仏ほか大国に翻弄される小国チェコスロバキアの苦悩や悲哀を見過ごすことはできません。

本書を読み終えたとき、歴史は人の営みであることを改めて思わずにはいられません。

記述は平易です。臨場感と切迫感はまるで歴史小説を読んでいるかのようです。

歴史を学ぶ学生の方はもちろん、歴史好きの学生の方にもお勧めします。

野矢茂樹著『大人のための国語ゼミ』

書名: 大人のための国語ゼミ
著者: 野矢茂樹著,挿画: 仲島ひとみ
出版者: 山川出版社 ,   出版年: 2017.7
場所: 2F開架一般  請求記号: 816//2097

小説家のように素晴らしい文章が書けるようになりたい、とまでは思わなくても、普通にきちんと伝わる文章を書けるようになりたい、と思いませんか。そんな人に、野矢茂樹先生の本をお勧めします。

野矢先生は哲学者です。哲学とは、「人間にとって時間とはなにか」というような、無限の問いを考え続ける学問です。考えれば考えるほど分からなくなる問題を考えるために、哲学者たちは数千年をかけて「論理学」を磨き上げました。つまり、論理学は、哲学的な思考を整理するための学問であると同時に、要点を掴みにくい文章を読みこなし、自分の意見を説得力のある文章で表現する技法でもあるということです。

この本は、基本的な論理学を使って、現代生活に役立つ文章技術(=国語)を習得するためのワークブックです。是非、ノートを広げて練習問題に取り組んでください。ひとまず感性を養うことを忘れて、論理的なテクニックから国語を学び直してみませんか。

もっと練習したい人には、同じ野矢茂樹先生の『論理トレーニング101題』もおすすめです。

ハーバート・フーバー著『裏切られた自由 : フーバー大統領が語る第二次世界大戦の隠された歴史とその後遺症 上・下』

裏切られた自由

書名: 裏切られた自由 : フーバー大統領が語る第二次世界大戦の隠された歴史とその後遺症 上・下
著者: ハーバート・フーバー著; ジョージ・H.ナッシュ編; 渡辺惣樹訳
出版者: 草思社   出版年: 2017.7-2017.11
場所: 1階開架  請求記号: 209.74/1/2032

 本書は、第二次世界大戦時のアメリカ大統領 ルーズベルトの外交政策を批判するものです。
 これを読むと「歴史をみる目が養われる」、そのような1冊です。
 1,200頁を超える大著ですが、記述は平易です。臆することはありません。

(1)著者フーバーがルーズベルトの前の大統領であること
(2)ルーズベルト政権当時からフーバーは批判を公にしていたこと
(3)批判が十分な資料に基づいていること

 この3点により、本書のルーズベルト批判には説得力があると思わせます。
 もっとも、ルーズベルトの外交政策に一定の理解を示す見解もあります。
 (例えば、『第二次世界大戦外交史』芦田均〔岩波文庫〕)

 本書をきっかけにして、第二次世界大戦をめぐる様々な見解に接すると、歴史の見方が広がり、深まるのではないでしょうか。
 そうすると、現在の国際問題に対する見方も変わってくると思います。
 その意味で、すべての学生の皆さんにお薦めします。

 

古田清和先生(共通教育センター)「紙の本と電子書籍」

☆新入生向けの図書案内
 大学入学前に、本を読む場合は多くは教科書類・文庫・漫画であろう。日常生活での情報については、ネット上に溢れている情報をスマホやパソコンで簡単に入手していたのではないだろうか。
 大学では学びの中で様々な情報を入手する必要が出てくる。1年生が選択する共通基礎演習の学生も課題の作成過程ではほとんど本・文献によることなく、ネット検索やHP にアクセスして得た情報を議論し加工している。これらの学び方も一つの方法としてはありうるだろう。では大学生の日常に本は関係してこないのだろうか。ここでは、紙の本と電子書籍について学習・資格・趣味に分けて考えてみる。
 文献としての本には、誰が(著者)いつ(出版年月日)どこで(出版社)出したものかが明示され責任の所在が明確である。基本文献や参考文献は本から入手し理解することが多い。レポートの提出にあたり引用・参考文献を明示するのは当然である。ただ最近は電子ジャーナル化しているものも利用可能である。一方、ネット上の情報は、誰が・いつ・どこで、出したものか明示されていないものも多数あり、その場合、情報の信憑性に疑義が残り、利用にあたっては十分に注意する必要がある。
 資格試験(例えば日商簿記検定・税理士・公認会計士)の取得を目指す場合は、紙のテキストが中心であり電子化されたテキストでは使いにくいのではないだろうか?講義はウェブ上で行われることも多いが、本番の試験は答案用紙に記述するので、紙のテキストに書き込んで使い込む必要があるだろう。
 一方、小説や漫画はどうであろうか、最近では、紙の本と電子書籍の同時発売や、中には電子書籍が先行するものもある。電子書籍はスマホやタブレットで読める手軽さと、例えば文庫本5冊とタブレットの中にある5冊では持ち運び等を考えるとスペースをとらないという大きな利点がある。
 大学では、本に接する機会は増えるが、TPO に応じて情報の内容種類を選択し、有意義な学生生活を送ってもらいたい。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より

伊東浩司先生(スポーツ・健康科学教育研究センター)「学園のルーツ」

☆新入生向けの図書案内
 3年連続で図書館報「藤棚」を書かせていただきました。昨年書かせていただいた「藤棚」を読み返してみると年月が過ぎていくのが早いのと自分自身を取り巻く環境が目まぐるしく変化していることに驚いています。自分自身、新たな扉を開いて入学してくる学生の皆さんに読書の大切を、この「藤棚」に書かせていただいていますが、自分自身どれぐらいの本を読んだかというと、雑誌などを流し読みはしていましたが、じっくりと一冊の本をほとんど読んでいないかったことに気がつきました。何かを読んだり、調べたりすることのほとんどがインターネットでした。その本を読むことがなかった1年を振り返ってみると、自分自身の生活にゆとりを持ててなかったことに気がつきました。
 2018 年度入学された皆さんは、これからの学生生活に夢や希望に満ち溢れていることだと思います。勉学・スポーツなど多くのことに取り組んで欲しいと思いつつ、現実を忘れて本を読むゆとりの時間を持ってほしいと思います。私自身、仕事のことなどで悩んだことがあったときは、吉沢理事長先生にご相談することがあります。その時、理事長先生から必ず、私自身が悩んでいることを乗り越えるためのヒントとなる言葉を紹介していただいています。何を紹介していただいているかというと、本学園創立者の平生釟三郎先生の本を通じて、平生先生の言葉や実際に行動した出来ことなどを紹介していただいています。当然、その時代と現代の時代背景は異なりますが、その一言一言などで、私自身を一歩踏みとどまらせて、冷静に物事と向き合うことができています。この平生先生の考えを4年間かけて学んでいただき、建学の精神でもある「人格の修養と健康の増進を重んじ、個性を尊重して各人の天賦の特性を伸張させる」甲南生になっていただきたいと思います。この「藤棚」を書くことをきっかけにして、私自身、平生先生のことが書かれている「平生釟三郎・伝」を読んでみました。皆さんも、平生先生を初めてとする様々な分野で活躍された方々の本を読んでみたらいかがでしょうか、自分自身の成長にきっとつながるかと思います。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より