2.おすすめの本」カテゴリーアーカイブ

古田美保先生(経営学部)「吉田洋一著『零の発見〜数学の生いたち〜』岩波新書」

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 経営学部は文系学部であり、入試でも数学の素養は必ずしも問われていない。そのこともあってか、学生の中には数学への苦手意識を持つ者も少なくない。その延長線で、「(数学が苦手だから)会計学も苦手で」と言われることが多々あり、その都度「会計学は数学とは異なるものであり、数学の知識は必ずしも問われない」と説明するのだが、内心忸怩たるものを感じている。彼らにも一度考えてみて欲しいのだが、苦手だったのは「数学」ではなく、「数学の試験」だったのではないだろうか。大学受験を終え、進む道を選べば数学の試験を受ける必要はそう多くなくなったことと思う。であればこそ、本当の数学とは何かを考えてみるきっかけになればと願い、本書を紹介する。
 本書の前半では零という表記がいかに画期的なものであり、その概念はいつ発生したのかを平易に説明し、後半では零の概念から派生する数列・数直線についていかにも数学者らしく説明する。正直に言えば、標題の「零の発見」については位取り表記のためという説明となっており、1と−1の間の数である「零」の発見という観点からは疑問を残す説明になっている気はする。しかし、この本を初めて読んだ時、中学くらいだったか、実に身近な「零」のかように重大な意義に気づかされ、まさに「目から鱗」の心地だった。そもそも「数えるため」であれば正数だけで足りる。しかし、「零」の概念なしには日常を過ごすことも困難だ。まさに起点、原点であり、ここから正と負、実数と虚数の概念が生まれ、また文学的表現としても経営学的経済学的分析としても豊かさを生じさせる。まさに「零」という「無」が「有」を生んだ発見であり、同時に身近で見過ごされやすいことを熟考することの意義を考えさせられた。
 本書を含め、岩波新書や講談社ブルーバックスシリーズはこのような驚き、発見に溢れたシリーズだと思う。読書や日々の思考を豊かにする材料にもなる。図書館を活用し、ぜひ手当たり次第に読破してもらいたい。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より

櫻井智章先生(法学部)「事実は小説よりも奇なり」

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 現代社会は法に基づいて運用されているから、法的知識は、将来どのような分野に進もうとも、必要な(少なくとも無いよりはあった方が断然有利な)知識である。そう考える人は学生・社会人を問わず比較的多いと思われるが、いざ法学の学習を始めると挫折する人が多いのも事実である。入門書でも、勉強しやすいよう工夫されているものも多くなってきているとはいえ、「法の概念」「法の分類」など直ちに役立ちそうにない抽象的な説明が並んでいる(これらは体系的学習という観点からは重要な知識であり、執筆者が書きたくなる気はよくわかる)。こうした最初のつまずきが「法学は難しい」というイメージを生んでいるのではないかと考えられる。
 しかし、法は現実の社会で起こる紛争を未然に防止し、起こってしまった紛争を合理的に解決するために存在しているものである(だからこそ、現代社会において法的知識が重要なのである)。法学の入門書を読んで面白くなかった人は、実際の裁判例を読んでみてはどうだろうか。『判例時報』や『判例タイムズ』には多くの裁判例が掲載されている(ともに図書館に所蔵されている)。「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるように、現実に起こる紛争は多種多様で、なぜそのような事件が起こったのか全く不可解な事件、思わず当事者に同情したくなるような事件など、小説より面白い事件もたくさんある。裁判官や検察官はキチンとした人たちだと思っているかもしれないが、彼らがグズグズだったために起きたトホホな事件もある(判例時報1884 号45 頁)。できれば第一審のものがよいだろう(控訴審判決は第一審判決を引用する形で書かれるので読みにくく、最高裁判決は法解釈の争いが中心であるため難しい)。目次を見て興味のありそうな事件を読んでみるとよい。最初は難しいかもしれないが、読んでいくうちに、裁判所がなぜその事実を重視したのか、この解決はおかしいのではないか、などと疑問を持つようになれば、法学についてかなりの実力の持ち主になっているはずである。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より

森本 裕先生(経済学部)「より良い仕組みを目指して」

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書名:市場を創る
筆者:ジョン・マクミラン(瀧澤弘和・木村友二 訳)
NTT 出版株式会社 2007 年
 「社会の役に立ちたい」「世の中を良くしたい」と考えている学生におすすめなのが、ジョン・マクミランの『市場を創る』です。
 市場(しじょう)というのは、金銭と財・サービスを交換するすべての場を示す表現です。ですから、身近なコンビニやスーパー、そして病院や大学も市場ということができます。かつての経済理論では、市場は自律的なので政府による介入は不要とされてきました。アダム・スミスの「神の見えざる手」の世界ですね。しかし、現実には市場を放っておくことはできません。放置された市場では、独占企業による価格の吊り上げ、無知に付け込んだ詐欺、利益偏重な企業活動による環境破壊といった問題が生じてしまいます。このような社会問題を解消するためには、取引のルールを作らなければなりません。整えられたルールを有する、規律ある市場が必要なのです。本書では全17 章にわたって、うまく市場を創れた成功事例を紹介しています。
 では、具体的な事例を一つ見てみましょう。第9章「特許という困惑」では、貧困国のエイズ問題について書かれています。かつては死の病であったエイズですが、1990 年代に治療薬が開発され、症状を抑え込めるようになりました。しかし、薬価が年間100 万円もするため、貧困国では薬を買うことができませんでした。販売価格は100 万円ですが、実は、製造には数万円しかかかりません。残りは製薬会社の利益になるわけですが、みなさん、「ぼったくり企業め!」と思うでしょうか?確かに原価率はものすごく低いのですが、新薬の開発には巨費が投じられているので、それを回収しなければなりません。そのために価格が高いのです。もし、この100 万円の価格を原価である数万円まで引き下げられれば、貧困国の患者も薬を買うことができるようになります。企業の利益を確保しつつ、貧困国の患者を救済するいいアイデアがないかということで、考え出されたのが次のルールです。「先進国では定価で販売し、大いに利益を上げる。一方、貧困国では原価で販売し、利益は一切出さない。」ということになったのです。このルールのおかげで、企業も患者もWin-Win の関係になることができました。
 ほかにも色々な、アッと驚く成功例が納められていますので、ぜひ読破してみてください。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より

須佐 元先生(理工学部)「とにかく沢山読もう」

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 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これからの新生活に心踊らせていることと思います。皆さんはこれまでも沢山の本を読んで来られたと思いますが、これからの四年間は、たっぷりと読書の時間が取れる人生の中でとても貴重な時間です。読書にはルールはありません。読書はまずは楽しみであり、同時に知識を得るための一つの方法です。読みたい本をできるだけ沢山読んでください。そこで得た知識は糧となり、また身についた読書習慣は今後の長い人生に、人工的ではない美しい色合いと深みを与えてくれるはずです。みなさんの選書の助けとなるかどうかわかり
ませんが、私が最近気に入った本を紹介しておきます。
『淳子のてっぺん』 唯川恵著
 これは世界で初めてエベレスト登頂に成功した田部井淳子さんのノンフィクションストーリーです。彼女の世代ではまだまだ女性登山家は少なく、登山家の世界は典型的な男社会でした。その中で決して諦めずに自分の信じた道を歩き、パイオニアと言って良い存在になっていった先達のストーリーです。現在でも日本は先進国の中では女性の
社会参加はかなり遅れていると言われています。皆さんにはぜひ一度手にとって欲しい一冊です。
『銀河鉄道の父』 門井慶喜著
 これはあまりにも有名な童話「銀河鉄道の夜」の作者である、宮沢賢治の父の視点からみた賢治の一生の物語です。ずば抜けた感性を持った賢治が普通の俊英からどの様に文学者へと脱皮していったのか、またその過程に父のどのような苦しみ、右往左往があったのかが描かれています。皆さんの視点から言えば、皆さんの保護者の方々がどのような気持ちで皆さんを見守っているのかということがわかるのではないでしょうか。
『宇沢弘文のメッセージ』 大塚信一著
 これは宇沢弘文と言う伝説的経済学者の業績に関して伝記的にまとめられたものです。数学者として出発した宇沢は経済学に転じ、そこで大きな業績をあげていきます。宇沢の思想には常に社会的弱者の視点があり、それが「社会的共通資本」という考えに結実していきます。門外漢でも読めるように書かれており、社会問題への意識を喚起し、偉大な先達の人生のあり方を学ぶという点でお薦めします。
 以上3冊推薦しましたが、とにかくそれぞれがそれぞれの興味の赴くままに本を読んで下さい。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より

西川麦子先生(文学部)「人を介して本に出会い、本を介して人に出会う」

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 私は、文学部社会学科の「メディアコミュニケーションと表現」領域の科目を担当しています。また、アメリカのコミュニティラジオ局でHARUKANA SHOW(HS)という日本語ラジオ番組を主宰し、インターネットで日米をつなぎ、毎週、生放送をしています。アメリカの大学図書館に勤務している番組スタッフの一人が、『国立国会図書館月報』(633 号2013 年12 月)の「本屋にない本」欄に紹介されている、平原哲也著『日本時間―日系社会のラジオ番組―ブラジル編』(2010)という本が興味深いので、番組でもとりあげましょう、と知らせてくれました。平原氏は、実は、「月刊短波」(2011 年12 月号)のサイトに、「米国コミュニティFM で日本語番組」というHSを紹介する記事を書いていました。
 さっそく、『日本時間』を注文しました。これは、ブラジル日系移民向けの日本語ラジオ番組や日本音楽番組についての1930 年代から現代までの歴史を、ブラジルの日本語新聞や日系人向けの出版物や関係者への取材などをもとにまとめた貴重な自主制作出版物です。驚いたことに、この本の9頁に、甲南学園の創立者の名前がありました。「1935 年5月16 日に日本経済使節団がリオに到着した。翌17 日夜に平生釟三郎団長が全国ネットのラジオ番組に出演し、…。」さらに詳しく知りたい方は、甲南大学図書館に、小川守正・上村多恵子著『大地に夢求めて―ブラジル移民と平生釟三郎の軌跡』(神戸新聞総合出版センター、2001)、など関連する本がたくさんあります。HSでは、2014 年に『日本時間』を紹介し、翌年、平原氏に番組にも出演していただきました。本もラジオもインターネットも含め、メディアとは人と人をつなぐ媒体です。
 ところで、HS の2017 年秋の番組テーマは「音楽体験」でした。異なる世代の出演者が、どのように音楽と出会いどんな媒体を介して聴いてきたかを語りました。そこで紹介された本、『実践カルチュラル・スタディーズ:ソニー・ウォークマンの戦略』(ポール・ドゥ・ゲイ他著、暮沢剛巳訳、大修館書店、2000)は、甲南大学図書館の中 山文庫にあります。また、入門書としては、田中東子・山本敦久・安藤丈将編著『出来事から学ぶカルチュラル・スタディーズ』(ナカニシヤ出版、2017)もおすすめです。
HARUKANA SHOW: http://harukanashow.org/

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より

長月達平 『Re:ゼロから始める異世界生活12』

  知能情報学部 3年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:Re:ゼロから始める異世界生活12
著者:長月達平
出版社:KADOKAWA
出版年:2017年

 

私が今回選んだのは「Re:ゼロから始める異世界生活」というライトノーベルの12巻です。この作品は主人公の菜月スバルがある日夜中コンビニから帰っているところ、脳内に何か声が聞こえ異世界に召喚されてしまうことから始まる、異世界ファンタジーとなっています。その召喚された世界でスバルはなぜか一度死んだら、生き返るという「死に戻り」という能力を手にすることになります。この能力を駆使しスバルはあらゆる困難に立ち向かっていくわけですが、この能力は、かなり特殊で自らが死に戻りしているということを言うことができないという、かなり厄介なものでした。物語でスバルは何度もこの死に戻りの能力を使うことになります。そして苦悩し、少しずつ前に進もうとします。この物語の最大の見どころは、スバルが何度も死に戻りすることで、スバル自身が病んでしまい、精神が壊れていく様が描かれているところです。普通の人間は、1回死ぬと二度と生き返ることはできません。しかし、スバルは自らが望んだわけではない能力により死に戻り、苦悩し葛藤します。その様はほかのどんな小説にもない、この物語の大きな特徴だと思います。そして、この12巻ではスバルは聖域という場所にとらわれた仲間を助けるために試練に挑むことになります。そこでは今まで触れてこなかった、菜月スバルという己と深く見つめあう場面が何度もあります。そこでのスバル自身の成長が12巻では一番の見どころだと私は思いました。

このようにこの作品では普段体験することのできない心情を味わうことのできるとても素晴らしいものだと思います。私はこの書評も見た人にはぜひ私と同じ体験をしてほしいと思います。これを読むことで、普段の生き方が少し変わるかもしれません。それぐらいこの作品には影響力があると思います。これを見た人は、この作品を見たら一度手に取ってみるのはいかがでしょうか。