2.おすすめの本」カテゴリーアーカイブ

藤崎 彩織 『ふたご』

  知能情報学部 4年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:ふたご
著者:藤崎彩織
出版社:文藝春秋
出版年:2017年

 

 「ふたご」とは、いつも一人ぼっちでピアノだけが友達だった夏子と、不良っぽく見えるけれども人一倍感受性の強い、月島。彼は自分たちのことを「ふたごのようだと思っている」と言いますが、いつも滅茶苦茶な行動で夏子を困惑させ、夏子の友達と恋愛関係になり、夏子を苦しめます。 それでも月島に惹かれる夏子は、誘われるままにバンドに入り、彼の仲間と共同生活を行うことになるのですが……。
 ひとりでは何もできなかった少女が、型破りの感性を持った少年に導かれるままに成長し、自らの力で居場所を見つけようとする姿を描いた小説です。
 僕が特に印象に残っている場面は、月島が高校をやめる場面で「やめてどうするのって思うかもしれないけど、でも俺はまず、こんな気持ちで学校に行ってどうるんだよって思った。今高校を辞めることよりも、学校にこのまま2年も行くほうが、ずっと絶望的だと思った。だから、何か違うことをやってみるよ。」逃げることだって、勇気はいるんだよ。と書いてあったところです。
 世間一般的に高校を中退や、世の中のみんなが少しの我慢や大きな努力をして成し遂げるようなことから「逃げる」というのは、ネガティブな意見を持ちがちである。
 逃げることだって、勇気はいるんだという言葉が印象に残った理由は、僕もネガティブな意見の持ち主だったからである。
 今まで、障壁にぶち当たったとき逃げるのは恥だと思っていた。
 しかし、この本を読み少し意見が変わった気がする。
 僕にとって、有益な障壁、無益な障壁の判断をして誰よりも早く無益な障壁からは逃げることができれば、これからの人生に多大なる有益な障害にだけぶつかれると感じた。
 もちろん、有益無益など考えずに障壁をこなしていけば、無益だと思っていたものでも自分の有益に進むことも少なくはないとは思うが、逃げることを恥だと思わず、逃げることも勇気がいることなんだと理解しているだけで自分にとって生きやすい世界で生きれるのではないかと感じた。
 生きやすい世界で生きているだけじゃ成長はしないと言う人もいるだろうが、一度切りの人生を「生きやすいように生きた」っていいだろうし、「生きにくい人生を生きれずに死ぬ」そんな勿体ない人生を送るなら、誰に何を言われようが自分の人生は自分で決めて生き抜いてやると感じさせてくれた。
 本を読んで思考が変わったのは初めてである。
 実に狂気的な本だと感じ興奮した作品だった。

 

週刊読書人に本学学生・中西聖也さんの書評が掲載されました!

 日本語日本文学科4年生、中西聖也さんの書評が週刊読書人に掲載されました。中西さんはKONAN ライブラリ サーティフィケイトにエントリーしており、その縁もあって読書人に掲載されることになりました。
 以下の本の書評が掲載されており、週刊読書人ウェブの方でも自由に閲覧できますので、ぜひ一度読んでみてください。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

『週刊読書人』に掲載された中西さんの書評は、こちらをご確認ください。

 『週刊読書人』とは、書評専門の週刊新聞です。
  Web版>http://dokushojin.com/
 「作り手と読み手をつなぐ!」をスローガンに、国内で日々出版される数多くの本を各分野の専門家が選りすぐり、おすすめできる本の書評が掲載されています。
今年度から、『週刊読書人』の紙面上で「書評キャンパス」という企画が始まりました。読書に取り組む様々な大学の学生が、専門紙編集者の指導の下で書評記事を書く、という企画です。
 本学からは、KONANライブラリ サーティフィケイトに参加し、これまでに2級を取得されていた中西さんを推薦させていただきました。

 中西さんとKONANライブラリサーティフィケイトについては、2017年6月20日付朝日新聞でも紹介されました。こちらをご覧ください。

ショーン・コヴィー 『7つの習慣ティーンズ【リニューアル版】』

  知能情報学部 3年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:7つの習慣ティーンズ【リニューアル版】
著者:ショーン・コヴィー
出版社:キングベアー出版
出版年:2014年

 

 先生から「読んでおきなさい」と言われ、この本を渡されたのがこの本だ。題名からしてとっつきにくい本だと最初は感じたが、いざこの本を読むと意外と読みやすいといった印象を受けた。この本は題名にある通り、人生をよりよくする『7つの習慣』について、その習慣が大切な理由、並びにその習慣を身に着けるにあたっての注意や心がけ、行動について書かれている。また、『7つの習慣』について説明する際、著者は自身が言った言葉や著者へ送られたメッセージや有名人や偉人の言葉、他作品で出てきた言葉を引用することによって、著者の伝えたいメッセージに説得力があり、尚且つよく分かるようになっている。そのため題名に『ティーンズ』とあるように、10代の人が読んでも内容が充分理解できる。また、この本には他のこの手の本にはあまり見かけない「俗語」をよく見かける。この俗語も10代の人が読んでも内容を理解しやすくする工夫としてとらえることが出来る。無論、10代の人以外が読んでもこの本の内容は役に立つ。

 この本の文章中には、「主体的」と「信用口座」という単語をよく見かける。前者の「主体的」は価値観による行動のことを指し、『第一の習慣』の中に深く関わっている。本の文章中では、「主体的」の反対としてその場の衝動で動くことを「反応的」という単語で表し、「反応的」に行動することによるデメリット、「主体的」に行動することによるメリットを。

 後者の「信用口座」には二種類ある。自身に向けて作られる「信用口座」と他者に向けて作られる「信用口座」だ。「信用口座」は、信用の預金・引き出しを行い、「信用口座」にある残高が、その人をどれほど信用しているか、という指標となる。この「信用口座」という考え方はこの本では『7つの習慣』の中でも重要な要素となっている。

 この本の題名には「ティーンズ」とあるが、無論10代ではない人が読んでもこの本の内容は読んだ本人のためになる。今の自分に納得していない人、自分の可能性を諦めている人にはこの本を勧める。

 

 

中井久夫著『徴候・記憶・外傷』

徴候・記憶・外傷

書名: 徴候・記憶・外傷
著者: 中井久夫
出版者: みすず書房 , 2004.4   出版年: 2004年(初出2002年)
場所: 1階開架  請求記号: 493.7//2014

日本には、「中井久夫」という、精神科医がいます。
旧制甲南高校のご出身で、神戸大学医学部をご退官後、甲南大学大学院人文科学研究科でも教鞭をとっていただきました。阪神大震災直後から被災者の「こころのケア」に取り組まれ、平成25年度には文化功労者に選出されています。
つまり、この人が日本にいてよかったと思える人物の一人です。

本書は、1995年(阪神大震災)から2004年までに、中井先生が本学の臨床心理学専攻の学生・大学院生に向けた「心的外傷(PTSD)」や「記憶」についての講演や論文を集めたものです。
専門的な内容も含まれるので簡単ではありませんが、専門家外の人でも読むことができる本です。

まず、『「踏み越え」について』(p.304~328)を、読んでみていただけないでしょうか。
この論文は、甲南大学大学院人文科学研究科が行ったシンポジウムで発表され、同研究科の紀要『心の危機と臨床の知』4巻(2002.12)に掲載されたものです。
 http://doi.org/10.14990/00002486

論文中の「踏み越え」(transgression)とは、「広く思考や情動を実行に移すこと」です。
実行するために「壁を越える」ことが必要な行為のことで、例えば、大学入学やファーストキスといった個人の成長に係る事例から、薬物や暴力、殺人といった犯罪や、テロや戦争などの反社会的な事例まで、様々なケースがあります。
思い返してみると、人生を決定する「踏み越え」は、熟慮した後に実行に移すことより、その場の雰囲気や勢いで行動してしまったことが多いのではないでしょうか。

中井先生は、太平洋戦争開戦時のご自身の体験や、精神科医として携わった症例などを基に、「踏み越え」を容易にする条件を整理・分析されました。そして、「実行に移さないように衝動に耐えて踏みとどまる」ためには、「自己コントロール」が重要であると結論付けられています。
とはいえ、どうすれば自己をコントロールできるようになるのでしょう。引用が少し長くなりますが、中井先生はこう述べています。

” 私たちは、「自己コントロール」を容易にし、「自己コントロール」が自尊心を増進し、情緒的な満足感を満たし、周囲よりの好意的な眼差しを感じ、社会的評価の高まりを実感し、尊敬する人が「自己コントロール」の実践者であって、その人たちを含む多数派に自分が属することを確信し、また「自己コントロール」を失うことが利益を生まないことを実際に見聞きする必要がある。
 抑制している人が嘲笑され、少数派として迫害され、美学的にダサイと自分も感じられるような家庭的・仲間的・社会的環境は、「自己コントロール」を維持するために内的・外的緊張を生むもので、長期的には「自己コントロール」は苦行となり、虚無感が忍び寄って、破壊するであろう。戦争における残虐行為は、そういう時、呆れるほどやすやすと行われるのではないだろうか。
 もっとも、そういう場は、短期的には誰しも通過するものであって、その時には単なる「自己コントロール」では足りない。おそらく、それを包むゆとり、情緒的なゆるめ感、そして自分は独りではないという感覚、近くは信頼できる友情、広くは価値的なもの、個を越えた良性の権威へのつながりの感覚が必要であろう。これを可能にするものを、私たちは文化と呼ぶのであるまいか。”

この本には、他10数編が収録されています。
他にも、評論や翻訳などが多数ありますので、一度蔵書検索してみてください。

また、『甲南Today』No.45,2014には、中井久夫先生へのインタビューも掲載されています。
合わせてご参照ください。
http://www.konan-u.ac.jp/kouhou/pdf/today45.pdf

 

紺野キリフキ 『ツクツク図書館』

  文学部 1年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

ダ・ヴィンチブックス<br> ツクツク図書館

書名:ツクツク図書館
著者:紺野キリフキ
出版社:メディアファクトリー
出版年:2008年

 学校の図書館で、なんとなく手に取って、初めて借りた本。とても私の好きなタイプの書き方、描き方、雰囲気で、物語の中に一気に引きこまれた。読んだ後も、しばらく引きこまれたままだった。ぜひともいろいろな人にオススメしたい一冊である。

 町のはずれにある「ツクツク図書館」。ある日、とても寒がりの着ぶくれた女が一人、「職員募集」の張り紙をみて、ツクツク図書館にやってくる。仕事内容は、なんと本を読むだけ。女は、雇われることになる。しかし、女は真面目に働かない。なにせ、この図書館には、つまらない本しかないのだ。ツクツク図書館には、「魅惑的な一文から始まる小説の部屋」や「子どもにはまだ早い部屋」など、様々な部屋がある。しかし、どの部屋にも、あるのはつまらない本ばかり。だが、あるとき、一緒に働いている戻し屋ちゃんから「伝説の本」の話を聞く。伝説の本を探そうと、夜の図書館に忍び込む二人だったが、そこで思わぬ事件を引き起こしてしまう。

 不思議な世界観のこの本。しかし、登場人物の姿をありありと思い浮かべることが出来る。現実的だけど、現実にはないような、だけど日常の一部を切り取ったような、そんなお話なのである。登場人物たちの雰囲気も独特で、とても魅力的だ。人だけでなく、猫もまた、重要なこのお話の一員なのだ。

 この本を読んで印象に残ったフレーズがある。「猫は言葉を覚える代わりに、記憶を失った。」というフレーズだ。着ぶくれた女に飼われている猫のギィは、前の飼い主が書いた本を読むために、辞書のことばを覚えた。だが、飼い主と別れてしまった理由や飼い主が好きだった「ニャア」という鳴き声も忘れてしまう。それでも、猫は本を読み続ける。いつか、飼い主が書いた本に出会うために。

 

 

有栖川有栖 『 幻坂 』

  文学部 1年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

幽books<br> 幻坂

書名:幻坂
著者:有栖川有栖
出版社:メディアファクトリー
出版年:2013年

 

 私が有栖川有栖さんの作品と出会ったきっかけは、ドラマ「火村英生の推理」を見たことだ。もともと推理小説が好きだった私と妹は、有栖川有栖さんの作品にどっぷりとはまっていく。ドラマは、キャストも良く、非常に楽しんでみることができた。見ていた人も多いだろう。ドラマを見ていた人にも、ぜひ一度原作を読んでみてほしい。まるでドラマを見ているかのように、本の中に引きこまれることだろう。

 ところで、この本は、実は火村英生シリーズではない。今回は、火村英生シリーズ以外の本の中で、私が好きな作品を紹介する。この本には、大阪にある坂にまつわるお話が収められている。ゾクッとするような怖いお話から、涙がこぼれてしまうほど感動するお話もある。もちろん、クスッと笑ってしまうようなお話も。

 私がこの本の中のお話で一番好きなお話は、「真言坂」だ。主人公がストーカー被害に困っているとき、相談に乗ってくれた男性。しかし、その男性はストーカーが主人公の女性の家にいたところに出くわしてしまう。男性がストーカーをとがめたところ、相手はナイフを取り出し、男性は刺されて、亡くなってしまう。だが、亡くなってからも、男性は女性を見守る。

 「真言坂」の主人公の女性は、翻訳の仕事をしており、「I’ll leave if you want」という言葉を訳すのに行き詰まる。男性が亡くなってしまってから、何年も後、結婚することになった主人公は、結婚相手と一緒に真言坂を訪れる。そこに男性が現れ、それが最後となった。男性は去るときに、穏やかにこう告げる。「俺、行くわな。」

 「真言坂」を読んで、私はこころが穏やかになった。このお話を読んだのは、私が受験生だったころだ。大学受験を控えていても、本を読むことはやめられなかった。だが、その時期にこの本と出会って、読んでよかったと思っている。