2.おすすめの本」カテゴリーアーカイブ

松田美佐著『うわさとは何か』

書名: うわさとは何か : ネットで変容する「最も古いメディア」(中公新書2263)
著者: 松田美佐
出版者: 中央公論新社  出版年: 2014年
場所: 1階開架小型  請求記号: S081.6/2263/29

「うわさ」には信憑性がない、と分かっていても、「そういうこともあるかもしれない」と思っていませんか?
ニュースよりも、ネット上の誰かの発言の方を真実だと思うことはありませんか?

うわさが真実であることもあるかもしれません(ただし、検証するのは非常に困難です)。
それに、「ガソリンが不足する」といううわさによって、大勢の人が、「大丈夫だと思うけれど、入手しておこう」と判断した結果、本当にガソリンが不足してしまう、というように、「うわさ」が自己成就してしまうことも度々あります。

もっと身近な事例ではどうでしょうか。
「Aさんが辞めたのはあなたのイジメが原因だって、うわさになってるよ」(本書冒頭より)
まったく身に覚えがなくても、ドキッとします。

人の「うわさ」にはついつい耳を傾けてしまうけれど、特に自分に関する「うわさ」は強いストレスになります。そんな非常事態にそなえて、そもそも「うわさ」というものがどういうものか、学んでおきませんか?

この本では、デマ、流言、ゴシップ、口コミ、風評、都市伝説など、様々な「うわさ」について調査し、社会や人間関係にどのような影響をもたらしているのかが説明されています。社会学・社会心理学の本ですが、社会学を専攻していなくても、分かりやすく読みやすい1冊です。

「うわさ」に負けない人生のために、ご一読ください。

マルクス・シドニウス・ファルクス(ジェリー・トナー)著『奴隷のしつけ方』

書名: 奴隷のしつけ方
著者: マルクス・シドニウス・ファルクス(ジェリー・トナー)
出版者: 太田出版  出版年: 2015年
場所: 2階中山文庫  請求記号: 232//F

イギリス・ケンブリッジ大学の古典学研究者ジェリー・トナーが、様々な古典にから奴隷に関するエピソードを引用しながら、古代ローマ貴族「マルクス・シドニウス・ファルクス」になりきって書いた「奴隷」の取り扱い説明書です。

奴隷というと、足かせをされ、鞭打たれながら厳しい労働をするというイメージですが、意外にも古代ローマ人は、奴隷にも人間性があることを認め、奴隷に対して過酷な扱いをすると法律に基づいて主人が罰せられることもありました。

主人は、奴隷たち一人ひとりをよく観察し、それぞれの適正に合った仕事を与えなくてはなりません。また、必要な食事や休憩、娯楽を与えないと生産性が落ちるため、福利厚生にも配慮しなくてはなりませんでした。
古代ローマの「主人」とは、家族や従業員、奴隷を含めた”ファミリア”という大きな組織を経営するリーダーでした。ローマという巨大帝国は、大小無数の”ファミリア”がそれぞれの事業を行うことで成り立っていたのです。

この本をお勧めする理由は、もちろん、労働者を奴隷のようにマネジメントする方法を学んでほしいからではありません。
何に囚われたら奴隷となってしまうのか、奴隷制度のどこに致命的な欠陥があるかを考えることができるからです。

実際、過去から学ぶことは、未来を創る上でとても役に立ちます。
マルクス・シドニウス・ファルクスもこんなことを言っています。
「あなたがどの時代のどこの人であろうとも、たとえその世界がローマとは異なる原則で成り立っていようとも、ローマから学ぶべきものなどないと決めつけてはいけない。ローマには多くの知恵が眠っている。そのなかには、あなたにとっても、目を閉じるより開けてよく見たほうが得になるものがたくさんあるはずだ。だから、読まれよ。そして学ばれよ。」(本文p020より)

小倉美惠子『オオカミの護符』

書名: オオカミの護符
著者: 小倉美惠子
出版者: 新潮社  出版年: 2011年
場所: 1階開架一般  請求記号: 387//2111

ライトノベルのようなタイトルですが、民俗学の本です。

著者の小倉さんは、神奈川県・土橋の古い農家のご出身だそうです。
先祖代々土着の農家だったそうですが、土橋が都市化するにつれ、大好きだった祖父母といつしか疎遠となり、ご自身も国際親善に関する仕事をされていたとのこと。
ご実家の周りもすっかり住宅街になったのですが、ある日、ぽつんと残されていたお蔵に、オオカミの絵が描かれたお札が貼ってあるのに気が付きました。
古いものではなく、最近貼り換えた跡があるようです。しかも、何度も繰り返し貼り換えられたらしく、幾重にも跡が付いている・・・。

気になった小倉さんは、そのルーツを訪ねてみることにしました。
はじめは両親、古くからのご近所、山の御師、山里の古老・・・失われていくカミサマたちと出会う過程に、わくわくします。

この本については、文学部の田中貴子先生が描かれた書評が朝日新聞に掲載されています。
こちらもご参照ください。
http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2012020500014.html

(konno)

ニッコロ・マキアヴェッリ『君主論』

理工学部 1年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:君主論
著者:ニッコロ・マキアヴェッリ
出版社:講談社  
出版年:2004年
 

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶという。その言葉のように最近の本ばかりではなく、少し古い本にも目を受けてほしい。

さて、今回紹介する本はマキアヴェッリの書いた君主論だ。この有名な本は名前くらいは聞いたことのある人も多いだろう。私はこの本を歴史や政治に興味がある人は言うまでもないが、他にこれからリーダーになる人にも是非読んでみてほしいと思う。

この本は全26章で構成されている。

第1章では君主政体の種類とどうやってそれを獲得するのかを挙げている。

第2章からは様々な君主権について主に成立法別にまとめ、それぞれがその後に対してどのような影響を与えるのかを解説している。

第12章からは自己の軍によらない時に起こる問題と自己の軍を持つときにすべきことについてまとめている。

第15章からは君主が敵を増やさないためにどうしたらいいか、多くの君主がやっていたことは本当に有益か、他者に尊敬され指示を聞いてもらえるようにするためにはどうしたらいいか、周囲の人間が追従するようになるのを避けるにはどうしたらいいかなど、君主は普段どのようにふるまえばいいかを解説している。

第24章からは実際に書かれた時代のイタリアの現状を考え、どうしてそうなったのか、また、これからどう知ればいいのかを書いている。

 私は冒頭でリーダーになるかもしれない人にも読んでほしいと書いた。この本は多少汎用化する必要はあるだろうが、君主、つまり国のリーダーをやっていくうえで大切なことを過去の様々な事例を例に出しまとめている。

この本は目的のためなら手段をえらばないマキャヴェリズムの本の始まりだろう。この本の内容はリーダーとしてのふるまい方として現代で十分に通用することが書かれていると私は思う。

九鬼周造『「いき」の構造』

明治生まれの哲学者に九鬼周造という人がいます。日本で、最も愛されている哲学者と言ってもよいかもしれません。ご紹介する『「いき」の構造』は、昭和5年に発行された九鬼周造の代表作です。

九鬼周造は、東京帝国大学を卒業後、大正10年から足掛け8年間、ヨーロッパに遊学しました。この間、ハイデガーやベルクソンなど、著名な哲学者から西洋哲学を学びます。帰国後、京都帝国大学で教鞭をとるのですが、九鬼はただ西洋哲学を日本に伝えた人ではありません。ヨーロッパ滞在中に、日本人とヨーロッパ人に違いがあることに気付いた彼は、日本独自の感性である「粋」について、西洋哲学の手法も使って独自の分析を行いました。日本人が誇りに思う日本文化を、西欧の視点から見ても納得できる分析を行ったことが、九鬼周造の大きな業績のひとつです。

昭和5年に発行された『「いき」の構造』は、他の哲学書に比べて、短く、やわらかで、ほんのり艶やかであることも魅力です。とはいえ、20歳前後の皆さんは、『「いき」の構造』をまだちょっと理解できないかもしれません。なぜなら、九鬼は、「粋」とは「異性的特殊性」、つまり恋愛にもとづいていると定義しているからです。しかも、愛し愛される薔薇色の恋は野暮で、茨を摘んで生きる覚悟を秘めた白茶色の恋を選ぶことが、粋だと言います。今まさに、薔薇色の恋の時代を謳歌している皆さんには、ちょっと難しいでしょう?

ですが、「野暮は揉まれて粋になる」という言葉があるとのこと。少し背伸びをして「粋」を学んでみませんか。注釈付の文庫版が読みやすいですし、電子書籍を無料で読むこともできますが、白茶色で装丁されたちょっと古い単行本もお勧めです。ルビもない本を、スマホを片手に調べながら読むのも粋ではないでしょうか。そして、十分に世間に揉まれた後にはぜひ再読してみてください。その時には、自分の選択を諦めながらも肯定し、前向きに「生き」る日本人になれているに違いありません。

昭和16年に九鬼周造が亡くなった後、彼が所有していた書籍や原稿類は、親友の天野貞祐先生に託されました。当時、旧制甲南高等学校の校長でおられた天野貞祐先生は、貴重な書籍を含むその書籍群を甲南高校に寄贈されました。長い間に散逸してしまった本もありますが、そのほとんどが、現在、甲南大学図書館に「九鬼周造文庫」として保管されています。

「九鬼周造文庫」には、書籍だけでなく、『「いき」の構造』の草稿を含む直筆原稿や研究ノート、第一高等学校時代から留学時代までの講義録ノートも含まれています。劣化を防ぐために長い間公開できなかったのですが、少しずつ電子化していたものを、2016年4月から『甲南大学デジタルアーカイブ』で公開しています。

優雅なイメージの九鬼周造と、実直なイメージの天野貞祐先生が、第一高等学校時代からの親友であったことは、個人的には意外でしたが、「九鬼周造文庫」に遺された穏やかに笑う二人の写真や、「天野貞祐學兄に捧ぐ」と書かれた原稿などから、4歳年上の天野先生を先輩と慕う、心の通い合った友であったことを窺い知ることができました。是非一度アクセスしてみてください。

伊東浩司先生(スポーツ・健康科学教育研究センター)「スポーツの歴史を知ってみよう」

☆新入生向けの図書案内
 新入生の皆さん、大学入学おめでとうございます。大学生活は、授業はもちろん、課外活動やサークルなど皆さんにとって楽しい生活がまっていますと昨年も書かせていただきました。昨年は、スポーツの専門書などを読んで「想像の翼をひろげよう」とも書かせていただきました。今年は、ブラジルのリオデジャネイロでオリンピックが開催されます。すでに日本代表に決まっているチーム・選手もいますが、これから予選会などでどんどんチーム・選手が決まっていきます。現地に行って応援をする人がいるかもしれませんが、多くの人は。テレビやネットなどでの観戦になるかと思います。より、観戦を充実するには、事前に情報を多く入手することだと思います。ルールや代表選手を覚えることで確かに、観戦が面白くなるとは思いますが、私のお勧めは、その競技種目がどのような経緯でできたかなどの歴史を調べることをお勧めします。スポーツの歴史が書かれている本を読むことによって、競技種目がどのように考え始められたかを知り、ルールがどのように変わっていきながら現在のルールになっていったかを知ることができ、その種目に対する見方も変わってきます。マラソンは、どうしてマラソンという名前がついたか、42.195km という距離がどのような経緯で決まったかなどは有名な話ですが、私自身、まだまだ歴史を知らない競技種目が多くあるので、オリンピックまで少しでも多くの本を読みたいと思っています。特に、皆さんには、オリンピックの歴史か柔道に関する本を読んでいただきたいと考えます。オリンピックの5つの輪にも意味があり、聖火が始まった理由などを知れば知るほどその世界に引き込まれていくのは間違いなしです。また、柔道は、日本発の国際的競技です。特に、神戸市御影うまれで「柔道の父」と呼ばれ、また「日本の体育の父」とも呼ばれている嘉納治五郎先生のことが書かれている本を読むことで、リオデジャネイロオリンピックだけにとどまらず、東京オリンピックへの考え方が変わるのは間違いありません。いずれしろ、ネットから多くの
情報が得られますが、ぜひ、本をゆっくり読める時間が持てる大学生活を送ってもらいたいと思います。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.33 2016) より