月別アーカイブ: 2024年1月

[藤棚ONLINE]フロンティアサイエンス学部・川内敬子先生『この世を生き切る醍醐味』

図書館報『藤棚ONLINE』
フロンティアサイエンス学部・川内敬子先生推薦『この世を生き切る醍醐味』

樹木希林著
朝日新聞出版, 2019

 役者の樹木希林さんの亡くなる数ヶ月前のインタビューを本にした一冊です。仕事や結婚に育児、そして14年間のがん闘病生活まで、樹木希林さんが実践した“楽しく生きるためのコツ”について記されています。後半には娘である内田也哉子さんから見た母親としての樹木希林さんについて記されています。樹木希林さんは、苦しいことを周囲に伝えることなく、命を全うされ、立派な母親であったと称賛されています。

  一生のうち2人に1人が、がんにかかる時代となりました。現在、さまざまな医療へのアクセスが可能となり、“がんを不治の病である”と考えている人はそれほど多くありません。とはいえ、がんにかかると誰もがストレスを感じ、進行がんになると、多くの方が痛みを感じます。辛さや痛さを口にすることは悪いことではありませんので、樹木希林さんの素晴らしさは、苦しい思いを伝えないことであったとは思いません。樹木希林さんが、“自然の摂理の中で人は生まれては死んでいくこと“を、身をもって次の世代に遺したということを知り、樹木希林さんに対して尊敬の念が強くなりました。

  私は、“カッコいい人生の幕引きのために、日ごろから心がけておくことは何か?” という疑問に対する答えを求め、この本を手にしました。読み終えても、その答えは得られませんでしたが、樹木希林さんの考えを納得することで、肩の力が抜けました。自然の摂理の中で生きているのだから、無理に力を入れないで過ごす日も大切にしたいと考えられるようになりました。是非、皆さんも読んでみてください。

前田裕二著 『メモの魔力 = The magic of memos』

知能情報学部 4年生 Yさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : メモの魔力 = The magic of memos
著者 : 前田裕二著
出版社:幻冬舎
出版年:2018年

メモで生活が大きく変わるかもしれません。あなたは、どんな時にメモを取りますか?買い物や持ち物のリスト、あるいは予定について忘れないように取ることが多いですよね。では、あなたはメモを内容の確認以外で活用したことがあるでしょうか?今回おすすめする本を読めば、あなたはきっと普段注目しないメモに隠された様々な活用法を知り、普段の生活で得られる情報量もグッと上がることでしょう。その本こそが、起業家でコメンテーターでもある、前田裕二さんの「メモの魔力」です。

名前からして惹かれるものがありますが、本書には名前の通り普段、何気なく書いていたメモがただの記録ではなく、たくさんのアイデアを生み出す魔法のアイデアボックスに変わってしまうようなメモの取り方、使い方について、分かりやすくそして面白く書かれています。また、活用法や情報を得る方法もたくさん書かれていますが、読んでいると分かりやすい例と共にたくさんの知見が得られ、メモから得られる魔法のような効果に興味を惹かれどんどん読み進めてしまいます。そして、この本の最大のポイントはメモを使って、より楽しい人生を送る方法、自分の本当にしたいことについて考える大きなヒントになることです。一見メモからそこまで大げさな、と思うかもしれませんが読めば分かってくるでしょう、今までメモをあまり重視したことがなかった人も、この本を読めば、「メモ魔」になってしまうと思います(笑)。

メモにはアイデアボックス、言語能力、傾聴能力の向上、自己分析、あるいは夢をかなえる方法まで、様々な可能性があったのです。メモの有効な活用法が知れることはもちろん単純に内容も面白く、読んでいてやる気を引き出されるので、あなたもぜひ、メモから生活の質を上げてみてはいかがでしょうか?

成毛眞著 『2040年の未来予測』

知能情報学部 4年生 Yさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 2040年の未来予測 
著者 : 成毛眞著
出版社:日経BPマーケティング
出版年:2021年

いきなりですが、あなたは20年後には今や一家に一台はあるテレビがほとんどなくなると言われたら信じるでしょうか。厳密にはテレビというコンテンツはなくならないそうですが、近年の技術の進歩はすさまじく、数年先のことさえ予想することは難しい世の中になってきています。

そんな中20年も先の未来「2040年」に実現していることを予想した本を見つけました。20年間というとちょうど自分たちが生まれてきてから今までぐらいの期間ですが、その本こそが元日本マイクロソフト社長の成毛 眞さんが執筆された「2040年の未来予測」です。本書では20年後の日本で起こるであろうことを、技術革新や、人口推移、経済などの観点から語られているのですが、未来で起こることを予測し、知ることで適応するために今の生活を見直してみようというメッセージが込められているため、ただ起こることの予測が書かれているのではなく、その理由や知っておくと今すぐ生活に直結しそうな知識が、分かりやすく書かれています。そのため、未来で起こりうる技術に興味がある人はもちろん、知っておいて損はないものとなっているため万人におすすめできる一冊であると私は思います。

本書では、たくさんの未来の事柄が予想されているが私が一番興味深かったと思う内容は、ワクチンの開発スピードが飛躍的に上がるというものです。私たちは、ここ数年間コロナウイルスに長い間苦しめられてきましたが、あと20年後には新型ウイルスや現在難病とされている病気も対処できるようになるものが増えるそうなので、ぜひ期待したいと思います。本書はテクノロジーの躍進などを中心に語られてはいるものの、難しい専門用語が使われているわけではなく内容も一つ一つが興味を惹かれるものであるため、とても読みやすい一冊となっています。

未来に起こることを予測という形で知ることで今から出来ることもあると思うので、ぜひ読んでみてください。

伊坂幸太郎著 『ガソリン生活』

知能情報学部 4年生 Mさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : ガソリン生活 
著者 : 伊坂幸太郎著
出版社:朝日新聞出版
出版年:2013年

「ガソリン生活」。このタイトルだけを聞いたとき、どのような内容の小説を想像するだろうか。

自分は車無しでは生きていけないような人物が主人公の小説を想像した。もしくはガソリンスタンドで働く人の話かなと想像する人もいるかもしれない。そんなことを考えながらいざ読み始めると、開幕から「燃料を燃やし、ピストンを上下させ、車輪を回転させて走行する、あの躍動感こそが生きている実感である」とくる。この言葉から分かるように、この小説の主人公は最初から最後まで車であり、車が語り部となってこの小説は進行してゆくのである。どのような世界観なのかというと、どの車も人間のように意思をもっており、車同士で会話もできる。その一方で人間とは一方通行であり、人間の言葉を車は認識することはできるが、車の言葉を人間は認識することはできないといった感じである。

そして主人公の車は望月家の緑のデミオであり、物語はこのデミオが渋滞に巻き込まれているところから始まる。車内には望月家長男の良夫(大学生)と、その弟の亨(小学生)がおり、元女優の荒木翠の不倫疑惑について話している。するとまさに今話題にしていた荒木翠が追手から逃れるためにデミオに乗り込んでくる。所定の場所まで送り届けてひと段落かと思いきや、その後荒木翠が交通事故によって死亡したという事が翌日明らかになる。これをきっかけに望月家はより大きな事件に巻き込まれてゆく。

この小説を読んでいて面白いなと感じた点は、主人公が車であるために、物語の主要となる場面に直接居合わせることができないことがあるという点だ。その場合その場面に居合わせた人物がデミオの車内でそのことについて会話をすることで初めてその場面が描かれる。つまり舞台がデミオでない限り物語が過去形で語られることになり、これは他の小説ではあまり無い特徴だなと思い印象に残った。

吉川孝(文学部)『ブルーフィルムの哲学 : 「見てはいけない映画」を見る』

 

 

<教員自著紹介>

「ブルーフィルム」はむき出しの性器や性行為を描く映画で、刑法第175条で「公的に陳列(=上映)」することなどが禁じられています。このような違法な映画は、数多くの作家や映画人たちを魅了しました。

本書は、ボーヴォワールの現象学の手法を用いて、過去の文学や映画作品に残された経験の描写を手がかりに、失われた映画の世界を描き出す哲学の試みです。

ブルーフィルムの哲学 : 「見てはいけない映画」を見る
■ 吉川孝著, 東京 : NHK出版 , 2023.11

■ 請求記号 778.04//2087
■ 配架場所  図書館   1F 教員著作
■ 著者所属 吉川孝(文学部)

KONANプレミア・プロジェクト「文学、あります」第一回『外側に紡ぐ物語 ―村田沙耶香さんに聞く小説の世界―』を開催しました

 2023年12月23日(土)に、2016年に『コンビニ人間』で芥川賞を受賞され、現在翻訳を通して30カ国以上で読まれている作家の村田沙耶香さんをお招きして、文芸イベント『外側に紡ぐ物語』を開催いたしました。

聴衆が詰めかけた会場の様子

 本イベントは、甲南大学の教員と甲南中学・高校の教員有志からなるチーム「文学、あります」と甲南大学図書館職員スタッフの教職協働によるKONANプレミア・プロジェクトの一環で、毎年文学の場で活躍している方をお招きしてイベントを開催し、大学や学問の中に囲い込まれがちな「文学」を、学生や一般の人に開いて、そういう「場」を共有していこうという文化貢献を目的としています。

公開インタビュー

 本イベントの前身となる、コロナ禍前の2019年に開催された、イスラエルの作家エトガル・ケレットさんと日本の作家西加奈子さんをお招きした文芸イベント『おもしろさの向こう側』で中心となったのはケレットさんと西さんの対談でしたが、その際に聴衆として参加してくださったのが両者と親交のある村田沙耶香さんでした。コロナ禍が収まり、新たに本プロジェクトを発進するにあたり、19年の続きとするためにも、ぜひ村田さんにご登壇いただきたいというのが企画チームの願いであり、村田さんがその想いに応えてくださったことから実現した特別なイベントが、この「外側に紡ぐ物語」です。

 甲南中学・高校教員の藪上先生の司会、紹介に引き続き登壇された村田さんは、文学部教授・秋元孝文を聞き手とし、さまざまな質問に公開インタビューの形で応えてくださりました。小説の執筆スタイルから『コンビニ人間』にまつわる話、常識や社会通念の「外側」を書くスタイルについてなど、話題は多岐に渡り、会場に詰めかけた200人の聴衆は村田さんの真摯な言葉に固唾を飲んで耳を傾けました。詳細な内容は参加した人だけの特権なのでここには記しませんが、「小説という臓器」など、村田さんならではの発想が随所に見られる特別な時間となりました。

質問に答える村田沙耶香さん

 公開インタビューの中盤では甲南大学の学生による質問コーナーもあり、また公開インタビューの後には会場とのQ&Aセッションで、会場から寄せられた多数の質問に時間の許す限り答えていただきました。

学生有志によるインタビューセクション

 イベント終了ののちにはサイン会、事前授業に参加した有志学生との茶話会まで村田さんにはご対応いただき、聴衆や学生にとっても、世界文学の第一線で活躍される作家と直接言葉を交わす貴重な体験となったことと思います。

事前授業に参加した学生との茶話会

 チーム「文学、あります」としてもこのような華々しい形で第一回イベントを開催できたのは大変喜ばしく、ご登壇を快諾し惜しみなくご自身の執筆について語ってくださった村田沙耶香さんに感謝の気持ちでいっぱいです。

 本チームは、このプロジェクトをできるだけ息の長いものにして、「文学、あるよねえ」という思いを学生や地域の皆さんと共有できる場を毎年設けることができればと願っております。甲南大学がそういう大学らしい「文化」的な発信ができる場として育ち、認知され、地域社会の豊かさを醸成していく存在となることに少しでも貢献できればと思います。今後とも当プロジェクトへのご参加を通じて皆様にご支援いただければ幸いです。

(文責:文学部英語英米文学科教授 秋元孝文)

※本イベントは、2024年1月末までアーカイブ配信しています。
こちらからアクセスください。