[藤棚ONLINE]文学部・友田義行 先生推薦『アンパンマンの遺書』

図書館報『藤棚ONLINE』
文学部・友田義行先生 推薦

 コロナ禍の下、「自粛警察」という言葉を耳にするようになりました。営業を続けるお店や、県外からの来訪者を探し出し、休業や自宅待機などを要請するそうです。報酬のない「ボランティア」活動であり、正義の心で動いておられるのかもしれません。
 悪をくじき、弱きを助ける、正義の味方。ヒーローはいつの世もあこがれの存在です。アンパンマンが最初に出会ったヒーローだった方も多いのではないでしょうか。ウルトラマンや仮面ライダー、鉄腕アトムなどに比べると、アンパンマンはずいぶんとしょぼいヒーローです。困った人に自分の顔を食べさせたり、水に濡れてふやけてしまったり。すぐに顔を失い、力が出なくなって、悪者にぶっ飛ばされてしまいます。ジャムおじさんに新しい顔を焼いてもらわないと、ろくに活躍できないヒーロー。
 本書はアンパンマンの作者・やなせたかしの自伝です。著者が76歳のときに遺書(?)として発行されました。ご紹介するのは手に入れやすい文庫版で、著者94歳の挨拶文が追記されています。
 読んで意外だったのは、アンパンマンの話が終盤に少し登場するだけということ。著者は大人相手の漫画家を目指していましたが、手塚治虫ら輝かしい活躍を見せた同時代の漫画家たちとは違い、絵本作家として幼児の間で人気を得ました。むしろ日陰に生きてきたのだと、自らの半生を捉えています。顔のないアンパンマンは、無名性の象徴でもあるのです。たしかに、アンパンマンがアニメ化されたのは1988年で、著者はすでに70歳近くでした。この翌年、手塚治虫が亡くなっています。アンパンマンと鉄腕アトムはすれ違いました。
 「なんのために生まれて なにをして生きるのか わからないままおわる そんなのはいやだ!」、「ぼくらはみんな生きている 生きているからかなしいんだ」、どちらもやなせたかしの作詞です。彼はアニメーターや絵本作家である前に、詩人でした。
 アンパンマンの原型となった絵本『あんぱんまん』のあとがきに、著者はこう書いています。「ほんとうの正義というのは、けっしてかっこうのいいものではないし、そして、そのためにかならず自分も深く傷つくものです」。他人を傷付けるばかりの正義が横行する世界を、顔の欠けたアンパンマンはどう見つめているでしょうか。

本日Sotaくんが着任!

 アンドロイドの頼もしい助手、Sotaくんが本日よりヘルプデスクに着任しました!
 写真はSotaくんと、Sotaくんの顔認識プログラムを設定している、開発者の甲南大学大学院修士課程・自然科学研究科知能情報学専攻の菊地智也さん。彼は学部生のときから熱心に開発を続けており、図書館職員にヒアリングしつつ、アンドロイドのアンさんを次々アップデートしてくれています。
 今回Sotaくんを配置したのは、アンさんだけでは一次対応として図書館職員側が即座に対応できない点と、なかなかインパクトのある見た目で話しかけにくい(ちょっと恥ずかしいという人も)という図書館側の問題提起に対応するため。
 顔認識プログラムにより、前に人が立つと、自動でコミカルな動きと滑らかな発声で出迎えてくれます。これがものすごくかわいいので、自由に来学可能になったらぜひ見に来てほしいところです。

 さて、まだまだ社会情勢はコロナウイルスの影響が大きく、油断できない状況です。甲南大学もキャンパスの立ち入り制限が継続されています。
 学生の皆さんには、手洗いうがいなど自衛に努めながら、図書館の郵送貸出サービスも活用して読書を進めるなど、有意義な時間を過ごしていただければと思います。
 質問等はメールでも受け付けていますので、わからないことがあれば図書館HPのお問い合わせからご質問ください。

高石 恭子 (文学部)『自我体験とは何か : 私が「私」に出会うということ』

 

<教員自著紹介>

本書は、人がその成長の途上で<私>という主体を発見し、自分自身と対峙する瞬間の主観的体験を指す「自我体験」について、臨床心理学を専門とする筆者が行った40年近い研究の集大成として出版されたものです。子どもから大人まで様々な世代の人の<私>との出会いの事例が収録され、大部ですが読みやすい専門書です。「私とは誰か」の問いに興味のある学生のみなさんにお勧めの1冊です。

◆関連するテーマの本
渡辺恒夫・高石恭子(編著)『<私>という謎―自我体験の心理学』新曜社 2004年
渡辺恒夫・高石恭子(訳)『子どもの自我体験―ヨーロッパ人における自伝的記憶』ドルフ・コーンスタム著 金子書房 2016年

『自我体験とは何か : 私が「私」に出会うということ』
■ 高石恭子著 ,  創元社 , 2020年3月
■ 請求記号 143//2116
■ 配架場所  図書館   1F 教員著作
■ 著者所属  高石 恭子 (文学部)

 

学生・教職員のみを対象に限定開館しています。(事前申込制)

甲南大学岡本キャンパスの立ち入り制限は、7月末(予定)まで継続されることになりましたが、学習・教育・研究活動上、図書館を利用する必要がある学生・教職員に限って、図書館を訪問して利用できることになりました。

<入館できる方>
学生(学部生・院生),研究生,研修生,科目等履修生,教職員
学生には、事前申請の方法を、MyKONANでご案内しています。

<事前申し込み>
平日1日100名まで / 土曜1日50名まで

○学生は、MyKONANの「キャリア」>「セミナー申込」から申請してください。(添付の注意事項を必ず確認してください)
詳しい申し込み方法はMyKONANの掲示を確認してください。
○教員・研修生はお問い合わせフォームからメールでお申し込みください。(ご利用方法を返信しますので、必ずご確認ください。)
○対面授業などで別途キャンパスへの立ち入りを認められている場合は、事前申し込みは不要です。

<開館日・時間>
平日(月曜日~金曜日)9時~17時
土曜日9時~13時

※視聴覚コーナーなど、換気の悪い施設は利用できません。
※図書館を利用される場合は、入り口のご案内をよく確認してください。
※状況によっては、再度休館することもあります。訪問前にMyKONANや図書館ホームページを確認してください。

郵送での本の貸し出し・文献複写物(コピー)の送付も引き続き行っています!
MyKONANのアンケートフォームからお申し込みください。

文献の利用やデータベースの利用方法などで、困ったことがあれば、図書館ホームページのお問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。

 

<卒業生・地域公開利用者・協定校学生など、学外者の皆様へ>
社会的距離を確保するため、キャンパスへの立ち入り人数を制限しております。
学生の学習や学内研究者の利用を優先するため、学外の方の利用再開は、現在のところ目途が立っておりません。
大変申し訳ありませんが、ご理解の上、ご協力をお願いいたします。

なお、近隣にお住まいの方で本の返却を希望する方に対応するため、正門守衛室に図書返却箱を設置しております。設置時間は平日8:00-18:30です。返却で来学されましたら、守衛にお声がけください。なお、時間外は閉門しております。

 

子安 増生 (文学部)『精神疾患とその治療 : 公認心理師のための精神医学』

<教員自著紹介>

本書は京都の医学系図書出版社の金芳堂の「公認心理師テキストシリーズ」の本を私が監修する2冊目であり、学部科目「精神疾患とその治療」の内容を京都大学の精神医学教授・村井俊哉先生が編集の中心となってまとめたものです。精神医学の内容は多岐にわたり専門性の高いものですが、これまでさまざまな大学で精神医学を教えてこられた先生方が高度な内容を分かりやすく解説しています。

◆関連図書:子安増生『出題基準対応 公認心理師のための基礎心理学』金芳堂

■『精神疾患とその治療 : 公認心理師のための精神医学 
■ 監修: 子安増生 ,  金芳堂 , 2020年2月
■ 請求記号 493.7//2229
■ 配架場所  図書館   1F 教員著作
■ 著者所属 子安 増生 (文学部)

 

紺野キリフキ 著 『はじめまして、本棚荘』

 

文学部  3年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  はじめまして、本棚荘
著者 :  紺野キリフキ
出版社:メディアファクトリー
出版年:2010年

もしも本棚だらけのアパートがあるのなら、読書が好きなあなたは入居したいと思うだろうか。

「昔はねえ、お家賃というのは本で払ったものですよ」と、本棚荘の大家さんは言う。このアパートは、中にも外にも本棚だらけである。そんな所へ姉の代わりに引っ越してきた、本に興味のない「わたし」。

主人公の女性は「とげ抜き師」である。とげ抜き師とはどんな職業なのだろうか。
作中では、このとげ抜き師に対して疑問を抱く人物はいない。むしろ、「とげ」を抜いてもらうために彼女の元へ訪れ、「わたし」はそのとげを抜くのである。
夜の仕事に務める女のとげ、猫遣いの男のとげ、眠り姫と呼ばれる大学生のとげ、捨てられたサラリーマンのとげ、それぞれ違う理由で携えてしまったとげや、その本棚荘の人々と関わりあうことで、「わたし」は確かに成長していくのである。

この物語の肝は、やはり詳しく説明されることのない「とげ」という存在である。しかし、読者は登場人物たちのとげを知るたびに、どこか現実味を感じて、違和感なくこの存在を受け入れることができるのである。それはきっと、読み手が心のどこかで感じた感情をゆったりと重ね合わせることで、言葉にするのは野暮であるように「とげ」の正体を理解することができるからである。
そして、紺野キリフキという作家が描き出す世界は、あまりにも現実を突飛に切り取っている。それはまさに確立した世界観であるといえるだろう。その優しくも摩訶不思議な文章はぜひ一度味わってもらいたい。

姉が返ってくることが決まり、最後は「わたし」が本棚荘から立ち去る姿が描かれる。その描写は、まるで不思議な世界に迷い込んだようである。
本を閉じれば、自分にとっての「とげ」と静かに向き合いながら、心地良さがふと残ったまま。