若林公美先生(経営学部)「読書を会話のきっかけに」

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 読書というと、何となく小説を楽しむというイメージがある。時間にも、何ものにもとらわれず、異空間に瞬間移動して、どっぷりとその世界にはまる。ソファーでゴロゴロ。至福の時である。学生の頃は、塩野七海の「海の都の物語」、「コンスタンティノープルの陥落」、「レパント開戦」、「ロードス島攻防記」など、まるで海外旅行に行くような気持ちで、ヨーロッパを舞台にした本に没頭していたことを思い出す。
 本は異文化などを疑似体験の機会を与えてくれるが、人生の岐路に迷った時、相談にのって背中を押してくれる親友になったり、恋人になったり、先輩になったり、各人の希望に応じていろいろな役回りを果たしてくれる。また、知らない人との距離を縮める際にも、有用な道具になりうる。私自身は、2003 年か2004 年までの1年間、客員研究員として、オランダのティルブルグ大学に滞在した頃、随分、本に助けられた。
 オランダと一口に言っても、アムステルダム自由大学やライデン大学などと違って、ティルブルグ大学に日本人はいなかった(少なくとも私は出会わなかった)。友人は、オランダ人、ベラルーシ人、ルーマニア人、ウクライナ人、ハンガリー人の大学院生たち。彼女らとの会話は、当然、英語である。この時期は、英語に時間を割く必要性から、ペンギン・リーダーズを愛読した。
 ペンギン・リーダーズの良いところは、英語のレベルに応じて原作を書き換えて読みやすくしている点にある。そのため、厳密には原典とは異なるが、英語学習にもなり、気分転換にもなるので、細かいことにはとらわれず、「ジャケ買い」で、いろいろな作品にトライした。たとえば、「高慢と偏見」、「クリスマス・キャロル」、「緋文字」など、世界的に有名な文学作品を中心に乱読した。慣れてくると、当時、映画化されて話題になっていたTracy Chevalierの「真珠の耳飾りの少女(Girl with a Pearl Earring)」などペーパー・バックにも手を出すようになった。
 文学作品にふれることは、外国人との会話のきっかけにもなる。それは、外国文学に限らない。ロシア人から安部公房の「砂の女」や谷崎潤一郎の「細雪」(ちなみに、英語のタイトルはThe Makioka Sisters である)などを読んだと話しかけられたこともある。ニューヨークの合気道のクラスでは宮本武蔵の「五輪書」について、熱く語られたこともある。日本文学についても押さえておく必要があるなと実感した次第である。村上春樹や吉本ばななを好きな人も多い。
 どんなジャンルにしろ、読書は人との会話のきっかけを与え、各人の人生を豊かにしてくれる。まずは、図書館に足を踏み入れることからはじめてほしい。
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.33 2016) より