金丸義衡先生(法学部)「読書で世界旅行」–藤棚vol.32より

☆新入生向けの図書案内
 本を手にするということは、知識と情報を手に入れることにつながります。森羅万象について自分の頭の中に独占することができるのです。そして(私にはまだまだ難しいですが) 言語の壁さえ乗り越えることができれば、洋の東西を問わず人類5000年の歴史の旅をすることができるのです。
 ところが、読書によって著者の思考や経験を追体験しようとするときには、一つ知っておかなければならないことがあります。たとえば「ビロードのような」という表現を聞いたことがあると思いますが、『広辞苑』(第6版・岩波書店・2008年)によると「もと西洋から舶来したパイル織物の一つ。経または緯に針金を織り込み、織り上げたあと抜き取る時、輪奈を切り取って毛を立たせたもの。」とあります。たしかに、知識としてはこれで十分なのかもしれませんが、「ビロードのような手触り」と説明を受けたときに、実際にビロードに触ったことがなければ、 知識だけからではどのような手触りなのかがわかりません。つまり、読書によって知見を広めていくためには、その前提としての経験や知識が必要となるのです。
 また、映像作品、場合によっては三次元映像なども容易に見ることができる現代においても、文字だけでその世界を構築しなければならない読書という体験では、想像力を働かせなければなりません。「折り重なるように積み上げられた古書の山」に埋もれる古書店の様子は、新刊本を扱う一般的な書店の様子しか知らなければ想像することは難しいでしょう。
 読書によって知見を広げることは大切ですが、それと同時に様々な体験を通じて、自らも経験を重ねていくことが、読書にとっての勘所ではないかと思います。比較的自由な時間の多い大学生となった今こそ、経験と読書の双輪を上手く舵取りしていってください。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.32 2015) より