投稿者「図書館」のアーカイブ

石川路子先生(経済学部)推薦『20歳のときに知っておきたかったこと』

☆新入生向けの図書案内

著者: ティナ・シーリグ
タイトル: 20歳のときに知っておきたかったこと -スタンフォード大学集中講義-
出版者: 阪急コミュニケーションズ
出版年: 2010
配置場所: 図書館 2階中山文庫一般
請求記号: 159/SE

大学に入学して、驚くことの一つが「講義の多さ」かもしれません。大学では専門性の高い様々な講義が開講されています。みなさんは、これらの中から自分の興味に応じて講義を選択し、4年間学んでいくわけです。この本では、アメリカの名門スタンフォード大学の起業家育成コースで教鞭を執る著者が、自身の講義内容を踏まえ、学生たちに伝えたいことを熱く語っています。
「いま、手元に五ドルあります。二時間でできるだけ増やせと言われたら、みなさんはどうしますか?」
講義の中で、彼女は学生にこう問いかけます。さらに問いかけるだけではなく、実際にそれを実行させ、その成果を発表させるのです。みなさんはこのような講義をどう思いますか?
残念ながら、日本の大学では数百名の受講生を前に教師が一方的にレクチャーをするというスタイルで行われる講義が多いです。一度に多くの人々に専門的な知識を教授するにはこのスタイルは有効です(もちろん、海外でもこのような講義は存在します)。しかし、このような講義では、学生はどうしても受け身になってしまい、「自分で考える力」を身につけることは難しいと思います。
著者の講義で課される無謀な(?)課題を前に、途方に暮れる受講生も多いようですが、少なくとも彼女の講義スタイルは「自分で考える力」を養うという点では非常に効果的であると言えるでしょう。
大学の講義は、単に卒業のための単位を「稼ぐ」ものではありません。社会人として必要な知識や教養を身につけるものです。この本を読むと、改めてそのことに気づかされると思います。
「実社会の生活は、出題範囲が決められずに、どこからでも出される試験のようなものです。」大学の講義に真面目に出席し、試験でいい点数を取ることだけを目標にしてはいけません。社会人になって、のびのびと、楽しく生きていくために、みなさんが大学で学ぶべきことをこの本はきっと教えてくれるはずです。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より

田中貴子先生(文学部)「汝、心の旅をせよ」

☆新入生向けの図書案内

著者: 沢木耕太郎
タイトル: 深夜特急 第1便~第3便
出版者: 新潮社
出版年: 1986
配置場所: 図書館2階中山文庫一般
請求記号: 915/SA/1~3
著者: 中村安希
タイトル: インパラの朝 : ユーラシア・アフリカ大陸684日
出版者: 集英社
出版年: 2009
配置場所: 図書館1階開架一般
請求記号: 292.09//2016

「若者は学校でよりはるかに多く酒と旅で学ぶ」とモンテーニュが言ったそうである。これは女子学生のいなかった昔の話であり、今は「若者は学校でよりはるかに多くバイトで学ぶ」というべきかも知れない。大学生に酒を勧めるのは御法度になったし、学生には旅をする時間もお金もないだろう。それが悪いことだとは言わないし、「私の若い頃は」などといった回顧譚もしない。ただ、家と大学とバイトだけだと心がだんだん疲れてくるのはたしかである。体の疲れと違って、心の疲れは若者から「若さ」を奪ってゆく。
だから、旅をしよう。実際に行かなくてもいいのだ。たとえば本に書かれた旅を読書によって追体験するのなら、お金はほとんどかからない。もちろん、一人旅である。一人ぽっちの旅は、自分で自分の身を守り、金勘定をし、いやおうなく人と交流しなければならない。そんな、誰も助けてはくれない旅を昨今の親御さんはなかなか許さないだろうから、それを本で体験してみることをおすすめする。今まで見ていたはずの世界がぐるりと反転して、まったく違ったものが見えてくるはずである。
私が今まで学生たちにすすめた本の一つに、沢木耕太郎の『深夜特急』全6巻(新潮文庫)がある。ノンフィクションライターの沢木氏が、若い頃、日本からロンドンまで普通電車とバスだけで旅したエッセーである。アジアの真ん中を駆け抜けた彼の貧乏旅行は、「自分の目で世界を見る」ための旅だった。もう一つ、開高健ノンフィクション賞を受賞した、中村安希の『インパラの朝』(集英社)もすごい。女性一人でユーラシア・アフリカ大陸を二年半にわたって放浪した記録である。旅の中で若者が挫折し、成長してゆくありさまがリアルにとられられている。読んだら止められなくなることうけあいだ。
心のビタミンになってくれる本と出会うこと。それが一番大切なことである。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より

島本憲一先生(マネジメント創造学部学部)推薦『生態学からみた自然保護地域とその多様性保全』

☆新入生向けの図書案内

著者: 大澤雅彦 監修, (財)日本自然保護協会 編集
タイトル: 生態学からみた自然保護地域とその多様性保全
出版者: 講談社
出版年: 2008
配置場所: 図書館 1階開架一般
請求記号: 519.8//2025

日本の自然保護地域には、国立・国定・都道府県立自然公園をはじめ、自然環境保全地域、鳥獣保護区、森林生態系保護地域など様々なものがある。その一方で、国際条約などの保護地域としては、世界自然遺産、生物圏保存地域、ラムサール湿地などが挙げられる。このような自然保護地域は、指定地域、対象とする生物・自然としても個体・種・生態系など多岐にわたる。また、そのような自然保護地域は、それぞれ異なる理念や目的から成り立っており、相互のカテゴリーの関連性や保護管理の方法も異なり、専門家でさえも混同しがちである。
そこで、本書は、日本の多種にわたる自然保護地域に関して、その情報の整理を試みている。また、それぞれの自然保護地域の理念や目的、制度の構成、保護の対象、保護管理のしくみ、開発行為との関連性に関して、国、都道府県、市町村等の各レベルから説明を行い、自然保護地域を管理していく上で重要な概念的、具体的指針を与えることを目的としている。
本書の主な貢献としては、⑴各自然保護に関する制度間相違を整理するための図表の多用、⑵各自然保護地域における豊富な事例、⑶基本概念、保護管理や制度の現状、問題点、その具体的な解決策等の簡潔な説明、が挙げられる。本書の内容に関しては、⑴生物多様性の保護における保護地域の意味、⑵日本の自然保護地域、⑶世界の主な自然保護制度と日本における指定、⑷日本の自然保護地域のグローバルな位置づけと今後の課題、となっており、大学院生のみならず、学部生にも理解しやす
いものとなっている。
以上より、本書は、日本の自然保護地域に関して、初級から中級レベル、かつ学術的のみならず実用的な内容構成となっており、推薦に値する図書であるといえよう。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より

山崎俊輔先生(スポーツ・健康科学教育研究センター)「本との出会いも『一期一会』」

☆新入生向けの図書案内
一期一会」。この言葉を私は大切にしたいと思っている。
最近、海外で柔道を指導したり、交流したりする機会が多くある。そこで出会うほとんどの人が、一日か短期間の触れ合いである。将来、私の人生の中で二度と巡り合うことができない可能性の方が多い。その対象が子供であっても大人であっても、またアフリカや欧米の人達であっても、今ある自分を精一杯出して柔道を教え、ありのままの自分を出せるように努めている。そして、その思い出やその人たちの顔や気持ちを自分の心に深く刻み込むようにしている。
「本との出会い」も「人との出会い」も大切にするという意味では同じであると思っている。
本を読むにあっても心を込めて読み、登場人物の気持ちや志、また時代や背景、作者の気持ち等を考えながら、そこから何かを学んでいきたいと思っている。
そして、そのような気持ちでいると、「以心伝心」、人との出会いと同様、素晴らしい本と出会うことができるように思う。
学生時代、柔道のみに明け暮れる日々を過ごしていたが、周りの人達の影響からか、色々な分野の本を沢山読んでいたように思う。高校時代までほとんど本を読んだことがなかった
ため、著名な小説、歴史小説、英雄,偉人伝等、手当たり次第「乱読」していた記憶がある。
今も、専門書以外は、読みたい本を読みたいと思う時に読むようにしている。
「人の出会い」「本との出会い」が、今の自分の基礎になっていることは間違いない。
スポーツや勝負の上での駆け引きや心の持ち方、また指導者として選手や学生を育成する上でも、色々と今までに学んできたことが役立っている。
人生を歩んでいく上で、「難局にぶつかったとき」「志を持って進むとき」等の色々な場面で、大切な知恵と力を与えてくれているように思う。
これからも、「良き人との出会い」「良き本との出会い」に出会えることを楽しみにしている。
そして、「素晴らしい人や本との出会い」に感謝し、素晴らしいと思うことができる自分自身の感性を日々養っていきたいと思っている。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より

前田多章先生(知能情報学部)「新入生向け図書案内」

☆新入生向けの図書案内

著者: マーヴィン・ミンスキー
タイトル: 心の社会
出版者: 産業図書
出版年: 1990
配置場所: 図書館1階開架一般
請求記号: 141/Mi47

新入生諸君に、『心の社会』を推薦します。
マーヴィン・ミンスキーにより1985 年に記され、日本では1990 年に産業図書から出版されています。
当該書籍は、心がどのように「考え」を生み出していくのかを、エージェントとエージェンシーの関係で、見事に説明し読者に理解させてくれる傑作です。私は本書に、日本で出版されて間もない1990 年に巡り会いました。そして、本書の中で解説されている、心の社会の仕組みのシンプルさと妙技に強い共感を受け、息つく間もなく読み進んだことを、今でも鮮明に記憶しています。日本での初版は1990 年で、すでに20 年以上経っています。しかしながら、本書は、認知科学の発展に大きな影響を与えた良書であるのみならず、今もなお、認知科学の本質をとらえる上で非常に重要な概念を記した書籍の一つとして輝きを失っておりません。
本書の構成は、全30 章で構成された大作です。前半では、「心の社会」という認知モデルを解説しています。続いて、ヒトにおける、外界の認識、意味の学習、推論といった高次認知機能が「心の社会」によって如何に実現されているかが解説されています。また、意識と記憶、感情、発達、言葉および文脈といった側面に対しても「心の社会」の適用を試みています。そして後半では、フレームという概念の導入により「心の社会」に汎用性をもたせ、心がどのように「考え」を生み出していくのかをまとめています。
本書は、500 ページを優に超える大作ですが、文系学生・理系学生を問わず、ぜひ大学生として読んでおいて欲しい本です。読んでみて下さい。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より

武井寛先生(法学部)推薦『デンマークの光と影』

☆新入生向けの図書案内

著者: 鈴木優美
タイトル: デンマークの光と影 -福祉社会とネオリベラリズム-
出版者: 壱生舎
出版年: 2010
配置場所: 図書館1階特設
請求記号: 364.023//2011

あちら「では」こうなっている,それに比べて日本「では」……と,外国でのさまざまな事情と日本とを比較して,日本の実情を嘆いたりしていると,「出羽の守」などと揶揄されることがある。確かに,表面的な数字や現象のみを比較しても,そのよってきたるゆえんが分析されていなければ,意味はないということはできよう。
とはいえ,たんなる数字の比較のみであっても,その背後に存在しているそれぞれの国の事情への興味をかきたてることもあり,考えるきっかけを与えてくれるという点では,意味がないというわけでもない。
少なくとも,諸外国と日本との比較は,彼我の違いに興味を沸き立たせ,自己を相対的に見る視点を養ってくれる。したがって,諸外国の実情について触れた書物を読むことは,学問へアプローチするうえでの,一つの通路となりうる。この意味で,「出羽の守」本もすてたものではないのである。
本書は,複数の国際調査で「世界一幸福な国」として称揚され,近年とみに注目を集めているデンマークについて,同国在住の著者が,その内側から分析したレポートである。
本書が他の「出羽の守」本と一線を画すのは,タイトルが示すとおり,高福祉社会デンマークの「影」の部分にも視線をそそいで考察している点にあるが,より興味深いのは,副題にもあるとおり,デンマークにさえも「新自由主義」の波がひたひたと押し寄せ,一定の影響力をもってきている様相を描いているところにある。
新入生のみなさんは本書から何を感じ取るだろうか。そして,日本の現状・将来についてどう考えるだろうか。一緒に議論できることがあればと願っている。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より