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小倉美惠子『オオカミの護符』

書名: オオカミの護符
著者: 小倉美惠子
出版者: 新潮社  出版年: 2011年
場所: 1階開架一般  請求記号: 387//2111

ライトノベルのようなタイトルですが、民俗学の本です。

著者の小倉さんは、神奈川県・土橋の古い農家のご出身だそうです。
先祖代々土着の農家だったそうですが、土橋が都市化するにつれ、大好きだった祖父母といつしか疎遠となり、ご自身も国際親善に関する仕事をされていたとのこと。
ご実家の周りもすっかり住宅街になったのですが、ある日、ぽつんと残されていたお蔵に、オオカミの絵が描かれたお札が貼ってあるのに気が付きました。
古いものではなく、最近貼り換えた跡があるようです。しかも、何度も繰り返し貼り換えられたらしく、幾重にも跡が付いている・・・。

気になった小倉さんは、そのルーツを訪ねてみることにしました。
はじめは両親、古くからのご近所、山の御師、山里の古老・・・失われていくカミサマたちと出会う過程に、わくわくします。

この本については、文学部の田中貴子先生が描かれた書評が朝日新聞に掲載されています。
こちらもご参照ください。
http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2012020500014.html

(konno)

九鬼周造『「いき」の構造』

明治生まれの哲学者に九鬼周造という人がいます。日本で、最も愛されている哲学者と言ってもよいかもしれません。ご紹介する『「いき」の構造』は、昭和5年に発行された九鬼周造の代表作です。

九鬼周造は、東京帝国大学を卒業後、大正10年から足掛け8年間、ヨーロッパに遊学しました。この間、ハイデガーやベルクソンなど、著名な哲学者から西洋哲学を学びます。帰国後、京都帝国大学で教鞭をとるのですが、九鬼はただ西洋哲学を日本に伝えた人ではありません。ヨーロッパ滞在中に、日本人とヨーロッパ人に違いがあることに気付いた彼は、日本独自の感性である「粋」について、西洋哲学の手法も使って独自の分析を行いました。日本人が誇りに思う日本文化を、西欧の視点から見ても納得できる分析を行ったことが、九鬼周造の大きな業績のひとつです。

昭和5年に発行された『「いき」の構造』は、他の哲学書に比べて、短く、やわらかで、ほんのり艶やかであることも魅力です。とはいえ、20歳前後の皆さんは、『「いき」の構造』をまだちょっと理解できないかもしれません。なぜなら、九鬼は、「粋」とは「異性的特殊性」、つまり恋愛にもとづいていると定義しているからです。しかも、愛し愛される薔薇色の恋は野暮で、茨を摘んで生きる覚悟を秘めた白茶色の恋を選ぶことが、粋だと言います。今まさに、薔薇色の恋の時代を謳歌している皆さんには、ちょっと難しいでしょう?

ですが、「野暮は揉まれて粋になる」という言葉があるとのこと。少し背伸びをして「粋」を学んでみませんか。注釈付の文庫版が読みやすいですし、電子書籍を無料で読むこともできますが、白茶色で装丁されたちょっと古い単行本もお勧めです。ルビもない本を、スマホを片手に調べながら読むのも粋ではないでしょうか。そして、十分に世間に揉まれた後にはぜひ再読してみてください。その時には、自分の選択を諦めながらも肯定し、前向きに「生き」る日本人になれているに違いありません。

昭和16年に九鬼周造が亡くなった後、彼が所有していた書籍や原稿類は、親友の天野貞祐先生に託されました。当時、旧制甲南高等学校の校長でおられた天野貞祐先生は、貴重な書籍を含むその書籍群を甲南高校に寄贈されました。長い間に散逸してしまった本もありますが、そのほとんどが、現在、甲南大学図書館に「九鬼周造文庫」として保管されています。

「九鬼周造文庫」には、書籍だけでなく、『「いき」の構造』の草稿を含む直筆原稿や研究ノート、第一高等学校時代から留学時代までの講義録ノートも含まれています。劣化を防ぐために長い間公開できなかったのですが、少しずつ電子化していたものを、2016年4月から『甲南大学デジタルアーカイブ』で公開しています。

優雅なイメージの九鬼周造と、実直なイメージの天野貞祐先生が、第一高等学校時代からの親友であったことは、個人的には意外でしたが、「九鬼周造文庫」に遺された穏やかに笑う二人の写真や、「天野貞祐學兄に捧ぐ」と書かれた原稿などから、4歳年上の天野先生を先輩と慕う、心の通い合った友であったことを窺い知ることができました。是非一度アクセスしてみてください。

ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」

書名: 銃・病原菌・鉄 : 1万三〇〇〇年にわたる人類史の謎 (上・下)
著者: ジャレド・ダイアモンド
出版者: 草思社  出版年: 2000年
配置場所: 1階開架一般  請求記号: 204/D71/

  人類が誕生してから約250万年間、ヒトは石器を使って狩猟採集を行っていました。この時代は、「旧石器時代」と呼ばれています。この長い旧石器時代は、文明の進化も緩やかでした。しかし、農耕が始まってからは急速に発展し、わずか約1.2万年で、現代人がスマホを握るに至っています。
 その間、ヒトは生物学的な進化も続けてはきましたが、その速度は緩やかなままです。つまり、旧石器時代中期のヒトと、現代のヒトは、知能も含めて、生物としてはほとんど変化がありません。あらゆる年代ヒト、あらゆる国と地域のヒトは、どんな生活をしていても生物学的な格差はない、と結論付けることができます。
 では、文明の格差は、なぜ生まれたのでしょうか。強大な政治力・経済力を持った国家が生まれる条件とは何だったのでしょうか。鉄を製錬し、銃を創造して、他の大陸を圧倒したのは、なぜヨーロッパを中心としたユーラシア大陸の人々だったのでしょう。逆に言えば、アメリカ大陸の先住民族、たとえばアステカ帝国によって、スペインが制圧されなかったのはなぜでしょう?そして、この本のタイトルにあえて「病原菌」が追加されている理由は?

 著者のジャレド・ダイアモンド氏は、生物学から始めて医学、進化生物学と幅を広げ、この本を執筆する頃には言語学などの人文科学分野まで研究対象としていた学際的な研究者です。学問分野の枠にとらわれずに人類の歴史を検証したことで、それまでの常識に一石を投じました。

 オーストラリアの友人からこんな話を聞いたことがあります。砂漠でキャンプをしていたら、ディンゴ(野生の犬)が彼の靴を盗っていってしまったそうです。近くに住む伝統的な狩猟採集生活をしているアボリジニの子どもたちに、靴を見つけてくれるように頼んだら、ディンゴの足跡を追跡して1時間ほどで靴を取り戻してくれたとのこと。靴を取り戻すだけでも、周辺の地理やティンゴの生態など、多様な知識を使います。ましてや、生きていくためには、膨大な量の知識が必要となります。
 本やインターネットに、たくさんの知識を蓄えているつもりでも、わずかに1.2万年分です。しかも、それらの外部記憶領域にアクセスできなくなったら、我々は生きていけるでしょうか?
 昔の人も偉かったのだと、改めてそんなことも考えた本でした。

(konno)

 

渡辺佑基著『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』

書名: ペンギンが教えてくれた物理のはなし
著者: 渡辺佑基
出版者: 河出書房新社  出版年: 2014年
配置場所: 1階開架一般  請求記号: 481.7//2009

この数十年で飛躍的に進化したセンサーやカメラなどの情報機器。
それを動物にくっつけて、生態を記録しよう!
というのが、「バイオロギング」です。

たとえば、肺呼吸をするアザラシが、息を止めたままで深海まで潜れるのは”なぜ”でしょうか。
海の中での彼らの行動を調べてみたら、「きっとなにかすごい秘密がわかるに違いない」
と、期待に胸を膨らませ、アザラシを捕まえ、一定時間が経過したら外れる仕掛けをした機器を取り付け、どきどきしながら数日間待った後、人工衛星から届く発信器の電波を頼りに機器を回収します。
そこには、期待通りだったり、予想外だったりするアザラシの行動に関するバイオロギング・データが記録されています。

ただ、期待通りでも、予想外でも、データそのものは、彼らが何メートルまで潜ったか、といった事実の記録であって、”なぜ”潜ったのか、”なぜ”潜れるのか、といった疑問には答えてくれません。

どうすれば、その謎を解く「データ分析」ができるのか。そこが研究者の腕の見せ所です。
(アザラシやクジラを捕えるにも、かなりの腕前が必要かと思いますが・・。)
この本の著者である渡辺先生が使ったのは、基本的な物理の法則=「ペンギン物理学」でした。
説明されると「あぁ、分かってたはずなのに」と、思うのですが、これまでいろいろな”仮説”を事実として学んでいたと知らされました。情報機器の発達は、新しい実験によって裏打ちされた新しい事実の発見にも貢献しているのです。

環境問題の先駆者として知られる生物学者のレイチェル・カーソンは、自然の神秘さや不思議さに目を見はる感性を『センス・オブ・ワンダー』と表現しました。
情報機器という新しい感覚=センスを手に入れた我々は、新たなワンダーを体感することができるようになったのかもしれません。

一般向けの本なので、文系でも大丈夫です。
新しいわくわくをちょっと体験できる本でした。

(konno)

マイケル・ブース『英国一家、日本を食べる』

<ライブラリ・サーティフィケイト 読書記録の見本です>

書名: 英国一家、日本を食べる
著者: マイケル・ブース
出版者: 亜紀書房  出版年: 2013年
配置場所: 2階中山文庫一般  請求記号: 383/B

【レビュー】 評価:★★★★☆
 2013年和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、注目されるようになった。この本は、英国人である著者が飽くなき食(伝統的な和食や庶民的な和食)への興味を抱き、外国人ならではの受けたカルチャーショックと和食の含蓄が書かれていて、興味深い。クスッと笑えることもあったり、そういう見方もあるのかと思ったり。楽しく読める本だった。ただ、大阪(庶民的)や京都(和食そのもの)の食については、書かれていたが、神戸については書かれていないのが残念。まあ、確かに神戸は伝統的な和食やたこ焼きなどの庶民的な食というイメージは無いでしょうね。

【心に残った言葉、キーワード】
「…だしと塩加減と火加減を修得していただきたい…」(p.83-p.89)
「何にもまして謙虚さを身につけるべきではないか」(p.268)

笠井 献一『科学者の卵たちに贈る言葉』

<ライブラリ・サーティフィケイト 読書記録の見本です>

書名: 科学者の卵たちに贈る言葉 (岩波科学ライブラリー ; 210)
著者: 笠井 献一
出版者: 岩波書店  出版年: 2013年
配置場所: 1階開架一般  請求記号: 407//2161

【レビュー】 評価:★★★★☆
 少し前の新聞でこの本が紹介されていて、普段知ることができない理系の世界をのぞいてみたいと思い、手に取った。
 この本は生化学の研究者であり、著者の指導教員であった江上不二夫氏が、学生にかけた言葉やそれにまつわるエピソードについて書かれている。
 理系に関する様々なエピソードが書かれていて、本を読み進むにつれてその光景が目に浮かび、思わず笑ってしまう。
 「理系のゼミでは、卒業論文のテーマを選ぶ時に、先生が用意したテーマの中から選ぶ」という話を読んで、文系では、卒業論文のテーマなどは自分で決めることが多いため、その違いに驚いた。

【心に残った言葉、キーワード】
「実験が失敗したら大喜びしなさい」…予想とは違う結果が出たら、そこにはまだも知らない何かが隠れている。
「初めから重要だった研究はない」…今、重要だと思われている研究だって、みんな誰かが重要なものにしたのだ。