5-0.KONAN ライブラリ サーティフィケイト」カテゴリーアーカイブ

森見登美彦著 『四畳半神話大系』

 

 

知能情報学部 4年生 Oさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 四畳半神話大系
著者 : 森見登美彦著
出版社:太田出版
出版年:2005年

主人公私と小津の友情物語であると言うならば、正解ではあるのだろう。複雑に入り組んだように思えた四畳半は四畳半なのだからよく考えればきれいな正方形なのである。四畳半を移動すれば、小津との新しい物語が生まれる。選択肢は無数にあるのに小津との運命からは逃げられないのだ。

私の物語を読んで涙も出なければ、腹の底から笑うこともない。てっきり明石さんとの恋物語が始まるのかと思った自分がどれだけの間抜けなのかと痛感した。私は阿呆でもあり間抜けでもある。だから小津の手のひらで転がされることしかできないのだ。妖怪占い師に揚げ足を取られているやつが華やかな学生生活を送れるはずもない。どの四畳半に転がり込んでも、根本的には同じだ。コロッセオ、モチグマン、蛾、猫ラーメン、小津。選択肢を変えても運命の黒い糸で結ばれたものはそうやすやすと運命の変更を認めてくれるわけがない。もしかすると神はそこまで手が回らないのかもしれない。もしかすると神ごとの役割を全うしているだけかもしれない。明石さんと結ばれるのは私と決まったのだからこれ以上のことはない。きっかけを作るために神は蛾の大群を送り込んだのかどうかは知る由もない。ただ目の前の好機を逃さないことだ。

好機というのは良い機会ということです。好機というのは掴まえにくいものであります。好機のように見えないものが実は好機であることもありまして、好機だと思われたものが好機ではないこともあるのです。目印はコロッセオです。もしこの本が見えたならそこにコロッセオがあるのです。いや、コロッセオがあるときこの本が開いているのかもしれせん。

ですが好機を逃しても焦る必要はありません。立派なみなさんはいずれは四畳半を覗くことができるのですから。

湊かなえ著 『白ゆき姫殺人事件』

 

 

知能情報学部 4年生 Oさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 白ゆき姫殺人事件
著者 : 湊かなえ著
出版社:集英社
出版年:2012年

本書は2014年に映画化もされた、『告白』『夜行観覧車』などの代表作をもつ湊かなえによるミステリー小説である。著者は『告白』のヒットとともに読んだ後に嫌な気分になるミステリー、通称イヤミスというジャンルを広めた。もちろん本書もイヤミスとなっている。

ある日、化粧品会社に勤める美人OL社員が殺害されるという事件が起きる。その事件の手がかりをつかんだフリー記者、赤星が独自に調査を始めるところから物語は始まる。本書は5章に分かれており、第1章から第4章までは赤星目線の取材にまつわる物語が展開され、第5章では、事件の容疑者である城野美姫目線の話となる。

本書では真犯人が誰かということではなく、人間の醜さやSNSの怖さに注目してほしい。赤星の取材内容には多くの登場人物が出てくるが、全員が微妙に違う証言をする。それは曖昧な記憶であったり、自分に都合の良いように塗り替えられた記憶を語っているからだ。時には自分を守るために意図的に嘘の証言をする者もいる。赤星も記事を面白くするため、無実の城野美姫を犯人だと勘違いさせるような誇張した記事を掲載する。SNSではこのミスリードのせいで、城野美姫はますます社会に戻ることが難しくなっていく様子が描かれている。

人生において噂話を他人に話した経験は少なからず誰にでもあるだろう。ただ事実は当事者にしかわからず、その当事者が真実を話してくれる確証もない。誰も本当のことはわからないのである。その中でも噂話が絶えることはない。無責任な発言により苦しめられる人がいるということを理解しなければならない。「白ゆき姫殺人事件」はこのネット社会に生きる現代人の私たちにとって自己を見直せるきっかけとなる一冊となるだろう。

和本の修理を行いました(2/19,3/6)

2月19日と3月6日、KONANライブラリーサーティフィケイト活動の一環として、和本の修理を行いました。今回は文学部1回生のNさんと法学部2回生のTさんにお手伝いいただきました。
午前中は和本の仕組みを理解していただくために、好きな紙を使ってミニ和本を作ります。せっかく和本を作るので定規もセンチではなく尺の目盛がある曲尺を使います!

半紙を折って、紙縒りを縒って、穴を開け、糸で綴じる。慣れない作業と慣れない目盛に四苦八苦しながらも見事に和本が完成しました!

午後からはいよいよ和本の修理です!図書館の書庫には糸がきれてしまった和本がたくさんあります。そのままにしておくと表紙と中身がバラバラになってしまうため、元通り四つ目で綴じる作業をしていただきます。
Nさんは最初はマニュアルを見ながら綴じ方を確認していましたが、すぐに四つ目綴じをマスターしたようです! 午後からの作業はすいすい進みます。 午前中は余裕がなくてとても静かだったのですが、午後からは感想などを話しながら楽しく作業を進めてくれました。
一方、Tさんは「裁縫は正直苦手です」と語っていた通り、一本道の途中何度も迷子になってしまいます。それでもわからないときはちゃんとマニュアルを確認し、スタッフに質問し、間違えないよう慎重に作業をしてくれました。わからなければ確認する、これはとても大事なことです。

結果、時間内に予定していた冊数の和本の綴じなおしが完了しました。Nさんは「本を糸で縫うということが初体験でとても面白かった」Tさんは「図書館の役に立つことができてとてもうれしかった」 との感想をいただきました。 お二人とも達成感に満ち溢れていました…。
また機会がありましたら次は四つ目綴じ以外の綴じ方で和本を作りましょう!お手伝いどうもありがとうございました。

KONAN ライブラリ サーティフィケイトでは、本を読む以外にも、ボランティアなど図書館でしか経験できないイベントにもご参加いただきます。今回のように普段触れることのできない貴重な資料を扱うこともあります。
自分も参加したい!と思った方、ちょっと興味あるかなと思った方、一緒に活動しませんか。
ご参加をお待ちしています!

KONANライブラリーサーティフィケイト

ライブラリサーティフィケイト1級取得予定者との面談を行いました

 

ライブラリサーティフィケイトでは、1級取得予定者に活動の振り返りをかねて、図書館長と面談をしていただきます。
といっても堅苦しいものではなく、ゆったりまったりとお話をしていただくものです。

先日、1級取得予定者の文学部 4年生のKさんが面談を行いましたので感想をご紹介します。
楽しい時間の中でも、ご自身の課題を見つけられたそうです。非常に有意義な時間であったことが窺えますね。

ぜひライブラリサーティフィケイトご参加のみなさんにも、そうでない方にも、たくさんの方に読んでいただきたいなと思います!

 

 

以下、Kさんからの感想です。

********************

杉本先生との面談は、穏やかで心地のよいものでした。面談の経験は、中高での進路に関するものしか経験がなかったため、面談前は一方的に質問ばかりされるのではないかと緊張していました。しかし、杉本先生もご自身の考えを話してくださり、どちらかというと会話のような雰囲気で、話しやすかったです。

面談内容は、本の選び方や本を読んでいて印象に残った言葉、図書館への要望といった読書や図書館に関することはもちろん、私の卒業論文の内容や私が言葉を選ぶ際に気をつけていることなど多岐にわたりました。もともと読書家ではない私が話しやすいように、配慮してくださったのだろうと思います。また、私に関心があることを示すことで、話しやすい雰囲気を作ろうともしてくださったのではないかと思います。

今回の面談でとくに印象的だったお話は、読書は必須ではないけれど、読書をする人に厚みをもたらし、最後にその人を支えるものなのではないかという杉本先生のお話です。このお話を聞いたときに、去る者は追わず来る者は拒まず、豊かな時間を抱えたまま、静かに読者に寄り添う本のイメージが思い浮かび、それが私の読書のイメージと一致していたためです。「読書は良いもの」、「漫画より本」といった社会のイメージに囲まれながら、甲南大学入学前は課題図書などで強制される以外に本を読む機会がなかった私は、読書に対して厳かで脅迫的なイメージがありました。また、従来の私の読書は感想文を求められるものばかりだったので、読書から何かを得なければいけないという固定観念ももっていました。しかし、大学在学中に自分のペースで目についた本を少しずつ読んでいくうちに、飽きれば読むのをやめてもよいし、大した感想をもてなくても問題ないと思えるようになりました。また、読書によって知らなかったことを知ったり、新しいことについて考えるきっかけを得たりもしました。そして、読書を中断して、その新しいことを考えることに没頭してもよいし、その考えの良し悪しを誰かから評価される恐れはないのだと思えるようになりました。これらの読書経験から、本は色々な読み方を受け入れてくれる寛大なものだと思うようになり、読書に対するイメージが前述したものに変わりました。

今回の面談は、楽しい面談ではありましたが、自身の課題を再確認する面談でもありました。その課題とは、自身の考えを整理して伝えることです。とくに会話のように瞬発的に発言を求められることは、なおさら苦手だと痛感しました。実際に今回の面談では、言葉が途切れ途切れになってしまったり、「わからないですね」と質問に対して答えを出せなかったり、面談終了後に違う意見や新しい意見が思いついたりしました。それでも杉本先生は、言葉が出るまで待ってくださったり、私の答え一つ一つに対して丁寧に反応して、受け止めてくださったり、とても温かな雰囲気で対応してくださりました。そのおかげで、不格好ではありますが、安心感があり楽しいと思えた面談になりました。

また、今回の面談で気づいたことがあります。それは、お話の楽しい人は自身の考えをもち、それを適切に言語化し、相手に伝えられる人なのではないかということです。私の回答に合わせて臨機応変にご自身の考えを伝え、話を深めてくださった杉本先生との面談は楽しいものでした。また、今回の面談で質問をされる立場になって、以前させていただいた教員インタビューを思い出したのですが、そちらも楽しかったです。そして、インタビューを受けてくださった先生方には、質問に対して、その場でご自身の考えをわかりやすく伝えてくださったという共通点がありました。加えて、どの先生方も、私が話した際には、私の話を受け止め、広げてくださりました。このことで、会話が相互的になり、いっそう楽しいものになったのではないかと思います。

以上の気づきから、読書をはじめとする、自分の心を動かしたり、考えを広げたりする経験をたくさんして、それらを言語化する練習を積み重ねたいと思いました。そうすることで、ライブラリサーティフィケイトをきっかけに関わってくださった先生方のように、自身の意見を持ちつつも、相手の意見をくみ取り、受け止められる引き出しを持て、そして、それらを相手にわかりやすく伝えられるようになるのではないかと思ったためです。また、このような人間像は杉本先生がおっしゃっていた読書によって得られる人としての厚みと関連しているようにも思います。

今回の面談は、大学在学中の読書経験やライブラリサーティフィケイトでの活動を振り返るよい機会になりました。何よりも楽しいと思える時間を過ごすことができました。

********************

 

 

また、図書館長の杉本 喜美子先生からも面談の感想をいただきました。

********************

今回の面談の前に、読書記録を読ませていただき、非常に論理的なこと、だけど全く冷たさを感じない、むしろ読むだけで心に触れられるような鮮やかさを持つ文章に圧倒されました。実際にお会いしたら、ひと言ひと言を熟考して紡ぎだす、言葉を大事にする方なのだと感じました。高校時代は決して本好きとは言えなかったが、大学で100冊を読破し、ライブラリサーティフィケイトの申請が終わった今もその習慣は続いていると語るKさんから、本を読むことそのものが人をより豊かに育てるのだなと実感しています。

100冊の中で一番心に残った言葉は「幸せは足し算できるもののように、わたしには思えます。先にどんな不幸があっても、足したものは引かれることはない、そう感じます」だそうです。どの本の言葉かは、みなさん探してみてください。人生の指針となりうる言葉に出会われたこと、心から素敵だなと思いました。みなさんも、そんな言葉に出会ってみませんか?

図書館は「そこにあればいい。受け止めてくれていると感じられるから」とKさんは話してくれました。図書館を支えてくださっている職員のみなさんも私も、それを聞いてほんとうにうれしく思います。図書館はこれからも、みなさんの心の支えでありたい。ライブラリサーティフィケイトを一つのきっかけに、ぜひ、みなさんを支える言葉に出会ってくださいね。

********************

 

 

ライブラリサーティフィケイトは4年間かけて一歩ずつ1級取得を目指して進めていくこともできますし、1年で1級の取得を目指すこともできるので、ご自身のペースで進めていくことができます。

その中でビビッとくる本や言葉に出会い、「この本おもしろかったです!」「この言い回しが印象的でした」「この先生のインタビューおもしろかったです」とお話してくれることが私たちの喜びであり、みなさんが出会ってきたものが、今後の人生に繋がっていくことを願っています。

 

ライブラリサーティフィケイトは、いつでもみなさんのことをお待ちしています!

筧裕介著 『認知症世界の歩き方 : 認知症のある人の頭の中をのぞいてみたら?』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 認知症世界の歩き方 : 認知症のある人の頭の中をのぞいてみたら?
著者 : 筧裕介著
出版社:ライツ社
出版年:2021年

認知症についてどのようなイメージがありますか。

「記憶がなくなる病気」

「詳しく知ることがなんとなく怖い、タブーに感じる」

私はこのようなイメージを持っていました。もしも私と同じようなイメージを持たれている方がいらっしゃれば、本書はおすすめの一冊です。

本書は、認知症のある方に行ったインタビューをもとに、当事者の視点で認知症に関する困りごとや気持ちを書いた本です。また、それらを旅にたとえた形式でまとめていたり、文体が優しい語り口調であったりと親しみやすい工夫がされています。

そして、「旅人の声」として、認知症のある方が語るかのように、症状によって生じる感じ方や気持ちを交えながら、認知症に関するエピソードが紹介されています。このコーナーによって、認知症のある方が生きている世界を想像しやすくなっています。

私は本書を読んで、認知症の症状は記憶に関するものだけでなく、例えば形や大きさを正しく認識できないために黒いマットが穴に見えるなど、認知機能に関する症状も多くあることを知りました。また、そのような症状のために認知症のある方の生きている世界は、私が思っていたよりも危険で不安定なのだと思いました。ドラマなどで認知症の方がパニックに陥ったかのようなシーンを見たときに怖いと思ったことがあります。しかし、周囲が危険だらけの世界で生きていれば、当然の反応だと思い直しました。そして、他者の視点を知ることの大切さを実感しました。

また、本書には、認知症のある方の視点だけでなく、なぜそのように感じるのか、その原因に関する説明もあります。そのため、認知症のある方やその周囲の方が生活しやすくなるヒントがあると思います。また、どのような認知機能の働きが、私たちの普段の生活を支えているのかについても知ることもできます。些細に思える行動も複雑な仕組みで行われていることを知ると生活の見方が少し変わるかもしれません。

本書を手に取って、知らない世界を少し知ってみようかなという気持ちで、認知症について知ってみるのはいかがでしょうか。

織守きょうや著『記憶屋』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 記憶屋
著者 : 織守きょうや著
出版社:KADOKAWA
出版年:2015年

主人公の遼一は、恋心を寄せていた杏子のトラウマを克服するお手伝いをしていました。その中で遼一と杏子は、消したい記憶を消してくれる都市伝説上の怪人「記憶屋」の話を知りますが、遼一は記憶屋をただの都市伝説だと考え、本気にしていませんでした。しかし、ある日、杏子が遼一とのやり取りも含めてトラウマに関する記憶すべてを忘れてしまいます。このことをきっかけに、遼一は記憶屋の存在を認め、そして正体を突き止めようと、記憶屋を探しはじめます。

この小説のテーマは、「記憶を消すことは良いことか悪いことか」であると考えられます。トラウマで苦しんでいた杏子の姿と人から忘れられることの痛みの両方を知っている遼一は、このことを悩みながら記憶屋の真相に迫っていきます。また、杏子以外にも記憶屋に記憶の消去を依頼した人物が登場し、その人物がどのような目的で、誰のどんな記憶を消すことを記憶屋に依頼したのかについても明かされます。

記憶を任意で消せるという非現実的な設定やそれによって生じる本小説のテーマは、共感しづらいかもしれません。しかし、この設定やテーマだからこそ、誰もがもっている記憶の普段は意識されづらい一面である、記憶は保有者だけのものではないこと、記憶の中には自身に関わってくれた人々が存在していることにスポットライトが当たり、人とのつながりの中に自分が存在することを改めて認識し、そして考えるきっかけを与えてくれるように思います。突飛な設定によって、日常生活で当たり前となっていて忘れがちなことに気づかされる点が面白いと思いました。

なお、本小説はホラー小説に分類され、作中では都市伝説を取り上げますが、怖い要素はないので、どなたでも安心して読めます。

また、つい読み進めたくなる記憶屋の真相に迫る過程だけでなく、相手を大切に思うからこそ記憶屋に記憶の消去を依頼した人物のお話も含まれているので、メリハリがあり、最後まで興味をひかれながら読むことができると思います。