5-0.KONAN ライブラリ サーティフィケイト」カテゴリーアーカイブ

澤田智洋著 『マイノリティデザイン』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : マイノリティデザイン
著者 : 澤田智洋著
出版社:ライツ社
出版年:2021年

受験や就活で、周囲から色々な助言をもらっても、やっぱりネームバリューが頭から離れないまま、他者と競争し、その隙間にスマホを見れば、すぐにSNSで他者の様子がわかって自分と比較ができてしまう。きっと社会に出ても、評価され、比較されることは続く。また、生活の中でなんとなく目にする商品や広告はすぐに変わり、前のものは思い出せない。私たちは、ものごとが大量に消費されていく社会の中で、強いことが良いことだと思い、強くなることを強いられているのかもしれません。

そのような中で、

「すべての弱さは、社会の伸びしろ」

この言葉は信じがたい言葉かもしれません。これは著者の言葉です。

著者はコピーライターで、視覚障害のある息子さんが生まれたことをきっかけに、一般的に弱さと考えられているマイノリティ性に目を向けて、それを生かす働き方をするようになりました。本書は、そのような背景をもつ著者が、マイノリティ性を生かす方法について、事例を交えて書いた本です。

本書では、マイノリティ性があるからこそ実現したアイデアが紹介されています。そのアイデアがユニークで面白かったです。また、マイノリティのためのアイデアが、結果としてマイノリティ以外の人も楽しませていて、弱さは社会の伸びしろだと実感できました。

一方、納期に追われながら、すぐに消費されるものを作る働き方に虚しさを感じていた著者が、マイノリティを生かす働き方に夢中になっていく様子からは、働くことについて考えさせられました。

「あなたの弱さは、だれかの強さを引き出す力」

これも著者の言葉で、発想力という強みをもつ著者とは違い、強みのない私は励まされました。強みがなくても、自身の弱さがだれかの強さを引き出せるのなら、周囲を良くすることに少しでも役立てるように思えたからです。

生活をしていく上で、ある程度の強さも必要で、強くなるための向上心や努力も大切だと思います。しかし、強さばかりでなくて良い、弱さがあっても良いと、本書を読んで思えました。自分にも他者にもやさしくなれる本だと思います。

大山淳子著 『あずかりやさん 桐島くんの青春』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : あずかりやさん 桐島くんの青春
著者 : 大山淳子著
出版社:ポプラ社
出版年:2018年

「一日百円で、なんでもお預かりします」という不思議なお店「あずかりや」に、物を預けに来る人や、預けられた物を主人公とした短いお話が5つ収録されています。どのお話にもやさしい雰囲気があり、少し切なくなる場面があっても、ほのぼのと読むことができます。

とくに魅力に感じるのは、預けられた物視点で語られるお話があるところです。普段は想像もしない物視点の語りがユニークで面白いです。その面白さは、自分が使っている物たちも何か考えているかもしれない、そうだとしたら何を考えているのだろうと想像してしまうほどで、本を閉じた後も楽しい気持ちが続きます。

本書では、文机とオルゴールを主人公としたお話があります。物だからか、どちらも語り口調がアニメや漫画のキャラクターのように少しコミカルで、読んでいてかわいらしく、愛着がわきます。また、元の持ち主を大切に思う姿がけなげで、きっと用意されているであろうハッピーエンドを早く読みたくなり、ページをめくる手が止まりませんでした。

この2つの中でも私はオルゴールが主人公のお話「夢見心地」がお気に入りです。120年前に作られたオルゴールが、自身を作り、そして大切にしてくれた職人に手放されたことへのショックと疑問をもちながらも、次々に変わる持ち主のもとで、懸命に自身の役目である音楽を奏でることに励む姿が描かれています。そして最後には、自分が持ち主たちによって愛されていたことや自身を手放した職人の意図に気づき、自分のやりたいことを見つけるお話です。オルゴールの言葉や生き方からは、過去や未来を糧にしながら今を誠実に生きる大切さが学べるように思います。

5つの短いお話は、それぞれで完結するので、読書の時間が取りにくいときでも、読みやすいと思います。一方で、他のお話とのつながりを少し感じるような記述もあるので、それを見つけて、にやりとするのも楽しいです。

温かいお話ばかりなので、どなたにでも楽しんでいただける一冊だと思います。

宮口幸治著 『歪んだ幸せを求める人たち』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 歪んだ幸せを求める人たち
著者 : 宮口幸治著
出版社:新潮社
出版年:2024年

「人生を悲観し、自殺しようと思った。しかし、自分を大切にしてくれている祖母を思い出し、自分が死ねば祖母は悲しむだろうと思った。だから、祖母が悲しまないで済むように祖母を先に死なせてあげようと思った。」

「仕事終わりに雨が降っていたので、会社の入り口の傘立てで、置いてあるはずの自分の傘を探した。しかし、見つからなかった。誰かに盗まれたと思い、犯人の心当たりとして何人かが思い浮かんだ。途中で自分の机の近くに傘を置いたことを思い出したが、犯人候補として思い浮かんだ人物などへの怒りを強く感じていたので、傘を取りに戻るのも面倒だと感じ、他人の傘を黙って使っても問題ないと思った。」

この2つのお話を読んで、あなたはどう思いましたか。両者とも悪いことだけれども、後者の気持ちはわからなくもない、前者の気持ちは理解しがたいと思ったかもしれません。そして、後者は身近な、前者は自分とは関係のないお話のように思ったかもしれません。

しかし、著者は「歪んだ幸せを求めている」点で両者は共通していると考えています。歪んだ幸せとは、自身の幸せを求めすぎるあまりに他人を巻き込み、不幸にしてしまう幸せのことです。そして、本書では歪んだ幸せを引き起こす5つの歪みである「怒りの歪み」、「嫉妬の歪み」、「自己愛の歪み」、「所有欲の歪み」、「判断の歪み」について紹介しています。

本書を読んで、私は、非行は人の不幸を願って起こされるものではなく、自身の幸せを求めすぎて起こされるものだと認識が変わりました。そして、非行少年たちと同じように「幸せになりたい」と思う私も、歪んだ幸せを求めてしまうこととは無縁ではないと感じました。また、前述した2つ目のお話のように、歪んだ幸せを求めた行動は身近にもあります。

そのため、歪んだ幸せの原因となる5つの歪みについて知り、自身の行動を見直したり、5つの歪みと向き合ったりすることで、適切な行動ができるようにしたいと思いました。また、本書はその助けとなる本だと思いました。

熊代亨著 『「若者」をやめて、「大人」を始める : 「成熟困難時代」をどう生きるか?』

 

 

文学部 1年生 Nさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 「若者」をやめて、「大人」を始める : 「成熟困難時代」をどう生きるか?
著者 : 熊代亨著
出版社:イースト・プレス
出版年:2018年

この本は異なる世代との接し方について学べる本です。今の時代、ネットを通じて様々な世代と繋がれるといっても、それは共通の趣味を持っていたり、価値観が似通っていたりするという共通点があるからです。では、現実社会でかかわりたくなくともかかわらざるを得ない、自分とは違う世代の人たち、それが自分より年上の世代かどうかを問わず、仕事であるからどうしてもかかわらないといけない場合、どのように接すればよいのかということを学べる本です。

この本は題名の通り、今、若者である学生や自分のことをまだ若い、大人になり切れていないと思っている人たち向けに書いてあります。そのため、まず、「大人とは何か」というところからスタートします。
この本の面白いところは主語、読む対象が若者だけに限定されていないところにあります。そのため、ほかの章では、若者の持つアドバンテージのみがフォーカスされた結果、いつまでも「若者」のマインドを持った中年が多くいる、またその問題点を述べ、若者ではなく中年の視点からも述べているのです。これには私も驚きました。確かに、最近よい、とされている上司は同じ目線になって考えてくれるという点が入っていますが、それになろうとして年甲斐もなく、若者のような流行を追い求めたり、言葉遣いを若者風にしたりする中年は多くいます。しかし、心身共に壊してしまう可能性があると筆者は述べているのです。体力が衰えているのに若者のように振舞えば、体を壊してしまうし、今までの経験が積み重なっているにも関わらず、何も知らないかのようにすべてを新鮮に感じることはできません。それを追い求めすぎると心をも壊してしまう原因になります。

では、中年は何も起きない平凡な人生をずっと過ごすしかないのでしょうか?そんなことはありません。「大人」には「大人」の生き方があるのです。若い世代には苦し紛れにしか聞こえないかもしれませんが本当にある、ということを中年の筆者が体験をもって教えてくれます。また、これを通して若い世代に向けて、絶対に嫌な大人に会う時もあるがその時はどうすればよいのかというようなことも教えてくれます。

このように、この本では異なる世代との接し方を様々な視点から筆者の経験も含めて書いてあるので、読み終わるとなんだか誰かの人生を経験してきたかのような気持ちにさせてくれます。「大人」になるとはどういうことなのか?いつも疑問に思っていたことが何となくわかるようになる1冊です。

坂木司著 『和菓子のアン』

 

 

文学部 1年生 Nさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 和菓子のアン
著者 : 坂木司著
出版社:光文社
出版年:2012年

こんなにも自分と同じような心境の主人公を見たのは初めてだった。

高校を卒業後、特にやりたいこともなく、かといって大学に行くほど勉強の熱意もなかった主人公の梅本杏子は、ふと立ち寄った和菓子屋でバイトをはじめる。そこで様々なお客様に出会い、自身の知らなかった新たな世界を知っていく。そして、日々変わらないように見える日常の中にあるミステリ。その推理が事実かどうかはわからない。ただの想像かもしれない。しかし、そう代り映えのしないように感じる日常が一気に映画のようになったかのような一日になる。日常のほんの少しの変化に目を止めることが出来るようになる作品だ。

主人公の務める和菓子屋には美人だけれども、休憩の合間に株をチェックするほどの投資、ギャンブル大好きな店長をはじめ、好青年だけれど乙女な感性をもつ職人の橘さん、美人で頼りになるけれど元ヤンの香りを隠せない同じバイトの桜井さんなど、個性豊かなメンツであふれている。こんな同僚に囲まれて私も仕事がしたい、と思ってもらえる、同世代の大学生がみても面白い作品でもある。

私自身、この小説を初めて読んだ時は中学生だった。その時はただの日常ミステリとして読んでいた。高校生の時にも読み返したが、その時は受験という道ではなく、このような生き方もあるのかと自身の選択肢が広げられた。そして、大学生になって読んでみると、自分とは違う道を選んだからこその主人公の不安や、逆に、私が得られなかった感覚、関係を得ている主人公をみて羨ましく思ったり。社会人になってから読み返すとまた違った見方が出来るのだろうか。

このように、まだその年代になっていなくても、もちろん主人公より年上であっても、それぞれの視点から、今まさに社会に飛び込もうとしている女の子の考えていること、不安、希望を生き生きと見ることができ、いつ読んでも面白い作品である。この小説を読み終えた後には、お菓子を食べるたびに、実はこのお菓子が自分の手元に来るまでに何かストーリーがあるかもしれない、とワクワクするようになっているだろう。

全学共通教育センター 本田 勝裕先生へのインタビュー

文学部4生 Kさんが、全学共通教育センター 本田 勝裕先生にインタビューを行いました。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

 

 

Q. 面白い本について

(1番目は)読んでいくうちに早く次読みたいって思うほど本に集中できる本。いい本って、匂いがする、声が聞こえる。読んでいると色々なことが本の中から立体になって現実のように読める本。

 2番目が空想の世界に入っちゃう本。

 

Q. 印象に残っている本について(★…学生におすすめの本)

【大学以前】

C・S ルイス著『ナルニア国物語

マーク・トウェイン著『トム・ソーヤーの冒険

【大学時代】

F・スコット・フィッツジェラルド著『グレート・ギャツビー

★司馬 遼太郎著『竜馬がゆく

 …未知の世界を知ることが面白く、また自由に生きる竜馬に憧れ、何度も読み返した。

★宮本 輝著『青が散る

 …大学を舞台として友情と恋愛が交錯する小説。世代を問わずに楽しめる。

 

Q. 行動と読書について

 僕の思考と行動と、著者の考えや作中の人の行動が一致していると、自分と書物の関係が生まれる。

応援団になってもらえるというか共感できるというか。一人で頑張ってても不安だし、しょうがないし、だから読書によってそういう力をもらっているかな。

 (自身の行動と矛盾する考えの本は)矛盾が面白いねん。(自身と著者の考えの)往復を読書を通じてやっているところはあるかな。

 

Q. 学生におすすめの本について

乱読をしてほしいかな。(海外文学には)日本にないものが書かれてるわけやんか、めっちゃ面白かった。そんな世界あんのって。知らない世界を知れるってのが大事。どこの国のどの作家が面白いかは読んでみないとわからないよね、就活と同じやな。

本を読むと扉が開いていくんよね。そうするとその先に行ってみたいと思う。行ってつまらなかったら、知識の世界と経験が違うっていうのがわかる。失うものがないから、コスパ、タイパを超えた世界がそこから始まることはあるよね。

 

Q. 読書の活かし方について

  • 同じ本を数年後に再度読む

面白いのが、1回目には気づかなかったところに2回目面白いと思うところがある。なぜかっていうと僕が成長し変化してるから、本は変わっていない。

 

  • SNSでの書評公開

読んですぐ書くこと。できれば24時間以内に。稚拙でいいねん。自分が感じたことやもん。

【効果】

(書評が)他の人に読まれることで、共感を生む、反感を生む、そしたら仲間ができたりするっていうのが1点。

もう一つ。表現力が上がってゆく。

 

  • 本の舞台や作家に会いに行く

実際に現場に行ってみたりすると、またそこで人との出会いや景色との出会いがあったりしていくから面白いかなぁ。出かけてみないとわからないよね、それが読書の先にあるものかな。

 

 

【感想】

 面白さと学びのあるお話を聞くことができ、とても充実した2時間でした。本の中の自由な竜馬に憧れたお話や、「挑戦しなければ失敗もない」ことを学んだ本の著者に会いに行かれたお話から、本田先生のエネルギッシュさには、本の影響もあるように思いました。編集者時代のお話も興味深く、面白いことを伝えていく楽しさが、現在のお仕事と共通しているというお話がとくに印象的でした。

 ご紹介いただいた本はすべて、読んでいて立体になる本だそうです。そのような読書体験をしたことがないので、読んでみたいです。

 

(インタビュアー: 文学部4生 Kさん