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朝井 リョウ著 『学生時代にやらなくてもいい20のこと 』

文学部  3年生  Sさんからのおすすめ本です。

書名 : 学生時代にやらなくてもいい20のこと 
著者 : 朝井 リョウ著
出版社:文藝春秋
出版年:2012年

 この本は『桐島、部活やめるってよ』で有名な朝井リョウさんのエッセイである。大学で100キロ歩いたり、旅行に失敗したりする話をはじめ、作者の様々な大学生活が20に分けて語られている。

 読みどころは、つい笑ってしまう作者の体験である。私は、甲南大学のある授業で様々な感情の中で「おもしろい」を表現することは難しいと学んだ。嬉しいや悲しい感情はある程度共通するものの、「おもしろい」はそれぞれ人によって笑いのツボが違うからである。しかし、この本は個人的には笑う箇所が多かった。

 なぜ「おもしろい」を上手く表現していたか考えると、予想を裏切る展開が多いからだと思う。世間の人が一般に想像する展開を裏切るほどギャップが大きくなり笑いを生みだすと別の本に書かれていたことを思い出した。例えば、作者と美容師の会話である。自慢のシャンプーの効能を当ててほしいという美容師に対し、作者はしぶしぶ髪がつやつやになるとありきたりな回答をするが、美容師からは意外な答えが返ってくる。このように、作者のエッセイでは大抵の人が想像する展開を見事に裏切る箇所が散りばめられていたのだ。

 最近では、大学時代には○○をすべき、○○はやってよかったなど、読むことに意味を見出す本やネット記事が多くある。しかし、目的を持たずに一人の学生時代の日々をつづった本も固まりきった頭をほぐしてくれるのではないだろうか。タイトルには「学生時代にやらなくていい」とあったように、付箋を貼る箇所は1つも無かった。それでも意味や目的を考えず、自分の興味や気持ちを優先していた作者の体験を読むと無駄なことも大切だなと感じられた。北海道へ思いつきで旅行したり、東京から京都に自転車で移動したりする体験を読むとコロナ禍で遠出が厳しい中一緒に旅をし、思い出を分けてもらえた気分になった。

 エッセイは20の話に分かれており、短編なのですぐ読める。20の中から1つでもお気に入りの話を見つけて隙間時間や疲れた時に読んでもらいたい。

[藤棚ONLINE]図書館長・木成勇介先生(マネジメント創造学部)推薦『FACTFULNESS』『あなたを変える行動経済学』

図書館報『藤棚ONLINE』
図書館長・木成勇介先生(マネジメント創造学部) 推薦

 経済学と聞いて皆さんは何をイメージしますか?お金の儲け方?それとも景気の良し悪し?どちらも間違いではないのですが、経済学はもっと広い分野なのです。ヒトの性格やクセ、脳の活動やホルモンの影響まで、経済学の対象はホントにとても広いのです。

 では、図書館についてはどうでしょう?皆さんは何をイメージしますか?本を借りる場所?本を読む場所?静かな場所?どれも間違いではないのですが、甲南大学の図書館はもっと幅広い場所なのです。映画館のようにDVDを観る場所もあります(一度は体験してください)。友人と談笑する場所もあります(ホントは議論する場所だけど、議論がいつの間にか談笑に変わっていても気にしません)。待ち合わせ場所として雑誌を読みながら友達を待つのも、皆さんが企画したイベントを実施する場所としても大歓迎(むしろ一緒にやりませんか?)。

 私の専門である行動経済学では、ヒトは勝手な思い込みから正しい判断ができず、損をしてしまうことが知られています。経済学の話も図書館の話もその例なのかもしれません。思い込みにとらわれず、学生生活をもっと豊かにしようと考える、そんなあなたに以下の2冊をオススメします。

ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド(2019)「FACTFULNESS」日経BP

大竹文雄(2022)「あなたを変える行動経済学」東京書籍


【図書館事務室より】
 藤棚ONLINE2022年度第1号は、今年度新たに図書館長に就任されましたマネジメント創造学部教授・木成勇介先生よりおすすめ本をご紹介いただきました。甲南大学図書館にも所蔵がある本ですので、ぜひ読んでみてください!
 図書館は、この春ようやく電源増設工事を実施し、また書庫利用等のサービスの受付も1階に集約するなど、よりよい図書館サービスを目指して改革中です。Twitterやブログでも情報発信していきますのでご注目ください!
 学生の皆さんのご来館をお待ちしています。

[藤棚ONLINE]共通教育センター・吉川 歩 先生 問題解決法雑感&推薦『思考法図鑑』

図書館報『藤棚ONLINE』
共通教育センター・吉川 歩 先生 問題解決法雑感&推薦
『 思考法図鑑 : ひらめきを生む問題解決・アイデア発想のアプローチ60 』

 「問題を解決するために一番重要なことは何か」と聞かれた時のあなたの答えは?

 私ならば「まず,何が問題であるかを適切に見いだす」ことと答えます.実社会では,それこそ試験でもない限り,答が一意に定まった明確な問題が与えられていることは極めて稀です.また問題としてわかっていてもどう答えを見つければよいかわからなければ解決は困難になります.つまり解ける問題にブレークダウンすることが重要になります.実はこれらの部分が一番難しいようで,担当している「共通教育演習」という講義でも,受講者がプロジェクトのテーマ設定の段階で難渋しているのをよく目にします.なお私見ですが,問題解決でよく出てくる「PDCA」は「解ける形になった問題」をどう解決していくかの話で,解ける形になっていない問題に適用しても期待した結果が得られないことも多いです.

 さて話を戻しますが,「問題をいかに解決できる形にするか」のヒントを与えてくれる書籍の一つが「思考法図鑑」です.扱われている内容は,問題解決のための,いわゆる「発想支援」と「分析方法」の紹介になっています.見開き2ページで1テーマが図と例で紹介されており,その数は60種に及びます.自分の扱っている対象をどう切り崩していくか困った時の事典代わりに利用できます.ダウンロード可能な各方法のPowerPoint形式のテンプレートも用意されています.

 反面,実際に紹介されている方法を使う際には別途詳細に調べる必要があります.またキーワードから方法の当たりをつけるという用途からいえば,索引がないのは非常に残念なところです.なおこの書籍には紹介されていませんが,OODAやこの書籍が出版されてから提案された「か・き・く・け・こ」ループなどの方法もありますので,書籍中にしっくりくるものがないときはさらに探してみることをお勧めします.

【参考リンク】

・思考法図鑑 : ひらめきを生む問題解決・アイデア発想のアプローチ60 / アンド著. — 翔泳社, 2019.10.

・𠮷川 歩, 問題解決のための「か・き・く・け・こ」ループ, 知能と情報, 2020, 32 巻, 4 号, p. 797-800  https://doi.org/10.3156/jsoft.32.4_797

ヴァン・デル・ポスト「カラハリの失われた世界」

 L.ヴァン・デル・ポスト「カラハリの失われた世界」
(筑摩叢書170)筑摩書房 , 1982.6

南アフリカ出身のローレンス ヴァン・デル・ポストが、1955年に行ったアフリカの狩猟採集民”ブッシュマン”を探すための探検記。
初版は1958年にロンドンで出版され、ベストセラーになりました。

ノンフィクションですが、ヴァン・デル・ポストは小説家でもあるので、アフリカの大自然が抒情的に表現され、探検隊の人間関係のドラマも含めて読み応えがあります。
仲間をあつめ、武器や装備を整えて、ライオンやカバ、ワニなどの猛獣が住む土地に向かい、狩りをしながら神秘的な聖地を冒険する。
ライトノベル界隈では”異世界もの”が流行っていますが、リアル異世界には違った面白さがあります。

絶版本なので、図書館でどうぞ。

[藤棚ONLINE]法科大学院・宮川 聡 先生 推薦『戦中派不戦日記』

図書館報『藤棚ONLINE』
法科大学院・宮川 聡 先生 推薦
『 戦中派不戦日記-昭和20年 』

山田風太郎著
講談社文庫, 2002

 今回紹介したいのは,多くの作品(映画化もされた『魔界転生』や,NHKでドラマ化された『警視庁草子』に代表される明治時代を題材にした小説など)を残した山田風太郎の「戦中派不戦日記-昭和20年」です。最初に出版されたのは1971年ですが,文庫本になった1985年に初めて手に取った記憶があります(今では,電子ブック[KADOKAWA]で読むことができます)。

 これは,著者が書き残していた昭和20年1月1日より同年12月31日までの日記をほぼそのまま出版したものです。この日記は,東京医専(現在の東京医科大学)の学生であった著者が,将来出版されるとは夢にも思わない状態で,太平洋戦争の末期・敗戦直後の混乱期に考えていたこと,経験したことをそのまま記載したものであり,その当時の事情を知る上でも貴重な資料になっています(なお,これ以前の時期[昭和17年~19年]については,「戦中派虫けら日記 滅失への青春」というタイトルで出版されています。亡父が兵庫県養父郡で医師をしていた著者が,入試に失敗し一度はあきらめた医師になる夢を実現し,東京医専に入学するまでのさまざまな葛藤について記載されています)。

 時間の経過とともに戦況が不利になり,東京をはじめ多くの都市部が毎日のように米軍のB29による空襲を受けるようになった時期の普通の市民の生活の様子をうかがい知ることのできる記述もたくさんあります(空襲のために命からがら逃げ惑う様子も臨場感たっぷりに書かれています。いわゆる東京大空襲では,11万人以上がなくなり,300万人以上が被災したとされています。)。また,東京医専が信州地方へ疎開することになり,大学の授業を行うために必要な機材などを輸送するために梱包作業に学生が駆り出された様子や,疎開先での授業の内容などについても詳しく記載されており,現在の読者でも想像することができるのではないかと思います。さらに当時の大学生が敗戦をどのような気持ちで迎えることになったのかについても,詳細に記述されており,戦争を知らない日本人が国民の大多数を占めるようになった現在,改めて読み直してみる意味があるのではないでしょうか。

 なお,著者は,昭和21年から昭和27年までの日記も公刊(小学館文庫)しており,戦後の混乱から復興へと一歩を踏み出す時期の東京の様子についても貴重な情報を提供してくれています。

重松 清著 『きみの友だち 』

知能情報学部   4年生  団野 和貴さんからのおすすめ本です。

書名 :  きみの友だち
著者 : 重松 清著
出版社:新潮社
出版年:2005年

「友達100人出来るかな」春になるとよく耳にする童謡である.小さい頃に私も,友達がたくさん出来ることを願って口ずさんでいたように思う,本当に100人も作れるだろうか.100人も友達が必要だろうか.

この小説で言う「きみの友だち」とは,交通事故に遭い松葉杖生活を余儀なくされ,周りに当たり散らし孤立していった恵美,病気がちで入退院を繰り返していた大人しい由香.彼女達を取り巻くクラスメートの事である.

友達は100人必要か.離れていても心の中で一生忘れない友達が本当の友達,だという人は100人も必要ない.しかし,みんなを敵に回したくない,同化していたいと思う人は,友達が100人必要になってくる.どちらが正解という訳ではなく,どちらも正解と言えるだろう.

この本を読んで,「友だち」の定義,存在について,ぜひ考えてほしい.私は,「いなくても寂しく感じないのが友達」だと思う.私は,友だちとは,お互いに気心が知れていつも一緒にいるから,いないと寂しいものだと思っていた.しかし,それだと単に群がっているだけで,大切な時間を共有しているわけでもなく,それぞれがバラバラなのだと感じた.だから,友だちは100人も作る必要はないと感じる.