2-1. 学生オススメ」カテゴリーアーカイブ

国立がん研究センター研究所 編 『「がん」はなぜできるのか』

 

文学部  4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  「がん」はなぜできるのか
著者 :  国立がん研究センター研究所 編
出版社:講談社
出版年:2018年

日本人の二人に一人ががんになると言われており、死亡者の三人に一人にあたる37万人ががんで亡くなっています。男性だと四人に一人が、女性だと六人に一人が、がんで死亡するものと推計されています。高齢化に伴い、今後もがん患者が増えていくといわれています。
一生のうちにがんにならない人と、何度もがんになる人と分かれるようですが、がんは国民病だと言えるのではないでしょうか。

医療の発達、治療技術が発達したことにより、がん患者の生存率は60%を超えているようです。その一方でがん撲滅に向けて研究者たちが多くの時間をかけ努力をしているにも関わらず、いまだがんを根治する治療法は見つかっていないようです。しかしながら、最先端のゲノム医療の進展で、「がん根絶」のための手がかりが見えてきたようです。喜ばしいことですね。

この本の中で私が一番驚いたのは、がん細胞はおしゃべりをして、正常な細胞を騙すということです。本当にお喋りをしているのではないようですが、がん細胞は、攻撃されないように生き残るために、正常な細胞を騙すということを知らなかったので、大変興味深い記述でした。

このようにして、知らなかったことを知ることができる有益な本であり、がん研究に取り組んできた、国立がん研究センター研究所の研究者たちが、なぜがんができるのか、どのようなものなのかというメカニズムから、最先端のゲノム医療までをわかりやすく説明してくれている一冊で、勉強になりました。

 

伊坂 幸太郎 著 『ゴールデンスランバー』

 

経営学部 4年生  大堀 舞佳さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  ゴールデンスランバー
著者 :  伊坂 幸太郎
出版社:新潮社
出版年:2010年

 私は、伊坂幸太郎の単行本はほぼすべて読んでいる。伊坂作品を好きになり、読み進めていた時にこの作品と出会った。もちろん一気読み。ご馳走をお腹いっぱい食べたような気分で読後の余韻を味わったことを覚えている。 

 物語の構成は、大きく分けて「事件の始まり」「事件から二十年後」「事件」となっている。この事件というのが、金田首相暗殺事件である。首相の凱旋パレードが仙台で行われる(仙台を舞台にした伊坂作品が多いが、これは彼が仙台に住んでいるからであろう)。その最中にラジコン爆弾が爆発し、金田首相は暗殺される。この犯人として指名手配されるのが、主人公の青柳雅春である。彼はごく普通の宅配ドライバーだが、事件の2年前にあるアイドルを不審者から守ったというヒーロー的行動で時の人となった。その彼が国家から追われる身となるのである。

 なんと、この作品のほぼほぼが、青柳の逃走劇で構成されているのである。私は友人に「この本ってどんな話?」と聞かれるとたいてい「ざっくりいうと鬼ごっこ」と答えている。それほどまでに青柳と、彼を取り巻く登場人物の個性や伏線が面白い。青柳は2日間逃走し、みごと逃げおおせる。とはいえ、「事件から二十年後」の話では、青柳が真犯人だと考えている人は一人もいない。それもそのはず、彼は金田首相暗殺の犯人ではないからである。この作品の奇妙でどことなく皮肉に感じる点は、なぜ彼に矢面が立ったのかわからないままなことである。現実ではそういうことの方が多い。なぜ自分が被るのか納得できないことにも向き合わなくてはならない。小説などのフィクションにはそのような謎をきれいに解決し、納得するという楽しみ方ももちろんあるが、伊坂幸太郎さん曰く”物語の風呂敷は広げるけど、いかに畳まないまま楽しんでもらえるのか”に挑戦した作品であるとのこと。

 その逃走劇のスリル&伏線盛りだくさんの展開だが、助け舟として登場するのは青柳の元彼女、花火師、大学時代のサークルの後輩、青柳が助けた元アイドルなど、個性的なキャラクター達。シュールでテンポの良い会話に引き込まれた。私が一番「やられた」と思ったのは、青柳雅春の父母に送られた書初めである。この作品、主役堺雅人で映画化もされている。しかし映画の方ではこのシーンがない。映画を見た人も、本の味わいはしっかり楽しめるはずである。逆に映画では、タイトルでもあるビートルズの名曲、ゴールデンスランバーのBGMが流れるシーンがとても良い。

 ぴりっとした緊張感と、要所要所のにやりと笑えるユーモアが満載だ。ぜひ一気読みしてほしい。

京極 夏彦 著 『巷説百物語』

 

文学部 2年生  畑田 亜美さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  巷説百物語
著者 :  京極 夏彦
出版社:角川書店
出版年:1999年

 百物語とは、古来暗い夜に青い紙を貼った行燈に百筋の灯心をともして語る。1つ物語を終えるごとに灯心を1つずつ引き去っていくと、座中が次第に暗くなり、青い紙の色が様変わりして恐ろし気な雰囲気となる。それでもなお語り続けると必ず怪しい出来事が起こると言われている。有名な百物語小説の1つである本書はその特性を受け継ぎながら、謎解き的な素養も持ち合わせている。

 百物語ということもあり、本書も7つの話からなる。舞台は江戸時代末期、過去の出来事による怨恨を晴らすことを望む者が小悪党たちに解決を依頼する。主なメンバーは小股潜りの又市、山猫廻しのおぎん、考者の百介、事触の治平だ。彼らは様々な依頼を見事な手腕でこなしていく。内容は現代のように犯人を捕まえるわけではない。犯人の罪の意識を高め自滅させたり、うまく立ち回り同士討ちさせたりする。その場を用意するために彼らは情報を集め、犯人のもとに取り入る。彼らは犯人の近辺に紛れ込んで仕えていたり、客として紛れていたりする。一部のメンバーがそうであれば、他方は被害者の霊や化け狐を演じて見せる。

 私は特に種明かしの場面が好きだ。作者は誰がどのような役割を担当しているかを依頼が完了するまで教えてくれない。そもそも依頼内容も教えてくれない。そのため、誰がどんな役割を担っているのか、依頼内容は何なのかを考えながら読むのが面白い。普段推理小説を読むことはほとんどないので予想には慣れていない。そのためか予想が当たったことはない。反対に、普段推理小説を読む人でも、現代小説とは異なるので当てられないかもしれない。見えそうで見えない真実を探しながら読んでいくのはもちろん楽しい。しかし、流れに任せて読んでいくのもまた楽しいだろう。読む人によって楽しみ方を変えることのできる1冊である。

稲盛 和夫 著 『生き方』

経済学部  4年生 Sさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  生き方
著者 :  稲盛 和夫
出版社:サンマーク出版
出版年:2014年

人は生きているうえでどうしても他人に嫉妬してしまったり、己の利益を優先して行動してしまったりする。このようなことがなく心に余裕を持つにはどうすればよいのだろうか。

この本は京セラやKDDIを創設した稲盛和夫氏の考え方や心がけていることについて書かれた人生哲学の本である。仕事に対しての心の持ちようや困難に直面した時の考え方が、稲盛氏の実体験を通して書かれているので非常に説得力がある。

その中でも「同じような能力を持ち、同じ程度の努力をして、一方は成功するが、一方は失敗に終わる。この違いはどこから来るのか。―中略― 願望の大きさ、高さ、深さ、熱さの差からきているのです。」という言葉がとても印象に残った。確かに、私も就職活動を通してここで働きたいと強く思ったところとそうでないところでは結果が異なった。こうなりたい、そうでありたいと強く切望することでその願いをかなえるために自分自身の行動が変わってくる。能力だけではなく思いの強さも結果に影響するのだ。

また、稲盛氏は仕事への意欲がなくなった場合にどうすればよいのかも説いている。稲盛氏いわく、どんな仕事であってもそれに全力で打ち込んでやり遂げれば、大きな達成感と自信が生まれ、また次の目標へ挑戦する意欲が生まれてくる。そうなれば、どんな努力も苦にならなくなり、すばらしい成果を上げることができるそうだ。

この本はよく読んでみると当たり前のことではないかと感じることが多々ある。例えば、一生懸命働くことや感謝の心を忘れないことである。しかし、これらの当たり前を現代の人々は忘れているからこそ心に響き納得させられるのだろう。特に2020年は新型コロナウイルスの影響で例年と異なる部分が多く、リモートワークやオンライン授業、マスクの常時着用など変化に対応しなければならない1年であった。今までできていたことができなくなり、不満やストレスを感じる今だからこそ自分の考え方や生き方を見つめなおす良いきっかけになるのではないかと思う。

森本 千賀子著 『後悔しない社会人1年目の働き方』

経済学部  4年生 Sさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  後悔しない社会人1年目の働き方
著者 :   森本 千賀子
出版社:西東社
出版年:2014年

就職活動を終え、新社会人になることへの期待と不安が入り混じっている4年生は多いのではないだろうか。私はどちらかというと不安の方が大きい。

そんな中、リクルート人材センター(現社名:リクルートキャリア)で転職エージェントとして働き、1年目からトップの成績で走り続けている森本千賀子さんが、社会人1年目にどのように働けばよいのかを紹介している本に出合った。

この本には社会人1年目ならではの効果のある働き方が58個も紹介されている。それぞれが6つのパートに分かれており、絶対に心得ておきたい6か条、基本のスキル・知識の身につけ方、求められる人材になるための方法、人間関係の築き方、壁を乗り越える方法、心を強くする方法で構成されている。加えて、新社会人によくある悩みに森本さんが回答しているページがあったり、自分の強みは何かを診断できるページがあったりして、かしこまらずに空いた時間を利用して気軽に読むことができる。

この58個も紹介されている中で私が最も印象に残った事柄は、常に笑顔で元気よく素直でいることである。森本さん曰く、新社会人はみんな知識やスキルが無いためできないことが多いのは当たり前のことだそうだ。しかし、新社会人だからこそフレッシュさがあり、仕事が最初はうまくできなくても元気よく挨拶をしたり、上司が言ったことを素直に受け入れたりすると、この子をもっと伸ばしたいと思ってもらえるのだそうだ。

また、私が粋だなと思った心遣いが、一筆箋を常備してさりげなく感謝の気持ちを伝えるところである。森本さんは資料を渡すついでに一筆箋をクリップで留めたり、顧客先で相手が不在だった時にもメッセージを残したりするそうだ。現代はパソコンが普及し字を書く行為そのものが少なくなっていると感じるが、やはり手書きの文字は字のうまい下手に関係なく相手の誠意が伝わり記憶に残りやすい。ただ仕事をこなすだけではなく、相手への気配りが仕事をお互いに気持ちよく進めるために必要なのではないかと考えさせられた。

この本は、就職活動を終えた人だけでなく就職活動を始める前に読んでも、社会人になることへのイメージがわきやすくなる本だと思う。働くことに不安を感じている人にぜひ読んでもらいたい1冊だ。

ウィリアム・ギブスン著, 黒丸尚訳『ニューロマンサー』

法学部1年 和田颯太朗さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

 まず、作者のウィリアムギブスンは1948年にアメリカに生まれたSF作家である。幼少期に引っ越しを繰り返したことによりSF小説をよく読む内気な性格へと成長し、1984年にビブリオバトルで紹介したニューロマンサ―で小説家デビューする。作中でも日本が舞台となっているように日本への関心も深い。脳とコンピューターの融合や、サイバースペースという概念は彼が生み出したと言われている。彼の描くSFはサイバーパンクというジャンルに属するが、このサイバーパンクというジャンルも彼が生み出したジャンルである。
 第二に、ニューロマンサーが与えた影響については、後のサイバーパンクと名のつく作品すべてに影響を与えていると言ってもいい。「攻殻機動隊」や「マトリックス」などは特に影響を受けている。ニューロマンサーが与えた影響は作品だけではなく、現在開発されているVRなどのデザインのモデルになるなどテクノロジー自体への影響も大きい。影響とは言えないが、作中で登場しているものが既に実現しているものはいくつかある。高度な知能を持つAIや、体を一部機械にかえる義体化技術などニューロマンサーが出版された1984年には誰も想像していなかったようなことが次々と実現している。
 第三に、あらすじ及び世界観についてである。サイバネティックス技術が進歩した世界でと電脳ネットワークが地球を覆い尽くしており、宇宙でも月などのコロニーで生活している人間もいる。財閥とヤクザとよばれる多国籍企業が経済を管理している社会で、戦争も頻発していおり、社会は荒廃している。AIもかなり発達しており、人格を有するAIが存在し、AIが完璧な存在となり人間を超えないように管理するチューリング機関がある。あらすじについては非常に登場人物が多く、長くなってしまうのでかなり省略して説明する。まず、主人公のケイスはハッカーとして仕事をしていたが、とある失敗により、二度と電脳ネットワークに接続できない体にされてしまう。そこに謎のアーミテジという男に強引に仕事を依頼され、サイボーグのモリィと共にアーミテジからの仕事をこなしていく。しかし、実際はアーミテジという男は存在せず、人格を失った男をウインターミュートというAIが操っているだけである。仕事の目的も宇宙に居る高度なAIとウインターミュートが融合するためのもので、ケイスなどを雇っていた理由は先述したチューリング機関に捕まらないようにAIと融合するためであった。最後には融合を果たしたウインターミュートが遠い宇宙から「同族」の信号を受信し、宇宙に旅立つというシーンで終わる。
 ニューロマンサーの最も重要な部分はただテクノロジーが進化した世界を描いている訳ではないということである。世界は電脳ネットワークに覆われているが、この技術を使うことのできない人と使うことのできる人の格差は拡大し、経済は「財閥」「ヤクザ」とよばれる多国籍企業に管理されている。こういった問題は現実となり始めている。アメリカと中国の巨大企業が競争を繰り返し、インターネットを使える人と使えない人との差は拡大する一方である。進化するテクノロジーという点についても、人格を有するAIと人間をどう区別するのか、AIの進化をどこまで許すのかという問題がある。作中でもチューリング機関というAIの進化を管理する機関が存在するが現実でもそういった機関又は規則が設立されるのは時間の問題であると考える。作中ではほとんどの人間が脳とコンピューターを融合させているが、脳をコンピューターに置き換えたとき、意識はどこに有るのか、ロボットに人間の区別はどうつけるのか、生と死の境はどこに有るのかといった課題もある。実際に死後脳を取り出し、完全な脳のコピーをつくり新しい体とつなげ生き返らせるという研究が行われている。生き返った後意識は脳のコピーに宿るとされているが、それが本当に生前の自分であるのかといったことは実際にやってみなくてはわからない。こうした近い将来実現するであろう問題を考えることができるということが、ニューロマンサーを含むサイバーパンク作品の面白いところであると考える。