2-1. 学生オススメ」カテゴリーアーカイブ

紺野キリフキ 『ツクツク図書館』

  文学部 1年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

ダ・ヴィンチブックス<br> ツクツク図書館

書名:ツクツク図書館
著者:紺野キリフキ
出版社:メディアファクトリー
出版年:2008年

 学校の図書館で、なんとなく手に取って、初めて借りた本。とても私の好きなタイプの書き方、描き方、雰囲気で、物語の中に一気に引きこまれた。読んだ後も、しばらく引きこまれたままだった。ぜひともいろいろな人にオススメしたい一冊である。

 町のはずれにある「ツクツク図書館」。ある日、とても寒がりの着ぶくれた女が一人、「職員募集」の張り紙をみて、ツクツク図書館にやってくる。仕事内容は、なんと本を読むだけ。女は、雇われることになる。しかし、女は真面目に働かない。なにせ、この図書館には、つまらない本しかないのだ。ツクツク図書館には、「魅惑的な一文から始まる小説の部屋」や「子どもにはまだ早い部屋」など、様々な部屋がある。しかし、どの部屋にも、あるのはつまらない本ばかり。だが、あるとき、一緒に働いている戻し屋ちゃんから「伝説の本」の話を聞く。伝説の本を探そうと、夜の図書館に忍び込む二人だったが、そこで思わぬ事件を引き起こしてしまう。

 不思議な世界観のこの本。しかし、登場人物の姿をありありと思い浮かべることが出来る。現実的だけど、現実にはないような、だけど日常の一部を切り取ったような、そんなお話なのである。登場人物たちの雰囲気も独特で、とても魅力的だ。人だけでなく、猫もまた、重要なこのお話の一員なのだ。

 この本を読んで印象に残ったフレーズがある。「猫は言葉を覚える代わりに、記憶を失った。」というフレーズだ。着ぶくれた女に飼われている猫のギィは、前の飼い主が書いた本を読むために、辞書のことばを覚えた。だが、飼い主と別れてしまった理由や飼い主が好きだった「ニャア」という鳴き声も忘れてしまう。それでも、猫は本を読み続ける。いつか、飼い主が書いた本に出会うために。

 

 

有栖川有栖 『 幻坂 』

  文学部 1年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

幽books<br> 幻坂

書名:幻坂
著者:有栖川有栖
出版社:メディアファクトリー
出版年:2013年

 

 私が有栖川有栖さんの作品と出会ったきっかけは、ドラマ「火村英生の推理」を見たことだ。もともと推理小説が好きだった私と妹は、有栖川有栖さんの作品にどっぷりとはまっていく。ドラマは、キャストも良く、非常に楽しんでみることができた。見ていた人も多いだろう。ドラマを見ていた人にも、ぜひ一度原作を読んでみてほしい。まるでドラマを見ているかのように、本の中に引きこまれることだろう。

 ところで、この本は、実は火村英生シリーズではない。今回は、火村英生シリーズ以外の本の中で、私が好きな作品を紹介する。この本には、大阪にある坂にまつわるお話が収められている。ゾクッとするような怖いお話から、涙がこぼれてしまうほど感動するお話もある。もちろん、クスッと笑ってしまうようなお話も。

 私がこの本の中のお話で一番好きなお話は、「真言坂」だ。主人公がストーカー被害に困っているとき、相談に乗ってくれた男性。しかし、その男性はストーカーが主人公の女性の家にいたところに出くわしてしまう。男性がストーカーをとがめたところ、相手はナイフを取り出し、男性は刺されて、亡くなってしまう。だが、亡くなってからも、男性は女性を見守る。

 「真言坂」の主人公の女性は、翻訳の仕事をしており、「I’ll leave if you want」という言葉を訳すのに行き詰まる。男性が亡くなってしまってから、何年も後、結婚することになった主人公は、結婚相手と一緒に真言坂を訪れる。そこに男性が現れ、それが最後となった。男性は去るときに、穏やかにこう告げる。「俺、行くわな。」

 「真言坂」を読んで、私はこころが穏やかになった。このお話を読んだのは、私が受験生だったころだ。大学受験を控えていても、本を読むことはやめられなかった。だが、その時期にこの本と出会って、読んでよかったと思っている。

ダン・ブラウン 『ダ・ヴィンチ・コード 』

  文学部 1年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

ダ・ヴィンチ・コード〈上〉ダ・ヴィンチ・コード〈下〉

書名:ダ・ヴィンチ・コード 
著者:ダン・ブラウン
出版社:角川書店
出版年:2004年

 

 ルーブル美術館館長ジャック・ソニエールが死に際に残したメッセージから物語は始まっていく。大学教授であり、宗教・美術研究家のロバート・ラングドンは、フランス司法警察から、宗教象徴学者の立場から、事件に対するラングドンの見解を聞きたいと協力の要請を受ける。しかし、フランス司法警察は、ソニエールと会う約束をしていたラングドンを容疑者として疑っていた。そこに、ソニエールの孫である暗号解読捜査官ソフィー・ヌヴーが現れる。ソフィーは、ラングドンに、容疑者として疑われており、逮捕される可能性のある、危険な状況にあることを伝える。ソフィーはラングドンの協力を得るため、彼の脱出を手伝い、二人ともフランス司法警察に追われる立場となってしまう。ラングドンとソフィーは、ソニエールが残した暗号とその謎にまつわる様々な人物たちに翻弄されていく。

 私はもともと絵画に興味があったが、近代の絵画が興味の中心だったので、この本は、中世画、宗教画に興味を持つきっかけを与えてくれた。

 この本を私が読もうと思ったきっかけは、映画「ダ・ヴィンチ・コード」を見て、非常に面白いと思ったからだ。本を読んでみると、あることが分かった。映画と本では、少しずつ内容が違い、それぞれでしか楽しむことができない部分があるのだ。映画を見たことがある人も、ぜひ一度読んでいただきたい。きっと新しい発見があるだろう。

 この本を読んで、印象に残った言葉がある。「人は結局、何を守るか、何を信じるか」というソフィー・ヌヴーの言葉である。真相の全貌が明らかになり、最後の真実にたどり着く前のセリフ。とても大きく、大切な真実は、隠されているようで、実は身の回りにあふれている。表面を信じるか、中身を信じ、守るかは、自分次第である。そう感じさせられた言葉だ。

斎藤毅『微積分』

  経済学部 4年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:微積分
著者:斎藤 毅
出版社:東京大学出版会
出版年:2013年

 理系学部の一回生に読んでほしい微分・積分の本だ。原則として、すべての章末問題に略解がある。他の微積分の教科書と比べて、章末問題の解説は丁寧だ。解答への道程は、初学者が理解しやすい形で記されている。一回生の微分・積分の学習において、多くの学生は実数の連続性を理解できずにつまずいてしまう。実数の連続性という概念は、高等学校の数学における極限の定義をより厳密に定義したものである。この概念に対する理解を深めておくことは、後の微分・積分の学習に役立つものだ。ぜひ読んでほしい一冊である。
 経済学部の上級生及び意欲のある一回生にも読んでほしいものだ。微分・積分の専門書を社会科学系の学生に薦めることは、意外なことだと感じる人も多いだろう。経済学部では、一回生を対象とした入門レベルの講義において微分の概念を用いる。概念といっても、数学的に厳密な定義を与えるわけではない。機械的に計算することができれば、単位の修得には何ら支障がないのである。この計算が高い学習意欲を持つ学生の好奇心を削いでしまうことは論を待たない。彼らにとってみれば、それは簡単なことだからである。知的好奇心に富んだ学生は、経済学で用いる数学を深く学んで欲しい。経済学を専攻する学生は、決して数学者になりたいわけではない。ただ、理系学部の一回生レベルの数学を学ぶことは、経済学部の学生にとって有益である。
 この本を読むために準備すべきものがある。それは中学・高校レベルの数学に係るある程度の知識である。高校の理系コースを卒業した人は、スラスラ読むことができるだろう。高校の文系コースを卒業した人は、不足する知識をいくつか補うことが必要だ。根気強く取り組めば、読み進めることができる。躊躇せず、微分・積分の世界に飛び込んでほしい。大学へ入学する前、数学が不得手だった諸君の積極的なチャレンジを期待する。いわゆる「経済数学」に関心のある人は、ぜひこの本を読んでほしい。経済学部2回生終了時までに基礎的な微分・積分の知識を習得しておけば、上級科目の理解が容易になると考えられる。社会科学系の学生が数学を厳密に学ぶことは、論理を組み立てる有益な訓練になり得る。それは、あなたが他の学生と比べて有利な立場を得ることにつながるだろう。経済学の学習に数学の学習を上乗せすることにより、さまざまな場面において、多くの学生が優位な立場に立つことを期待する。

小塩隆士『公共経済学』

  経済学部 4年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:公共経済学
著者:小塩隆士
出版社:東洋経済新報社
出版年:2016年

 昨今、財政赤字に関する議論は各所において盛んである。我が国の財政事情を考えれば、自然なことだ。私たちの身近なところには、さまざまな情報が飛び交っている。信憑性の高いものもあれば、そうでないものもある。専門家の発言から論理の矛盾を見つけることは、一般の人々にとって至難の業だ。尤もらしいデータを目の当たりにした私たちは、それをなんとなく信じてしまう。多くの人にとっては、仕方のないことだろう。一般の人々の中で特に意欲のある人たちに読んでほしい一冊として、この本を推薦する。この本を読み終えた後、あなたは財政赤字に関する経済学的な理論を獲得したことに気付くだろう。これは、経済学部上級コースに向けたテキストであるから、経済学の知識を全く持たない読者は、それ相応の覚悟をもって臨むことが必要だ。経済学の門外漢である読者のために、いくつかの重要な経済学の理論を説明するページが設けられている。このページの解説は、非常に親切なものだった。読者の好奇心と学習意欲を維持するための素晴らしい解説である。経済学のテキストは、紙面の都合上記述内容を絞り込むことが多い。それゆえ、巷に出回るそれの大半は独習に不適である。一般の人々がそれに関する疑問を専門家に尋ねることは、極めて難しい。この本を読むとき、その点を心配する必要はない。読者が自力で理解できるように、この本は設計されている。興味を持って一度チャレンジしてほしいものだ。
 情報の非対称性を説明した第8章は、特に読んでほしいところである。医療保険と社会保険のあり方に関する記述は圧巻だ。比較的平易なグラフと数式を用いて、現行制度の概要並びにその課題について説明している。詳しい内容はぜひあなたの目で確かめて欲しい。著者の説明が明快であることに驚くだろう。学部中級レベルの経済学を理解した人は、難なく読み進めることができるはずだ。この本の記述を1行ずつていねいにかみ砕き、知識を自分のものにして欲しい。経済学の応用に関心のある人は、一読することを薦める。

湊かなえ『少女』

  文学部 4年生 水口正義さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:少女
著者:湊かなえ
出版社:双葉社
出版年:2012年

 「人が死ぬところを見てみたい。」これが、由紀の願いだった。異常なまでのその強い願望は、読者を驚愕させる。
 由紀はどこにでもいるような、普通の女子高生である。毎日真面目に学校に通い、勉強もよくできる。高校生といえば年代的に、身の回りに楽しいことがいくらでもあり、いつも何かに没頭しているようなイメージを抱く。しかし、彼女の生きる原動力となっているのは、誰かの死を見ること、ただそれだけである。
 一般の人の感覚からすれば、その原動力は誤ったものとして解されるが、由紀は人を殺そうとするわけでもなければ、だれかを操って殺させようとすることもない。死ぬところは見たい、でも直接手を下すようなことはしたくない。その葛藤がずっと続く。
 ある日、由紀の憎き人物が電車にはねられるが、彼女はその場に居合わせなかった。後でその事実を知った時、何を思っただろうか。ここでの心理描写は全く無い。不謹慎ではあるが、嫌いな人物がこの世から消えたなら、少なからず嬉しく思うだろう。しかし、由紀はこう思ったはずだ。「なんで私の前で死んでくれないの!」と。死ぬ人は誰でもよかったはずだが、この時ばかりは、殺したいぐらいの人が死んだのだから、それが見られず悔しくて仕方がなかったのではないだろうか。そんな狂気とも思える考えが、読み進めるうちに読者の頭の中に浮かぶようになる。
 ただし、この小説は由紀が人の死を見ることができるかどうか、に焦点化しているのではない。唯一無二の友人である敦子に助けられ、子供と触れ合い、自分が死にそうになった過去のトラウマとも闘いながら、人の死と対峙する様子が描かれているのである。途中までは、一人の若者の邪念のようなものがただ曝されているように感じられるかもしれないが、「人が死ぬところを見てみたい。」から始まる、ある女子高生の少し変わった夏休みの一遍である。