月別アーカイブ: 2020年8月

川口俊和著『コーヒーが冷めないうちに』

法学部1年 藤井 暖さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

 僕が選んだ「コーヒーが冷めないうちに」という本は、特定の場所でコーヒーを飲むと過去に戻ることができる不思議な喫茶店があり、それを知って過去に戻ろうとする人たちのそれぞれの物語が書かれた本です。
 しかしこの本で書かれている「過去に戻れる」という行為にはいくつかの複雑なルールがあります。
 ①過去に戻ってもこの喫茶店を訪れたことのない人とは会えない、②過去に戻って何をしても現在は変わらない、③過去に戻れる時間は淹れてもらったコーヒーが冷めるまでの間、④過去に戻ってもコーヒーを飲んだ自分の席からは動けない、というものです。
 正直、自分ならここまでして過去に戻るのは面倒だなと思ってしまいました。
 しかしこの作品に出てくる登場人物はこれらの複雑なルールがあるにも関わらず、それ以上に過去に戻りたいと強く願う人たちばかりです。
 そんな人たちがそれぞれ抱えている過去の後悔を取り戻そうとするドラマが見れ、とてもおもしろく感動できる本です。
 作者の川口俊和さんは1971年に大阪府茨木市で誕生しました。
 もともとは、小説家でなく劇団の脚本家兼演出家として活動していました。
 そこで、この小説が出版されるきっかけとなる舞台「コーヒーが冷めないうちに」を公演し第10回杉並演劇祭大賞を受賞しました。
 この舞台をたまたま見に来ていた編集者が感動し、是非小説にしたいという思いから小説の「コーヒーが冷めないうちに」の出版が実現しました。
 この作品が川口さんの小説デビュー作となり、その後2018年に映画化されるなどとても人気のある作品となりました。
 他の著書として「この嘘がばれないうちに」と「思い出が消えないうちに」という作品があります。
 この2作はタイトルからも想像がつく通り、「コーヒーが冷めないうちに」の続編として出版されました。
 しかし、これほど有名な小説を書き上げた川口さんですがなんとこの他に著書がありません。
 理由としては、本業が劇団の脚本家兼演出家であるので小説を書き上げる必要がないことだと思います。
 ですが副業としてここまで有名な小説を書いた川口さんは本当にすごいと思いますし、まだこれから新しい作品が生まれるかもしれないのでとても楽しみです。
 最後に、映画と原作では話が少し変わっているので原作を読んでから映画を見て比較をしてみてもおもしろいかもしれません。

参考:【映画】コーヒーが冷めないうちに / 川口俊和原作 ; 塚原あゆ子監督 ; 奥寺佐渡子脚本

太宰治著『人間失格』

法学部1年 久本小茄さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

 まずは太宰の生涯から見ていく。
 本名は津島修治で、14歳の時に貴族院議員である父が病没。人間失格の主人公である葉蔵も育ちが良いという設定であり、太宰と共通している。16歳の頃から小説やエッセイをクラスメートと作った同人雑誌に書き始めたた。20歳の秋ごろから急激に左翼運動に傾斜し、12月に最初の自殺未遂。「資産家の子」という自己の出身階級に悩み、下宿で睡眠薬による自殺を図った。彼は金持ちの家に生まれるも愛情には恵まれなかったのである。
 翌年、東京帝国大学(現・東京大学)に入学。かねてから尊敬していた井伏鱒二に上京後すぐ弟子入り。秋ごろ、深い関係にあった小山初代に地元有力者からの身請け話が持ち上がり、動揺した太宰は彼女を上京させる。名家の子が芸妓を呼び寄せたことは郷里で騒ぎになった。2人が同棲をはじめると、生家から長兄が上京し、「(初代が芸妓でも)結婚は認めるが本家からは除籍する」と言い渡される。これを受けて、太宰は実家から縁を切られたのである。
 一方、太宰は銀座のカフェの女給・田部シメ子と出会い、そのまま浅草見物など3日間を共に過ごした後、彼女とカルモチン心中を図る。田部は間もなく絶命、太宰は一命を取りとめた。事件後、太宰は自殺ほう助罪に問われたが起訴猶予となる。
 翌月、小山初代と仮祝言をあげた。22歳で大学にはほぼ行かず、反帝国主義学生同盟に加わる。翌年、左翼活動がばれてしまい長兄に激怒され、彼の左翼活動は終わった。
 26歳の時、授業料未納により大学を除籍され、都新聞社の入社試験にも落ち、3回目の自殺未遂を起こす。その直後、腹膜炎で入院し、鎮痛のため使用した麻酔剤をきっかけに薬物中毒になる。
 翌年、遺書のつもりで書いたという作品集「晩年」を刊行。同年秋、太宰の薬物依存があまりに深刻なため心配した井伏らは太宰に半ばだますような形で精神病病棟に入院させる。太宰は、「自分は人間とは思われていないのだ、自分は人間を失格してしまっているのだ」と深く傷つく。この体験は8年後、「人間失格」に結実する。
 退院後、妻初代は入院中の浮気を告白。ショックを受けた太宰は、28歳で、初代と自殺を図ったが未遂となり離婚する。その後、「女生徒」「富嶽百景」「斜陽」などを執筆し、反響を呼ぶ。1948年、過労と乱酒で結核が悪化。栄養剤を注射しつつ「人間失格」を執筆。
 6月13日深夜、山崎富栄(戦争未亡人)と身体を帯で結んで玉川上水に入水する。6日後に遺体が発見される。38歳没。しかし、この入水心中は女側の無理心中説や狂言心中のつもりだった説など様々な憶測を呼んだが、真実は藪の中である。
 太宰は感受性が強く人間不信で常に情緒不安定な性格であり、女性関係やお金にだらしない性格であった。彼は傷つきやすい性格であったので人一倍病みやすく、自暴自棄な面があったと思った。現代でもリストカットを繰り返し、薬物を過剰摂取して精神病院に入院する人は多々居るし、インターネットにおいてもそういった人をよく見かける。だから、「人間失格」は70年以上前の作品であるけれど、現代の若者でも理解しやすい作品だと思う。何度も自殺を試み、多数の女性を巻き込んだりと波乱万丈な人生を歩んだ彼だが、もし自分が太宰と全く同じ状況に置かれたら病んでしまう気持ちも分からなくはないと思った。
 ここまで調査してみて、太宰の人間関係はかなり複雑だったので、相関図の代わりに太宰の人間関係を数行でまとめてみようと思う。小山初代は最初の妻であり、太宰の入院中に他の男性と過ちを犯しその後離婚。石原美知子は2番目の妻で、太宰の師匠である井伏鱒二が「このままでは太宰がだめになる」と思い、彼の再婚相手を探し、紆余曲折ありながらも彼女と見合い結婚したのである。また、田部シメ子と心中未遂を起こし、愛人であった山崎富栄と心中を試み成功。太宰は女性関係が多く、太田静子という愛人もいた。
 この作品は一度読んでみると、特に繊細な心の持ち主でなくとも、共感できる作品だと思った。度重なる問題から自暴自棄になるということは私にも起こりうることなので、この作品のこういった面は私にも影響を与えたし、だれしもが影響を受けると思う。
 本作で描かれている良家の子が堕落していく様子は、陰鬱な雰囲気をまとっているが、だんだんと引き込まれいくものがあると思った。この陰鬱な雰囲気には、太宰の作風や人柄が反映されていると思うので、見所だと思う。堕落する過程がテンポよく描かれており、さらに太宰と人間失格の主人公の人生が酷似していることから、この作品を読むと太宰のおおまかな人生の流れや人柄を共感しながらすらすらと読み取り、つかむことができると思う。
 太宰の性格や人生から多くのことを学び取り、太宰の考えや行動と自分のそれにどんな共通点があるかをぜひ見出してほしい。

浜崎達也著『小説LIAR GAME The Final Stage』

法学部1年 長谷柊磨さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

(1)登場人物
・神崎直 神崎直は、友人からも「バカ正直のナオ」とあだ名されるほど人を信じやすい性格である。直は人を騙すくらいなら、人を信じて騙されてもいいと思っている究極のお人好しでもある。
・秋山深一 秋山深一は天才詐欺師で異様に頭が回り、観察力もある。また、秋山は詐欺師であるので疑い深い人間である。なので、人を簡単に信じる人間ではない。しかし、秋山は直とライアーゲームで勝ち進んでいき、少しずつ直の正直さを評価していき、最終的に直を信じることとなった。
・仙道アラタ
・福永ユウジ
・西田二郎
・坂巻マイ
・江藤光一
・武田ユキナ
・百瀬ノリカ
・久慈サトシ
・五十嵐衛
・ヨコヤノリヒコ

(2)ルール説明
 このゲームでは金・銀・の3つのリンゴを使い、どれか1つ選び投票箱にいれるというのが主なルール。投票箱は投票室の中にあり必ず1人はいらなくてはならない。投票室の中にあるレバーを引くとリンゴが出てくるので暖炉で暖めた焼印をリンゴについているネームプレートにつける。投票は13回繰り返され投票時間は1時間。制限時間内に投票室に入らなければペナルティとして1億円引かれる。どのリンゴを選んでもよいが少数派は1億円引かれ、多数派は1億円加算される。全員が同じリンゴを投票すれば全員1億円引かれる。ただし、赤リンゴを全員が揃えれば全員1億円獲得できる。赤リンゴが揃わなければ赤を入れた者にマイナス1億円、金・銀に入れた者はプラス1億円となる。負債が5億円を超えれば脱落者となる。また、赤を入れた者が1人の場合、その者に特別ペナルティマイナス10億円となる。

(3)あらすじ
 この作品は神崎直の家にファイナルステージの招待状が届くところから始まる。神崎直はセミファイナルで棄権したのだが、ファイナルステージでは秋山が出場し、かつ人を信じることがカギとなると言われる。それを聞いた直は出場することを決意する。直は秋山を放っておけず「エデンの園ゲーム」に加わる。11人のプレイヤーが集まったことでゲームディーラーから受け、50億円を賭けた騙し合いのゲームが始まる。
 当然のように直は赤を揃えることをプレイヤーたちに説得し皆賛成するが、結果はほとんど金・銀であった。その後直はチームを組むが、すでに坂巻もチームが多数派となっており少数派の直チームは勝ち目がないように見えた。しかし、秋山は少数派でも勝てる言い、坂巻チームに「俺には投票が見えている」と動揺させる。その後坂巻チームから裏切り者が現れ、1度チーム戦の戦いは終わる。
 また赤を揃えようとするも裏切り者が2人現れ、秋山は直から借りたリップクリームを使って裏切り者を暴く。裏切り者の1人が西田ということが分かったが、もう1人が分からないのでその1人を「X」とした。
 赤リンゴを揃えるため、直が皆の焼印を集め代表して投票するが結果は金1・赤10であった。直も他のプレイヤーも混乱する中、秋山は謎を解く。投票室に前もって隠しておいた金リンゴを直が投票する前に投票するというものだった。1人が一気に投票しても仕方ないことを知り、それぞれ投票する形に戻る。
 赤リンゴを投票したと宣言した武田都ともに直は赤リンゴを投票するが、投票後騙されていたことを知り10億円の負債を抱え脱落となる直を、秋山がかばいゲームから退く。最後に直の耳元に囁き会場を退出した。
 秋山はある部屋に案内されヨコヤという人物に会う。ヨコヤは秋山の負債を負担する代わりに賞金の50億円をもらうというものだった。秋山は要求をのみゲームに復活する。
 武田は皆の前で自分が「X」であると主張したが、秋山から助言されていた武田が「X」でないことを証明し、所持金の多かった武田は「X」に嵌められマイナス10億円となってしまう。だが直が武田に寄り添いお互い信頼し合うようになる。
 秋山は投票室に入り金リンゴを全て燃やし、選択しを銀・赤のみにした。赤を揃えるよう土下座までして皆を説得するが赤は揃わず、秋山が裏切り行為を働き、直は皆を説得しようと必死になる。しかし、これは秋山の作戦であり、金リンゴを燃やしたふりをして直の鞄に隠し「X」以外のプレイヤーに金リンゴを配り金を投票してもらった。秋山は「X」が誰なのかわかっていたのでそのプレイヤーには金リンゴを配らず、「X」は銀リンゴを投票し、「X」は1億円引かれた。そして「X」は仙道であるということが明るみになった。
 仙道は焦り出し、金リンゴがもうないこと知った瞬間投票室に飛び込み銀リンゴを手に取り投票した。他のプレイヤーは銀リンゴを入れるしかなくなったと思われたが、結果は銀10・赤1という結果だった。仙道が赤リンゴを投票したことになっていた。これも秋山の作戦で、赤リンゴは燃やすと樹脂が溶け銀リンゴで作られていた。その偽銀リンゴを秋山は銀リンゴのレーンに紛れさせ、仙道は自発的にそれを投票した。さらに、投票は色で識別されておらずリンゴの中にICチップが埋め込まれていた。結果的に仙道は秋山に騙されており2億円の負債を抱えた。
 ラストは全員で赤を揃えるという意見が固まる中、直は仙道に銀リンゴを投票して負債を帳消しするように勧める。そうすると直が負債を抱えるが直はそれでもいいと言った。だが仙道はそこで直を信頼し赤を投票した。全員が信じあったことで赤が揃ったのっである。
 最終的に秋山が勝者となり、賞金はヨコヤに渡しゲームは終了した。

(4)作者について
 甲斐谷忍さんは鹿児島県出身で鹿児島大学工学部を卒業。卒業後はサラリーマンに就職し、富山県高岡市に配属されていた時にヤングマガジン月例賞に投稿し、初投稿作が佳作受賞をした。そして、1994年に「週刊少年ジャンプ」で開始した「翠山ポリスギャング」で連載デビューをした。甲斐谷さんは大の競馬好きで、ライアーゲームの登場人物の名前は、実在の競馬関係者に由来するものがおおくいる。また「LIAR GAME」を作成する際に、甲斐谷さんは大学で電子工学を専門としており、大学時代はパソコンゲームのプログラム作りにはまっていたため、「LIAR GAME」のゲームを作るのが得意であった。また、甲斐谷さんは集中連載をあまりしない漫画家であったが、読者からたくさんの好評を受け集中連載をすることとなった。

(5)感想
 秋山の策略の巧妙さにおいてはかなり関心した。1つ1つ策略が明かされる毎に過去の小さな行動が最終的に結果に結びつくところは非常に面白味を感じた。仮にどういうことか分からなくなっても後から過去の場面の回想シーンが分かりやすく説明されているので、過程と結果が結びつきやすいのでとても読みやすいと感じた。次に、嘘まみれのゲームで正直者の直が秋山と共に必死でゲームを展開していくところは、すごくカッコイイと感じた。自分が騙されていく中で徐々に成長していき、今度は直が相手プレイヤーを騙すというのは読んでいてなんだか心地が良く、最後には全員を信じるという結果に私は直の魅力にかなりひかれていった。
 キャラクターの個性も様々なのでプレイヤーを騙してあざむす場面や悔しがって怒り狂う場面も人間の本性が表れており、これらの点も重要な見どころであると思った。
 最後に、嘘をつき相手の心理を揺さぶりのし上がっていく点がこの作品の醍醐味となっている。私はこの作品で新たな発見をたくさん得た。どう相手を騙し、どう勝ち進んでいくのかを自分で考えてみながらこの作品を読むと、より一層面白味が増すと私は思う。また、自分が考え本の内容と照らし合わせることで「そういう発想もあるのか」などを感じ取ることができ、柔軟な思考力や物事を様々な視点から捉えるという日常生活において重要な能力も得ることができるのではないかと私は感じた。

星野源著『いのちの車窓から』

法学部1年 新美拓人さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

 星野源をテレビなどで見たことのある人は明るい・陽気な人物な印象を持っていると思う。しかし、彼は過去には壮絶な人生を送ってきた。
 まず、芸能人としての活動を始める前の少年時代だ。とあることがきっかけで学校でいじめられるようになった。そこからパニック障害になり、安定剤を飲むほどだった。彼が高校生のとき、不安神経症になってしまい、学校に行けず、家から出られなくなった。この後に、クレイジーキャッツの『だまって俺についてこい』という一曲に出会い立ち直っていき、芸能活動を始める。
 しかし、彼は再び壮絶な経験をする。俳優・音楽家としても成功し始めたとき、彼は「くも膜下出血」という病気になった。重篤な状態だったが、手術は成功した。しかしその後が苦痛だったという。食べ物はもちろん水も飲めず、ずっと頭痛が続く。

「今すぐにでもベッドの頭上にある窓から飛び降りたい。早く死んでしまいたい。こんな拷問のような痛みはもうたくさんだ」

 彼はこの時の苦しみをこのように語っている。この時の経験が「地獄でなぜ悪い」という歌になっている。
 無事に退院した後、容体が悪化してきたため、再入院する。ついに完治した彼は、「SUN」・「恋」という大ヒット曲を生み出していった。
 このような経験をしてきた彼だからこそ、人間関係についての考え方などに共感が出来るのだと思う。私の紹介した「いのちの車窓から」にもそれが書かれている箇所がある。人見知りについて書かれているのだが、自分が人見知りだからかもしれないが、考えさせられる部分があった。

相手に「人見知り」というのは「自分はコミュニケーションを取る努力をしない人なので気を使ってください」と言っているようなものだ

 このフレーズがとても自分の中に残っている。「周りの目を気にして嫌われないようにする必要はない」というこの文章は、彼が言うと説得力があるのだ。
 文章だけでなく歌にも同じようなものがあると思う。私は彼の楽曲を全て聞いたわけではないが、自分が聞いたものだけでも励まされる歌が多くある。彼のメジャーな歌ももちろん元気が出るいい歌なのは間違いないが、個人的には昔の歌が一番励まされている気がする。例えば「日常」という歌である。バイトの帰りに聞いていると、「明日も頑張るか」みたいな気になれる。雰囲気は悲しい感じなのだが、「とりあえず頑張れ」と言われている感じがするのだ。
 また、この本以外にも彼は本を執筆している。
 「そして生活は続く」は、彼の初めて書いた本であり、この本もまた日常が書かれている。しかし、いのちの車窓がブレイクした後に書かれているのに対し、この本はブレイク前に書かれているため、また違うものになっている。
 「よみがえる変態」はくも膜下出血から復活するまでの3年間が書かれている本である。
 ここに挙がっている本全てにいえることなのだが、面白い・くだらないことを言っている部分と考えさせられる部分がある。これが自分が読みやすいと感じた理由だと思う。今紹介したような話の部分と彼がゲームをしているだけの一夜のような話が適度な間隔で書かれている。
 メリハリがあるため読んでいても苦痛ではなく、印象に残りやすい。「人見知り」の話が印象に残っているのもこれが理由だと思う。また、文章も難しく書かれておらず、理解しやすい。
 最後にこの本の一文を引用して終わりたいと思う。この文は彼の人生そのものを表しているようにも感じる。

「いのちの車窓は、様々な方向にある。現実は一つだけれど、どの窓から世界を見るのかで命の行き先は変わっていくだろう。」

せきしろ著『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』

法学部1年 長井大和さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

 ラジオ職人について説明するとラジオ番組で募集されたお題に対してリスナーがハガキに自分の考えを書きそれを投稿する人たちのことです。
 まずラジオそのものの情報を確認していきたいと思います。私が持つラジオの歴史で最も古いイメージは昭和天皇による玉音放送だと思います。実際にラジオが日本に渡ったのは1925年のことで、1923年に発生した関東大震災で情報伝達のメディアとして必要性が認識されたからです。こう考えてみるとラジオというものは現在生きている日本人全員がラジオに触れる機会があったと言えます。しかし人々は時代が進むにつれてより多くの情報をより簡単に収集することができるテレビや携帯電話に頼るようになっていきました。そうするとラジオは日常生活に必要不可欠なものではなく、一種の娯楽という面が大きくなったと考えられます。ニュースを聞くため経済状況を知るためなどではなく、音楽を聴いたり面白い話を聞いたりしたいという思いが強くなりその延長でラジオ投稿が流行ったと私は考えるます。
 ラジオはメディアの一つとしてはどのような存在なのか?これを調べるために私は実際にラジオを聞いてみました。ラジオを聞いて一番感じたことはラジオの面白さは聞き手の知識によるものが大きいということです。このことはラジオを聴くには多少頭を使わなければならないということです。例えばパーソナリティが何かを話すとそれを頭でイメージしなければならないというわけではないけれどイメージしたほうが面白いと感じます。このことはラジオではどのような情報に対しても自分の感情考えなど私情が入ってしまうということを意味しています。これは正確な情報を伝えなければいけないという面ではメディアとしてはふさわしくないと考えられます。しかし読書などと同じで娯楽としてみれば何ら問題はないと考えられます。そうした背景が影響し情報収集のためのメディアではなくハガキ投稿を行う娯楽としての面が大きくなったと思いました。
 ハガキ投稿が流行った原因としてラジオ出演者との距離が近いということが挙げられると思います。これは現代でもTwitterなどで有名人と交流できることが人気なように当時はテレビよりもより距離が近かったのでラジオは人気があったと考えます。
 またラジオを聞くことは人間が成長していくうえでメリットデメリットを持っていると思います。メリットは文章の理解力が上がるということです。また自由で面白い発想もできるようになると思います。理由はラジオを聞くには音声だけなので頭を使う必要があるので文章の理解力が上がると思い、ハガキ投稿などを行うことでお題に対する答えを探すことが発想力を鍛えると思うからです。デメリットとしては音声だけの情報ということで視覚から得る情報を得ることができないので完璧な情報を得ることができないという点です。
 ではこのように直接対面方式ではなく何かメディアを一つ挟んだうえで交流していくことの意義や価値について考えてみると、情報の一部が欠けた状態でコミュニケーションをとることでその人の本当の姿を知ることができないと考えられます。実際に私たちが現在行っているオンライン上の授業でも同じことが感じられると思いますメリットとしてはより多くの人と交流することができるということです。   
 以上のことをまとめると、ラジオは時代と共に情報源から娯楽の一部へと変化していきそれがさらに進化した姿が現在のインタネット社会を作り上げたと考えられます。またそれらの社会にはメリットデメリットが存在するが、それらとは上手に共存していくことが必要であると思う。
 またこの本の著者はこの本に出て来る主人公なのだが、この本を書いた理由は単にラジオを知ってほしいという考であると書かれていました。
 ラジオが現代にまた私たちに与えてくれるこは、娯楽としての楽しさと端的に発信される正確な情報だと思います。

東野圭吾著『ラプラスの魔女』

法学部1年 中田朱音さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

 「ラプラスの魔女」は竹尾徹という元警察官の男性が、ある条件付きで羽原円華という十代後半の少女を護衛するように依頼される、というシーンから始まる。その条件とは、彼女について興味を持つことや、質問することは許されない、というものであった。しかし、徹は円華を護衛していく内に、円華が不思議な力を持っているのではないか、と考え始めるようになる。
 具体的には誰もが飛ばすことに失敗した紙飛行機を完璧に飛ばす事が出来たり、川に落ちた帽子の流れを完璧に予知する事が出来たり、天気を数分刻みで予知する事が出来たり、自然現象を見事に言い当てるなど、とても普通の人間には出来ないような事だった。
 そして、世間では遠く離れた2つの温泉地で、硫化水素中毒による死亡事故が発生する。警察の依頼により、地球化学の研究者である青江修介がどちらの事故も調査するが、それぞれ捜査上に怪しいと思われる人物はいても、それらの事故は、「天候上のいくつもの偶然が高確率で重なって発生した不幸な事故」としか言いようがないものであった。
 そして青江は双方の事故現場で羽原円華を目撃したため、円華に声をかけ、そこで彼女はとある人を探しているということを知る。ここで青江と出会った円華は護衛を振り切っているため、青江の元には円華の行方を追う彼女の側近たちが近づいてくる。
 青江は不思議な力を持っている彼女と彼女が探している人物が、今回の硫化水素事故に何かしらの関わりがあるのではないかと考え、調べようと彼女に関わろうとしていく。円華にこれ以上は近くな、と忠告されたものの、円華や彼女の周辺の人物、さらには円華が探している人物についての様々な調査を進めていくうちに青江は最終的にその重大な秘密を知ってしまう。
 彼女らが抱えている秘密とはどんなものなのか、今回の硫化水素事故はどのようにして起きたのか。私個人の感想としては、初めは物語の複雑に混乱してしまったが、読めば読むほどその後の展開が気になり、一気に読みたくなる作品だと感じた。また、「硫化水素」や「未来予知」がテーマとなっている本書であるが、化学が苦手であった私でも問題なく読み進めることが出来た。衝撃の結末が待っているので、様々な人に是非読んでみてほしいと思う。

参考:【映画】ラプラスの魔女 / 三池崇史監督 ; 八津弘幸脚本 ; 東野圭吾原作