2.おすすめの本」カテゴリーアーカイブ

小出武先生(知能情報学部)「プログラマのための論理パズル ―難題を突破する論理思考トレーニング―」

☆新入生向けの図書案内

著者: Dennis E. Shasha 吉平健治(訳)
タイトル: プログラマのための論理パズル : 難題を突破する論理思考トレーニング
出版者: オーム社
出版年: 2009
配置場所: 図書館 1階特設
請求記号: 007.64//2240

 公務員試験には、「数的推理/判断推理」という分野があります。この本はプログラミング能力を伸ばしたい人だけでなく、公務員を目指す人にもお勧めです。難問も含まれていますが、楽しみながら論理思考力を鍛えることができます。
 最初の問題を(表現を変えて)紹介します。「兄弟で同じ2つのケーキを分けるゲームを考える。兄は2つのケーキに一度ずつナイフを入れ、それぞれ2つの部分に分ける。弟は切り分けられたケーキの好きな方を選ぶことができるが、選択権があるのは2つのケーキのうちの1つのみである。ゲームの流れは以下のようになる。まず兄は1つ目のケーキを好きなように切り分ける。それを見て、弟は好きな方を選ぶか、選ばないかを選択する。選んだ場合は、2個目のケーキを切り分けた後で好きな方を選ぶのは兄になる。選ばない場合は、2個目のケーキを切り分けた後で好きな方を選ぶのは弟になる。さて、兄弟のどちらもできるだけ多くケーキを食べたいとすると、兄はどのように切ればより多くのケーキが食べられるだろうか?」
 もし兄が1つ目のケーキを半分ずつに切った場合、弟はどちらを選んでも半分ですので、ここでは選択権は行使しません。弟は2つ目のケーキで大きい方を選びます。それが分かっているので、兄は自分が多く取るために、2つ目のケーキも半分に切ります。したがって、兄が1つ目のケーキを半分に切ったときには、兄弟ともに合計1個ずつ取ることになります。もし兄が1つ目のケーキを限りなく小さなかけらと残りのほとんどに分けた場合はどうでしょう?その場合、弟は1個目で選択権を行使して、ほぼ1個の大きい方を選ぶでしょう。2個目の選択権は兄にあるので、兄はまた同じ切り方をして、ほぼ1個を獲得できます。この結果も兄弟共に合計1個ずつ食べることになります。では兄はどう切ればたくさん取れるでしょうか?
 この問題の答えは、「兄は1個目のケーキを1:3になるように分ける」です。実はこの問題は「ウォームアップ問題」で、本にはこの問題の発展版が本来の問題として載っています。みなさんもぜひこの本を読んで、論理思考トレーニングを楽しんで下さい。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.30 2013) より

水澤克子先生(スポーツ・健康科学教育研究センター)本を読もう。美しい文章を読もう。

☆新入生向けの図書案内 
 ネットや多くのメディアツールで配信される情報はその場限りのものである。テレビやラジオのニュースであれば、余計な修飾語は必要なく、簡潔でなくてはならない。ネットで配信される文章は、表現がおかしかったりクレームがつけば、すぐに削除されたり、書き直されてしまう。
 ところが、書籍として残る小説や論文はそういうわけにはいかない。いったん、世に出てしまえば、簡単には書き直せない。
 主語、述語、形容詞句、多くの要素で意味のある文が作られる。そして、全体としての形を成すためには一つ一つの文の組み合わせ方が重要になってくる。一文が美しくても、それが組み合わさった時に、全体として意味をなさねば、せっかくの美しい一文が台無しになる。
 書籍として世に出る文章というのは、世に出るまでに著者や編集者がその文章を何度も推敲しているものなのである。だからこそ多くの人がその本を読んで内容がわかるし、広まっていくものであろう。ある書籍が長きにわたって読み継がれている、多くの人に読んでもらえているということは、その書籍の内容ももちろんであるが、文章が読みやすく、美しいということでもあると思う。そのような文章を読むことは、自分が使う言葉や文章も美しく、読みやすくなるということにつながるだろう。
 美しい言葉、その場にふさわしい言葉を使えるようになるためにも、多くの本を読んでほしいと思う。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.30 2013) より

池田公司先生(経営学部)「『失敗の本質』に学ぶ経営学」

☆新入生向けの図書案内

著者: 戸部良一 ほか
タイトル: 失敗の本質 : 日本軍の組織論的研究
出版者: ダイヤモンド社
出版年: 1984
配置場所: 図書館 1階特設
請求記号: 391.3/Sh79

著者: 野中郁次郎 ほか
タイトル: 失敗の本質 : 戦場のリーダーシップ篇
出版者: ダイヤモンド社
出版年: 2012
配置場所: 図書館 1階特設
請求記号: 391.3//2010

 野中郁次郎教授(一橋大学名誉教授)は、わが国を代表する経営学者の一人であり、欧米や世界各国でIkujiroNonaka の名は広く知られている。野中教授が、竹内弘高教授(一橋大学名誉教授、ハーバード・ビジネス・スクール教授)との共著で出版した『知識創造企業』(TheKnowledge-Creating Company )は、「暗黙知」と「形式知」の相互作用によるダイナミックな知識創造プロセスを明らかにしたことから、新しい経営学の理論として国際的に高く評価されている。英語版(Oxford University Press)が1995 年に出版され、全米出版家協会の「ベストブック・オブ・ザ・イヤー」が授与されている。同書の日本語版(東洋経済新報社)は1996 年に出版されている。
 野中教授の著書としては、この『知識創造企業』が代表的であるが、2011 年に起こった福島第一原発の事故をうけて、同教授が30 年ほど前に執筆した古典的名著『失敗の本質:日本軍の組織論的研究』(ダイヤモンド社、1984 年)が再び熱い注目を集めている。ここで、読者の多くは、書名の中の「日本軍の」という文言に戸惑うかもしれない。著書を英語で書くような国際派の経営学者が、なぜ第2次世界大戦における旧陸海軍の失敗を研究しているのか疑問に感じるであろう。
 組織論の立場からみると、旧陸海軍の失敗には学ぶべき点が多い。野中教授は、こうした観点から戦況を左右した旧陸海軍の主要な六つの作戦を取り上げ、組織の抱える問題点を抽出し、その分析と解釈によって行政機関や企業など現代の組織にも当てはまる教訓を導いている。
 野中教授は、福島原発事故独立検証委員会のメンバーを務めた経験から、2012 年7 月に続篇、すなわち『失敗の本質:戦場のリーダーシップ篇』(ダイヤモンド社)を公表している。1984年に公表された『失敗の本質:日本軍の組織論的研究』と合わせて読むことをお勧めしたい。なお、1984 年の『失敗の本質』は、中公文庫から廉価な文庫本としても出版されている。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.30 2013) より

益澤彩先生(法学部)『君たちはどう生きるか』

☆新入生向けの図書案内

著者: 吉野源三郎
タイトル: 君たちはどう生きるか
出版者: 岩波書店
出版年: 1982
配置場所: 図書館 1階特設
請求記号: S081.6/青158/5

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。今回、入学したばかりの皆さんに、次の一冊を提示してみたいと思います。
  吉野源三郎『君たちはどう生きるか』
  (岩波書店、1982年(岩波文庫・青158-1)) 
本書は、1937年に新潮社から『日本少国民文庫』第5巻として出版された同名の本を底本としたもので、さらに、丸山真男による「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」(初出・世界1981年8月号)やその追記も収録しています。そして、今でも、幅広い年齢層の人々に読まれています。
 この『君たちはどう生きるか』の問いかけるものは、その題名の示すとおり。もし、今、少しでも関心を持たれたら、さっそく一読されたらよいのではと思います。
 長いようで短いといわれている大学生活です。そのような中で皆さんがなるべく多くの本に出会うことができるよう、心より願っています。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.30 2013) より

岡田元浩先生(経済学部)「大学時代の読書」

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 私は今でこそ経済学部の教員であるが、大学学部時代は文学部生だった。読書好きだが、他にさしたる取得も関心も無かった私は、大学生でなければできないことをやっておこうと考え、手当り次第に本を読んだ。文芸批評家の小林秀雄が学生時代に10冊以上もの本を同時に読んでいたとの話に刺戟され、自分もこれを実践してみようと思ったのだ。まず起床したら朝食前に1冊、食後の通学前に1冊、通学途中の電車内で1冊、講義時間の合間に2~3冊、帰宅途中の電車内で1冊、夕食前に1冊、夕食後・就寝前に2~3冊といった具合に。ジャンルも、カントやヘーゲルの哲学書のドイツ語原典から、まったくの専門外でちんぷんかんぷんの理工学書、さらにはここで言えない怪しげな本に至るまで、さまざま。読み方もいろいろ。川端康成の『伊豆の踊子』や太宰治の『ヴィヨンの妻』などの小説は、筆致の美しさに魅了され、全文を写本したほどだが、数百ページに及ぶ書物を1時間程度で飛ばし読みしたこともある。
 かれこれ30 年前にもなるこうした経験を振り返ってみて、その後の自分にどう役立ったのか、正直よくわからない。多様な分野の本を読んだが、お世辞にも今の私は幅広い知識・教養の持ち主だとはいえない。当時読んだ数多の書物の内容も、そのほとんどが記憶から失われてしまった。ただ、日々の雑事に追われ、読書の大半がビジネスとしての自己の研究上のものに限定されてしまった現在、30年前の読書体験は、やはり当時想い抱いたように「暇な(unoccupied)」大学時代でなければできないことだった。そして、バイトや就活に翻弄され、大学生にとって最大の、そして不可欠な特権であるべき「閑」(周知のように、ギリシャ語によれば scholar とは「閑人」のことである)さえも奪われている昨今の大学生を見るにつけ、自分は佳き時代と境遇の下に生まれ育ったと感じずにいられないのである。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.30 2013) より

中島俊郎先生(文学部)「乱読のすすめ」

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 読書には読者の数だけ読み方があるでしょう。それでも誤解を恐れずにいえば、読書の要諦は乱読につきると思います。乱読とは好きなものを、脈絡なく手当たり次第に読むことです。日常生活が細分化され、学問の専門化がいきとどいている現代こそ、ひとつの全体像を把握するためには乱読という読書法が必要なのです。全体の見通しなくして、個は何も見えてきませんから。
 乱読の強みは読む主体である読み手が中心にいることです。学問、研究の専門化が陥りやすい弊害は、ひとり言に終始して、やがてくり言に堕していく危険をはらんでいます。つまり、精神の自由が硬直してしまうのです。精神を活性化させるためにはつねに対話を交わす精神の開放を忘れてはなりません。
 読書という、読者と作者の対話の場で相互に作用し合うことなくして、知の新しい地平が拓けるはずがありません。読者とは、作者から何かを教えてもらう受け身ではなく、自ら意味をつむぎ出していく主体なのです。そもそも読書は作者と読者が意味を織りなす共同作業なのですから。
 乱読は統一性、一貫性に欠けて自己中心的で閉鎖的な世界にこもりがちであるという批判をよく受けます。たしかにそうした欠点があるでしょう。だが、そうした短所をうわまわる長所が乱読にはあります。さらに自己の好みに応じて気の向くものだけを猟歩していくから断片的なものしか身につかないととがめられますが、こうした断片で終わる知識の集積はあなどれないものがあります。断片など耳学問に過ぎないと否定されてしまいますが、耳学問は意外と頭を活性化させるのです。知らないことを聞いた時に覚える新鮮な驚きを思い出して下さい。耳学問は頭脳内で連鎖作用を起こします。この連鎖作用によって自分が追究している全体像が徐々に結晶していくのです。
 読書とは元来、自分のなかに未知を読み込む営為なのですから、自己本位で読みすすむしかない。だから未知を読むのは自己を読み込むことと同意なのです。乱読が創造的読書になるゆえんです。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.30 2013) より