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【第10回 甲南大学書評対決】 ハン・ガン著 『すべての、白いものたちの』

4月23日(水)に開催された第10回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

経営学部教授 西村 順二 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名:すべての、白いものたちの
著者: ハン・ガン
出版社:河出文庫
出版年:2023年

西村先生1冊目のおすすめ本です。2024年にノーベル文学賞を受賞した本です。

 

以下、先生の書評です。

 

本書は2024年ノーベル文学賞を受賞したハン・ガン氏の著作です。

筆者は、冒頭に筆者にとっての白いものは「おくるみ、うぶぎ、しお、ゆき、こおり等」を挙げています。単に「白色」という色に拘るでなく、筆者の過去の体験、それを現在からみた上でのそれらに対する思いが詰まっています。それを「しろいもの」に見出しています。筆者の世界観が「しろい」をキーワードに広がっています。そして、「しろい」という形容詞が何を修飾するかは読み手に任され、そこには余白がふんだんに用意されています。

是非一読して、ハン・ガンさんの世界観を感じてみてください。きっと、明日から見る風景が変わるかもしれません。また、これまで気づかなかった景色があることに気が付くかもしれませんよ。

 

 

第10回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

もあわせてご覧ください!

[藤棚ONLINE]新図書館長・平野恭平先生(経営学部)ご挨拶

図書館報『藤棚ONLINE』
新図書館長・平野恭平先生(経営学部)ご挨拶

この4月より図書館長を拝命しました経営学部の平野恭平です。
新入生のみなさん,大学生活にもう慣れましたか?
在学生のみなさん,履修計画は大丈夫ですか?課外活動や就職活動もしっかりやっていますか?
新年度が始まり,みなさんが少しでもよいスタートを切れていると嬉しいです。

私の専門は日本経済史・経営史になります。昔のことを調べるために,図書館を利用することが多いように思います。学生として教員として,大学で生活してきた中で,図書館には色々な思い出があります。学生時代の話しになりますが,書庫で古い統計データを調べていた時,閉館少し前に電気をすべて消されてしまい,携帯電話(この時はまだガラケーです)の明かりを片手に,暗闇の書庫を恐る恐る出口まで行ったことを覚えています。また,初冬のある日,本を借りに行った際,書庫で偶々指導教員と出会い,底冷えする寒い書庫にもかかわらず,数時間にもわたって立ち話をしたことも懐かしい思い出です(図書館ではお静かに!)。

特に思い出深いものとしては,知り合いの先生の情報を頼りに,図書館の蔵書の中に,今から約80年前の学生たちが残した書き込みや落書きをみつけたことです。今も昔も図書館の本に書き込みや落書きをすることはタブーですが,当時の学生たちの感情が発露された書き込みや落書きには,私を惹き付ける魔力があったようで,夢中になって探し,読み,その意味を考えました。そのうちに研究対象として取り上げることができないかと考えるようになりましたが,これまでそのようなものを取り上げたことのなかった私には,書き込みや落書きをどのように処理してよいのか,どのように分析すればよいのか,まったくの手探りでした。

その時に,私にヒントをくれたのが図書館でした。とにかく落書きなどに関係する本はないかと検索し,色々な本を読み,今回ご紹介する2冊の本に辿り着きました。1冊は三上喜孝著『落書きに歴史をよむ』(吉川弘文館,2014年)で,もう1冊は本村凌二著『ポンペイ・グラフィティ 落書きに刻むローマ人の素顔』(中央公論社,1996年)です。この2冊は,中近世と古代,日本とイタリア,まったく違う時代と地域を扱った本ですが,共通しているのは,落書きから当時の人々の生活や心情を読み取ろうとする視点です。

時代と地域の異なる人々の落書きとその考察を読みながら,落書きも史料になるのか,こういった読み方や分析もできるのかと考えさせられました。前者の本には,「落書きは,人間の意識の最も深い部分をさらけ出すのである。文書や記録では,絶対にうかがい知ることのできない世界が,落書きにはあるのだ。これを読み解くことで,私たちは過去に生きた人々の,意識の深い部分にまで,思いを致すことができる」(229頁)とあり,後者の本では,「落書きというものの面白さは,上層民のみならず下層民の実態にふれることができるところにある。むしろ,底辺にいる民衆のあけすけな声こそがそこから聞こえてくる」(219頁)とありました。自分の専門分野とは異なる本でしたが,どうすればよいのか悩んでいる,迷っている私には,十分な手掛かりとなるものであり,研究を後押ししてくれるようにも感じました。どちらも甲南大学図書館に所蔵されていますので,興味があれば気楽な気持ちで読んでみてください。昔の人々の生活や考えや心情などが落書きから伝わってきますし,意外と今も昔もヒトとは同じものなのかと思ってしまいます。

現代社会では,情報はインターネットで容易に手に入ります。本や論文もどんどん電子化されて,スマホやタブレットやPCで読めるようになっています。便利なことはよいのですが,たまに図書館や本屋さんでお目当て以外の本にも手を伸ばしてみて,意外な本と出合うのも楽しいものです。みなさんもぜひ図書館に足を運び,色々な本に出会い,知識や感性を豊かにしてもらいたいと思います。図書館が快適な知の空間であり続けれるように取り組んでいきたいと思います。

参考情報として,ポンペイの落書きについては,2022年に本村凌二著『古代ポンペイの日常生活 「落書き」でよみがえるローマ人』(祥伝社)も刊行されています。


【図書館事務室より】
 藤棚ONLINE2025年度第1号は、今年度新たに図書館長に就任されました経営学部教授・平野恭平先生よりご挨拶いただきました。図書館の本への落書きや付箋貼付は先生の仰る通りタブー(ダメ絶対!)ですが、著名人が自著にメモ書きを残した本などは、昨年本学デジタルアーカイブで公開した九鬼周造手拓本のように重要な研究資料となったりします。紹介いただいた本はどれも図書館で借りることができますので、ぜひ図書館にお寄りの際は借りて読んでみてください!
 図書館では、HPだけでなくX(Twitter)やこのブログでも情報発信していますので、定期的にチェックしてみてくださいね。学生の皆さんのご利用をお待ちしています。

[藤棚ONLINE]全学共通教育センター・平井一樹先生推薦『全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路―』

図書館報『藤棚ONLINE』
全学共通教育センター・平井一樹先生より

松本修「全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路―」(新潮文庫刊)

 大阪は「アホ」、東京は「バカ」。では、その境目、境界はどこにあるのだろうか?名古屋城?フォッサマグナ?「そんな、◯◯な!」 ― 皆さんの出身地ではどんな言葉で表現するだろうか。

 1990年1月20日、「探偵!ナイトスクープ」(朝日放送、当時はまだ大阪ローカルの番組)で、視聴者からのハガキ(!)での依頼により、その境界線を調査することとなった。私はこの番組のこの回を生で見ていたが、日本のテレビ番組史に残るすごい企画だったと思う。

 この本は、その調査の一部始終をまとめた結構ぶ厚い、そしてエネルギー溢れる熱い本なのである。著者は、番組プロデューサーの松本修氏。経緯と結果は本を読んでのお楽しみだが、調査は芸人の探偵と視聴者の協力で、何度かに分けて進んで行き、とうとう日本全国に広がっていくのである。そして、民俗学、方言論、社会言語学的にも素晴らしい発見が待ち受けている。この文庫本を、もし幸運にも入手したら、カバーの裏を見てみてほしい。私は購入してから5年間、裏があるとは、まったく気が付かなかった。これが実物の紙の本の面白さの一つだとつくづく感じた。

 日本各地には様々な方言があり、その土地が持つ歴史と市井の人々の生活が、豊かに生々しく語られる。明治以後、政府は全国の言葉を統一して「標準語」を作ろうとした。同じ日本の中で話が通じないのは、確かに困っただろう。しかし、標準語がきれいで、方言が汚いという印象操作が行われた。私は日本語教師だが、日本語教師は「標準語」という名称は決して使わない。「共通語」と呼ぶ。日本が歴史上、他国の言語を奪った反省もある。

 ある時、高校生が「海外では英語が使われているので、私は英語をもっと勉強しようと思います」と言った。学校教育ですっかり洗脳され、危険な状態だと私は思った。中国語だけでも7つほどのお互い外国語と言えるくらい違う方言がある。世界では言わずもがな。ただし、現在、世界では膨大な数の言語が失われ続けている。

 私は、生物の絶滅や環境破壊のほうが重要な問題だと思うが、その原因である人間の言語が失われ、何もかもが同じものに統一されていけば、民主主義は危機に陥る。そして、環境保護の政策は実効的に行われなくなる。さらに、コミュニケーションの阻害は、戦争へと繋がるのだ。短絡すぎる論理だと思われるだろうか。

 もちろん、英語が便利で役に立つなら、一つの道具としての使用は構わない。しかし、政府や権力者が何かを統一したり、強制する場合(特に言語)、本当に大丈夫なのかと立ち止まって考えらえる「批判的思考」を身に着けてほしい。「アホ・バカ」から話がずいぶん飛躍してしまったが、私は多様性の大切さと面白さをこの番組とこの本から学んだと思う。

OPAC:『全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路―』 松本修 著 太田出版 1993

[藤棚ONLINE]フロンティアサイエンス学部・赤松謙祐先生推薦『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』

図書館報『藤棚ONLINE』
フロンティアサイエンス学部・赤松謙祐先生より

嫌われる勇気」は、フロイト、ユングにならぶ心理学の巨人アルフレッド・アドラーの心理学を、悩み多き主人公と哲人との対話形式で紹介する書籍です。「すべての悩みは対人関係の悩みである」とした上で、人は変われないのではなく、ただ「変わらないと心に決めている」だけである、と結論づけています。このシンプルな考え方は極めて衝撃的で、にわかに受け入れ難いかもしれませんが、誰もが心に持つ「劣等感」を払拭しうる至極の一冊です。 

幸せになる勇気」は、「嫌われる勇気」の内容をより実践的に説いた続編です。前作で教えを受けて教師となった主人公が、それを実践できずに再び哲人のもとを訪れ、主に「教育とはなにか」について論戦を挑みます。教育においては、「褒めても、叱ってもいけない」のであり、「その人がその人であることを認め、ただ寄り添う」ことに注力すべきである、と哲人は説きます。人が幸せになるためにはどうすれば良いか、深く考え、実践したい人のための必読書です。

[藤棚ONLINE]マネジメント創造学部・榎木美樹先生推薦『世界は経営でできている』ほか

図書館報『藤棚ONLINE』
マネジメント創造学部・榎木美樹先生より 

 気づけばもう12月。今年も残すところあと少しである。2024年度時事トピックの経済ニュースとしては以下が挙がった(NHK「大学生とつくる就活応援ニュースゼミ」https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji153/)。

 「20年ぶりの新紙幣発行」、「30年ぶりの郵便料金値上げ」、「34年ぶりの円安水準」、「日経平均株価:バブル期の史上最高値を更新」、「株価:過去最大の値下がりーブラックマンデー越え」、「世界GDPランキングで日本はドイツに抜かれて第4位」というように長年の低成長やデフレ影響を受けた「数十年ぶりの」「史上最高」「過去最大の」といった文言が目につく。

 現代の私たちは、通貨の価値が国際的に極端に変動する社会を生きている。というか、資本主義が台頭し、不換紙幣制度が導入され、国際化やグローバル化によってボーダレスにヒトやモノ、情報の移動がデフォルト化したこの社会を生きざるを得ない。だから、「銀行に預けるのではなく、お金を増やすには、目的や状況に応じて、貯金や投資、NISAなどの制度を活用することが重要だ」言説が闊歩し、小学校では2020年から金融教育が実施されている。成人年齢の引き下げや消費者トラブルへの対処などいずれも個人の知識・問題・責任に帰せられるかのような状況が背景にある。紙束が価値に変換され、手段であるはずの金銭に過度に振り回されるようになっているように感じられる。「コスパ」「タイパ」「高額報酬」の文言に心が動く私たちは、すでに資本主義と不換紙幣制度、そして自己責任論にからめとられていると言えるかもしれない。

 このような時代だからこそ、社会的生き物としての人間関係、持続可能な地域社会と人間の営み、そのような中で実践される本来の経営を、本質的なところから捉え直すことが重要だろう。そのための気づきのインスピレーションを得られる書籍として以下の3冊を挙げたい。3冊に共通するのは、「語られないものを語るには言葉が必要だ」「人間は社会的な動物で、他者と生きる存在だ」「人間には理性=知恵があり、現在だけでなく過去と未来の概念も持つ」というメッセージである。これら3冊が起こすシナジーは、手触りの温かい資本主義を生きることは可能だと気づくことである。気づくためにはモノやコトとの出会いが必要で、出会うために私たちは「勉強」しなくてはならない。その第1歩は読書である、と私は強く思う。

『世界は経営でできている』(岩尾俊兵、講談社現代新書、2024年)
『葬儀会社が農業を始めたら、サステナブルな新しいビジネスモデルができた』(戸波亮、幻冬舎、2023年)
『世界は贈与でできている:資本主義の「すきま」を埋める倫理学 』(近内悠太、NewsPicksパブリッシング、2020年)

【第9回 甲南大学書評対決】 高橋則夫著 『刑の重さは何で決まるのか』

10月22日(火)に開催された第9回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

法学部教授 竹内 健互 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名 : 刑の重さは何で決まるのか
著者 : 高橋則夫
出版社:筑摩書房
出版年:2024年

竹内先生3冊目のおすすめ本です。先生のご専門分野の図書を紹介してくださいました。

 

以下、先生の書評です。

 

「刑が軽い」。裁判実務と日常感覚の「ズレ」はどうして生じるのでしょうか。世界三大発明と言えば、火薬・羅針盤・活版印刷ですが、「ルール」も人類にとって偉大な発明の一つです。

本書では、刑法学の世界、処遇論の世界、量刑論の世界、刑法学の新しい世界という5つの寄港先立ち寄りながら、「犯罪とは何か」、「なぜ刑が科されるのか」という刑法(ルール)に投げかけられる究極の問いに向けて航路を進めていきます。

本書で、その「答え」は時代や社会の価値観などに伴って「変更可能性」を免れないものであるおとが示されていrます。「人間とは何か」という一筋縄ではいかない難問(アポリア)も背後に待ち受けています。だからこそ、「考えるのが面倒だ」と思うかもしれません。しかし、刑法は「他人ゴト」ではないのです。唯一絶対の「答え」もありません。でも、そこにこそ「刑法」の奥深さと醍醐味を感じてもらいたいと思います。

 

 

第9回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

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