2.おすすめの本」カテゴリーアーカイブ

夕木春央著 『方舟』

 

 

法学部 2年生 Iさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 方舟
著者 : 夕木春央

出版社:講談社
出版年:2024

本作品は10人の人間が閉鎖空間に閉じ込められ、殺人事件が起こるというミステリー作品でよく見られる状況から始まる。しかしここからが従来のミステリーと違うところで、この空間にはタイムリミットがあり、それを超えてその中にいると死んでしまう。その閉鎖空間から脱出するためには誰か1人の命を犠牲にする必要がある。「その1人は殺人犯であるべきだ」と全員一致で決まり犯人探しが始まる。そんな中で殺人事件が立て続けに起こってしまう。そんなことをすれば更に証拠が増え、犯人だとばれる確率が増えて、生贄になる確率が上がるのに何故か?手掛かりが増えるので新たな殺人を心のどこかで喜んでしまうほど追い詰められた極限状態の人々が描かれる。

10人が閉じ込められた場所は方舟と呼ばれる3層構造の地下施設であり、出入り口への道が岩に塞がれている。更に地下水が流入し始め一週間で方舟全体が水没してしまう。岩をどかすギミックを発見したが、どかした人は方舟から出られなくなるというまさしく生贄になってしまう。そんな中起こる目的の分からない殺人事件たち。犯人はなぜそんなことをするのか、そして犯人はだれなのか主人公の柊一の視点で物語は進む。

人々のタイムリミットが近づく中での心情の変化や、地下という昼夜もわからず新鮮な空気も吸えない息苦しさ、仲間の中に潜んでいるはずの殺人犯への恐怖がとても秀逸に描かれていて、読んでいて怖く息苦しくなりながらもページをめくる手が止まらなかった。

この話の結末の衝撃は凄まじく、暫くそれは収まらなかった。私が今まで読んできたミステリー小説は結末を知るとスッキリとするような感覚になることが多かったため、この作品は異質であり、これからもふとした時に思い出すようなインパクトを残していった。ぜひともいろんな人に読んでもらいその感想を聞きたい作品であり、ミステリーを読む人、あまり読まない人どちらにもおおすめできる一冊である。

フランツ・カフカ著 『変身』

 

 

知能情報学部 3年生 Sさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 変身
著者 : フランツ・カフカ [著] ; 高橋 義孝訳

出版社:新潮社
出版年:1952

フランツ・カフカの『変身』は、ある朝突然巨大な虫に変わってしまったグレゴール・ザムザの姿を通して、人間の存在価値や社会との関係を鋭く描いた作品である。本作の特徴は、非現実的な
設定が冒頭から提示されるにもかかわらず、その原因や理由が一切説明されない点にある。この不条理さこそが、読者に強い違和感と問いを投げかける。

グレゴールは家族を養うために働く存在であり、虫に変身した後もまず仕事の遅刻を気にする。
この姿から、彼が一人の人間としてではなく「役割」として生きてきたことが分かる。変身によって労働能力を失った瞬間、家族の態度は徐々に冷淡なものへと変わり、彼は家族の中でも不要な存在となっていく。ここには、人間が社会や家族の中で「役に立つかどうか」によって評価される残酷な現実が表れている。

また、グレゴール自身も最後まで強く抵抗することなく、状況を受け入れていく。この態度は、彼
がすでに人間であった頃から抑圧された生活を送っており、自我を持つことを諦めていたことを示していると考えられる。つまり、虫への変身は突然の出来事でありながら、精神的には以前から「人間らしさ」を失っていたとも言える。

『変身』は単なる怪奇小説ではなく、近代社会における労働、家族、孤独といった問題を象徴的に
描いた作品である。カフカは極端な設定を用いることで、人間が社会の中でどれほど簡単に疎外
され、存在を否定されうるかを読者に突きつけている。本作は現代においてもなお、人間の価値
とは何かを考えさせる力を持つ作品である。

夏目漱石著 『こころ』

 

 

知能情報学部 3年生 Sさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : こころ
著者 : 夏目漱石

出版社:新潮社
出版年:1914

夏目漱石の『こころ』は、「先生」と「私」、そして「K」を中心に、人間の内面に潜む孤独や罪悪感を描いた作品である。私がこの作品に興味を持ったきっかけは、高校生の時に国語の教科書で一部を読んだことである。教科書では物語の一部分しか扱われていなかったが、先生の謎めいた態度や重苦しい雰囲気に惹かれ、全文を読んでみたいと感じた。そこで改めて作品を通読し、その印象は大きく変化した。

物語前半では、「私」が先生に強い関心を抱き、たびたび訪問する様子が描かれる。先生は知的
でありながらも人との距離を保ち、世間や他者をどこか信用していないように見える。この姿は、
高校生の頃には単に「暗い人物」という印象でしかなかったが、読み進めるにつれて、人間関係
の中で傷つくことを恐れる姿であると理解できるようになった。

物語後半で明かされる先生の過去、とりわけ K の死に対する罪悪感は、本作の核心である。先
生は自分の幸福を優先した結果、友人を死に追いやったという意識を生涯抱え続ける。その罪
の重さが、先生を孤独へと追い込み、最終的な選択へと向かわせたと考えられる。この部分は、
高校生の頃には理解しきれなかったが、大学生となった今読むことで、人間のエゴや弱さとして
現実味をもって感じられた。

また、明治天皇の崩御と乃木希典の殉死は、時代の終わりを象徴する出来事として描かれてい
る。先生の死は、近代化の中で生き方を見失った一人の人間の悲劇であり、時代とのずれを抱
えた存在の象徴とも言える。

『こころ』は、成長や立場の変化によって受け取り方が変わる作品である。高校生の時に感じた
違和感が、大学生になった今では人間理解へとつながり、この作品が長く読み継がれてきた理
由を実感した。

[藤棚ONLINE]フロンティアサイエンス学部・赤松謙祐先生コラム「紙の新聞を読むという、ささやかで確かな習慣」

図書館報『藤棚ONLINE』
甲南大学フロンティアサイエンス学部教授 赤松謙祐先生より

 近年、「学生はあまり紙の本を読まなくなった」と耳にすることが増えました。スマートフォンやタブレットが身近になり、必要な情報を素早く検索できる現在、その変化はごく自然な流れとも言えるでしょう。電子媒体は利便性が高く、学習や研究においても大きな役割を果たしています。一方で、紙媒体に触れる機会が以前より減っていることも、また事実のように感じられます。

 その影響と断定することはできませんが、学生のレポートや卒業論文を読んでいると、句読点の位置が少し分かりにくかったり、主語が省略されすぎて文意が一度ではつかみにくかったりする文章に出会うことがあります。いずれも致命的な欠点というほどではなく、少し整えるだけで読みやすくなる場合がほとんどです。ただ、「自分の書いた文章を、第三者がどう読むか」を意識する経験が、やや不足しているのかもしれないと感じることがあります。

 そこでおすすめしたいのが、「紙の新聞を読む」という習慣です。新聞記事は、日本語表現のプロである記者が執筆し、さらに校閲のプロが丁寧に確認を重ねています。限られた紙面の中で、事実を正確に、かつ誤解のないように伝えるため、無駄のない構成と明確な日本語が用いられています。言い換えれば、新聞は「正しい日本語の実例集」とも言える存在です。

 特に、新聞の一面記事は、国内外の重要な出来事を簡潔にまとめており、文章の骨格を学ぶのに適しています。毎日すべてを読む必要はありません。一面を中心に、10分程度目を通すだけでも十分です。これを継続することで、自然と「正しい文章のシャワー」を浴びることになります。新聞の記事内容は、新聞社によって傾向が異なりますので、1種類の新聞だけでなく幅広い種類の新聞を読めば、「物事に対する異なる見方、立ち位置」を学ぶことにもなります。

 実際に、筆者の研究室では、長年にわたり学生に新聞を読むことを勧めてきました。全員が同じように効果を実感するわけではありませんが、日々の習慣としてきちんと継続した学生ほど、文章の構成力や表現の明瞭さが目に見えて向上していきました。特別な作文訓練を課さなくても、正しく書かれた日本語に触れ続けるだけで、文章感覚は確実に磨かれていくようです。

 さらに新聞を読むことは、文章力だけでなく、社会への視野を広げることにもつながります。日本や世界が直面している課題、経済や科学技術の動向、文化や教育の話題などに日常的に触れることで、知識が点ではなく線として蓄積されていきます。これは、将来社会に出たときに求められる「社会人力」の基盤にもなるでしょう。

 読む際には、ぜひ「朗読」も試してみてください。声に出して読むことで、文章のリズムや構造がより明確に感じられますし、発声や滑舌の練習にもなります。人前で発表する機会が多い大学生活において、プレゼンテーション時の発話能力向上にも役立つはずです。

 このように、新聞を読むという行為は、特別な道具や多くの時間を必要とせず、文章力・語彙力・表現力を総合的に高めることができる、非常にコストパフォーマンスの高い方法です。図書館に並ぶ紙の新聞を、ぜひ一度手に取ってみてください。そこから始まる小さな習慣が、皆さんの「書く力」を静かに、しかし確実に伸ばしてくれるはずです。

*図書館1階 新聞コーナー

アンデシュ・ハンセン著 『スマホ脳』

 

 

知能情報学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : スマホ脳 
著者 : アンデシュ・ハンセン著 ; 久山葉子訳

出版社:新潮社
出版年:2020

現代の生活において、スマートフォンは欠かせない存在となっている。調べ物や連絡、娯楽など、 生活のさまざまな場面で役立つ一方で、集中力が続かなかったり、無意識のうちに何度も画面を確認してしまったりする場面も増えている。「スマホ脳」は、そうしたスマートフォンが私たちの脳や心に与えている影響について、科学的な視点から分かりやすく示してくれる一冊である。

本書の特徴は、スマートフォンを単に悪いものとして扱わず、人間の脳の仕組みを軸に話が展開されている点にある。著者は、人の脳が新しい刺激や不安に反応しやすい性質を持っていることを前提に、なぜスマホに引き寄せられてしまうのかを説明する。そのため、集中できないことやスマホを手放せない状況を、個人の意志の弱さとして片付けていない点が印象に残った。

読み進める中で特に興味深かったのは、スマホが集中力や睡眠に与える影響が、感覚的な印象ではなく研究結果をもとに語られている点である。スマホを使っていない時間であっても、その存在が注意力に影響を及ぼすという指摘や、SNS の利用が心の状態に影響を与える可能性についての説明は、普段の生活を振り返るきっかけとなった。何気なく続けてきた行動が、思っている以上に脳に負荷を与えていることに気づかされる。

本書を読んで感じたのは、行動を無理に変えることよりも、まず自分の状態を理解することの重要性である。スマホとの距離を考える際にも、我慢や制限を重ねるのではなく、脳の働きを知ることで見え方が変わるのだと気づかされた。

「スマホ脳」は、スマートフォンとの付き合い方を考えるきっかけを与えてくれる一冊である。 日々の学習や生活の中で、集中が続かないと感じたとき、自分の行動や身の回りの環境を見直す視点を与えてくれるだろう。SNS を利用することが当たり前になってきている大学生や若者にとって、一度立ち止まって読んでみてほしい本である。

松下幸之助著 『道をひらく 』

 

 

知能情報学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 道をひらく
著者 : 松下幸之助

出版社: PHP研究所
出版年:1968

人生について考えていると、努力しているはずなのに先が見えず、不安になることがある。生き方や選択について考えれば考えるほど、どの道が正しいのか分からなくなり、立ち止まってしまう人も多いだろう。松下幸之助の『道をひらく』は、そうした迷いを抱えたときに、考え方を静かに見直すきっかけを与えてくれる一冊である。

本書は、日本を代表する経営者である松下幸之助が、人生や仕事について書き残した文章をまとめた随想集である。経営の成功法則を語る内容ではなく、日々の出来事にどう向き合い、どう考えるかといった姿勢が中心に描かれている。短い文章で構成されており、難しい言葉は使われていないが、一つ一つの言葉には長年の経験を通して培われた考えが込められている。

読んでいて印象に残るのは、物事が思い通りに進まないときの受け止め方である。先の見通しが完全に立たなくても、ある程度の確信があれば行動してみること、失敗そのものよりも、真剣に向き合わない姿勢を戒める考え方が繰り返し示される。また、同じ失敗を繰り返す背景には、自分自身に問いを投げかけることをやめてしまう点があるという指摘や、視点を変えることで新た な道が見えてくるという考え方は、行き詰まりを感じている読者に新しい見方を与えてくれる。どれも特別な考え方ではないからこそ、日常の中で意識しやすい内容だと感じられた。

本書を読んでいると、明確な答えを与えられているというよりも、自分自身に問いを返されているような感覚になる。何を選ぶか以上に、選んだ道にどのような姿勢で向き合うかが大切なのだということが、静かに伝わってくる。

『道をひらく』は、読んだその日から何かを変えさせる本ではない。しかし、迷いや不安を感じたときに読み返すことで、考え方を整理し、自分の立ち位置を見直すきっかけを与えてくれる。将来について考え始めた大学生や若者が、立ち止まったときにそっと手に取ってみてほしい一冊である。