[藤棚ONLINE]図書館長・笹倉香奈 先生(法学部) 推薦『Factfulness:10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』

図書館報『藤棚ONLINE』
図書館長・笹倉香奈先生(法学部) 推薦

 皆さん、こんにちは。
 新しい年度が始まりました。大変な状況の中での新学期になりましたが、図書館ではこれからも皆さんの学修に役立つ情報を発信していきたいと思います。

 私は法学部で刑事訴訟法という科目を教えていますが、本日は専門分野とは直接の関係がないけれども、皆さんにもぜひお読み頂きたい本をご紹介します。

 『ファクトフルネス:10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』は、かなり話題になった本ですので、ご存知の方も多いかもしれません。
 現在の世界の状況のもと、冷静に事実に基づいて世界を見ることの重要性を説く本書の重要性は、さらに増しているように思います。

 著者はスウェーデンのカロリンスカ医科大学の医師で公衆衛生学の研究者です。生涯をかけて、「データ」をもとに事実を正しく見ることの重要性を説きました。それが「ファクトフルネス」の実践なのです。
 私たちは世界について様々な思い込みをしています。それは、私たちの様々な本能から来るものだと本書は分析します。

 分断本能(「世界は分断されている」)、ネガティブ本能(「世界はどんどん悪くなっている」)、恐怖本能(「危険でないのに恐ろしい」と考えてしまう)、単純化本能(「世界はひとつの切り口で理解できる」)、犯人捜し本能(「誰かを責めれば物事は解決する」)、焦り本能(「すぐ手を打たなければ!」)等々。著者は、これらの10の「思い込み」が何をもたらしてしまっているのか、私たちがいかに事実に基づかないで世界を悲観的に見てしまっているかということを具体的なエピソードを交えながら、わかりやすく明らかにしていきます。

 では、ファクトフルな思考をするためには、どうしたら良いのでしょうか?本書は次のように言います。

 本能を抑えて事実を正しく見ることがどれほど難しいことなのか、自分の知識がいかに限られていることを認めましょう。そして、堂々と「知りません」と答え、新しい事実を発見したら、喜んで意見を変える、すなわち「謙虚」であることが重要です。

 そして「好奇心」をもつことです。新しい情報を積極的に探して受け入れ、自分の考えに合わない事実を大切にし、その裏にある意味を理解しようと努めましょう。間違ってしまっても恥じず、間違いをきっかけに興味を持ってみましょう。

 本書が提唱する「ファクトフルなものの見方」は、冷静な対応をするためにすべての人にとって必要だと思います。こういう時期だからこそ、一読をおすすめします。


【図書館事務室より】
 2020年度が始まり早くも2週間が過ぎました。新年度最初の藤棚ONLINEは、今年度より新しく図書館長に就任されました、法学部教授の笹倉香奈先生よりおすすめ本をご紹介いただきました。
 新型コロナウイルス感染拡大防止のための様々な措置が取られる中、甲南大学も教職員・学生が一丸となって対応している最中にあります。特に新入生にとってはただでさえ不安と希望に揺れる新生活の区切りにあって、大変な心労を抱えていることと愚考します。
 今回笹倉先生にご紹介いただいた本は、いたずらに不安を煽られず冷静に対応するために必要な考え方を示してくれるものとのこと。ぜひ読んでみてもらいたいところですが、本学図書館も今は閉館中。5月以降、無事開館できたらぜひ図書館で借りてみてください!
 一日も早い終息を願う日々ですが、学生の皆さんも心を元気に過ごしてください!
 何かわからないことや不安に思うことがあれば、大学に問合せしてみてください。職員も最小限の人員で対応しているため電話はつながりにくいかもしれませんが、真摯に対応しておりますのでお気軽にどうぞ!

2019年度 KONANライブラリサーティフィケイトの活動をポスターで紹介!

 🌸 新入生の皆さま、ご入学おめでとうございます 🌸

図書館2階の閲覧席から見た景色です。現在は少し葉桜になっていますが、入学式の時は、毎年絶景ポイントとなっています!勉強や読書をしながら目と心も癒せるスポットとして人気です。

図書館は4月7日の緊急事態宣言を受けて、5月6日(予定)まで臨時休館しています。残念ながら図書館に来られない方に、2019年度KONANライブラリサーティフィケイトの皆さんの活動記録を図書館内南階段の踊り場に、ポスター展示しましたのでご紹介します!KONANライブラリサーティフィケイトとは、読書習慣及び情報探索力・表現力・行動力・企画力などを身につけた学生を評価しようという制度です。詳しくはこちら

 

ピンクと黄色のポスターには、おすすめの本をレビューとしてまとめた書評やpop、教員インタビューを紹介しています。レビューからは、紹介する本に対する熱い思いが伝わってきます。本選びの参考にしてください。又、教員インタビューでは、先生の普段と違った一面を知り、緊張したけれど楽しく貴重な経験となったという感想も多いので、学生のみなさんには是非これを機会に挑戦して欲しいと思います。

 

2級の要件、図書館が企画したイベントやボランティアに参加して取得するもの(水色)1級の要件、学生自ら企画を提案し実現するもの(黄緑)です。1級の学生企画では、3人がそれぞれ得意分野で力を発揮し魅力的な展示を提案してくれました。

新型コロナウイルスの影響で、外出が出来ないこんな時こそ、読書をおすすめします!読書をする内に、自然と文章力やコミュニケーション能力がつきます。即戦力にはならなくても、本で読んだ知識が土に種を撒くように、後々になって開花するそんな事もあったりします。

サーティフィケイトの過去の活動は、このブログ右横にあるカテゴリーから、2. 学生おすすめ (学生による書評など) 3. 教員インタビュー 9.KONANライブラリーサーティフィケイトから閲覧できますので、是非参考にしてください。

みなさま、大変な時ですがどうか健康にお過ごしください。そして、この状況が落ち着いたら開館しますので、その時は図書館で元気にお会いできるのを楽しみに待っています。

最後に、開館したら是非!2階ヘルプデスクへお越しください。ライブラリサーティフィケイトのエントリーお待ちしています!

 

[藤棚ONLINE] 共通教育センター・鳩貝耕一先生推薦『アインシュタインの反乱と量子コンピュータ』

図書館報『藤棚ONLINE』
鳩貝耕一先生(共通教育センター) 推薦

 東京2020オリンピック・パラリンピックの直前6月には日食があり、新型コロナウイルスの脅威が去っていれば、梅雨時期の日本を離れ、北回帰線まで金環日食を見に行くクルーズ船ツアーに参加したい天文ファンも多いと思います。さて回帰というと、地球面上ではなく時間軸上での過去のふりかえりと考える人も多いと思います。以下は、いろいろと回帰するお話です。
 まず、私が甲南大学4年生の時(天文同好会発足当時の1978年)に回帰すると、テニスコート、バスケットコートや藤棚のあったところに現在の図書館が竣工しました。図書館HPには、「憩いの場の思い出を大切にと、館報名を『藤棚』としました」とあります。その後、原子核理論物理学研究者のほんの端くれだった大学院生の時に、人文・社会系院生から「大学院生協議会」を立ち上げないかとの話がもちかけられ、理系院生のまとめ役として応じました。その組織活動の一環として、開館時間延長について大学執行部にお願いしにあがりました。
 以下に紹介する書籍のテーマは、院生時代に「だまって、計算」していた原子核物理学の根幹をなす「量子力学」と現在の私の研究分野である「情報科学」の両方にまたがる話題です。
 昨年末の10月に回帰すると、グーグルは開発中の量子コンピュータを用いた「量子超越(quantum supremacy)」の成功を発表しました。これは、スパコン「富岳」などでも計算には多大な時間(発表では約1万年)のかかるような問題を、極めて短時間(同3分20秒)で解けることを示したことになります。研究成果は、査読付きのれっきとした英科学誌「ネイチャー」に論文として掲載されました(ただし、IBMの量子コンピュータ研究陣からは異論が出ています)。
 量子コンピュータの話題は、実は目新しいことではなく、ほぼ十年前の2011年に回帰すればカナダのD-Wave社が製品としての商用量子コンピュータの提供を開始しました。今回のグーグルの発表よりもこちらのほうがよほどショックで、「えっ、こんなの出していいの?!」と心の中でつぶやいたのを思い出します。1996年、甲南に教員として戻って以来、量子コンピュータの研究は全く行っていませんが、情報収集はしていました。まだまだ研究の域を出ないだろうと、たかをくくっていたわけです。
 さて、この「えっ!」の背景や意味するところをまとめると本1冊ぐらいは書けるだろうなということが分かっていたので、最近になってググらずに(笑)Amazon.co.jpで検索してみました。
 京都大学名誉教授で、2001年から2014年春まで本学にも教授として在籍されていた佐藤文隆先生の『アインシュタインの反乱と量子コンピュータ』が見事ヒットしました(ここでも甲南に回帰!)。研究者の端くれの私が、碩学大儒(せきがくたいじゅ)である佐藤先生の書評を書くなどはもってのほかなので、このような回帰大作戦とあいなった次第です。

 この本のスゴイところは、D-Waveマシン以前、本学におられた2009年に出版されているところです。量子情報に関する研究が活発になっていることをリサーチした上での出版ではないでしょうか?
 本当は、近著でほぼ人文・社会科学系の言葉で書かれている『量子力学が描く希望の世界』を紹介したかったのですが、読者はあらかじめ20世紀初頭に回帰して量子力学近代史を調べておかないと、チンプンカンプンだと思います。その点、こちらの書籍では、理系の言葉とはいえ内容を理解するための説明が簡単に添えられているので、理系学部のみなさんにはオススメです。より実験志向な方には、『佐藤文隆先生の量子論』がオススメです。
 えっ、「なぜ、アインシュタインなの?」かって・・・。アルベルト・アインシュタインは、相対性理論ではなく「光量子仮説に基づく光電効果の理論的解明」によって1921年にノーベル物理学賞を受賞しています。量子の世界について最も深く考察した人だと言われています。ただし、最近のミクロな技術の進展により、量子への理解がこのころよりはより深まっています。
  五里霧中ならぬ五「黍」霧中に杖を差し込んで探るような量子の世界にミーハーな私は、「だまって、計算しろ!」TシャツをAmazon.comより購入してしまいました(笑)。学生のみなさんの中から、回帰大作戦→開基大作戦→怪奇大作戦と進まれる方の出ることを期待しています。

●書誌情報(書籍は全て1F開架に揃っています)
『アインシュタインの反乱と量子コンピュータ』,京都大学学術出版会,2009
『佐藤文隆先生の量子論:干渉実験・量子もつれ・解釈問題』,講談社ブルーバックス,2017
『量子力学が描く希望の世界』,青土社,2018
・「アインシュタインと量子」,日本経済新聞,2020年2月16日朝刊,p.32

帯谷 博明 (文学部)『社会運動の現在: 市民社会の声』


<教員自著紹介>

この本は、反原発や反ヘイトスピーチ、米軍基地問題、ハラスメント、貧困問題など、現代のさまざまな社会的課題に取りくむ<社会運動>について、具体的な事例とフィールドワーク(社会調査)のデータをもとに、社会学の視点から解説した専門書です。

専門書ですが、大学の授業のテキストや参考図書になるようにも配慮をしました。16人の執筆者が提示する16の章をぜひ読み比べてみてください。

■『社会運動の現在 : 市民社会の声 = Social movements then and now : voices from civil society
■ 長谷川公一 編 帯谷博明 他  著 有斐閣 , 2020.1
■ 請求記号 309//2028
■ 配架場所   図書館   1F 教員著作
■ 著者所属   帯谷 博明 (文学部)

秋元孝文(文学部)『あなたと原爆 オーウェル評論集』


<教員自著紹介>

『1984年』『動物農園』といったディストピア小説で知られるイギリスの作家、ジョージ・オーウェルが残した数多くのエッセイ、評論の中から、今の読者に読んでほしいものをピックアップして一冊にまとめました。

ナショナリズムや人種差別、人文学と科学など今のわれわれの社会を射抜くようなテーマが取り上げられています。現実に対するもうひとつの視座を得るためにも、ぜひ読んでみてください。

■『あなたと原爆 : オーウェル評論集 』
■ ジョージ・オーウェル著 ; 秋元孝文訳 ,光文社 , 2019年.8月
■ 請求記号 S081.6/Aオ5-1/83
■ 配架場所図書館   1F 教員著作
■ 著者所属  秋元孝文 (文学部)

文学部 A先生へのインタビュー

文学部  3年生 髙橋 梨華子さんが、文学部 A 先生にインタビューを行いました。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

Q .   図書館は利用しますか?

A .   以前は大学図書館に勤務していました。今は、小説などの貸し出しに利用するというよりも資料や文献を探すために利用することが多いです。甲南大学図書館も利用しますが、甲南大学にはない研究テーマの資料を求めて公共図書館に行きますね。今、明治大正の公共図書館と女性について調べています。京都府立図書館は明治にできた古い公共図書館なのでそれらの資料が揃っています。東京の都立図書館や国立国会図書館にもよく行きます。日本図書館協会の資料室も日本の公共図書館史などの文献がかなりそろっているので行きました。

Q .   おすすめの本を教えてください

A .   茨木のり子さんの詩で好きなものがあります。1970年代ごろに活躍した詩人ですが、女性のしゃっきりしたところが感じられてみずみずしく、今の学生が読んでも面白いと思えるんじゃないでしょうか。特に「自分の感受性くらい」(『自分の感受性くらい』茨木のり子 花神社 1977年)という詩や「いちど視たもの-一九五五年八月十五日のために-」(同詩集)はとてもいいです。「倚りかからず」(『倚りかからず』茨木のり子 筑摩書房 1999)という詩も、女性もしっかりした自分を持って、人のせいにせず自分の足で立って生きなさいということが書いてあり、おすすめの詩です。

それと『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ 筑摩書房 2018)。これは主人公の、生まれてから結婚、子供を産んで育てるまでの女性としての壁を淡々と書いています。それと、『ヒョンナム・オッパへ』(チョ・ナムジュ他 白水社 2019年)韓国の女性作家たちの作品集ですが、この中の「ヒョンナム・オッパヘ」という『82年生まれ…』と同じ著者の作品があります。結婚するのに、男の人は悪気なく自分が食べさせてやるとか守ってやるとかいうことを言うんです。でも、女性も自分で生きたいんですよね。男の人も気が付かずにそういうことを言っていて、悪気があるわけではないんです。思うところや気づかないところ、それを深刻に描かれているというわけではないので、何か考えるきっかけにしやすいと思います。女子学生だけではなく、男子学生にもぜひ読んでほしい本です。詩集にしろ、小説にしろ、女性が自立して自分の目をもって判断して生きよということが書いてありますので、読んでみてはどうでしょう。

Q .   本の一番の魅力は何だと思いますか

A .   知らないことを知ることができること、ですかね。知らない景色や知らない人、考えを知ることができます。そこから新しく考え始められる、ということが一番の魅力だと思います。

感想  : 私たち学生に向けてのおすすめということで、女性の自立や強さに関する本をたくさん紹介していただきました。外国の著者のものから40年前の詩集まで、私も一女性として、国や年代を超えた女性の考えを読んでみたいと思います。私の話もゆっくり聞いてくださって、リラックスしてインタビューができました。答えてくださった先生に感謝します。ありがとうございました。

<A 先生おすすめの本>

茨木のり子著 『自分の感受性くらい』花神社 , 2005年

茨木のり子著『倚りかからず』筑摩書房 ,1999年

(インタビュアー:文学部 3年  髙橋 梨華子 )