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白石一文 著『彼が通る不思議なコースを私も』

 

法学部 3年生Sさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  彼が通る不思議なコースを私も
著者 :  白石 一文
出版社:集英社
出版年:2013年

「自分が好きだってことなんだよ。他のだれでもない、とにかく自分自身が大好きで、超愛してるって思えることだよ。――」

本作品は、「生きる」ことや「時間」がテーマとなっている。普段じっくりと考えない、もしくは考えても答えがでないこれらのテーマについて、我々は彼が通る不思議なコースを追体験しながら、今までよりも深く見つめることとなる。

主人公の霧子は不思議な魅力をもつ男、椿林太郎と出会い、距離を縮めていく。彼はかつて全日本トランポリン選手権を優勝しており、高校は超がつくほどの進学校、更に彼の周囲の人たちは、彼のことを「神の子」と呼ぶ。全てが不思議な彼は、人には言えない大きな秘密を抱えている。

彼は幼少期、ある悩みに苦しめられていた。その経験から、悩みを抱えた子供や生きづらさを感じている子供を救おうとする。例えば彼は、一年経てば自動的に全員が一つ上の学年に上がるシステムに苦言を呈している。「人間はみんなひとりひとり、持っている時間の長さが違う」という独特の表現を用いて、子供たちそれぞれが持つ時間に合わせた教育が、子どもたちひとりひとりの可能性を引き出していくと信じて実行していく。

今の日本の教育システムでは皆が同じ速度で成長していくことが求められる。それゆえ、画一的な教育の進度の中から外れてしまった子どもたちへの受け皿があまりにも少ない。乱暴な言い方をすれば、一度落ちこぼれると、這い上がってくることができないのである。社会全体でも同じことが言える。一度貧困に陥れば抜け出せず、一度仕事を辞めてしまうと再就職が難しい。這い上がることを諦め、絶望した先には「死」が待ち受けている。教育だけでなく社会全体に蔓延るこれらの問題に対し、彼は常人では思いつかない画期的な方法で向き合っていく。

彼は、皆と同じ速度で成長していくことができず社会から爪弾きにされ、「死」を意識するようにまでなった子供たちを助けようと奔走する。そんな彼の生きるコースを、霧子とともに我々は見つめることになる。彼のコースは、今の日本社会が抱える大きな問題を浮き彫りにしていく。本書を読めば、我々はその問題を見つめながら、「生」について否が応でも考えていくことになるだろう。社会が抱える問題は、我々が抱える問題なのだから。

「――自分が大事で大事でたまらないって思えれば、その子供は絶対に死なない。それはそうだろう。世界でいちばん大事なものを失いたいって思う人間はいないからね。」

[藤棚ONLINE] 法科大学院・宮川 聡先生コラム「乱読の勧め」

図書館報『藤棚ONLINE』
宮川 聡先生(法科大学院)コラム「乱読の勧め」

 日本語に限らず,ある言語を身に着けるためにはそれなりの努力が必要です。このコラムを読まれている皆さんもそれぞれ苦労した経験があるでしょう。私の場合は,日本語については,父が買いそろえてくれた少年少女世界文学全集を小学生のときに全巻読破したのに続き,中学1年生のときには新書版の日本文学全集を読み通しました。それで総合的な国語力が身に着いたかどうかは明確ではありませんが,少なくとも長い文章や作品を読み通すことについて苦手意識をもつことはなくなりました。
 英国への留学前にも,英語力養成のために同じやり方でいこうと考え,Agatha ChristieやCollin Dexterの出版されている作品をペーパーバックでそろえ,2・3日で1冊というペースで読みました(リスニングの能力については,衛星放送の英語のニュースを録画し,朝から晩まで聞き流すということをしました。)。私の場合は,日常生活で使われるような表現を全く知らなかったということもあってこうした選択になったのですが,もう少し硬質な英文については,雑誌のthe Economistを定期購読し,できる限り多くの記事を読むことで対処しました。もっとも,これは私が独自に考え出した方法というわけではなく,著名な経済学者であった都留重人先生がアメリカ留学の1年目に,ウィスコンシン州の田舎町でニューヨーク・タイムズ紙を定期購読し(その町では,この新聞を定期購読したのは一人しかいなかったそうです。),毎日隅から隅まで読んで英語力をつけたということにヒントを得て行ったのですが(都留重人『アメリカ遊学記』[岩波書店,1950年])。
 語学力を身に着けるために何が最善の方法かは人によって異なるので,同じやり方を進めるわけではないのですが,やはりある程度の読書量が必要なことは否定できないと思います。ということで,皆さんも,一度集中的に本を読むことに取り組んでみたらどうでしょうか。

真藤 順丈 著『宝島』

文学部 4年生 Nさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 宝島
著者 : 真藤 順丈
出版社:講談社
出版年:2018年

青春は誰にでも訪れるものである。だが、過ぎてしまった青春は二度と取り返すことができない。しかし、小説を読むことで思い出すことができることもある。そこで、これから大学生活が始まるという人にも、もうすぐ社会人になるという人にも、当に青春が過ぎてしまった人にも味わってほしい青春小説として『宝島』をあげたい。

舞台は、アメリカ施政下の沖縄。「英雄」と呼ばれていたオンちゃん、その弟のレイ、親友のグスク、恋人のヤマコ。彼らは米軍基地から物資をかっさらう「戦果アギヤー」と呼ばれる少年少女である。彼らは、オンちゃんを中心に固い絆で結ばれていた。だが、嘉手納空軍基地への侵入に失敗。オンちゃんは行方不明となり、その代わりに基地からは「予定外の戦果」が持ち出された。時は流れ、大人になった3人はそれぞれの道を歩み始める。琉球警察に勤めながら米軍情報部と繋がりを持ったグスク。本格的なアウトローとなったレイ。教師となり沖縄返還活動に励むヤマコ。だが、彼らはいつまでもオンちゃんの面影を忘れることができずにいた。基地から持ち出された「予定外の戦果」とは一体何なのか?また、消えたオンちゃんの行方は?奪われた沖縄を取り戻すため、少年少女は立ち上がる――。

本著は、直木賞、山田風太郎賞を2冠達成し、まさに骨太な傑作と言えるのだが、オススメする理由はそれだけではない。1つは、独特な語り口で沖縄が今現在も抱える社会問題を軽快なテイストで描きあげる作者の表現力の高さ。2つは、「予定外の戦果とは何か」「オンちゃんの行方はどうなったのか」というミステリー的要素も踏まえてあり、読者を飽きさせないこと。3つは、困難や人との付き合いに悩み苦しみながらもひたすらに前を向き続けるグスク、レイ、ヤマコの3人から青春小説の面白さを堪能できる。これらの理由から、本書をぜひ一読して頂きたい。

マーガレット・ミラー著 山本俊子訳『これからさき怪物領域』

 

文学部 4年生 Nさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : これからさき怪物領域
著者 : マーガレット・ミラー著 山本俊子訳
出版社:早川書房
出版年:1976年

「人間はみんな、心に怪物を持っているんです。ただ別の名前で呼んだり、怪物なんかいないと信じてるふりをしたり……。」(p138より。)人間は誰しも心の中に「悪意」を秘めているものである。それは、まさしく「怪物の領域」だと言えるだろう。では、そのような「怪物領域」の線引きとは一体どこからなのだろうか。

本著『これからさき怪物領域』では、主人公のロバート・オズボーンの失踪から物語が始まる。メキシコ国境近くに農園を持つ、若き農園主である彼は突如姿を消したのである。

ロバートの妻・デヴォンをはじめ、誰もが彼の死を覚悟していた。その日の彼に変わった様子は全くなく、姿の見えぬ愛犬を探してくる、と気軽に出かけたまま帰らなかったのだ。警官は、食堂にて彼のものと思われる夥しい血痕を発見。さらに、失踪翌日に収穫のために雇った十人ものメキシコ人労働者がいなくなっていた。彼らが金目当てにロバートを殺したに違いない。デヴォンは死体が見つからないまま死亡認定の訴訟を起こす。しかし、ロバートの老いた母・アグネスだけは、決して息子の死を認めようとしなかった……。

著者のマーガレット・ミラーは心理サスペンスの第一人者と称される人物で、無駄のない洗練された文章で非常に読みやすい。ミステリーは好きだけど海外ミステリはダメ、ポケットミステリなんか面白くなさそう、なんて人にもオススメできる作品である。1章ごとの話もそれほど長くなく、物語の大半は法廷ものとして進行するため、話が理解できなくなってきた~という心配もあまりない。

何より、本書をオススメする最大の理由はそのタイトル『これからさき怪物領域』の意味にある。「これからさき」が怪物領域とあるが、では「どこからさき」が怪物領域なのだろうか?ぜひ本書を最後まで読んで、その真相を知っていただきたい。

[藤棚ONLINE] 国際言語文化センター・MACH Thomas先生推薦『Ishmael』『The Alchemist』

図書館報『藤棚ONLINE』
MACH Thomas先生(国際言語文化センター) 推薦

I love to read. I have a long train commute everyday – more than one hour each way. My train time is my reading time. I grew up in America, and if I lived there still, I would probably be driving my own car to work. Some people might think that commuting by car is more attractive than train, but not me. My long daily train ride is one of my favorite parts about my lifestyle here in Japan. Thanks to the train, I’m still able to read books nearly two hours every day.

So, I read a lot. This means it is really difficult to choose only one or two books to recommend to Konan students. There are so many that I want to recommend! But to make a choice, I asked myself this question: What are some simple books that moved me deeply when I was a university student? Here are two novels that had a big impact on me at that time: Ishmael and The Alchemist.

The first book is about a gorilla named Ishmael. This gorilla was captured by humans when he was very young. Now he is old. Because he has lived in cages for most of his life, he has had a lot of quiet time to think. He is now very wise and has become able to communicate by telepathy (テレパシー). He carefully chooses humans with open minds who might be able to grasp what he is able to teach, and this story is about Ishmael’s conversations with one man who has become his student.

Have you heard of Socrates (ソクラテス)? In Ancient Greece, Socrates was considered a great teacher of philosophy (哲学)because of his teaching method, called “Socratic dialogue.” In this teaching method, the teacher doesn’t directly teach. Instead, he uses question after question after question. Students, as they try to answer the questions of the wise teacher, gradually discover deep truths by themselves. In this book, Ishmael uses this teaching method. As a non-human, he is trying to teach humans about their role in this world and their history so far.

In short, Ishmael shows us that there have been two types of human societies in the world. He calls them “Leavers” and “Takers.” Leavers are the tribal cultures of the world. They live more simply within the world’s natural cycles, similar to animal populations. A long time ago all humans were Leavers, but little by little Taker societies developed. The key event in history that gave rise to Taker culture is the invention of agriculture (農業). Agriculture has helped Taker societies to escape ecological limits and become extremely powerful, but it is also leading to environmental doom. In addition, Ishmael teaches us how the core myths created by Taker cultures make it so difficult for Taker humans to see such basic truths by themselves.

The other book, The Alchemist, is similar in many ways. Like Ishmael, this too is a book about searching for deep truths. The main character is a Spanish boy who has a prophetic dream, and so he decides to take a journey in order to find the meaning of the dream. This journey takes him across the countries of northern Africa, eventually into Arab cultures, and then back to his home in Spain. He meets many interesting people along the way, including an alchemist (錬金術師), and the idea of alchemy is a kind of hint about the book’s deeper meaning. In short, on one level this is a really simple story about one person’s journey. But, on a deeper level, this book is full of half-hidden wisdom about how to live a meaningful life and follow our dreams.

In English, philosophy (哲学) is a word that maybe sounds a little scary to most people because it seems so difficult. But both of these books are basically philosophy disguised as simple stories. The English versions are not so difficult to read, and luckily we also have Japanese translations for both of these books. These stories will help you to think about the meaning of human life. And, if you are in a thoughtful mood while reading them, they will surely move you too. In fact, they might change your life.

森 絵都 著 『カラフル』

 

知能情報学部 4年生 Iさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : カラフル
著者 : 森 絵都
出版社:文藝春秋
出版年:2007年

本学で所蔵している本はこちら→ 森 絵都著 『カラフル』講談社 , 2011年

生きていると小さなことで悩んだり、落ち込んだりします。その悩みを解決出来ないとき、最終的には人は死という手段に出てしまいます。嫌なことは絶対にあります。そんな時にこの『カラフル』という本を読んでもらいたいです。この本は死んでしまった中学3年生の「僕」が、天使のボスの気まぐれで、人生の再挑戦のチャンスを与えられる物語です。「ぼく」の魂は3日前に服毒自殺をはかった小林真の体に入り込み、真として生きていきます。再挑戦の期間は1年。その間に、前世で犯した自分のあやまちの大きさを自覚すれば、無事に「ぼく」の魂は昇天し、輪廻のサイクルに戻ることができます。

私はこの本を読んで思ったことは、「ぼく」という人は真の体に入ったことにより、「どうせ真の体だから」と言って、他人の体と割り切って大胆に行動するところが印象的でした。天使という、非現実的ながらも、「ぼく」の魂が入った小林真の周りでは、現実的な問題がたくさんおき、読んでいると考えさせられました。

人というのは思っていることを簡単に言える生き物ではないと思いました。「ぼく」という主人公も他人の体だからといって後先考えずに人に意見を言っていたが、もし、自分の体ならどうだろうか。私たち日本人は生きていて後の事を気にしすぎていて、自分の意見を言えなさすぎと思いました。この本の最後に「ぼく」が前世でのあやまちに気づき言った言葉が「この世があまりにもカラフルだから、ぼくらはいつも迷っている」という言葉は、言いたいことを言わずに自分の本当の気持ちを言えない人に向けての言葉だと思いました。