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渡辺佑基著『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』

書名: ペンギンが教えてくれた物理のはなし
著者: 渡辺佑基
出版者: 河出書房新社  出版年: 2014年
配置場所: 1階開架一般  請求記号: 481.7//2009

この数十年で飛躍的に進化したセンサーやカメラなどの情報機器。
それを動物にくっつけて、生態を記録しよう!
というのが、「バイオロギング」です。

たとえば、肺呼吸をするアザラシが、息を止めたままで深海まで潜れるのは”なぜ”でしょうか。
海の中での彼らの行動を調べてみたら、「きっとなにかすごい秘密がわかるに違いない」
と、期待に胸を膨らませ、アザラシを捕まえ、一定時間が経過したら外れる仕掛けをした機器を取り付け、どきどきしながら数日間待った後、人工衛星から届く発信器の電波を頼りに機器を回収します。
そこには、期待通りだったり、予想外だったりするアザラシの行動に関するバイオロギング・データが記録されています。

ただ、期待通りでも、予想外でも、データそのものは、彼らが何メートルまで潜ったか、といった事実の記録であって、”なぜ”潜ったのか、”なぜ”潜れるのか、といった疑問には答えてくれません。

どうすれば、その謎を解く「データ分析」ができるのか。そこが研究者の腕の見せ所です。
(アザラシやクジラを捕えるにも、かなりの腕前が必要かと思いますが・・。)
この本の著者である渡辺先生が使ったのは、基本的な物理の法則=「ペンギン物理学」でした。
説明されると「あぁ、分かってたはずなのに」と、思うのですが、これまでいろいろな”仮説”を事実として学んでいたと知らされました。情報機器の発達は、新しい実験によって裏打ちされた新しい事実の発見にも貢献しているのです。

環境問題の先駆者として知られる生物学者のレイチェル・カーソンは、自然の神秘さや不思議さに目を見はる感性を『センス・オブ・ワンダー』と表現しました。
情報機器という新しい感覚=センスを手に入れた我々は、新たなワンダーを体感することができるようになったのかもしれません。

一般向けの本なので、文系でも大丈夫です。
新しいわくわくをちょっと体験できる本でした。

(konno)

マイケル・ブース『英国一家、日本を食べる』

<ライブラリ・サーティフィケイト 読書記録の見本です>

書名: 英国一家、日本を食べる
著者: マイケル・ブース
出版者: 亜紀書房  出版年: 2013年
配置場所: 2階中山文庫一般  請求記号: 383/B

【レビュー】 評価:★★★★☆
 2013年和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、注目されるようになった。この本は、英国人である著者が飽くなき食(伝統的な和食や庶民的な和食)への興味を抱き、外国人ならではの受けたカルチャーショックと和食の含蓄が書かれていて、興味深い。クスッと笑えることもあったり、そういう見方もあるのかと思ったり。楽しく読める本だった。ただ、大阪(庶民的)や京都(和食そのもの)の食については、書かれていたが、神戸については書かれていないのが残念。まあ、確かに神戸は伝統的な和食やたこ焼きなどの庶民的な食というイメージは無いでしょうね。

【心に残った言葉、キーワード】
「…だしと塩加減と火加減を修得していただきたい…」(p.83-p.89)
「何にもまして謙虚さを身につけるべきではないか」(p.268)

笠井 献一『科学者の卵たちに贈る言葉』

<ライブラリ・サーティフィケイト 読書記録の見本です>

書名: 科学者の卵たちに贈る言葉 (岩波科学ライブラリー ; 210)
著者: 笠井 献一
出版者: 岩波書店  出版年: 2013年
配置場所: 1階開架一般  請求記号: 407//2161

【レビュー】 評価:★★★★☆
 少し前の新聞でこの本が紹介されていて、普段知ることができない理系の世界をのぞいてみたいと思い、手に取った。
 この本は生化学の研究者であり、著者の指導教員であった江上不二夫氏が、学生にかけた言葉やそれにまつわるエピソードについて書かれている。
 理系に関する様々なエピソードが書かれていて、本を読み進むにつれてその光景が目に浮かび、思わず笑ってしまう。
 「理系のゼミでは、卒業論文のテーマを選ぶ時に、先生が用意したテーマの中から選ぶ」という話を読んで、文系では、卒業論文のテーマなどは自分で決めることが多いため、その違いに驚いた。

【心に残った言葉、キーワード】
「実験が失敗したら大喜びしなさい」…予想とは違う結果が出たら、そこにはまだも知らない何かが隠れている。
「初めから重要だった研究はない」…今、重要だと思われている研究だって、みんな誰かが重要なものにしたのだ。

高井尚之『カフェと日本人』

<ライブラリ・サーティフィケイト 読書記録の見本です>

書名: カフェと日本人 (講談社現代新書2287)
著者: 高井尚之
出版者: 講談社  出版年: 2014年
配置場所: 1階開架小型  請求記号: S081.6/2287/23

【レビュー】 評価:★★★☆☆
 日本でのカフェ(喫茶店)の歴史から、独自の進化、著名人が訪れた名店、うちカフェ市場まで、名古屋生まれの著者が語る。珈琲の起源、カフェラテとカプチーノとカフェオレの違い、名古屋人が喫茶好きな理由など、知っているようで知らない話が満載だった。中でも、『日本初の喫茶店はわずか4年で幕を下し、経営者である鄭永慶氏(日本人)は失意のうちに渡米し、シアトルで客死する。そのシアトルで誕生したスターバックスが現在の日本でトップの売り上げを誇っている』という因縁めいたエピソードが印象に残った。
 明治~昭和の喫茶店から現在流行りのカフェまで紹介されており、甲南大学出身の猿渡弘太氏が経営する「猿カフェ」(名古屋を中心に展開)の情報も掲載されているが、全体的に東京・名古屋の情報が中心で、関西のカフェ事情についてはほとんど書かれてないのが少し残念に思った。

【心に残った言葉、キーワード】
21世紀の日本で暮らす生活者にとってもはやカフェは「人と場所の代名詞」なのだ

三好大輔先生(フロンティアサイエンス学部)「絶対的な何か」–藤棚vol.32より

☆新入生向けの図書案内 
 「近頃の若者は、、、」皆さん、こんな言葉を耳にして憤慨したことはありませんか?一方で、「どうせ頑張ったって、、、」と思わず言ってしまうことはありませんか?私は、皆さんの倍以上の時を過ごしてきました。以前は、「近頃の若者は、、、」と言われて腹を立てていました。また最近では、「どうせ頑張ったって、、、」と、しょぼくれているような気がします。
 「こんなオヤジになりたくない!」と思った皆さんに二冊の本を紹介します。
 一冊目は、岡本太郎著の自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間” を捨てられるか (青春文庫)です。「芸術は爆発だ!」の芸術家です。著者は、20 年近く前に亡くなっています。ですが、今読み返してみても、とても納得できる言葉が記されています。私の理解は次の通りです。相対的価値観(人からどう思われるか)はどうでもいい。絶対的価値観(自分の信念)を貫き通せ。つまり、閉塞感があったり、社会が悪かったり、うまくいかない様々な理由があっても、ありのままの自分と向き合って認める。そこから己だけの道を突き進め、と言われているような気がします。
 二冊目は、植松努著のNASA より宇宙に近い町工場(ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。もしかして、この著者のTED での講演等を見た方もいるかもしれません。講演も感動的ですが、本書も感動的です。著者は、「どうせ無理」という言葉を世界から無くそう、と訴えます。周りから何を言われても、自分の目標や夢に向かって行くべきである、と仰っているように思います。
 この二冊の著者は、生い立ち、人生の目標、職業等、何一つ共通点がありません。ですが、メッセージは共通しているように思います。それは、自分の中に絶対的な何か(目標、価値観、信念等)をもつことが大切だ、ということでしょうか。
 もちろん、この著者たちは成功者ですよね。では、私たちは、そんな何かを見つけることが出来ないのでしょうか?そんなことはないはずです!これらの本を読んで、私みたいなオヤジでも、目覚めたつもりで頑張ろうと思っています。月並みな言葉ですが、皆さんのこれからの人生には無限の可能性があります。自分の大切な何かを見つけて、それと共に自分らしく進んで行きたいですね。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.32 2015) より

佐伯邦夫先生(マネジメント創学部)「組織を率いる、戦略を仕事とするならば推薦するこの一冊」–藤棚vol.32より

☆新入生向けの図書案内 
 私の父は、既に亡くなりましたが、陸軍士官学校卒業、戦争が終わるまでは職業軍人でした。私が生まれる前で、生前あまり父も積極的に語る事はなかった。大学に入り、少し父と同じ本を読み、同じ思索が出来ないか、或いは父と共有できるものはないかと思い、士官学校時代勉強になった本はないかと尋ねると、「クラウゼヴィッツ著の戦争論だ」とニヤッと笑った。何、まだ軍隊を引き摺っているの?と言うと、これは経営の原点としても通用する。お前も読むと良い。確か岩波文庫だったと思う。翻訳も複雑で、すっと読めない。ドイツの特徴であろう論理の几帳面さ、使われた言葉の硬質さ、難解だった。
 米国大学院留学前はJerome D. Salinger, のThe Catcher in the Rye、Kurt Vonnegut(カート・ヴォネガット)のモンキーハウスへようこそ、ハイアニスポートなど、雑誌The NewYorker に掲載される短編的、いかにもアメリカ的、都会的文章を読んでいた。当時の読解力では分厚い小説は難しく、ショートストーリーは助かった。
 戦争論はMBAを卒業し、NYで働き始めた際何冊かの本と共に、時間がある時読み直した。著者のクラウゼヴィッツ(Carl PhillipGottfried von Clausewitz:1780 - 1831)はプロイセンの軍人。戦争の研究に没頭し、政治、軍事政策の中枢でプロイセンのために働き、軍事教育者としても有名になった。「戦争論」の執筆途中で病いにたおれ、51歳でこの世を去った。
 「戦争論」が有名なのは、近代戦争を体系的に研究した最初の著作であり、戦略だけでなく、戦争と政治の関わりを包括的、体系的に論述しており、軍事戦略、政治学、そして経営戦略を学ぶ者にとって基本書とされている。科学的な分析方法(彼自身は「戦争は科学ではない」と言い切っているが)や哲学的手法をつかい、戦争研究を学問として確立させたという点で、それまでの戦術・兵法書と大きく異なる。そこでは勝つ事よりも負けない事を優先、そして補給線(兵站)の確保を強調している。ビジネスにも大切な点である。難解だが一読に値する。薦めます。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.32 2015) より