2-1. 学生オススメ」カテゴリーアーカイブ

読書猿著 『問題解決大全』

 

 文学部 3年生 匿名希望さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名: 問題解決大全
著者: 読書猿
出版社:フォレスト出版
出版年:2017年

近年、出版される本の数は星の数ほどあるが、その中から真に価値のある一冊を選び出すことは容易ではない。そんな状況において、2017年と比較的最近発売され、内容の優れた本として、この『問題解決大全』を上げたい。

本書は、そのタイトルの通り、人生において降りかかる様々な問題に対する解決方法の発見を提案する実用書だ。だが、それだけでなく、問題解決に至るまでのプロセスを様々な実例や問題解決の歴史を振り返ることでその本質まで掘り下げるという人文書のような一面も持ち合わせている。そのため、ハウツー本や自己啓発本を嫌うような方にもオススメできる内容となっている。

例えば、本書291ページに掲載されている「リフレーミング」を紹介する。これは、ものの見方を変えることで行動や状況を変え、認知を巻き込む悪循環から抜け出すという解決方法のことだ。だが、本書はその解説だけでなく、リフレーミングをわかりやすく伝えるため、事例として『トム・ソーヤの冒険』のペンキ塗りの話を上げ、さらにリフレーミングの起源と展開まで述べている。そのため、解決方法の理解だけでなく、一種の教養の勉強にもなり大変有意義なものとなっている。

ちなみに、作者である読書猿氏は、ギリシャ哲学から現代文学まで膨大な本を読んできたという読書の鬼であり、知識人である。そのような人物だからこそ書けたのだろう圧倒的な知識量の豊富さが本書から読み取ることができる。

実を言うと、私自身、こういった実学的な書物は毛嫌いするたちだったのだが、本書は様々な思考能力を得られるという観点からも他の人にオススメできるものだった。そのため、人生のハードルを乗り越えたいと思っている方はもちろん、実用書をあまり読まないという方もぜひ、本書を一読していただきたい。

有吉 佐和子著 『助左衛門四代記』

 文学部 3年生 匿名希望さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名: 助左衛門四代記
著者: 有吉佐和子
出版社:新潮社
出版年:1965年

言うまでもなく、小説とは創作のことだ。しかし、そこから感じられる雰囲気は本物でなくてはならない。そんな中、有吉佐和子の作品からは、本物の雰囲気を感じることができる。

有吉佐和子の作品は、『悪女について』、『恍惚の人』、『私は忘れない』、『華岡青洲の妻』、『複合汚染』など多様なテーマを取り扱っているが、そのどれもが本物の雰囲気を出している。そしてそれは、この『助左衛門四代記』においても同様であるといえる。

本作は、紀州海士郡木ノ本の大地主・垣内家の四代にわたる壮大な歴史を描いた物語である。垣内家の人々と、それを取り巻く村民たちを見事に描き出している。

物語は、冒頭にて初代助左衛門の母・妙が巡礼の老を怒らせてしまい、「7代まで祟ってやる」といわれるところから始まる。この言葉は、物語の登場人物たちだけでなく、読み手にも重い現実としてのしかかり、あっという間に物語に引き込まれていく。

また、本作に引き込まれる理由としてもう一つ、有吉の描く女性描写の素晴らしさがあげられる。本書は、四代の助左衛門たちに焦点を当ててはいるが、真の主人公はその妻たちであるといえる。

初代・助左衛門の妻・妙は朗らかな性格で誰からも好かれ、村民からも広く慕われている。長男と次男の嫁取り問題に妙案を出すなどし、垣内家に繁栄をもたらす。

二代目・助左衛門の妻は由緒ある神社、日前宮紀伊家の三女、円。彼女は高い教養を持つが、自分では一切家事をやらない。だが、不慮の事故で長男を亡くして以来、垣内家のために心血注ぎ働くようになる。

三代目・助左衛門の妻・梅野は円とは対照的に「男おんな」と呼ばれるほどの醜女で、さらに垣内家の仇敵、木本家の娘だった。しかし、円の輿入れが成功し、2つの家の確執が氷解。垣内家の繁栄は確固たるものとなる。

四代目・助左衛門の妻・小佐与は男子を生まなければというプレッシャーから命を落としてしまう。そこで、後添えとして八重という女性が妻となる。だが、彼女は女の意地・プライド・エゴを面々にみなぎらせた女で、有吉作品らしい意地の悪い姑を演じ切る。

四代250年もの歴史を無駄な文なく淡々と描き上げ、それでなお読者を引き付けてやまないというのには、有吉佐和子の文章力がずば抜けていると言わざるを得ないだろう。

チャールズ・ディケンズ著 村岡花子訳『クリスマス・キャロル』

 文学部 3年生 匿名希望さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名: クリスマス・キャロル
著者: チャールズ・ディケンズ 村岡花子訳
出版社:新潮社
出版年:2011年

皆さん、『クリスマス・キャロル』を読んだことがありますか?おそらく、読んだことのある方は少ないのではないかと思います。しかし、読んでいないという方、特に文学部の方は危機感をもってほしいと思います。なぜなら、この本は人生の中で読んでいて当然といえる程、子供の頃持っていた大切な思いが込められている本だからです。

物語は、ケチで意地悪なスクイージ老人が、クリスマスの夜に亡き仕事仲間・マーレイの幽霊と対面するところから始まります。マーレイの亡霊は、翌日から第一・第二・第三の幽霊がおまえの前に現れる、と話し姿を消します。すると、その言葉通りに幽霊が次々にスクイージの前にやってきます。そして、幽霊たちがスクイージに見せたものは、過去・現在・未来における彼の悲しい過去、見たくない現実、そして希望のない未来と現実でした。それらを見た後、スクイージはどう行動するのか?注目してもらいたいと思います。

この書評を読んでくださっている方の多くは、学生の方が多いのではないかと思います。学生というのはもうじき社会人となって立派に自立していく時であります。それはつまり、子どもの頃の心と記憶を忘れ、大人になっていくということでもあります。そんな時だからこそ、『クリスマス・キャロル』を読んでほしいと思います。もう、今の時点ですでに本作を読んで感動することやワクワクすることは難しいでしょう。しかし、今読んでおくことで幼かったころの自分、そしてクリスマスが近づくにつれワクワクしていたころの自分を思い出せるはずです。そのため、ぜひ一度、本作を読んでみてくれればと思います。きっと子供の頃の思い出に浸れるはずです。

十文字青著『灰と幻想のグリムガル level.1 ささやき、詠唱、祈り、目覚めよ』

 経済学部 3年生 匿名希望さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名: 灰と幻想のグリムガル level.1 ささやき、詠唱、祈り、目覚めよ
著者: 十文字青
出版社:オーバーラップ
出版年:2013年

主人公のハルヒロは、目が覚めると見知らぬ世界にいた。辺りは真っ暗で何も見えず、ここはどこなのか、なぜこんなところにいるのか分からず、記憶もない状況で物語はスタートします。ハルヒロと同じ場所に同じタイミングで11名の少年少女がいて、彼らもまた記憶喪失であり、かろうじて覚えているのは、自分の名前のみ。初対面の彼らは謎の案内人にこの世界は「グリムガル」であると告げられ、義勇兵団として、この国で戦うことを命じられる。「グリムガル」の世界のことは分からないが、とりあえず生きていくために、「グリムガル」のシステムに従うしかありません。義勇兵として戦い、世界に巣くうモンスターを討伐し、兵団の役に立つことを示されます。ただ、戦闘経験のない主人公たちはすぐにモンスターを倒せるわけでもなく、弱い装備とスキルをもとに、四苦八苦する毎日を送るが、少しずつ前に進もうとします。この物語の最大の見どころは、「生きることは、簡単じゃない」ということです。現実世界で生きてきたはずなのに、いきなりファンタジーの世界が現実となり、右も左もわからないけど生きるために何かしなきゃならない。食事にも宿屋に泊まるにもお金が必要で、それらのお金はモンスターを殺さないと手に入らない。生きるために戦って、時にはモンスターから返り討ちにあって死ぬかもしれない。けれど、死を覚悟して戦わなければ、毎日を生きることすら敵わない。生きるために、理不尽に立ち向かっていくことが本書の特徴であると思います。

この作品では普段体験することのできない心情を味わうことのできるとても素晴らしいものだと思います。王道のファンタジー作品としてはもちろん、主人公たちの心理描写やモンスター側の生きることへの執念も描かれていて、他のファンタジー作品では味わえない作品だと私は思います。この作品を見たら一度手に取ってみるのはいかがでしょうか。

藤原 和博著『本を読む人だけが手にするもの』

 経済学部 3年生 匿名希望さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名: 本を読む人だけが手にするもの
著者: 藤原 和博
出版社:日本実業出版社
出版年:2015年

私が今回おすすめする理由は、普段、読書をしない人がこの本書を読むことで、これから読書をしようかなと思わせるような本であると感じたからである。これまで、読書をする習慣のない人にはもちろん、読書をする習慣のある人にも読んでもらいたい一冊である。

今までに、「本を読みなさい」と親や先生に言われたことはないだろうか。そもそも、子供のころに親や先生にそう言われて、「なぜ、本を読まなくてならないのか」と思ったのではないだろうか。そして、そう言われつつ本を読まなかった人も大勢いるだろう。読書をする意味を見いだせなかった人に強く薦めたい。

本書を読み、特に私が興味を惹かれた部分は、幸福論と読書の関係性である。日本は戦後、一貫して右肩上がりに成長を遂げてきた。日本を成長させようと、みんなが一緒になって日本をよくしようという考えだった。それが20世紀型の成長社会が象徴する「みんな一緒」という幸福論であった。しかし、成長が止まり、成熟された社会となれば「みんな一緒」という時代から、「それぞれ一人一人」という時代に変わったのである。それぞれ一人一人が自分自身の幸福論を編集し、自分オリジナルの幸福論を持たなければならない時代になったということ。自らの幸福論を構築していくには、幸福をつかむための軸となる教養が必要であり、それは自分で獲得しなければならず、読書は幸福の追求に役立つ。読書をすることで得られることが本書には多く書かれている。

本書には、著者がおすすめする50冊の本を紹介しているが、本書を読んで、面白そうだと思えば読めばいいし、興味がないと思えば、無理に読む必要はないと私は思う。同じ本でも、人によって得られるものを違うので、おすすめされているから読むような義務感で読むのは良くないと思う。文学賞を受賞した話題の本だから読もうといったようなミーハーな気持ちでも、自らが読もうとすることが大切である。

小川糸著『リボン』

 文学部 2年生 匿名希望さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名: リボン
著者: 小川 糸
出版社:ポプラ社
出版年:2013年

このお話は、小川糸の「つばさのおくりもの」の前段階となるお話だ。この本のあらすじを紹介する。ある日、仲良しなおばあさんと少女が小さな鳥の卵を見つけ、ふたりで温めて、孵化させることにする。卵から生まれたのは、一羽の黄色いオカメインコであった。このオカメインコの名前がリボンである。この名前のように、リボンは様々な人を温かく結び付けていく。

筆者は、地元の図書館で「つばさのおくりもの」を先に見つけたので、そちらから読んだ。だから、「リボン」を読んで、リボンがどのように生まれ、もともとどこに、誰といたのか、誰と出会ったのか、どうしてその人たちと離れてしまったのかが明らかになったという感覚だった。

「つばさのおくりもの」では、リボンの視点から物語が進んでいく。リボンは自分の名前を忘れてしまっていて、日々を過ごしていきながら、最後には自分の名前を思い出す。その場面の台詞が一番印象に残っている。

「つばさのおくりもの」の最後の場面も感動したが、「つばさのおくりもの」を読んだ後に「リボン」を読んで、思わず涙が出そうだった。

小川糸の紡ぐ言葉は、声に出して読みたくなるような、心地よい言葉で溢れている。

「リボン」から読んでも「つばさのおくりもの」から読んでも、このお話は楽しめるだろう。

ぜひ一度、この優しい世界の中に入ってみてほしい。