2-1. 学生オススメ」カテゴリーアーカイブ

斎藤毅『微積分』

  経済学部 4年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:微積分
著者:斎藤 毅
出版社:東京大学出版会
出版年:2013年

 理系学部の一回生に読んでほしい微分・積分の本だ。原則として、すべての章末問題に略解がある。他の微積分の教科書と比べて、章末問題の解説は丁寧だ。解答への道程は、初学者が理解しやすい形で記されている。一回生の微分・積分の学習において、多くの学生は実数の連続性を理解できずにつまずいてしまう。実数の連続性という概念は、高等学校の数学における極限の定義をより厳密に定義したものである。この概念に対する理解を深めておくことは、後の微分・積分の学習に役立つものだ。ぜひ読んでほしい一冊である。
 経済学部の上級生及び意欲のある一回生にも読んでほしいものだ。微分・積分の専門書を社会科学系の学生に薦めることは、意外なことだと感じる人も多いだろう。経済学部では、一回生を対象とした入門レベルの講義において微分の概念を用いる。概念といっても、数学的に厳密な定義を与えるわけではない。機械的に計算することができれば、単位の修得には何ら支障がないのである。この計算が高い学習意欲を持つ学生の好奇心を削いでしまうことは論を待たない。彼らにとってみれば、それは簡単なことだからである。知的好奇心に富んだ学生は、経済学で用いる数学を深く学んで欲しい。経済学を専攻する学生は、決して数学者になりたいわけではない。ただ、理系学部の一回生レベルの数学を学ぶことは、経済学部の学生にとって有益である。
 この本を読むために準備すべきものがある。それは中学・高校レベルの数学に係るある程度の知識である。高校の理系コースを卒業した人は、スラスラ読むことができるだろう。高校の文系コースを卒業した人は、不足する知識をいくつか補うことが必要だ。根気強く取り組めば、読み進めることができる。躊躇せず、微分・積分の世界に飛び込んでほしい。大学へ入学する前、数学が不得手だった諸君の積極的なチャレンジを期待する。いわゆる「経済数学」に関心のある人は、ぜひこの本を読んでほしい。経済学部2回生終了時までに基礎的な微分・積分の知識を習得しておけば、上級科目の理解が容易になると考えられる。社会科学系の学生が数学を厳密に学ぶことは、論理を組み立てる有益な訓練になり得る。それは、あなたが他の学生と比べて有利な立場を得ることにつながるだろう。経済学の学習に数学の学習を上乗せすることにより、さまざまな場面において、多くの学生が優位な立場に立つことを期待する。

小塩隆士『公共経済学』

  経済学部 4年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:公共経済学
著者:小塩隆士
出版社:東洋経済新報社
出版年:2016年

 昨今、財政赤字に関する議論は各所において盛んである。我が国の財政事情を考えれば、自然なことだ。私たちの身近なところには、さまざまな情報が飛び交っている。信憑性の高いものもあれば、そうでないものもある。専門家の発言から論理の矛盾を見つけることは、一般の人々にとって至難の業だ。尤もらしいデータを目の当たりにした私たちは、それをなんとなく信じてしまう。多くの人にとっては、仕方のないことだろう。一般の人々の中で特に意欲のある人たちに読んでほしい一冊として、この本を推薦する。この本を読み終えた後、あなたは財政赤字に関する経済学的な理論を獲得したことに気付くだろう。これは、経済学部上級コースに向けたテキストであるから、経済学の知識を全く持たない読者は、それ相応の覚悟をもって臨むことが必要だ。経済学の門外漢である読者のために、いくつかの重要な経済学の理論を説明するページが設けられている。このページの解説は、非常に親切なものだった。読者の好奇心と学習意欲を維持するための素晴らしい解説である。経済学のテキストは、紙面の都合上記述内容を絞り込むことが多い。それゆえ、巷に出回るそれの大半は独習に不適である。一般の人々がそれに関する疑問を専門家に尋ねることは、極めて難しい。この本を読むとき、その点を心配する必要はない。読者が自力で理解できるように、この本は設計されている。興味を持って一度チャレンジしてほしいものだ。
 情報の非対称性を説明した第8章は、特に読んでほしいところである。医療保険と社会保険のあり方に関する記述は圧巻だ。比較的平易なグラフと数式を用いて、現行制度の概要並びにその課題について説明している。詳しい内容はぜひあなたの目で確かめて欲しい。著者の説明が明快であることに驚くだろう。学部中級レベルの経済学を理解した人は、難なく読み進めることができるはずだ。この本の記述を1行ずつていねいにかみ砕き、知識を自分のものにして欲しい。経済学の応用に関心のある人は、一読することを薦める。

湊かなえ『少女』

  文学部 4年生 水口正義さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:少女
著者:湊かなえ
出版社:双葉社
出版年:2012年

 「人が死ぬところを見てみたい。」これが、由紀の願いだった。異常なまでのその強い願望は、読者を驚愕させる。
 由紀はどこにでもいるような、普通の女子高生である。毎日真面目に学校に通い、勉強もよくできる。高校生といえば年代的に、身の回りに楽しいことがいくらでもあり、いつも何かに没頭しているようなイメージを抱く。しかし、彼女の生きる原動力となっているのは、誰かの死を見ること、ただそれだけである。
 一般の人の感覚からすれば、その原動力は誤ったものとして解されるが、由紀は人を殺そうとするわけでもなければ、だれかを操って殺させようとすることもない。死ぬところは見たい、でも直接手を下すようなことはしたくない。その葛藤がずっと続く。
 ある日、由紀の憎き人物が電車にはねられるが、彼女はその場に居合わせなかった。後でその事実を知った時、何を思っただろうか。ここでの心理描写は全く無い。不謹慎ではあるが、嫌いな人物がこの世から消えたなら、少なからず嬉しく思うだろう。しかし、由紀はこう思ったはずだ。「なんで私の前で死んでくれないの!」と。死ぬ人は誰でもよかったはずだが、この時ばかりは、殺したいぐらいの人が死んだのだから、それが見られず悔しくて仕方がなかったのではないだろうか。そんな狂気とも思える考えが、読み進めるうちに読者の頭の中に浮かぶようになる。
 ただし、この小説は由紀が人の死を見ることができるかどうか、に焦点化しているのではない。唯一無二の友人である敦子に助けられ、子供と触れ合い、自分が死にそうになった過去のトラウマとも闘いながら、人の死と対峙する様子が描かれているのである。途中までは、一人の若者の邪念のようなものがただ曝されているように感じられるかもしれないが、「人が死ぬところを見てみたい。」から始まる、ある女子高生の少し変わった夏休みの一遍である。

茂木健一郎『まっくらな中での対話』

  文学部 4年生 水口正義さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:まっくらな中での対話
著者:茂木健一郎
出版社:講談社
出版年:2011年

 この本で取り上げられている、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は、ドイツで発祥したエンターテインメントである。視覚障害を持つ人に連れられ、本当の暗闇の中に入る。その空間では、何も見えないながらも、そこに何が置かれているかを当てたり、食事をしたりする。それによって、人は何を感じ、人の中に何が起こるのかを、脳科学者の茂木健一郎が語る。内容の要旨ごとに評していきたい。
 第一に、現代の人は光のある世界から逃げられないでいるという事実を、この空間に入って初めて知るという点。暗闇の中で目を開けて何も見えないとき、じっと一点を見つめたりして、目の前に何かを見ようとする。そこには、見えないという事実を受け入れたくないという気持ちと、見えるはずだという思い込みがあるという。何も見えずあたふたする人の、子供っぽくて、マヌケな様子が詳述されているところが評価できる。
 第二に、光があるか否かで、人の感情はいとも簡単に大きく変容するという点。真っ暗闇の空間では、人の心は揺さぶられるという。何もしていなくても、ただ見えないというだけで、最初は不安に襲われ、次に慣れが起こり、最後には一種の安心感が得られるらしい。この感情の変容について、氏は体験者の一挙手一投足と語りを併せて分析しており、各段階の感情を理解する助けとなっている。
 第三に、視覚障害者と健常者の話し合いから見えてくる事実が述べられる点。人間の知覚の一つがないことは、それがマイナスになっているわけではないと氏は述べる。目が見えないから何かをしてあげなければならないなどと考えるのは、たまたま目が見えている健常者の勝手な妄想であるということが、この空間に入った後のアテンドと健常者の知覚能力の差から読者に伝わるところが良い。
 総じて、この一冊は暗闇の中にいる人がどうなるかだけが書かれているのではなく、そこから派生して、健常者の弱点、視覚障害者の考えと立ち位置まで書かれている点が特筆に値すると言えよう。

秋元康『恋について僕が話そう』

  文学部 4年生 水口正義さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:恋について僕が話そう
著者:秋元康
出版社:大和書房
出版年:1991年

 初めてこの『恋について僕が話そう』というタイトルを目にした時、「僕」は誰で、何を偉そうに言っているのだ、とツッコミに近い感情を抱いたのは私だけだろうか?
 「僕」は秋元康である。作詞家・プロデューサーという肩書を持つ。この本が書かれた1991年に流行っていたおニャン子クラブ、最近ではあのAKB48を生んだ人物である。アイドルを生む天才、と言っても過言ではないだろう。
 この本は、秋元氏の恋愛観に基づいて書かれているが、ハウツー本ではない。彼は当時の女性にむけて、本気の恋とは何かというような問いから、駄目な男の見分け方まで、恋について、ある個所では批判的に、ある個所では女性の味方となるような物言いで述べている。秋元氏は男性の弱点を突くようなことや、若い女性に足りないことをずばずば言うが、どっちが悪いとか。絶対にこうしなければならない、ということは決して言わないのだ。帯紙にもあるように、あくまでも「指南書」である。
 1991年はバブルの只中である。20年ほどではあるが、時代が異なる。当時の若者はPHSを使っていたぐらいなのだから、現代の恋愛と比することはできないはずだ。しかし、この一冊を読むと、どうも他人事のようには感じられない。一生懸命になれない恋は、本当の恋ではない。そんな決まりきったことが、はっきり、いくつも書かれているからかもしれない。
 この本を読んだ後の過ごし方について、私から一つ提案したい。それは、AKB48の歌の歌詞を読むことである。AKB48の曲数は今や千を数え、その多くは恋愛に関するものである。秋元氏は楽曲のほとんどを作詞しているため、この本と全く同じと言ってもいいぐらい、氏の恋愛観が如実に表れている歌詞がたくさんあるはずだ。そう考えると、たった一回読んだだけでは全然足りなくなってくる。氏の「恋愛観」という点と、「それが当てはまる歌詞」という点を線で結ぶゲームができそうだ。もっとも、それぞれの点の数は同じではなく、本人さえも答えが分からないだろうから、そのゲームは終わりなきものになるだろう。

浜田寿美男『自白の心理学』

  文学部 4年生 水口正義さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:自白の心理学
著者:浜田寿美男
出版社:岩波書店
出版年:2001年

 この書評は、あなた方の想像力によって成り立つ。まず、今、スマホか何かでニュースを観てほしい。
 強盗とか、様々な怖い情報が流れているだろうが、万引きなど、何か一つ、まだ犯人が捕まっていない犯罪を選び、自分がその犯人だったと仮定して、どうやってその事件を起こしたかを詳細に、時間、場所、犯行動機まで考えてほしい。
考えられただろうか?多分、「無理に決まってる。」と感じただろう。なぜならその事件は、今あなたがいる場所から遠く離れた場所で、あなたと全く関係のない家や店で起きた出来事だからである。
 しかし、あなたはその事件の犯人として逮捕される。そしてワケも分からず連行され、密室で、「いつ、どこで、なぜ、その事件を起こしたんだ」と繰り返し問われる。最初は当然、「知らない」と言い張るだろうが、その気力は徐々に減少してくる。そして、ついに「私がやりました。」と言う。
 あなたはやってもいない犯行をやったと言っているのだから、事件の詳細について知る由もない。犯行動機や侵入経路なんて分からない。じゃあ、「やっぱりやってません…」と言うしかない。でも、さっき一応自白してしまったし、何よりずっと「答えろ」と言われ続けているから、何か答えないと…と焦る。
 ついに、長期間の取り調べが終わる。つまり、その事件について、あなたは、あなたしか知り得ない情報を供述したとして、「完璧に」逮捕、起訴される。
 ここまでを読んでみて、おそらくあなたはそんなはずはない、と何度か思っただろう。特に、事件の詳細な供述なんてどう考えても不可能だ、と。しかし、そこにはトリックがあるのだ。絶対に犯人しか知らない情報を、赤の他人が言えるようになってしまう秘密があり、現場から何百キロも離れたところにいた人が、本当に捕まってしまうのだ。
 不可思議とも言える自白のメカニズムを知りたい人はもちろん、ここまでの想像上の話で一度でも、何かの疑いを抱いたあなたは、読んでおかなければならない一冊なのではないだろうか。