2-1. 学生オススメ」カテゴリーアーカイブ

有川 浩『図書館戦争』

文学部 3年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト) 

図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) : 角川文庫(日本文学): 有川浩

書名:図書館戦争
著者:有川 浩
出版社:角川書店 
出版年:2011年

  この物語はシリーズ化されており,別冊2冊も含めて全部で6冊ある。今回はシリーズ全体の書評を書こうと思う。

 「メディア良化法」という法律が成立した仮想の時代を舞台に,メディア良化法と対立する力を持った図書隊という組織に属する主人公たちが活躍する物語である。

 映画化もしており非常に人気のシリーズであるが,私がこの物語にハマった理由は,「胸キュン」である。切迫した戦闘シーンがある一方で,主人公の笠原郁という女の子が健気に恋をしているシーンは思わずキュンとしてしまう。さらには,笠原が所属する特殊部隊内での絶妙な掛け合いも魅力である。掛け合いのシーンでクスッとし,戦闘シーンでドキドキハラハラし,恋の場面でキュンとする。このシリーズでは様々な楽しみが味わえるのである。

 個人的には一巻目の「図書館戦争」は設定のベースとなる基本情報の説明が多く,笠原の恋模様もあまり描かれないので,堅苦しい印象を受け,少々難しいと感じた。しかしその設定を理解した上で二巻,三巻と読み進めていくとどんどんおもしろくなっていく。なので,一巻目で諦めず,二巻目に手を出してほしい。ハマること間違いなしである。

 もちろん,映画化した方も見てほしい。若い女性向けだと思われがちだが,アクションシーンは本当に圧巻で見応えがあるし,コメディーシーンも笑えるため,幅広い世代に勧めたい作品である。

石川 幹人『だまされ上手が生き残る 入門! 進化心理学』

理工学部 4年生 地主 大輝さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト) 

だまされ上手が生き残る

書名:だまされ上手が生き残る 入門!進化心理学
著者:石川 幹人
出版社:光文社 
出版年:2010年

 「進化心理学」というと、このレビューを読んでいただいている方にとって若干聞きなれない言葉かも知れない。かいつまんで言うならば、進化生物学と認知心理学の間にある学問で、我々が良い出来事に関して温かみを持ったり、何か悪いことがあればそれに対して憤ったりする。こういった感情は一体いつどのようにできたのだろうか。

 例えば本書冒頭にある例を一つ紹介したい。

 ゴキブリが怖いという感情がある。ゴキブリは怖いものだと教えられてなどいないのに、少なくともかのディズニー作品のようにゴキブリと一緒に掃除しようなどとは思わない。(注:ディズニーの件は本書にはないのと、このシーンは誰もしようとは思わないから面白いのであり、批判の意図はないことを付け足しておく)ゴキブリに恐怖心を持っている生物はゴキブリがいるような不衛生な場所を避けることが出来、寿命を延ばすことができた。逆に恐怖心を持たなかった生物は淘汰され、結果として我々がゴキブリを嫌うようになったと本書は主張する。

 このレビューを書いていてふと思ったことは、遥か昔の微生物が時代とともに”形”を幾度となく変えて人類が誕生したことは気にしても、我々が恐怖を抱いたり悲しんだりすることについて、これが何故そのような出来事に対してそのように感じることができるのかについて考えたことがない。この本は、そんな人間の、「中身」について、意外な一面を教えてくれたのかもしれない。

宮部 みゆき『悲嘆の門』

理工学部 4年生 地主大輝さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

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書名:悲嘆の門(上)、(下)
著者:宮部 みゆき
出版社:毎日新聞社 
出版年:2015年

 宮部さんの作品は以前から読んでおり、RPG好きな宮部さんらしいファンタジー小説は好きだなと思っていました。特に印象に残っていたのは「英雄の書」という幼い女の子が行方不明の兄を探しに異世界を旅するお話が、ラストのハッピーエンドともつかない切ないものだったので印象に残っていました。で何故この本の話をするのかといえば、今回ご紹介するこの本は、じつはその本の続編であるからです。といっても今回の作品の舞台は普通の世界なので、宮部さんチックのSFがドドンと出ているものではないのですが、それでも食いついて読むことができました。 

 ここでちょっと上巻の内容をこぼすと、とあるネット監視会社でバイトをする大学生三島孝太郎の周囲で不気味な出来事が起こります。一つは妹の友人がネットでいじめられ、彼女の母親から相談を受け、二つ目に体の一部が切断される不気味な連続殺人が発生します。そして、友人の森永が失踪してしまう。孝太郎は友人が最後にたどった道を調べる……というところから物語が徐々に始まっていきます。 

 読んでいていくつか気になったところがありました。この本には、ネット社会の乱用に対する宮部さんなりの警鐘も含まれているのではないかと感じました。じつは作品中にネットの闇とも言うべき問題がいくつか登場します。例えば先に述べたネットのいじめや、再生回数稼ぎになると言って、見るに堪えないあるものをネットにばらまくなど……現実のネット社会も、社会の不満や先の不安を憂いてネット上に極めて感情に走りすぎた言動をバラまいたり、大きくバイアスのかかった種々の言葉をぶちまけたりするコメントや書き込みが大半を占めている。宮部さんはこのような状態に警鐘を鳴らしているのではないかと感じました。

 そして、この”極めて感情に走りすぎたもの”は、主人公である孝太郎も、彼にとって悲痛なある出来事によってそれに傾倒してしまいます。一体その出来事とはなんなのか、それによって彼がどんな”姿”になってしまうのか、それはみなさんが読んでからのお楽しみに取っておくことにします。

曽根 毅『花修』

文学部 4年生 川嶋健佑さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:花修 : 曾根毅句集
著者:曾根 毅
出版社:深夜叢書社 
出版年:2015年

 2015年に出版されて句集のなかでも抜群に読み応えのある句集がこの花修であった。

 作者の曾根さんは東日本大震災が起こったまさにその時、仙台港にいたことが付属の栞に記されている。そのこともあってか震災に関係していそうな句が目立つ。以下にその句を上げる。

   薄明とセシウムを負い露草よ

   桐一葉ここにもマイクロシーベルト

   燃え残るプルトニウムと傘の骨

   諸葛菜活断層の上にかな

 句の質感としては重い。しかし、作者の伝えたいことが句の表層に現れてこないため、その質感は如何様にも解釈ができる。それは漫然と震災句として流される可能性もあるし、曾根さん自身の訴えかけのように受け止められる可能性もある。だが、ひとつとして多くを語った句はない。つまり1句ごとに俳句としての無機質さ、広い意味での客観性を維持しているのだ。それは先に挙げた句以外にも共通する。

 以下に挙げる句はこの句集のなかでも個人的に抒情性を感じるものだ。

   存在の時を余さず鶴帰る

   かかわりのメモの散乱夕立雲

   快楽以後紙のコップと死が残り

 「存在の時」、「かかわりのメモ」、「快楽以後」、どのことばも抽象度が高い。この抽象度の高さが句に余白を生み、抒情へと繋がっていく気がする。以下に挙げる昭和を代表する俳人の抒情性と曾根さんの抒情性を比べると違いがはっきりする。

   炎天の遠き帆やわがこころの帆 山口誓子

   玫瑰や今も沖には未来あり 中村草田男

   バスを待ち大路の春をうたがはず 石田波郷

 これらの抒情的な句は、言い換えれば「青春性」と言ってもよいだろう。それと比べると曾根さんの句はどこか「無機質な抒情」といった感じ。もしかしたら平成の抒情とはこういったものかもしれない。

 少し話はズレるが、句集は1頁に2句から4句しか載っていないものが多い。それは1句ごとに立ち止まって読んで欲しいという思いから、その形態にしているそうである。そういった意味ではこの花修は間違いなく1句ごとに立ち止まらないといけない句が並んでいる。

ランドール・マンロー『ホワット・イフ? 野球のボールを光速で投げたらどうなるか』

 文学部 2年生 中西聖也さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:ホワット・イフ? 野球のボールを光速で投げたらどうなるか
著者:ランドール・マンロー
出版社:早川書房  
出版年:2015年

 この本は科学の本である。科学と聞いて頭が痛くなってきた方が居るかもしれない。申し訳ない。とりあえず熱さまシートを使ってください。また、「文学部なのに科学の本かよ」とツッコミをいれた方が居るかもしれない。申し訳ない。とりあえず最後まで読んでみてください。
 『空想科学読本』という本をご存じだろうか。アニメや漫画などの空想科学を真面目に考える本である。本書はだいたいそれに近いものだと考えてもらっていい。ただ、扱っているものは広く一般的な疑問であり、アメリカ製であるという違いはある。
 著者ランドール・マンローは元NASA研究員であり、今はマンガ家をやっている。彼の趣味は自身のWEBサイトに寄せられた突拍子も無いような空想的な質問に対して、あらゆる手段を用いて真面目に考え、「ユーモア」を添えて回答することである。本書はその回答の集大成だ。科学・数学を駆使し、時には専門家に問い合わせ、必要とあれば論文を読みあさり、棒人間や図を用いて解説していく。それでは、どんな質問が収録されているかを少しだけ紹介しよう。
 「野球のボールを光速で投げたらどうなる?」
 表題作。ピッチャーから放たれたボールの速さは時速約10億キロ。1ナノ秒ごとに様々なことが起こる。果たしてバッターの運命はいかに。
 「地球の人が全員集まってジャンプしたらどうなる?」
 何らかの摩訶不思議な方法でロードアイランド州に集められてしまった人類。彼らは正午の時報とともに一斉にジャンプしてみたのだが…
 「ヨーダのフォースってどれくらい?」
 スター・ウォーズに登場するキャラクター、ヨーダ。著者は映画を何回も何回も何回も再生して、ヨーダの持つフォースの数値化に挑んだ。
 本書の良いところは、難しそうな科学への扉をぶっ壊してくれるところだ。難しい言葉を使っていても、シュールなイラストが理解を助けてくれる。60個以上の質問のどれを読んでも、「科学ってなんだか面白い」と思わせてくれる。理系の世界の広さを感じさせてくれる著者の「桁違い」な回答を、どうぞお楽しみください。 

坪内 稔典 『俳人漱石』

 文学部 4年生 川嶋健佑さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:俳人漱石
著者:坪内 稔典
出版社:岩波書店  
出版年:2003年

 
 夏目漱石は、『吾輩は猫である』や『坊ちゃん』『こころ』など、数々の作品を残したことで有名であるが、俳人としての漱石はあまり大衆へ広く認知されているとは言い難い。漱石は22歳のときに出会った正岡子規の影響で俳句を作るようになる。漱石は、書簡で何度も正岡子規に俳句を送り、添削を求め、「善悪を問わず出来ただけ送るなり。さよう心得給え。悪いのは遠慮なく評し給え。その代りいいのは少しほめ給え」(p70)と注文をつけたりもしている。漱石にとって子規はまさしく俳句の師匠であったのだ。
 本書は、その夏目漱石と正岡子規と著者である坪内稔典の架空対談で、漱石の100句を挙げ、1句1句について当時のことを回想しながら対談するというスタイルをとっている。漱石に関する一般書は、小説家としての「夏目漱石」に焦点を当てられがちだが、漱石の作家としての出発は俳句であり、漱石を語るときに俳人としての、漱石を抜きにしては語れない部分がある。そういった意味では俳人漱石に焦点を当てた意義は大きく、また架空対談という愉快なスタイルで、漱石自身が、子規や現代を生きる著者の坪内稔典と意見を交わすのは読者としても親しみやすい。
 夏目鏡子の『漱石の思い出』(文春文庫)や子規の『俳句大要』、その他文献を読み漁るよりも、手軽である。
 ただ、架空対談であるので著者、坪内稔典の都合の良い展開で進み、坪内の意見に子規や漱石が反論できないのは些か不都合で、本人たちが生きていたら怒ったであろう。漱石だけでなく、子規の人物像についても詳しく知ることができ、ついでに坪内稔典がどういった俳句を作っているのかも知ることができる。正岡子規は、怒ると松山弁が出てしまう設定など、かなり笑える。