月別アーカイブ: 2018年4月

三好大輔先生(フロンティアサイエンス学部)「「どう生きるべきか」 vs.「どう生きたいか」」

☆新入生向けの図書案内
 ご入学おめでとうございます。新しい生活や環境に期待と不安がない交ぜになられているかもしれません。18 歳の今まで違う場所や学校で過ごしてきた同級生が集まって、新生活が始まります。楽しみとともに大変なことがあるのは当然かもしれませんね。でもフレッシュで有意義な学生生活を過ごせるように、教職員一同で全力でサポートしていることも忘れないでください。皆さんが新生活を始めるときにお勧めしたい本が、『君たちはどう生きるか』吉野源三郎著(岩波文庫)です。実はこの本は、中学生の娘が読もうと持っていたのですが、私も読んだことがあって、懐かしく思ったものです。宮崎駿監督が映画化しようとされていて話題になっていますから、ご存知の方もいるかもしれません。『君たちはどう生きるか』が発行されたのは、1937 年です。戦争の影が色濃くなってきている頃です。著者は言論統制などが行われつつあった当時、子供には良い本を読んでほしいと思い、また反戦の気持ちも込めてこの本を記したそうです。ちょうど発刊されてから80 年です。日本が再び周辺の国々との軋轢を感じ始めている今日この頃に、本書を原作とするコミックやアニメが作製されるのは偶然では無いのかもしれません。
 本書の主人公は、コペル君というお父さんをなくした中学生です。コペル君が日々感じたことについて、お父さん代わりの叔父さんが将来のコペル君にメッセージを記していきます。日々の様々な気づきについて叔父さんがその意味や意義を丁寧に解説していきます。コペル君の純粋な思いと、叔父さんのコペル君を思う気持ちが、私たちの心を熱く、暖かくしてくれます。人が生きていくうえで大切なことが、時を経ても普遍なのかもしれません。新しい環境で新しい友人と始める何気ない日常にこそ、これからの人生に大切なことが潜んでいることを再認識させてくれるのが本書だと思います。私も30 年ぶりほどに読んで、気持ちを新たにしています。中学生に向けて80 年前に書かれた本が、50 を前にしたオッチャンに「どう生きるか」を考えさせてくれます。他人から「どう生きるべきか」と諭されるのではなく、これからの「人生をどう生きたいか」を、新しい仲間との体験から考えてみてはどうでしょう。新生活を始めるこのタイミングでぜひ皆さんにもぜひ読んでほしいと思います。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より


JONES Brent A.先生(マネジメント創造学部)「座って楽しめる冒険」

☆新入生向けの図書案内
 この機会に甲南新入生の皆さんに私の読書にまつわる楽しい思い出と読書、特に図書館へ行くことの喜びや価値についてお話ししたいと思います。私は長年にわたる読書が私に多くのエンターテイメントを与えてくれたと同時に、私を人間として磨き、人生のチャレンジに向かって生きていける準備を整えてくれたと硬く信じています。私の話を最後まで読んで下さい。きっといいことがあります!
 まず、私が大変幸運だったのは読書を愛する母の存在と、母がその楽しさを子供と共に分かち合ってくれたことです。家に置いてある本や図書館で借りてきた本を通して、私は遠くの地を旅行することができ、いろいろな文化に触れ、多くの冒険に参加することができました。幼少の頃好きだったのは『ロビンソン・クルーソー』(ダニエル・デフォー著)、『千夜一夜』(多数著者)、『アウトサイダーズ』(S.E. ヒントン著)です。これらの物語は私の世界に対する理解を深め、私の性格や個性の形成に大きく影響を与えました。また、私は雑誌も好きで、ナショナルジオグラフィック、ポピュラーメカニック、ボーイズライフなどを読み、マッドマガジンなどにも寄り道していました。日本に来たのも読書の影響があります。18、19 歳の頃にハワイのカウアイ島の北海岸にキャンプ旅行に行った時、ジェームス・クラベルの1152 ページに及ぶ『将軍』を読破しました。優れた本にはありがちですが、私はこの小説に浸透し食事やその他のことも忘れるほど没頭しました。
 勉強の面では、私は学術的書籍に大いに恩恵を受けました。高校生として学校の図書室に通うことを教え込まれ、優れた百科事典に感心しました。たくさんの知識が図書室の1棚1棚に集まっていることに畏敬の念を持ちました。もちろん現在ではインターネットがありこれらすべてのものにアクセス可能です。しかし、図書室の安らぎへ逃げ込む事は楽しさの1つです。トピックからトピックにジャンプし空想に深く入り込むものは本当にこの上ない喜びです。スマートフォンなどの最新技術がこのような喜びを現代の、そして未来の若者から奪わないことを願います。
 私の専門は外国語教育ですが、私はいつもビジネス関連の団体や学部と共に仕事に取り組んでいます。このことから、私はビジネス分野の本をかなりの量読んでいます。その中で多くの概念や理論は私の研究分野、教育に応用できるからです。これは幅広い分野の本を読むことの喜びや価値であり、私の人生の他の部分にリンクし、重なります。
 私の読書習慣は、良い悪いかはわかりませんが、いくつかの本を同時に読むことです。その時の気分によりあっちこっちと別の本を読みます。また、読んだ物語や考えについて友達や家族と話し合うことも喜び を違った次元に持って行ってくれ、本からの知識や経験を自分のものにする手助けをしてくれます。
 みなさんが多くの本の冒険を楽しめますように。さて、私も自分の読書に戻らなければ。
 で、いいことって何でしょう?それは、冒険と知識の世界です…すべては甲南大学の図書館にありますよ。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より


古田美保先生(経営学部)「吉田洋一著『零の発見〜数学の生いたち〜』岩波新書」

☆新入生向けの図書案内
 経営学部は文系学部であり、入試でも数学の素養は必ずしも問われていない。そのこともあってか、学生の中には数学への苦手意識を持つ者も少なくない。その延長線で、「(数学が苦手だから)会計学も苦手で」と言われることが多々あり、その都度「会計学は数学とは異なるものであり、数学の知識は必ずしも問われない」と説明するのだが、内心忸怩たるものを感じている。彼らにも一度考えてみて欲しいのだが、苦手だったのは「数学」ではなく、「数学の試験」だったのではないだろうか。大学受験を終え、進む道を選べば数学の試験を受ける必要はそう多くなくなったことと思う。であればこそ、本当の数学とは何かを考えてみるきっかけになればと願い、本書を紹介する。
 本書の前半では零という表記がいかに画期的なものであり、その概念はいつ発生したのかを平易に説明し、後半では零の概念から派生する数列・数直線についていかにも数学者らしく説明する。正直に言えば、標題の「零の発見」については位取り表記のためという説明となっており、1と−1の間の数である「零」の発見という観点からは疑問を残す説明になっている気はする。しかし、この本を初めて読んだ時、中学くらいだったか、実に身近な「零」のかように重大な意義に気づかされ、まさに「目から鱗」の心地だった。そもそも「数えるため」であれば正数だけで足りる。しかし、「零」の概念なしには日常を過ごすことも困難だ。まさに起点、原点であり、ここから正と負、実数と虚数の概念が生まれ、また文学的表現としても経営学的経済学的分析としても豊かさを生じさせる。まさに「零」という「無」が「有」を生んだ発見であり、同時に身近で見過ごされやすいことを熟考することの意義を考えさせられた。
 本書を含め、岩波新書や講談社ブルーバックスシリーズはこのような驚き、発見に溢れたシリーズだと思う。読書や日々の思考を豊かにする材料にもなる。図書館を活用し、ぜひ手当たり次第に読破してもらいたい。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より


櫻井智章先生(法学部)「事実は小説よりも奇なり」

☆新入生向けの図書案内
 現代社会は法に基づいて運用されているから、法的知識は、将来どのような分野に進もうとも、必要な(少なくとも無いよりはあった方が断然有利な)知識である。そう考える人は学生・社会人を問わず比較的多いと思われるが、いざ法学の学習を始めると挫折する人が多いのも事実である。入門書でも、勉強しやすいよう工夫されているものも多くなってきているとはいえ、「法の概念」「法の分類」など直ちに役立ちそうにない抽象的な説明が並んでいる(これらは体系的学習という観点からは重要な知識であり、執筆者が書きたくなる気はよくわかる)。こうした最初のつまずきが「法学は難しい」というイメージを生んでいるのではないかと考えられる。
 しかし、法は現実の社会で起こる紛争を未然に防止し、起こってしまった紛争を合理的に解決するために存在しているものである(だからこそ、現代社会において法的知識が重要なのである)。法学の入門書を読んで面白くなかった人は、実際の裁判例を読んでみてはどうだろうか。『判例時報』や『判例タイムズ』には多くの裁判例が掲載されている(ともに図書館に所蔵されている)。「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるように、現実に起こる紛争は多種多様で、なぜそのような事件が起こったのか全く不可解な事件、思わず当事者に同情したくなるような事件など、小説より面白い事件もたくさんある。裁判官や検察官はキチンとした人たちだと思っているかもしれないが、彼らがグズグズだったために起きたトホホな事件もある(判例時報1884 号45 頁)。できれば第一審のものがよいだろう(控訴審判決は第一審判決を引用する形で書かれるので読みにくく、最高裁判決は法解釈の争いが中心であるため難しい)。目次を見て興味のありそうな事件を読んでみるとよい。最初は難しいかもしれないが、読んでいくうちに、裁判所がなぜその事実を重視したのか、この解決はおかしいのではないか、などと疑問を持つようになれば、法学についてかなりの実力の持ち主になっているはずである。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より


森本 裕先生(経済学部)「より良い仕組みを目指して」

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書名:市場を創る
筆者:ジョン・マクミラン(瀧澤弘和・木村友二 訳)
NTT 出版株式会社 2007 年
 「社会の役に立ちたい」「世の中を良くしたい」と考えている学生におすすめなのが、ジョン・マクミランの『市場を創る』です。
 市場(しじょう)というのは、金銭と財・サービスを交換するすべての場を示す表現です。ですから、身近なコンビニやスーパー、そして病院や大学も市場ということができます。かつての経済理論では、市場は自律的なので政府による介入は不要とされてきました。アダム・スミスの「神の見えざる手」の世界ですね。しかし、現実には市場を放っておくことはできません。放置された市場では、独占企業による価格の吊り上げ、無知に付け込んだ詐欺、利益偏重な企業活動による環境破壊といった問題が生じてしまいます。このような社会問題を解消するためには、取引のルールを作らなければなりません。整えられたルールを有する、規律ある市場が必要なのです。本書では全17 章にわたって、うまく市場を創れた成功事例を紹介しています。
 では、具体的な事例を一つ見てみましょう。第9章「特許という困惑」では、貧困国のエイズ問題について書かれています。かつては死の病であったエイズですが、1990 年代に治療薬が開発され、症状を抑え込めるようになりました。しかし、薬価が年間100 万円もするため、貧困国では薬を買うことができませんでした。販売価格は100 万円ですが、実は、製造には数万円しかかかりません。残りは製薬会社の利益になるわけですが、みなさん、「ぼったくり企業め!」と思うでしょうか?確かに原価率はものすごく低いのですが、新薬の開発には巨費が投じられているので、それを回収しなければなりません。そのために価格が高いのです。もし、この100 万円の価格を原価である数万円まで引き下げられれば、貧困国の患者も薬を買うことができるようになります。企業の利益を確保しつつ、貧困国の患者を救済するいいアイデアがないかということで、考え出されたのが次のルールです。「先進国では定価で販売し、大いに利益を上げる。一方、貧困国では原価で販売し、利益は一切出さない。」ということになったのです。このルールのおかげで、企業も患者もWin-Win の関係になることができました。
 ほかにも色々な、アッと驚く成功例が納められていますので、ぜひ読破してみてください。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より


須佐 元先生(理工学部)「とにかく沢山読もう」

☆新入生向けの図書案内
 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これからの新生活に心踊らせていることと思います。皆さんはこれまでも沢山の本を読んで来られたと思いますが、これからの四年間は、たっぷりと読書の時間が取れる人生の中でとても貴重な時間です。読書にはルールはありません。読書はまずは楽しみであり、同時に知識を得るための一つの方法です。読みたい本をできるだけ沢山読んでください。そこで得た知識は糧となり、また身についた読書習慣は今後の長い人生に、人工的ではない美しい色合いと深みを与えてくれるはずです。みなさんの選書の助けとなるかどうかわかり
ませんが、私が最近気に入った本を紹介しておきます。
『淳子のてっぺん』 唯川恵著
 これは世界で初めてエベレスト登頂に成功した田部井淳子さんのノンフィクションストーリーです。彼女の世代ではまだまだ女性登山家は少なく、登山家の世界は典型的な男社会でした。その中で決して諦めずに自分の信じた道を歩き、パイオニアと言って良い存在になっていった先達のストーリーです。現在でも日本は先進国の中では女性の
社会参加はかなり遅れていると言われています。皆さんにはぜひ一度手にとって欲しい一冊です。
『銀河鉄道の父』 門井慶喜著
 これはあまりにも有名な童話「銀河鉄道の夜」の作者である、宮沢賢治の父の視点からみた賢治の一生の物語です。ずば抜けた感性を持った賢治が普通の俊英からどの様に文学者へと脱皮していったのか、またその過程に父のどのような苦しみ、右往左往があったのかが描かれています。皆さんの視点から言えば、皆さんの保護者の方々がどのような気持ちで皆さんを見守っているのかということがわかるのではないでしょうか。
『宇沢弘文のメッセージ』 大塚信一著
 これは宇沢弘文と言う伝説的経済学者の業績に関して伝記的にまとめられたものです。数学者として出発した宇沢は経済学に転じ、そこで大きな業績をあげていきます。宇沢の思想には常に社会的弱者の視点があり、それが「社会的共通資本」という考えに結実していきます。門外漢でも読めるように書かれており、社会問題への意識を喚起し、偉大な先達の人生のあり方を学ぶという点でお薦めします。
 以上3冊推薦しましたが、とにかくそれぞれがそれぞれの興味の赴くままに本を読んで下さい。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より