2.おすすめの本」カテゴリーアーカイブ

水澤克子先生(スポーツ・健康科学教育研究センタ)「推薦する図書」

☆新入生向けの図書案内
学生時代はさまざまな本を読んでほしいと思います。
同じテーマでも著者によって視点が違うのを見つけるのも面白いです。また、名作と言われる著作に出てくる言葉遣いや美しい表現、若手作家の新鮮な表現も楽しんでください。
あなたがめくった1ページにあなたの人生の支えになる一文があるかもしれません。

著者: 司馬遼太郎
タイトル: 坂の上の雲
出版者: 文藝春秋
出版年: 2004(新装版)
配置場所:  図書館2階開架一般
請求記号: 913.6//2263
※文春文庫からも出版されています。

何度も増刷されている小説ですし、NHK でドラマ化されているので、ご存じの人も多いでしょう。私は高校3年~大学1年の間に読みました。明治維新後の小さな日本が、列強に押しつぶされないために精一杯の努力をして、かろうじて勝った日清・日露戦争を通して、当時の日本の姿が描かれています。
小説としての面白さもありますが、PDCA サイクル(Plan 計画→ Do 実行→ Check 評価→Act 改善を繰り返すこと)の具体例がここにあるとおもいます。
戦争に勝たねば日本は列強につぶされるという崖っぷちに立たされた当時の日本人が、戦争に勝つという目標達成のために、刻々と変わる戦況や日本を取り巻く世界情勢を視野に入れ、どのように相手を分析し戦いを計画し実行したのか、が書かれています。
「目標に向かって頑張る」とか「努力する」という言葉はよく使われますが、具体的な目標に対する具体的な方法がない限り、目標は達成できません。
戦争の是非はともかくとして、目標達成のためにはどうしたらよいか、というときに読んでみてほしい本です。

著者: 立川昭二著
タイトル: からだことば
出版者: 早川書房
出版年: 2000
配置場所:  図書館1階特設
請求記号: 810.4//2085
著者: 斎藤孝著
タイトル: 身体感覚を取り戻す ―腰・ハラ文化の再生―
出版者: NHK ブックス
出版年: 2000
配置場所:  図書館1階開架一般
請求記号: 361.5/Sa25
著者: 野口三千三
タイトル: 野口体操 からだに貞く,おもさに貞く,ことばに貞く
出版者: 春秋社
出版年: 2000-2004
配置場所:  図書館1階開架一般
請求記号: 498.3//2009,498.3//2006,498.3//2012

いずれの本も、「からだ、体、身体、カラダ」がキーワードになっています。
といっても、健康や体力についての本ではありません。
日本の身体文化やからだ言葉についての歴史や解説です。
“からだ”という最も身近な存在の感覚をきちんと受けて止めて、それを表現することがおろそかになっているのではないか、そして、それが最近の「ムカつく」「キレる」「コミュニケーション能力不足」につながっているのではないか、ということが書かれています。身体・ことば・表現・コミュニケーションに関心のある人にも、ない人にも読んでほしい本です。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より

金泰虎先生(国際言語文化センター)推薦『論語』

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甲南大学生の豊かな情緒を涵養させるため、推薦させて頂きたい図書は『論語』です。『論語』は、儒教経典である4書(論語・大学・中庸・孟子)の中の1つですが、簡単に言えば孔子とその弟子の言行録をもって綴った、日常生活における実践的処世や道理を説いている古典です。
『古事記』によると、応神天皇の時、百済から王仁が日本に『論語』を持ち込んだとされています。岩波書店から携帯しやすい文庫版が出ています。文庫版は、原本として日本の清原家の証本を基本に唐の開成石経と対校、そして読み下しは江戸時代における林羅山の道春点と後藤芝山の後藤点を参考にしています。
さらに、長い年月の間に数多くの注釈書が出ていますが、現代語訳には魏の何晏の集解(古注)、後漢の鄭玄注(鄭注)、南宋の朱熹の集注(新注)を参考にしています。
ところで、ある人は『論語』は社会の基盤が農業中心だった時代に書かれた書物であるため、産業社会よりも遙かに発展を遂げている今のIT(Information Technology) 時代には適応しないとか、復古主義・封建主義・行き過ぎた道徳主義を強調するなどと批評します。しかし、第1の学而篇から第20 の尭曰篇までをかみ砕いてみると、時代や社会体制とは関係なく、普遍的に通用されることを我々に提示していると思います。
大学における教養教育の弱体化、それに相まって到来したグローバル化時代は、大学生の読書生活にも大きな変化をもたらしたと言えます。つまり、多くの大学生は古典などの教養を育むような書物の読書は愚か、インターネットに流れている情報だけを頼りにしているのです。ぜひ、『論語』という古典を通して今の社会に通用する、人間の普遍的な価値観や倫理観を構築してほしいです。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より

石川路子先生(経済学部)推薦『20歳のときに知っておきたかったこと』

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著者: ティナ・シーリグ
タイトル: 20歳のときに知っておきたかったこと -スタンフォード大学集中講義-
出版者: 阪急コミュニケーションズ
出版年: 2010
配置場所: 図書館 2階中山文庫一般
請求記号: 159/SE

大学に入学して、驚くことの一つが「講義の多さ」かもしれません。大学では専門性の高い様々な講義が開講されています。みなさんは、これらの中から自分の興味に応じて講義を選択し、4年間学んでいくわけです。この本では、アメリカの名門スタンフォード大学の起業家育成コースで教鞭を執る著者が、自身の講義内容を踏まえ、学生たちに伝えたいことを熱く語っています。
「いま、手元に五ドルあります。二時間でできるだけ増やせと言われたら、みなさんはどうしますか?」
講義の中で、彼女は学生にこう問いかけます。さらに問いかけるだけではなく、実際にそれを実行させ、その成果を発表させるのです。みなさんはこのような講義をどう思いますか?
残念ながら、日本の大学では数百名の受講生を前に教師が一方的にレクチャーをするというスタイルで行われる講義が多いです。一度に多くの人々に専門的な知識を教授するにはこのスタイルは有効です(もちろん、海外でもこのような講義は存在します)。しかし、このような講義では、学生はどうしても受け身になってしまい、「自分で考える力」を身につけることは難しいと思います。
著者の講義で課される無謀な(?)課題を前に、途方に暮れる受講生も多いようですが、少なくとも彼女の講義スタイルは「自分で考える力」を養うという点では非常に効果的であると言えるでしょう。
大学の講義は、単に卒業のための単位を「稼ぐ」ものではありません。社会人として必要な知識や教養を身につけるものです。この本を読むと、改めてそのことに気づかされると思います。
「実社会の生活は、出題範囲が決められずに、どこからでも出される試験のようなものです。」大学の講義に真面目に出席し、試験でいい点数を取ることだけを目標にしてはいけません。社会人になって、のびのびと、楽しく生きていくために、みなさんが大学で学ぶべきことをこの本はきっと教えてくれるはずです。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より

田中貴子先生(文学部)「汝、心の旅をせよ」

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著者: 沢木耕太郎
タイトル: 深夜特急 第1便~第3便
出版者: 新潮社
出版年: 1986
配置場所: 図書館2階中山文庫一般
請求記号: 915/SA/1~3
著者: 中村安希
タイトル: インパラの朝 : ユーラシア・アフリカ大陸684日
出版者: 集英社
出版年: 2009
配置場所: 図書館1階開架一般
請求記号: 292.09//2016

「若者は学校でよりはるかに多く酒と旅で学ぶ」とモンテーニュが言ったそうである。これは女子学生のいなかった昔の話であり、今は「若者は学校でよりはるかに多くバイトで学ぶ」というべきかも知れない。大学生に酒を勧めるのは御法度になったし、学生には旅をする時間もお金もないだろう。それが悪いことだとは言わないし、「私の若い頃は」などといった回顧譚もしない。ただ、家と大学とバイトだけだと心がだんだん疲れてくるのはたしかである。体の疲れと違って、心の疲れは若者から「若さ」を奪ってゆく。
だから、旅をしよう。実際に行かなくてもいいのだ。たとえば本に書かれた旅を読書によって追体験するのなら、お金はほとんどかからない。もちろん、一人旅である。一人ぽっちの旅は、自分で自分の身を守り、金勘定をし、いやおうなく人と交流しなければならない。そんな、誰も助けてはくれない旅を昨今の親御さんはなかなか許さないだろうから、それを本で体験してみることをおすすめする。今まで見ていたはずの世界がぐるりと反転して、まったく違ったものが見えてくるはずである。
私が今まで学生たちにすすめた本の一つに、沢木耕太郎の『深夜特急』全6巻(新潮文庫)がある。ノンフィクションライターの沢木氏が、若い頃、日本からロンドンまで普通電車とバスだけで旅したエッセーである。アジアの真ん中を駆け抜けた彼の貧乏旅行は、「自分の目で世界を見る」ための旅だった。もう一つ、開高健ノンフィクション賞を受賞した、中村安希の『インパラの朝』(集英社)もすごい。女性一人でユーラシア・アフリカ大陸を二年半にわたって放浪した記録である。旅の中で若者が挫折し、成長してゆくありさまがリアルにとられられている。読んだら止められなくなることうけあいだ。
心のビタミンになってくれる本と出会うこと。それが一番大切なことである。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より

島本憲一先生(マネジメント創造学部学部)推薦『生態学からみた自然保護地域とその多様性保全』

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著者: 大澤雅彦 監修, (財)日本自然保護協会 編集
タイトル: 生態学からみた自然保護地域とその多様性保全
出版者: 講談社
出版年: 2008
配置場所: 図書館 1階開架一般
請求記号: 519.8//2025

日本の自然保護地域には、国立・国定・都道府県立自然公園をはじめ、自然環境保全地域、鳥獣保護区、森林生態系保護地域など様々なものがある。その一方で、国際条約などの保護地域としては、世界自然遺産、生物圏保存地域、ラムサール湿地などが挙げられる。このような自然保護地域は、指定地域、対象とする生物・自然としても個体・種・生態系など多岐にわたる。また、そのような自然保護地域は、それぞれ異なる理念や目的から成り立っており、相互のカテゴリーの関連性や保護管理の方法も異なり、専門家でさえも混同しがちである。
そこで、本書は、日本の多種にわたる自然保護地域に関して、その情報の整理を試みている。また、それぞれの自然保護地域の理念や目的、制度の構成、保護の対象、保護管理のしくみ、開発行為との関連性に関して、国、都道府県、市町村等の各レベルから説明を行い、自然保護地域を管理していく上で重要な概念的、具体的指針を与えることを目的としている。
本書の主な貢献としては、⑴各自然保護に関する制度間相違を整理するための図表の多用、⑵各自然保護地域における豊富な事例、⑶基本概念、保護管理や制度の現状、問題点、その具体的な解決策等の簡潔な説明、が挙げられる。本書の内容に関しては、⑴生物多様性の保護における保護地域の意味、⑵日本の自然保護地域、⑶世界の主な自然保護制度と日本における指定、⑷日本の自然保護地域のグローバルな位置づけと今後の課題、となっており、大学院生のみならず、学部生にも理解しやす
いものとなっている。
以上より、本書は、日本の自然保護地域に関して、初級から中級レベル、かつ学術的のみならず実用的な内容構成となっており、推薦に値する図書であるといえよう。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より

山崎俊輔先生(スポーツ・健康科学教育研究センター)「本との出会いも『一期一会』」

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一期一会」。この言葉を私は大切にしたいと思っている。
最近、海外で柔道を指導したり、交流したりする機会が多くある。そこで出会うほとんどの人が、一日か短期間の触れ合いである。将来、私の人生の中で二度と巡り合うことができない可能性の方が多い。その対象が子供であっても大人であっても、またアフリカや欧米の人達であっても、今ある自分を精一杯出して柔道を教え、ありのままの自分を出せるように努めている。そして、その思い出やその人たちの顔や気持ちを自分の心に深く刻み込むようにしている。
「本との出会い」も「人との出会い」も大切にするという意味では同じであると思っている。
本を読むにあっても心を込めて読み、登場人物の気持ちや志、また時代や背景、作者の気持ち等を考えながら、そこから何かを学んでいきたいと思っている。
そして、そのような気持ちでいると、「以心伝心」、人との出会いと同様、素晴らしい本と出会うことができるように思う。
学生時代、柔道のみに明け暮れる日々を過ごしていたが、周りの人達の影響からか、色々な分野の本を沢山読んでいたように思う。高校時代までほとんど本を読んだことがなかった
ため、著名な小説、歴史小説、英雄,偉人伝等、手当たり次第「乱読」していた記憶がある。
今も、専門書以外は、読みたい本を読みたいと思う時に読むようにしている。
「人の出会い」「本との出会い」が、今の自分の基礎になっていることは間違いない。
スポーツや勝負の上での駆け引きや心の持ち方、また指導者として選手や学生を育成する上でも、色々と今までに学んできたことが役立っている。
人生を歩んでいく上で、「難局にぶつかったとき」「志を持って進むとき」等の色々な場面で、大切な知恵と力を与えてくれているように思う。
これからも、「良き人との出会い」「良き本との出会い」に出会えることを楽しみにしている。
そして、「素晴らしい人や本との出会い」に感謝し、素晴らしいと思うことができる自分自身の感性を日々養っていきたいと思っている。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より