2-2. 教員オススメ」カテゴリーアーカイブ

金泰虎先生(国際言語文化センター)推薦『異文化理解の座標軸』

☆新入生向けの図書案内

著者: 浅間正通
タイトル: 異文化理解の座標軸
出版者: 日本図書センター
出版年: 2000
配置場所: 図書館 1階開架一般
請求記号: 361.5//2235

今、我々はグローバル化時代の真っ直中に住んでおり、ご存じの通り、人・物・情報などが国境を超えて激しく行き交っています。そして日本に居ながらにして諸外国の人々と接する機会が増えていることから、異文化・他文化に対する理解が重要になってきています。そこで、異文化・他文化と共生するための道しるべとして、上記の本を推薦したいと思います。
本書は、編者の浅間正通氏を含む6人が書いた文章を綴ったもので、3部構成となっています。
第1部では、歴史における「異人」の意味を紐解き、日本における異文化理解の実際を明確にし、そこで生じる問題点を克服するための視座に転換して「共感」を提案しています。第2部では、日本における異文化理解教育の現状と課題について述べており、その異文化理解の核心は「人間理解」であると提言しています。第3部では、異文化理解における「外なる国際化」、「内なる国際化」を絡ませて他文化共生社会に向けての提案を行っています。取りも直さず、日本における異文化理解に対する歴史的歩み、そして異文化理解のための人間理解、ひいては異文化理解の体験、さらには望ましい海外留学とは何かについて言及しており、今後、学生諸君にとって増えてくるはずの異文化・他文化の体験時には、大いに参考になるものと思われます。
ところで、自己表現を慎むことを美徳とする観念が色濃く残る日本社会では、積極的な姿勢が求められる異文化理解に対し、場合によっては、戸惑いを感じることもあると思います。本書が、日本社会におけるグローバル化の中で、異文化・他文化を理解するのに、役立てられることを期待しています。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より

三上和彦先生(経営学部)推薦『方法序説』

☆新入生向けの図書案内

著者: ルネ・デカルト
タイトル: 方法序説 (ちくま学芸文庫)
出版者: 筑摩書房
出版年: 2010
配置場所: 図書館 3階書庫小型
請求記号: S081.6/テ6/79

経営学部では一年次生向けに、「基礎演習」という科目を設置しています。その授業の最初で、私はいつも次の事を伝えています。「皆さんにとって、大学は「学び」の総決算。高校まで学んできた知識を生かして、自ら考えることのできる人間になってほしい。」これまでは教科書がお手本だったと思います。教科書に書いていないことを自ら考えるにはどうしたらいいのでしょうか?その一つの指針として、『方法序説』を一読されることを勧めます。
本書の一節で有名なのは「われ思う故に我あり」という文言です。方法的懐疑という、あらゆるものの真偽を問い、最終的に疑いきれないものとして、自分の存在を発見していきます。哲学、あるいは近代合理主義に関して関心を持っている方は、ぜひ、この基礎的な文献にトライしてみてください。
しかし、本書を勧める対象はそうした関心を持つ方たちだけではありません。実はこの本は『理性を正しく導き、学問において真理を探究するための方法序説』という長い正式名称を持っています。すなわち、デカルトはこの本で考える「方法」を提示しているのです。真理の探究の方法として、デカルトは以下の4つをあげています。
1 .明証的に真であると認めるものでなければ、どんなことも真として受け入れない。
2 .検討する難問の一つ一つを、必要なだけの小部分に分割する。
3.思考を順序にしたがって導く。
4 .完全な枚挙と全体にわたる見通しをたてる。
彼は、この原則に従えばどんな困難な問題も解決できる、と言っています。本当にそうなのか?みなさん、是非読んで確認してみて下さい。
今の時代、ネットを通じて「知ること」は容易になりました。これからは、持っている知識から何を言うことができるのか、それが問われている時代になっていると思います。覚えていればいい、という発想から脱却して、本書を通じて考えることのできる大学生になることを目指してほしいと思います。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より

高野清弘先生(法学部)「教養小説あるいは「憧れ」のすすめ」

☆新入生向けの図書案内

著者: ゲーテ
タイトル: ヴィルヘルム・マイスターの修業時代 (ゲーテ全集 第5巻)
出版者: 人文書院
出版年: 1960
配置場所: 図書館 3階書庫一般
請求記号: 948.6/5/3

数年前、還暦を迎える頃、ふとしたはずみで、ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』を読み返した。驚いたことに、たちまちのうちに、私は少年の日に戻ってしまった。ヘッセやカロッサなどの教養小説に読みふけった日々、あの十五・六の頃のときめきを六十歳を間近にした私が確かに感じたのである。
教養小説は、辞典的な定義だと、教養= 自己形成小説ということになる。一人の少年が青年に至る過程で、友人との交歓と対立、美しい異性への憧れと恋の挫折、向上を求めるひたむきな格闘を経験し、傷つきながら成長していく。これが教養小説の典型だといえるだろう。ところで、人は知らず、私の場合、なぜ教養小説に惹かれたかといえば、そこに必ずといっていいほど出てくる異性への憧れのせいだったと思う。現代ではないのである。住み着いた猫も雄猫だけといううわさのカトリックの男子校。姉妹校の女子校との共同礼拝の時、聖堂のステンドグラスを通して光が斜めに差し込んでくる中、浮かび出るような、跪く美少女の横顔を見たことはある。だが、ただそれだけのことなのである。教養小説は、私にとっていわばロールプレイングゲームであった。教養小説の恋愛はたいていかなえられない。その主人公に自らを擬して、憧れを楽しんでいたのだ。
近頃、教養教育の重要性が叫ばれている。だが、私に教養を教える自信はない。自分に教養を教えるだけの力があるなど思うならば、ニーチェによって「教養俗物」とからかわれた一九世紀のドイツの教授たちに申し訳ない。しかし、教養を教えられない教師として、私は教養小説を読んでいただきたいと切に願う。教養小説は読者の心に憧れを生み出す。その憧れは一切の学問の出発点としての知的好奇心とつながっていると信じるからである。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より

奥田敬先生(経済学部)「〈背表紙学(ドルソロジー)〉のすすめ」

☆新入生向けの図書案内

著者: 田川建三
タイトル: イエスという男 : 逆説的反抗者の生と死
出版者: 三一書房
出版年: 1980
配置場所: 図書館1階開架一般
請求記号: 192//13

著者: 白川静
タイトル: 孔子伝
出版者: 中央公論社
出版年: 1972
配置場所: 図書館3階書庫一般
請求記号: 124.2//13

著者: 内田義彦
タイトル: 資本論の世界 (岩波新書 ; 青版 614)
出版者: 岩波書店
出版年: 1966
配置場所: 図書館3階書庫一般
請求記号: 081.6/614/9

みなさんは今までにかなりの数の本の名前を教わってきたはずです。でも、それらを実際に読もうとしたことはどれだけありますか?本の名を聞き流すのは、せっかくの出会いの機会を見過ごすことです。初めての本のページを開くには、初対面の人に話しかけるような緊張や勇気はいりません。パラパラとめくってみて、まだ付き合えそうになければ、またしばらく書棚で休んでもらえばよい。だから、これからは何かで本の名を目にしたり耳にしたなら、とりあえずは図書館で実物を手に取ってみるという習慣を身につけることをお勧めします。この習慣のあるなしで、大学での学びは大きく違ってきます。とにかく《尋ねよ、さらば見出さん。》
そして時間のあるときには図書館で、ずらりと並んだ本の背表紙たちを眺めながらぶらつきましょう。そのうちにいつしか身近な顔ぶれができてきます。わたくしにとっては、『聖書』と『論語』と『資本論』の三冊が、それぞれ欧米文化と東アジア社会、そして現代世界の化身というところでしょうか。《学びて時にこれを習う、亦た説よろこばしからずや。》
願わくば、みなさんにもこの三冊に親しんでいただきたいのですが、《何事も最初が難しい。》わたくしの場合は、田川健三『イエスという男』(作品社)、白川静『孔子伝』(中公文庫)、内田義彦『資本論の世界』(岩波新書)が知り合うきっかけとなりました。前二著は、後に「教祖」と崇められた人物の意外な素顔(?)をかいま見せてくれます。また、戦後日本の学界と思想界に一時代を画した内田義彦は、旧制甲南高等学校の卒業生、みなさんの大先輩です。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より

廣川晶輝先生(文学部)「活きた勉強―本の力―」

☆新入生向けの図書案内

著者: 井上靖
タイトル: 天平の甍 ; しろばんば (新潮現代文学 ; 28)
出版者: 新潮社
出版年: 1979
配置場所: 図書館2階開架一般
請求記号: 918.6/28/298

井上靖氏の歴史小説の名作『天平の甍(いらか)』を読んだことがあるでしょうか?
実は以前、学生を指導している中でこの本を例に出して説明したのですが、その学生の頭の上には大きな「?」マークが立っていました。その時のわたしの気持は、「えっ、知らないの?これが現状か……。」でした。名作を薦めるのは大変気が引けますが、こうした現状を考えて、あえて薦めます。
『天平の甍』の内容をごく簡単に書きますね。遣唐使で唐に渡った日本の僧侶が、日本に戒律を伝えるために唐の高僧鑑真和上を招きます。その行動は多くの苦難に満ちていました。心が折れてしまう者、初志を貫徹した者、それぞれの心理が淡々とした筆致でつづられています。歴史小説の名作です。
ところで、この文章で私が伝えたいのは、名作の内容ではなく、いわば「本の力」についてです。『天平の甍』の末尾近くには次のような記述があります。
 唐招提寺の主な建物が大体落成したのは三年八月であった。普照は唐招提寺の境内へはいると、その度にいつも金堂の屋根を仰いだ。そこの大棟の両端に自分が差し出した唐様の鴟尾の形がそのまま使われてあったからである。
「三年」とは、天平宝字3 年(西暦759 年)のことです。上記引用文中で、鑑真和上を日本に招く大業を果たした僧侶普照が鴟尾(しび)を差し出したというのは、もちろん、井上靖氏のフィクションです。ですが、ここに「本の力」を見出すことができると思います。
あなたが、鑑真和上ゆかりの唐招提寺を訪れるとします。『天平の甍』を読んでいなければ、あなたは金堂の大屋根を仰ぎ見ることは無いでしょう。仰ぎ見ても何も感じないでしょう。しかし、『天平の甍』を読み、上記の引用文に触れていれば、金堂の大屋根の最上部の東西にしっかりと据えられている鴟尾をじっと眺めるはずです。そして、その大きな鴟尾の姿を通して、『天平の甍』に描かれた人々の苦労や苦悩そして喜びを実感できると思います。さらに、1200 年の時を超えて、天平の空気をも感じることができるはずです。
本にはそのような「力」があります。ある土地や故地を訪れる前にその土地にちなむ本を読むことを、皆さんに勧めたいと思います。その土地での感じ方が百倍、いや千倍は違いますよ。これこそ、まさに「活きた勉強」ですね。そのような「活きた勉強」を大学時代にできることはとても幸せなことだと、私は心から思います。さあ、『天平の甍』を読んで、鑑真和上ゆかりの唐招提寺を訪れ、天平の空気を感じて下さい。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より

日下部岳広先生(理工学部)「とても人間的な『研究』と『科学者』」

☆新入生向けの図書案内
みなさんは、どんな将来を思い描いて大学に入学しましたか。私は生物学者になりたいと思っていました。生き物の研究をして、それが仕事になればいいな…と。ところが、入学してすぐ、友人にこの夢を語ると、「この大学を卒業したって学者になんかなれないよ」と笑われてしまいました。まだやっと入学式が済んだばかりなのに、なんでそんなことが分かるのだろう???
内心、やってみなきゃわからないと思いつつ、やっぱりそうなのかなあ、とさっそく自信がなくなってきました。そんなとき、夢を目指すことを後押ししてくれた本があります。

著者: 藤原正彦
タイトル: 若き数学者のアメリカ
出版者: 新潮社
出版年: 1977
配置場所: 図書館 1階開架一般
請求記号: 295.3//2006

※新潮文庫でも出版されています。

●藤原正彦『若き数学者のアメリカ』新潮文庫この本は著者がアメリカで数学者として過ごした熱い体験記です。一人の若者がアメリカで生きる姿に、魅せられ、励まされました。自分もこんな冒険がしてみたいと思いました。
あるときは不安に苛まれ、またあるときは怒り、喜び、奮闘するようすに、「学者」がぐっと身近に感じられます。40 年近く前の話ですが、著者がみた日本とアメリカの違いも、いまでも興味深く読めると思います。
もうひとつ、「学者」のイメージを変えてくれる本を紹介します。

著者: キャリー・マリス
タイトル: マリス博士の奇想天外な人生
出版者: 早川書房
出版年: 2000
配置場所: (近日配架予定)
請求記号: 

● キャリー・マリス『マリス博士の奇想天外な人生』福岡伸一訳、早川書房
マリス博士は、PCR 法という、医学・生物学はもとより、犯罪捜査のDNA 鑑定や考古学まで広く使われている大発明をした科学者です。1993 年にノーベル化学賞を受賞しました。PCR 法は、分子生物学者なら誰でも知っている基礎知識を、いくつか組み合わせただけの簡単なもの。でも、だれも思いつかなかった「コロンブスの卵」です。ひらめいたのは、なんとデートの途中(!)。マリス博士はすべてが型破りで、真似をするのはおすすめしませんが、科学という実は人間的な営みにふれ、人生のヒントを与えてくれる(かもしれない)一冊です。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より