ライブラリサーティフィケイト1級取得予定者との面談を行いました

 

ライブラリサーティフィケイトでは、1級取得予定者に活動の振り返りをかねて、図書館長と面談をしていただきます。
といっても堅苦しいものではなく、ゆったりまったりとお話をしていただくものです。

先日、1級取得予定者の文学部 4年生のKさんが面談を行いましたので感想をご紹介します。
楽しい時間の中でも、ご自身の課題を見つけられたそうです。非常に有意義な時間であったことが窺えますね。

ぜひライブラリサーティフィケイトご参加のみなさんにも、そうでない方にも、たくさんの方に読んでいただきたいなと思います!

 

 

以下、Kさんからの感想です。

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杉本先生との面談は、穏やかで心地のよいものでした。面談の経験は、中高での進路に関するものしか経験がなかったため、面談前は一方的に質問ばかりされるのではないかと緊張していました。しかし、杉本先生もご自身の考えを話してくださり、どちらかというと会話のような雰囲気で、話しやすかったです。

面談内容は、本の選び方や本を読んでいて印象に残った言葉、図書館への要望といった読書や図書館に関することはもちろん、私の卒業論文の内容や私が言葉を選ぶ際に気をつけていることなど多岐にわたりました。もともと読書家ではない私が話しやすいように、配慮してくださったのだろうと思います。また、私に関心があることを示すことで、話しやすい雰囲気を作ろうともしてくださったのではないかと思います。

今回の面談でとくに印象的だったお話は、読書は必須ではないけれど、読書をする人に厚みをもたらし、最後にその人を支えるものなのではないかという杉本先生のお話です。このお話を聞いたときに、去る者は追わず来る者は拒まず、豊かな時間を抱えたまま、静かに読者に寄り添う本のイメージが思い浮かび、それが私の読書のイメージと一致していたためです。「読書は良いもの」、「漫画より本」といった社会のイメージに囲まれながら、甲南大学入学前は課題図書などで強制される以外に本を読む機会がなかった私は、読書に対して厳かで脅迫的なイメージがありました。また、従来の私の読書は感想文を求められるものばかりだったので、読書から何かを得なければいけないという固定観念ももっていました。しかし、大学在学中に自分のペースで目についた本を少しずつ読んでいくうちに、飽きれば読むのをやめてもよいし、大した感想をもてなくても問題ないと思えるようになりました。また、読書によって知らなかったことを知ったり、新しいことについて考えるきっかけを得たりもしました。そして、読書を中断して、その新しいことを考えることに没頭してもよいし、その考えの良し悪しを誰かから評価される恐れはないのだと思えるようになりました。これらの読書経験から、本は色々な読み方を受け入れてくれる寛大なものだと思うようになり、読書に対するイメージが前述したものに変わりました。

今回の面談は、楽しい面談ではありましたが、自身の課題を再確認する面談でもありました。その課題とは、自身の考えを整理して伝えることです。とくに会話のように瞬発的に発言を求められることは、なおさら苦手だと痛感しました。実際に今回の面談では、言葉が途切れ途切れになってしまったり、「わからないですね」と質問に対して答えを出せなかったり、面談終了後に違う意見や新しい意見が思いついたりしました。それでも杉本先生は、言葉が出るまで待ってくださったり、私の答え一つ一つに対して丁寧に反応して、受け止めてくださったり、とても温かな雰囲気で対応してくださりました。そのおかげで、不格好ではありますが、安心感があり楽しいと思えた面談になりました。

また、今回の面談で気づいたことがあります。それは、お話の楽しい人は自身の考えをもち、それを適切に言語化し、相手に伝えられる人なのではないかということです。私の回答に合わせて臨機応変にご自身の考えを伝え、話を深めてくださった杉本先生との面談は楽しいものでした。また、今回の面談で質問をされる立場になって、以前させていただいた教員インタビューを思い出したのですが、そちらも楽しかったです。そして、インタビューを受けてくださった先生方には、質問に対して、その場でご自身の考えをわかりやすく伝えてくださったという共通点がありました。加えて、どの先生方も、私が話した際には、私の話を受け止め、広げてくださりました。このことで、会話が相互的になり、いっそう楽しいものになったのではないかと思います。

以上の気づきから、読書をはじめとする、自分の心を動かしたり、考えを広げたりする経験をたくさんして、それらを言語化する練習を積み重ねたいと思いました。そうすることで、ライブラリサーティフィケイトをきっかけに関わってくださった先生方のように、自身の意見を持ちつつも、相手の意見をくみ取り、受け止められる引き出しを持て、そして、それらを相手にわかりやすく伝えられるようになるのではないかと思ったためです。また、このような人間像は杉本先生がおっしゃっていた読書によって得られる人としての厚みと関連しているようにも思います。

今回の面談は、大学在学中の読書経験やライブラリサーティフィケイトでの活動を振り返るよい機会になりました。何よりも楽しいと思える時間を過ごすことができました。

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また、図書館長の杉本 喜美子先生からも面談の感想をいただきました。

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今回の面談の前に、読書記録を読ませていただき、非常に論理的なこと、だけど全く冷たさを感じない、むしろ読むだけで心に触れられるような鮮やかさを持つ文章に圧倒されました。実際にお会いしたら、ひと言ひと言を熟考して紡ぎだす、言葉を大事にする方なのだと感じました。高校時代は決して本好きとは言えなかったが、大学で100冊を読破し、ライブラリサーティフィケイトの申請が終わった今もその習慣は続いていると語るKさんから、本を読むことそのものが人をより豊かに育てるのだなと実感しています。

100冊の中で一番心に残った言葉は「幸せは足し算できるもののように、わたしには思えます。先にどんな不幸があっても、足したものは引かれることはない、そう感じます」だそうです。どの本の言葉かは、みなさん探してみてください。人生の指針となりうる言葉に出会われたこと、心から素敵だなと思いました。みなさんも、そんな言葉に出会ってみませんか?

図書館は「そこにあればいい。受け止めてくれていると感じられるから」とKさんは話してくれました。図書館を支えてくださっている職員のみなさんも私も、それを聞いてほんとうにうれしく思います。図書館はこれからも、みなさんの心の支えでありたい。ライブラリサーティフィケイトを一つのきっかけに、ぜひ、みなさんを支える言葉に出会ってくださいね。

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ライブラリサーティフィケイトは4年間かけて一歩ずつ1級取得を目指して進めていくこともできますし、1年で1級の取得を目指すこともできるので、ご自身のペースで進めていくことができます。

その中でビビッとくる本や言葉に出会い、「この本おもしろかったです!」「この言い回しが印象的でした」「この先生のインタビューおもしろかったです」とお話してくれることが私たちの喜びであり、みなさんが出会ってきたものが、今後の人生に繋がっていくことを願っています。

 

ライブラリサーティフィケイトは、いつでもみなさんのことをお待ちしています!

筧裕介著 『認知症世界の歩き方 : 認知症のある人の頭の中をのぞいてみたら?』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 認知症世界の歩き方 : 認知症のある人の頭の中をのぞいてみたら?
著者 : 筧裕介著
出版社:ライツ社
出版年:2021年

認知症についてどのようなイメージがありますか。

「記憶がなくなる病気」

「詳しく知ることがなんとなく怖い、タブーに感じる」

私はこのようなイメージを持っていました。もしも私と同じようなイメージを持たれている方がいらっしゃれば、本書はおすすめの一冊です。

本書は、認知症のある方に行ったインタビューをもとに、当事者の視点で認知症に関する困りごとや気持ちを書いた本です。また、それらを旅にたとえた形式でまとめていたり、文体が優しい語り口調であったりと親しみやすい工夫がされています。

そして、「旅人の声」として、認知症のある方が語るかのように、症状によって生じる感じ方や気持ちを交えながら、認知症に関するエピソードが紹介されています。このコーナーによって、認知症のある方が生きている世界を想像しやすくなっています。

私は本書を読んで、認知症の症状は記憶に関するものだけでなく、例えば形や大きさを正しく認識できないために黒いマットが穴に見えるなど、認知機能に関する症状も多くあることを知りました。また、そのような症状のために認知症のある方の生きている世界は、私が思っていたよりも危険で不安定なのだと思いました。ドラマなどで認知症の方がパニックに陥ったかのようなシーンを見たときに怖いと思ったことがあります。しかし、周囲が危険だらけの世界で生きていれば、当然の反応だと思い直しました。そして、他者の視点を知ることの大切さを実感しました。

また、本書には、認知症のある方の視点だけでなく、なぜそのように感じるのか、その原因に関する説明もあります。そのため、認知症のある方やその周囲の方が生活しやすくなるヒントがあると思います。また、どのような認知機能の働きが、私たちの普段の生活を支えているのかについても知ることもできます。些細に思える行動も複雑な仕組みで行われていることを知ると生活の見方が少し変わるかもしれません。

本書を手に取って、知らない世界を少し知ってみようかなという気持ちで、認知症について知ってみるのはいかがでしょうか。

織守きょうや著『記憶屋』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 記憶屋
著者 : 織守きょうや著
出版社:KADOKAWA
出版年:2015年

主人公の遼一は、恋心を寄せていた杏子のトラウマを克服するお手伝いをしていました。その中で遼一と杏子は、消したい記憶を消してくれる都市伝説上の怪人「記憶屋」の話を知りますが、遼一は記憶屋をただの都市伝説だと考え、本気にしていませんでした。しかし、ある日、杏子が遼一とのやり取りも含めてトラウマに関する記憶すべてを忘れてしまいます。このことをきっかけに、遼一は記憶屋の存在を認め、そして正体を突き止めようと、記憶屋を探しはじめます。

この小説のテーマは、「記憶を消すことは良いことか悪いことか」であると考えられます。トラウマで苦しんでいた杏子の姿と人から忘れられることの痛みの両方を知っている遼一は、このことを悩みながら記憶屋の真相に迫っていきます。また、杏子以外にも記憶屋に記憶の消去を依頼した人物が登場し、その人物がどのような目的で、誰のどんな記憶を消すことを記憶屋に依頼したのかについても明かされます。

記憶を任意で消せるという非現実的な設定やそれによって生じる本小説のテーマは、共感しづらいかもしれません。しかし、この設定やテーマだからこそ、誰もがもっている記憶の普段は意識されづらい一面である、記憶は保有者だけのものではないこと、記憶の中には自身に関わってくれた人々が存在していることにスポットライトが当たり、人とのつながりの中に自分が存在することを改めて認識し、そして考えるきっかけを与えてくれるように思います。突飛な設定によって、日常生活で当たり前となっていて忘れがちなことに気づかされる点が面白いと思いました。

なお、本小説はホラー小説に分類され、作中では都市伝説を取り上げますが、怖い要素はないので、どなたでも安心して読めます。

また、つい読み進めたくなる記憶屋の真相に迫る過程だけでなく、相手を大切に思うからこそ記憶屋に記憶の消去を依頼した人物のお話も含まれているので、メリハリがあり、最後まで興味をひかれながら読むことができると思います。

澤田智洋著 『マイノリティデザイン』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : マイノリティデザイン
著者 : 澤田智洋著
出版社:ライツ社
出版年:2021年

受験や就活で、周囲から色々な助言をもらっても、やっぱりネームバリューが頭から離れないまま、他者と競争し、その隙間にスマホを見れば、すぐにSNSで他者の様子がわかって自分と比較ができてしまう。きっと社会に出ても、評価され、比較されることは続く。また、生活の中でなんとなく目にする商品や広告はすぐに変わり、前のものは思い出せない。私たちは、ものごとが大量に消費されていく社会の中で、強いことが良いことだと思い、強くなることを強いられているのかもしれません。

そのような中で、

「すべての弱さは、社会の伸びしろ」

この言葉は信じがたい言葉かもしれません。これは著者の言葉です。

著者はコピーライターで、視覚障害のある息子さんが生まれたことをきっかけに、一般的に弱さと考えられているマイノリティ性に目を向けて、それを生かす働き方をするようになりました。本書は、そのような背景をもつ著者が、マイノリティ性を生かす方法について、事例を交えて書いた本です。

本書では、マイノリティ性があるからこそ実現したアイデアが紹介されています。そのアイデアがユニークで面白かったです。また、マイノリティのためのアイデアが、結果としてマイノリティ以外の人も楽しませていて、弱さは社会の伸びしろだと実感できました。

一方、納期に追われながら、すぐに消費されるものを作る働き方に虚しさを感じていた著者が、マイノリティを生かす働き方に夢中になっていく様子からは、働くことについて考えさせられました。

「あなたの弱さは、だれかの強さを引き出す力」

これも著者の言葉で、発想力という強みをもつ著者とは違い、強みのない私は励まされました。強みがなくても、自身の弱さがだれかの強さを引き出せるのなら、周囲を良くすることに少しでも役立てるように思えたからです。

生活をしていく上で、ある程度の強さも必要で、強くなるための向上心や努力も大切だと思います。しかし、強さばかりでなくて良い、弱さがあっても良いと、本書を読んで思えました。自分にも他者にもやさしくなれる本だと思います。

大山淳子著 『あずかりやさん 桐島くんの青春』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : あずかりやさん 桐島くんの青春
著者 : 大山淳子著
出版社:ポプラ社
出版年:2018年

「一日百円で、なんでもお預かりします」という不思議なお店「あずかりや」に、物を預けに来る人や、預けられた物を主人公とした短いお話が5つ収録されています。どのお話にもやさしい雰囲気があり、少し切なくなる場面があっても、ほのぼのと読むことができます。

とくに魅力に感じるのは、預けられた物視点で語られるお話があるところです。普段は想像もしない物視点の語りがユニークで面白いです。その面白さは、自分が使っている物たちも何か考えているかもしれない、そうだとしたら何を考えているのだろうと想像してしまうほどで、本を閉じた後も楽しい気持ちが続きます。

本書では、文机とオルゴールを主人公としたお話があります。物だからか、どちらも語り口調がアニメや漫画のキャラクターのように少しコミカルで、読んでいてかわいらしく、愛着がわきます。また、元の持ち主を大切に思う姿がけなげで、きっと用意されているであろうハッピーエンドを早く読みたくなり、ページをめくる手が止まりませんでした。

この2つの中でも私はオルゴールが主人公のお話「夢見心地」がお気に入りです。120年前に作られたオルゴールが、自身を作り、そして大切にしてくれた職人に手放されたことへのショックと疑問をもちながらも、次々に変わる持ち主のもとで、懸命に自身の役目である音楽を奏でることに励む姿が描かれています。そして最後には、自分が持ち主たちによって愛されていたことや自身を手放した職人の意図に気づき、自分のやりたいことを見つけるお話です。オルゴールの言葉や生き方からは、過去や未来を糧にしながら今を誠実に生きる大切さが学べるように思います。

5つの短いお話は、それぞれで完結するので、読書の時間が取りにくいときでも、読みやすいと思います。一方で、他のお話とのつながりを少し感じるような記述もあるので、それを見つけて、にやりとするのも楽しいです。

温かいお話ばかりなので、どなたにでも楽しんでいただける一冊だと思います。

宮口幸治著 『歪んだ幸せを求める人たち』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 歪んだ幸せを求める人たち
著者 : 宮口幸治著
出版社:新潮社
出版年:2024年

「人生を悲観し、自殺しようと思った。しかし、自分を大切にしてくれている祖母を思い出し、自分が死ねば祖母は悲しむだろうと思った。だから、祖母が悲しまないで済むように祖母を先に死なせてあげようと思った。」

「仕事終わりに雨が降っていたので、会社の入り口の傘立てで、置いてあるはずの自分の傘を探した。しかし、見つからなかった。誰かに盗まれたと思い、犯人の心当たりとして何人かが思い浮かんだ。途中で自分の机の近くに傘を置いたことを思い出したが、犯人候補として思い浮かんだ人物などへの怒りを強く感じていたので、傘を取りに戻るのも面倒だと感じ、他人の傘を黙って使っても問題ないと思った。」

この2つのお話を読んで、あなたはどう思いましたか。両者とも悪いことだけれども、後者の気持ちはわからなくもない、前者の気持ちは理解しがたいと思ったかもしれません。そして、後者は身近な、前者は自分とは関係のないお話のように思ったかもしれません。

しかし、著者は「歪んだ幸せを求めている」点で両者は共通していると考えています。歪んだ幸せとは、自身の幸せを求めすぎるあまりに他人を巻き込み、不幸にしてしまう幸せのことです。そして、本書では歪んだ幸せを引き起こす5つの歪みである「怒りの歪み」、「嫉妬の歪み」、「自己愛の歪み」、「所有欲の歪み」、「判断の歪み」について紹介しています。

本書を読んで、私は、非行は人の不幸を願って起こされるものではなく、自身の幸せを求めすぎて起こされるものだと認識が変わりました。そして、非行少年たちと同じように「幸せになりたい」と思う私も、歪んだ幸せを求めてしまうこととは無縁ではないと感じました。また、前述した2つ目のお話のように、歪んだ幸せを求めた行動は身近にもあります。

そのため、歪んだ幸せの原因となる5つの歪みについて知り、自身の行動を見直したり、5つの歪みと向き合ったりすることで、適切な行動ができるようにしたいと思いました。また、本書はその助けとなる本だと思いました。