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| 渡辺 洋平 講師 |
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身近なタンパク質の凝集。
熱いラーメンの上で生卵の白身が白く濁って行く。 |
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生物は外界からエネルギーを取り入れ、自らを維持し、増殖する。これらの生命活動は一見非常に複雑であるが、細胞内で起こる(ひとつひとつは単純な)化学反応の集まりであるととらえることができる。細胞内に存在する様々な生体物質のうち、これらの化学反応を触媒するのは主にタンパク質である。数千から数万種類あるタンパク質が、互いに連携しながら働くことで、生命活動が営まれているのである。この生命活動の実行部隊とも言えるタンパク質が、私たちの研究のターゲットである。中でも私たちは、分子シャペロンと呼ばれる、「壊れたタンパク質を再生するタンパク質」の働きに注目して研究を進めている。この分子シャペロンの働きを理解するために、まず、なぜタンパク質が様々な化学反応を触媒することが出来るのかを考えてみよう。
タンパク質は、DNAの遺伝情報をもとに20種類のアミノ酸を直鎖状にいくつも重合させたひも状の分子である。このひも状のタンパク質は、様々に折れ曲がり(フォールディングという)、特定の立体構造を形成する。その立体構造は、それぞれのタンパク質が触媒する化学反応の足場として働くことができる。また、最終的に出来上がる立体構造は、アミノ酸配列によって異なるため、タンパク質は非常に多様な機能を持つことになる。
タンパク質が立体構造を形成する力は、水に溶けにくい疎水性のアミノ酸が立体構造の内側に、水によくなじむ親水性のアミノ酸が外側に向こうとする性質や、アミノ酸の持つ電荷の反発や引力などによるものである。こうした個々の力がバランスを取り、最も居心地の良い状態になったとき、その構造がそのタンパク質の正しい立体構造というわけである。
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さてそれでは、アミノ酸配列さえ正しければ、タンパク質は勝手に正しい立体構造へとフォールディングするのだろうか。実は、細胞の中でタンパク質が正しくフォールディングすることは、それほど簡単なことではない。タンパク質合成の場であるリボソーム周辺には、合成されたばかりのひも状のタンパク質が高濃度で存在している。こうした状況下では、それぞれのタンパク質が正しい立体構造をとる前に、互いの疎水性のアミノ酸同士で無秩序に会合してしまう。また、高温や極端なpHなど外部からストレスがかかると、タンパク質の立体構造を維持する力のバランスが崩れ、タンパク質はただのひもに戻ってしまう。ここでもまた、無秩序な会合体が出来てしまう。この無秩序な会合体は凝集体と呼ばれ、タンパク質としての機能を持たないだけでなく、水にも溶けなくなり、細胞を傷つけてしまう。
そこで、これらの問題を解決すべく、様々なタンパク質の立体構造形成を助けているのが分子シャペロンである。分子シャペロンのあるものは、リボソームの近くで新たに合成されたタンパク質を凝集から守り、また別のものは熱などのストレスで立体構造のくずれたタンパク質を守る。さらに、最近は、凝集してしまったタンパク質をもとに戻してしまう分子シャペロンまで見つかっている。私たちは、これらの分子シャペロンを研究対象としているが、「分子シャペロンがタンパク質の立体構造形成を助けました」では研究は終わらない。分子シャペロンが立体構造のくずれたタンパク質に、分子レベル、原子レベルでどのような作用をした結果、それを助けることが出来たのか、という「分子機構」を明らかにすることを目的としている。
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| かご型の分子シャペロンGroEL(赤と緑)とそのふたのGroES。かごの中に立体構造のくずれたタンパク質を閉じ込めて再生する。 |
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私が現在の研究をするに至った経緯であるが、そもそも私が生物学に興味を持ったのは、「自分はなぜ、ここにこうしてこういう形で生きているのか」という問いに「遺伝」や「進化」といったヒントを与えてくれたからである。大学で生物学の勉強をし始めた頃は、これらのキーワードに直結する遺伝子やDNAに興味を持っていたが、さらに深く勉強をするうちに、生命活動の直接の担い手であるタンパク質に、より魅力を感じるようになっていった。というのも、「遺伝」とは遺伝子の複製保持であり、「進化」は遺伝子の変化で起こるが、遺伝した形質を表現するのはタンパク質であり、進化の際選択を受けるのはタンパク質による表現型だったからである。
分子シャペロンは数あるタンパク質のうちのひとつだが、解明されるべき謎の多いタンパク質である。例えば、分子シャペロンは立体構造がくずれていれば、あらゆるタンパク質に作用することが出来るが、これは従来言われて来たような、タンパク質と基質が鍵と鍵穴のようにぴたりと合う、という単純な基質特異性では説明できない。分子シャペロンの反応機構には、これまでに無い新たな概念や普遍的な法則が隠されているように感じられ、研究対象として非常に魅力的である。
このように、私が分子シャペロンの研究をしているのは、全く興味によるものだが、それはすなわち「役に立たない」というわけではない。例えば、ヒトの細胞、組織において、タンパク質凝集体はアミロイドと呼ばれている。このアミロイドはアルツハイマー病や、クロイツフェルトヤコブ病、狂牛病などのプリオン病といった重篤な神経変性疾患の原因と考えられている。これらの神経変性疾患の治療に関する研究は、現在非常に盛んに行われているが、その多くは凝集しやすい特定の蛋白質の合成量を減らす、あるいは凝集する前にそれらを排除しようというものである。私たちの研究成果は、もしかしたら、そう遠くない将来「一度形成されたアミロイドを除去する」という新しい立場での神経変性疾患治療の基礎となる可能性も持っている。
<2007年6月現在> |
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