どちらかというと、アメリカはあまり好きな国ではなかった。そんな私が半年間シカゴに滞在することにしたのは、そこがアラブ史研究に関する最先端の研究拠点だったからだ。いわば仕事上の必要から、しぶしぶアメリカ暮らしに臨んだと言える。
しかし、いざ住んでみるとどうだろう。食べ物は思いのほか口に合った。街中に溢れるジャズやブルースも趣味に合った。研究上の利点は言うまでもない。シカゴっ子たちの、都会人には似つかわしくないおおらかさ、フランクさには何度も救われたし、様々な人種が入り混じって暮らす様は、自分もこの町の一員になれたような気持ちにさせてくれた。
今ではシカゴですっかり膨らんだビール腹をさすりつつ、何事も食わず嫌いはよくないと独りごちている。(中町信孝)