2021年度卒業論文・田口智子(髙田ゼミ):イギリスにおける精神病院とコミュニティ・ケア 1890-1930-揺れ動く正気と狂気の境界線-

イギリスでは、18世紀後半からの都市化に伴い、精神疾患の治療の場となった精神病院は正気と狂気の境界線を引く役割を担った。しかし、精神病院の過剰収容問題に加え、第一次世界大戦時の戦争神経症の多発により、施設による線引きに限界が訪れた。そこで、戦後にコミュニティ・ケアが導入され、地方自治体やボランタリー団体、ソーシャル・ワーカーなどが精神医療に参入した。その結果、教育や労働といった新たな視点からの線引きが行われるようになり、境界線が複雑化した。狂気に病名がつけられ、細分化されることで、軽い不調でも精神疾患に当てはめることが可能となり、正常(正気)の範囲が縮小されていったのではないかと考える。

ベスレム精神病院
[典拠] Sarah Rutherford, The Victorian Asylum, Shire, 2008, p. 9より引用。