甲南人の軌跡Ⅰ/藤田 純/あのときと今の私。そして未来のみなさんへ | 卒業生の活躍紹介サイト | 甲南大学

あのときと今の私。
そして未来のみなさん

藤田 純

Fujita Jun

FM COCOLO
DJ MEME

1992年 経営学部卒

趣味・特技

ヨガ、映画鑑賞、 読書、旅

好きな⾔葉

「日々是好日」/「上善如水」

学⽣時代のクラブ・サークル

学生時代に得た「かけがえのないもの」

 街が桜色に染まる頃、大学生になって初めて岡本キャンパスの正門をくぐったときのことは、今でもふんわりと記憶に残っています。新入生を部活に勧誘する先輩がたくさんいるなか、兄がアメリカンフットボール部に在籍していたので、兄のチームメイトから、女子なのにアメリカンフットボール部への入部をしきりに勧められたことも懐かしい記憶です。新しい環境、新しい友だち、心躍る日々…。毎日がキラキラ輝いていました。

 そんな充実した大学生活を送ることができたのは、まずは、何よりもたくさんのよき友に恵まれたこと。経営学部だったので圧倒的に男子が多かったのですが、卒業してから20年以上経った今でも、変わらぬ友情で信頼し合える友だちに出会えたことは大きな宝物です。

 また、小、中、高と9年間、ひたすらバスケットボールを追いかける日々でしたが、さすがに大学では部活の練習に追われることなく自由に過ごしたいと思い、部活には入らず、アメリカに行って本場のゴスペルを聞いてみたいという夢を叶えるため、アルバイトに勤しみました。もっとも高給だったのは大手ホテルでのグリートレスです。これは、メインレストランの入口に立ち、お客様をお迎えし、席まで案内するという仕事です。外国人のお客様が多かったため、神戸の華僑学校で習得した中国語や英語が非常に役に立ちました。一番思い出深いアルバイトは、テレビ局でリポーターを務めたことです。大学2年のとき、とある報道番組のリポーター募集を知り、応募すると運よく合格しました。外国人不法労働者たちの実態を取材するなど、刺激的でよい勉強になりました。

 そして、アルバイトで貯めた資金でアメリカのシカゴへ。そこは、私がソウルミュージックを聴くきっかけをつくってくれたサム・クックが育った街。ダウンタウンは、まさに映画「アンタッチャブル」の世界でした。ループに乗って街を散策したり、ある日たまたま見つけた教会から聴こえてきた歌声に引き寄せられ入って行くと、ゴスペルを歌う黒人たちが居ました。教会に響き渡るクワイアの分厚いコーラスからは、黒人音楽の持つ楽しさや喜びだけでなく、怒りや悲しさも聴こえてくるような気がして、感動で震えが止まらなかったことを昨日のことのように思い出します。

集中力、瞬発力と決断力。ときどき度胸。

 FM COCOLOという関西のラジオ局をご存知でしょうか。阪神・淡路大震災後、外国語による震災関連情報が乏しく、困っていた外国人のために、「これではいけない、早急に外国語放送局を!」と開局したのがFMCOCOLOです。阪神・淡路大震災の9ヵ月後、1995年10月のことでした。当初は15言語による外国語放送局でしたが、2010年より日本語放送をメインに「大人のためのミュージックステーション」として生まれ変わりました。開局間もない頃からFMCOCOLOでDJを始めて、早いもので気がつけば20数年。「MEMEさんの番組を一緒に聴いていた、当時幼稚園児だった娘がママになりましたよ」というメッセージを番組にいただいたことがありますが、たゆまない時の流れを感じる瞬間でした。現在は平日午後の帯番組を担当しています。オンエアのある日は、昼12時頃スタジオに到着。新聞朝刊各紙やネットニュースに目をとおし、その日のネタを収集。番組素材の収録やスタッフとの打ち合わせを終え、午後2時よりいざ本番。3時間の生放送が始まります。生放送中は、言葉選びの連続です。いかにタイトでシャープに情報を伝えることができるか、いかにリスナーの心に届く言葉を選べるか。1曲届けている間に次の曲紹介を考えるので、集中力と瞬発力、決断力が試されます。また、番組を長くやっていると、度胸が試されるときもあります。これまでたくさんのアーティストにインタビューしてきましたが、後にも先にもあれほど緊張することはないであろうお方はポール・マッカートニーです。2013年と2015年の来日時に電話インタビューさせていただきました。「ポール・マッカートニーから電話がかかってくるかもしれませんが、お受けしてよいでしょうか」とスタッフから話があったときは足が震えました。正直無理だと思いました。しかし、ここで無理だと答えると、もう一生こんなチャンスは巡ってこないだろうと思いました。咄嗟に出た言葉は、「私、ポールは得意です!」。そう答えてから、インタビュー当日までの約3日間は食べ物がほとんど喉を通らないほどに緊張しました。まさに、ポール様ダイエットです。そして、いよいよやってきた決戦の日。生放送中に電話が鳴りました。「私は今、本当に、本物のポール・マッカートニーと話をしているのですか?」と興奮気味に伺うと、「そうだね。今朝、鏡を見ると、そこに映っていたのはポール・マッカートニーだったから、間違いなく彼だと思うよ」と、イギリス紳士らしいウィットに富んだ切返し。音楽の神様はユーモアと優しさの溢れる方でした。

大切なのは 「間接」でなく「直接」

 デジタルネイティブ世代のみなさん。これからますますコンピュータは必要不可欠です。平成元年の世界時価総額企業ランキングと今年、平成30年のそれを比べると、この30年で世界はどう変化し、どこへ向いているのかが見えてきます。ITCを最大限に活かし、新しい時代を切り拓いてください。でも、そんな時代だからこそ、大切なのは「間接でなく、直接である」ということ。今やさまざまな情報をネットでキャッチするのは簡単です。欲しい情報はすべて瞬時に手に入ります。しかし、それらは間接的なものであり、直接的ではありません。ネットからの情報は広がりますが、そのほとんどが流れていきます。気になった情報を留めておくための唯一の手段、それはその情報に対して自ら能動的に動くことです。自分で見て、聞いて、感じる。それこそがあなたの血となり肉となります。音楽も動画サイトで見るのと実際にライブ会場で見て聞いて感じるのとでは、時間が経ってからの記憶の濃度がまったく違います。そういった記憶の蓄積が話題の引き出しになって、あなたの魅力につながります。その記憶の蓄積を、どんどん増やしていくことが大切です。

 コミュニケーションを豊かにする方法として、私が心がけていることをお伝えします。たとえば、映画を観るとします。その映画を1分で紹介するならどのようにまとめるか。100文字、もしくはもっと端的に20文字で紹介するなら、どのように表現するか。映画を鑑賞後、必ず考えておきます。できればメモに残すなど文字にしておくことをお勧めします。いつでも思い出せるようにするためです。そして、誰かと話していて、その映画が話題になったとき、あなたの実体験があなたの言葉となります。実際に自分で見て感じたものは、言葉の深みや重みが違うはずです。映画に限らず、展覧会の鑑賞後や小説を読んだ後など、日常のさまざまな場面で感じたことを言葉に置き換えるクセをつけるのです。この訓練を常に心がけておくと、話題の幅や引き出しが少しずつ増えていきます。今日からでも遅くありません。是非試してください。「日々是好日」という禅語があります。今日という日は二度と戻って来ません。1日を良くするも、悪くするもすべて自分次第。「今、この瞬間を大切に!精一杯生きよう!」なんていわれても、すぐ忘れるものです。でも、甲南生のみなさん、どうぞ失敗を恐れず、たくさんのことをリアルに体験してください。それこそが輝く未来のあなたの礎となるはずです。

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