甲南人の軌跡Ⅰ/生駒 武志/サッカーからの贈り物 | 卒業生の活躍紹介サイト | 甲南大学

サッカーからの贈り物

生駒 武志

Ikoma Takeshi

横浜FC(現職)
フィジカルコーチ

[アルビレックス新潟(執筆当時)→ガンバ大阪→横浜FC(現職)]

1993年 経済学部卒

趣味・特技

読書、映画鑑賞

好きな⾔葉

今こそ全力 / 絶え間なく、粘り強く 努力する

学⽣時代のクラブ・サークル

体育会サッカー部

学生時代の思い出

 私の学生時代の思い出といえば、やはりサッカー部での活動に尽きます。本校舎からバスに揺られ、六甲アイランドへ向かった日々が懐かしく思い出されます。甲南大学に入学した年に、私の人生を大きく変える先生に出会いました。現在、甲南大学のスポーツ・健康科学教育研究センターにお勤めの桂豊教授です。先生もちょうど私と同じ年に甲南大学へ赴任され、顧問としてサッカー部にかかわってくださいました。先生は筑波大学大学院を修了され、サッカーを深く学ばれた方でした。私自身、サッカーは9歳から始めていましたが、サッカーというものを深く分析したことがなかったので、先生からサッカーに対する考え方を伺ったときは、非常に大きな衝撃を受けたことを思い出します。

 サッカーは、守備と攻撃の2つの局面から構成されています。守備戦術であれば、個人、グループ、チームに細分化されます。その細分化されたところから、さらに枝分かれしていき、それぞれの課題を抽出していくという考え方でした。このような考え方を用いて問題解決することができることを知り、とても感心させられました。

 先生とともにスタートしたサッカー部での学生生活でしたが、4年間の活動のなかで多くの経験をしました。2部リーグへの昇格、筑波フェスティバルへの参加、それに学習院大学との定期戦など、多くのイベントがありました。そのなかでも、関東への遠征は非常に記憶に残っています。学習院大学との定期戦の後、サッカー部の仲間たちと飲みに行き、酔いつぶれてみんなで雑魚寝した記憶が蘇ります。関西で育ち、関西から出たことがなかった私にとって、東京は住みにくいところだと感じたことを覚えています。その私が、今や全国を飛び回り、多くの県に居住しているのですから、世の中は本当に不思議なものです。

 大学4年生になってからは将来のことを考えるようになりました。「自分はいったい何がしたいのだろう?」。よく自問自答していた時期でした。桂先生の助言に後押しされて、急がば回れではないですが、本当にやりたいと思ったことを目指してみるのもよいのではないかと考え、筑波大学大学院への進学を決めました。その当時、将来への展望があったわけではありません。自分はどこまでできるのか、その可能性を探ってみたくなり、思い切ってチャレンジをしたのです。しかし、そのチャレンジが、その後の私の人生を大きく変えたのです。

フィジカルコーチという仕事

 現在の私の仕事は、プロサッカーチームのフィジカルコーチです。フィジカルコーチとは何か。知らない方も多いと思います。近年では、「フィジカルが強い」という言葉を耳にすることも多いと思います。フィジカル、すなわち体力を専門に取り扱うコーチであり、Jリーグにおいては、各チームに少なくとも1名のフィジカルコーチが在籍しています。サッカーにおける体力とは、90分間走り続けることのできる走力や、ぶつかり合いに負けない体幹の強さ、絶対的なスピードやパワーを意味します。これらの体力・運動能力を効率よく高めながら、試合に向けて最高のコンディションに調整していくのがフィジカルコーチの役目です。

 現在、私はプロのトップチームを指導して18年目となりました。この仕事を始めるきっかけとなったのは、桂先生からの大学院進学への勧めと、両親の理解であったと思います。筑波大学大学院に入学するのは、私にとって容易なことではありませんでしたが、研究生として2年間の下積みを経て大学院へ入学し、そして無事に修了することができました。筑波での4年間でスポーツ生理学や体力トレーニング論などをしっかりと学び、それが現在の仕事の基盤となっています。

 プロの世界で生きているので、内容ではなく結果だけで評価されることも少なくありません。チーム状態が悪く勝てない時期や、降格などを体験するときは、非常にやりきれない気持ちになります。しかし、大事な試合で勝利したときや、ロスタイムで勝利を掴んだときなどは、何ものにも代えがたい喜びがあります。今でもジュビロ磐田時代の優勝経験や、サンフレッチェ広島、大宮アルディージャでJ1に昇格したときの快感は私の記憶から離れず残っています。

 多くのファンやサポーターが、試合結果に一喜一憂しながら応援してくれています。この方々は、スタジアムという非現実な世界のなかで、筋書きのないドラマを見たいと思って来てくれています。私の仕事は、サッカーをとおしてメッセージを残すことです。ファンは何に感動するのか。それは、最後まで諦めない選手の姿や、人の感情を動かす強い気持ちです。おそらく、このようなエネルギーが伝わったとき、スタジアムが一体となって感動を与えることができるのだと思います。私は、このような仕事に携われていることを本当に嬉しく思っています。

後輩へのメッセージ

 大学時代に、英会話やドイツ語会話を必修科目として履修したことを覚えていますが、その当時はあまり必要性を感じませんでした。しかし、今、私はサッカーに携わる仕事をしてます。そのため、これまで多くの外国人とも仕事をしてきました。そのなかで、相手の母国語を理解してコミュニケーションをとると、非常に距離が近づくことを知りました。とくに、ブラジル人と韓国人の割合が多く、ポルトガル語も一所懸命に勉強して、コミュニケーションをとれるようにしました。韓国語も40歳を超えてから勉強を始め、少しは話せるようになりました。学生時代には、なかなか語学の勉強に取り組む意欲がわかないのは理解できますが、今やこれだけグローバルな時代ですから、勉強しておいて損はないと思います。私の場合、やりたいこと(夢)があって、そのために必要な知識を身につけ、それを仕事として成立させました。みなさんも夢や目標があるときの方が本気になれると思います。ですから、どんな小さな夢や目標でもよいので、まずは自分で夢を掲げることから始めてください。

 この仕事を長年やってきて、日本代表選手やトップアスリートを間近に見てきて感じることがあります。もちろん、彼らには生まれつきの才能があります。しかし、もっとも重要なことは、いくら才能があっても努力できない人はトップに立てないということです。才能のある人が努力をし続けることで、誰も到達できない高みへと到達することができると思います。私もこれまでジュビロ磐田、サンフレッチェ広島、セレッソ大阪、大宮アルディージャ、それにアルビレックス新潟といくつかのチームを移籍してきました。結局、どのチームであっても、自分のできることというのは一緒で、それを最大限発揮し続けることこそが大事だということです。誰しも自分の持っている能力以上のことをすれば、どこかにひずみが出ます。ですから、今できることを絶え間なく、粘り強くやり続け、努力することが重要なのだと思います。

 これからのみなさんの未来も、今日1日の積み重ねでしかありません。今を大切にすることが、輝かしい未来につながると信じて頑張ってもらえたらと思います。

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