甲南人の軌跡Ⅱ/西岡 美紀/Keep on walking | 卒業生の活躍紹介サイト | 甲南大学

Keep on walking

西岡 美紀

Nishioka Miki

独立行政法人国際協力機構(JICA) 
筑波センター勤務

2009年 文学部 英語英米文学科卒

趣味・特技

旅、語学、フルート

好きな⾔葉

「感謝」/「僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る」

学⽣時代のクラブ・サークル

ホテルマンのアルバイトと休学しての
ワーキングホリデーで得たもの

 幼少のころから、人一倍好奇心旺盛で、さまざまな人とコミュニケーションをとることが好きな性格でした。自分の知らない新しいものに出会えることが楽しくて、地元の国際交流イベントにも積極的に参加していました。中学時代の短期交換留学の経験も後押しし、「語学力を伸ばしてそれを活かし、人と人、国と国をつなげる仕事がしたい」という思いを持って甲南大学に入学しました。

 3回生まで六甲アイランドの学生専用マンションに住んでいたこともあり、同じ島内にある神戸ベイシェラトンホテルでベルガールとスポーツバーのウエイターとして4年間アルバイトをしていました。日本中だけでなく、世界中からやってくるお客様との出会いや英語を使えるのが楽しくて、ほとんど毎日ホテルにいたように思います。プロポーズされるお客様からの秘密の依頼で、部屋に花束を届けて特別な瞬間に立ち会う感動的な日もあれば、あと3分でバスが出発するのに荷物が詰められておらず、汗だくになってお手伝いするドタバタな日もありました。当時はパンプス着用が定められていて、1日中ホテルを駆け回り、重い荷物を運んで仕事を終えると足が痛くて靴を履くことができず、裸足でマンションまでふらふら帰ることもありました。それでも「明日は何が起こるかな。どんな出会いがあるのかな」と次の日アルバイトに行くのが楽しみで仕方ありませんでした。ホテルではアルバイトに対する教育も徹底しており、熱心に指導し育てていただいたことを今でも本当に感謝しています。あの4年間で、正しい言葉づかい、礼儀作法、所作、仕事への姿勢を身につけることができました。また、ゲストに喜んでもらえるサービスを提供するための観察力や対応力など本当に多くのことを学び、社会人としての基盤を作ることができました。

 3回生の時には、1年休学し、ワーキングホリデー(以下ワーホリ)でオーストラリアに行きました。渡航費、語学学校代等はホテルでのアルバイトで稼いで準備しました。「語学力アップ!」「自立・自活」「とにかく楽しむ!」と心に決め旅立った私は、語学学校に3か月通った後、新聞配達、アシスタントシェフ、工場でのアイスパックの箱詰めなどあらゆる仕事をして生活を送りました。日本では学費や生活費を仕送りに頼っていたので、ワーホリを通して自分の力でお金を稼いで生活していく大変さを痛感し、家族に改めて感謝しました。ワーホリを選んで良かったことは、語学学校や仕事を通して、同じくワーホリで渡豪していた多様な国籍、文化背景を持つ幅広い層の人たちと接する機会に恵まれたことです。学生だけではなくさまざまな年代、経歴、夢や目標を持つ人たちと出会い、彼らからそれまでのキャリア、仕事を辞めてオーストラリアに来た理由、帰国後の夢や目標を聞くと、将来への悩みや焦りといったもやもやとした気持ちが軽くなりました。日本人で社会に出てからワーホリに来ていた人たちから得たものも多く、「仕事を辞める」という決断は簡単ではなかったと思うのですが、みんな生き生きとしていました。大人になるって楽しそう、人生には自分らしい自由な選択肢があって良いんだなと背中を押してくれました。 

世界とつながり、つなげる仕事。人の思いに寄り添い、
沢山の人を豊かにする仕事がしたい。

 私は現在、日本の政府開発援助(ODA)の実施機関であるJICAで職員として働いています。担当業務は「研修員受入事業」で、開発途上国から行政官、研究者、技術者など国造りを担うリーダーとなる方々を日本に招き、各国の課題の解決に必要な技術や知識を学び、母国の発展に生かしてもらうことがこの事業の狙いです。「自分の国を自分たちの手で良くしたい」そんな高い志を持った研修員たちへの支援を通じて各国の発展の一助となれるこの仕事に、大きなやりがいを感じています。

 初めて開発途上国の現状に目を向けたきっかけは、高校1年生の時に聴いたアフリカ出身のジャンベ奏者による講演でした。紛争で両親を目の前で殺されたことや難民キャンプでの過酷な生活の話を聞き、涙が止まらなかったことを覚えています。ただ当時、私の心に浮かんだのは「この現状を変えたい!」という力強いものではなく、「私にできることなんてあるのだろうか」というかなり後ろ向きなものでした。なんとなく自分には無理だと決めつけていたのかもしれません。そこから一歩踏み出すきっかけをくれたのは、3回生で履修した国際理解の授業でした。JICAで非常勤講師をされていた方による授業で、途上国を支援するNGOで働く先輩、大学を休学してウガンダでボランティア活動をした友人等、身近な人の体験談を聞きました。その頃岡本駅近くにできたフェアトレードショップに通ううちに国際協力を少し身近に感じ、「自分にもできることがあるのかもしれない」と考えるようになりました。

 大学卒業後は、海運会社に就職。外国人船員管理業務を担当し、フィリピン・マニラにも駐在しました。日本が海外からの輸入に頼る食料や資源は、その9割が船で運ばれて、その船に乗る船員の8割がフィリピン人です。この食料や資源を輸出する国で自然災害や治安が悪化すると物流が滞ります。この仕事を通して、私たちの豊かな生活は他国に大きく支えられていて、開発途上国を含む他国の安定や平和は自分たちと無関係ではないということを実感しました。

 フィリピンは経済成長を続ける国の1つである一方、貧富の差も広がっています。前職では船員を目指す学生を支援する奨学生プログラムにも携わりましたが、どんなに努力を重ねても、経済的な理由で中退を余儀なくされる学生がいることにもどかしさを感じました。ジャンベ奏者の話や、大学の授業で学んだ貧困、機会不平等、教育格差といった深刻な問題を見聞きし、自分には無理だと思った途上国の課題解決に貢献したいという気持ちが強くなっていきました。そんな時、幸運にも現地の人たちに寄り添い奮闘するJICAの人たちから話を聞く機会に恵まれ、国際協力の分野で新たなキャリアに挑戦することを決意しました。

 退職後、フィリピンから帰国した後は、地元四国のJICAで、日本と世界の関わりや途上国の現状について学校等で講演することや、途上国で自社の技術を生かしたいという企業を支援することなど、地域と途上国をつなぐ仕事に携わりました。自治体や企業から「国内で需要が少なくなった製品が、現地の人の役に立って嬉しく誇りに思う」、「新しい事業が始まり社内に活気が生まれた」、「社員の育成や新たな採用につながっている」と報告を受ける度に、国際協力は海外支援という一方通行では決してなく、日本と途上国の両方がwin-winになれる可能性があり、時代に合った新しい協力の在り方を作っていく重要性を実感しました。今後も、さまざまな人たちの思いに寄り添いながら、日本と世界をつなぎ、双方の課題解決や活性化に貢献していきたいと考えています。

甲南生のみなさんへ 
大学4 年間を価値あるものにできるかは自分次第

 「僕の前に道はない僕の後ろに道は出来る」高村光太郎さんの「道程」の詩の冒頭で、私の好きな言葉です。自分の後ろにできている道を振り返ると、きっと相当ぐねぐねしていて、大きなまわり道をしているところもあると思います。それでも進みたい方向を向いて踏み出してきた一歩一歩が、沢山の出会いに支えられ今いる場所にたどり着けたと感じています。

 「休学してのワーキングホリデー」を決意したのは、大学を辞めようかと思ったことがきっかけでした。1~2回生は自分が将来やりたいこと、就きたい仕事を模索して悩んでいました。確かに進みたい方向はあるのに、それを実現するための具体的な仕事が何かわからない。親が一生懸命働いて高い学費を払ってくれているのに、明確な目標のないまま大学生活を過ごしていくことに不安や焦りを感じ、思い切って休学しました。悩んでいた時に先生に相談に行ったら「大学は目標を見つけるところではなく、引き出しを増やすところ」、「今から岐路に立つ時は何回も来るけどその時に引き出しは多ければ多い程いいから。なんか違うと思うことからも、砂金を探すみたいに自分のためになることを見つけたほうがいい」という言葉をかけていただきました。ワーキングホリデーから帰国し、復学した後は、以前は悩んでいたことを言い訳に積極的に授業に参加していなかったことを反省し、自分の学部以外でも興味関心のある授業をできる限り履修し、留学生の授業にも参加したりと能動的に大学生活を送ることができたと思います。2回生の時に挫折しかけたフランス語も取り組み直し、今も細々と勉強を続けています。社会人になってフランス語を使う場面はあまりなかったのですが、最近仏語圏アフリカ向けの研修を担当し、仕事で活かす機会を得ることができ、うれしかったです。

 昨年、英語英米文学科の1、2回生向けに講演の機会をいただきました。描いた夢をどうしたら実現できるか考え悩んだり、好きをどう仕事につなげようか模索している学生さんも多く、当時の自分と重なりました。人生、無駄なことは1つもないと思います。今自分がいる場所で考えたこと、全力で取り組んだこと、努力したこと、失敗したこと、そこで得た経験や知識は必ずどこかで役にたちます。自分の得意なこと、好きなことを生かせる場所を見つけるためにも、「こうあるべき」という固定観念にとらわれず、いろいろなことに挑戦して、新しい場所に足を運んで、自分の目で見て、感じてください。1人でも多くの人に出会ってください。たくさんの出会いが人生を豊かにし、自分自身の視野や可能性を広げてくれるはずです。

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