甲南人の軌跡Ⅱ/上原 伊織/Court(テニス)からCourt(法廷)へ | 卒業生の活躍紹介サイト | 甲南大学

Court(テニス)からCourt(法廷)へ

上原 伊織

Uehara Iori

弁護士法人朝日中央綜合法律事務所
弁護士

2015年 法学部卒
2018年 法学研究科 法務専攻 専門職学位課程修了

趣味・特技

好きな⾔葉

威風堂々

学⽣時代のクラブ・サークル

テニス

テニス選手活動と学業の両立を目指した学生生活

 私は4歳からテニスを始め、将来の夢はプロのテニス選手になることでした。そして中、高、大と甲南のテニス部に所属し、日々練習に励んできました。大学に入学してからは、国内のランキング(プロも含む)を上げるため、学生大会だけではなく、プロや実業団の選手が多く出場する大会にも積極的に参加し、年に20大会以上、国内各地で行われるトーナメントを転戦しました。主な戦績としては、高校生の頃には全国大会でベスト4、日中韓の対抗戦にも日本代表として出場しました。大学では、関西の学生大会では2連覇を果たし、上述した国内の最高ランキングは37位でした。このように、私の大学時代はテニスの練習、トレーニング、大会出場が生活の中心となっていました。

 もっとも、上述のようにテニスを中心とした生活を送っていたとしても、学生である以上は当然、大学の授業の単位を取得しなければならず、そのためにはある程度の勉強もしなければなりません。大会が大学の比較的近くで行われている場合には、トーナメントに勝ち残り、翌日も朝から試合があるという場合であっても、その日の試合が終わった後すぐに大学に向かい、授業に出席するようにしていました。また、テニスの大会は勝ち残れば1大会で1週間程度、毎日試合がありますが、大学の定期試験の1週間前に大会があることも多々あり、そのような場合には日頃から計画的に試験勉強を進めるなどして対応していました。さらに、遠方で大会がある場合には、ラケットバックの中に試験勉強のための教材も詰め込み、新幹線の中や、宿泊先のホテル等で勉強していました。このように隙間時間を有効に活用することにより、テニスを中心とした生活を送りつつも、大学の卒業単位は3年間ですべて取得することができ、後述するように大学4年生では、法科大学院に進学するための勉強の時間を確保することもできました。

 このように私は大学の勉強もしつつ、思い切りテニスをする生活を送っていましたが、大学3年生の中頃、大学卒業後の進路を考える時期になり、自分の幼い頃からの夢であった世界で活躍できるプロ選手になることは困難であると感じ、中途半端な状態で選手生活を続けるくらいであれば、自分には他にもっと活躍できる場所があるのではないかと考え、テニス選手は大学で引退することにしました。そして、大好きだったテニスを辞めてでも挑戦したいと思えるだけのことは何かと考え、以前より法律には多少興味があって法学部を選択していたこともあり、最難関の試験である司法試験を突破し、弁護士になることを決意しました。そして、大学4年生の時には、大学院に進学するための勉強もしつつ、最後までテニスを精一杯やり抜きました。

  大学卒業後は、甲南大学の法科大学院に進学(未修コース)し、「司法試験に合格するまでは、趣味としてもテニスは一日もしない。」と自分に決め、大学院を卒業後、無事に司法試験に一発で合格することができました。

弁護士としての責任とやりがい

 現在、私は弁護士法人朝日中央綜合法律事務所の弁護士として働いています。

 弁護士は、弁護士事務所に所属している人もいれば、企業内弁護士として会社員として勤務している人もおり、さらには自治体等の公的な機関で働いている人もいます。また、法律事務所に所属している人であっても、事務所あるいは弁護士ごとに取り扱っている専門分野が異なり、さまざまなスタイルで仕事を行っており、活躍の幅が非常に広い職業です。

 以下では、私が弁護士として働く中で感じる難しさや、やりがいなどについて述べたいと思います。

 まず、難しいと感じる点ですが、案件の解決方法として絶対的な正解がない中で、あらゆる可能性を考えた上、クライアントにとって最良と考えられる選択を行い、案件を進めていかなければなりません。時には、難解かつ膨大な資料を調査、収集するところから始め、その資料を理解した上、人にわかりやすいようにまとめなければならず、しかもクライアントの都合や、裁判期日の日程、時効などの法律上の問題から厳しい時間的な制約もあります。そして何より、人や会社における重要な問題を扱うため、決してミスをすることが許されません。また、1つの案件だけを担当しているわけではなく、常時20ないし30程度の案件を同時進行で進めており、その1つ1つの案件について、上記のような対応をする必要があります。

 さらに、当然のことながら、すべての法律や判例について精通しているわけではなく、法律改正も行われるため、日頃から法律の専門家として法律の勉強を継続する必要があります。また、案件によっては他の専門分野についても一定程度の知識が必要となりますが、日頃の業務に追われる生活の中では、落ち着いて勉強する時間を確保することには苦労します。

 次に、やりがいについてですが、似たような事件を何件も解決して経験を積んでいくことにより、よりクライアントの利益となり、かつ、迅速な解決が可能になることは間違いありません。しかし似たような事件であっても、やはり1件ごとに個別の事情があるため、日々思考し、案件を通じて自分自身も勉強することができ、やるべきことは無数にあるため、決して退屈することがありません。精神的にも肉体的にもタフさが要求される職業ですが、結局はそれも魅力の1つではないかと思います。

 また、仕事を適切に回すことができてさえいれば、自由に予定を組むことができるため、自由度が高い点も魅力の1つです。

 そして何より、クライアントから信頼していただき、人や会社の重要な問題にかかわらせていただくことができ、結果としてクライアントにご納得いただける形で案件を解決することができた際には、充実した達成感を感じることができます。

何事にでも一生懸命に取り組むこと

 今回、私から現役学生に対して伝えたいメッセージは、「一生懸命に過ごした学生時代の経験は、どのようなものであっても必ず大切な財産になるので、自由に学生生活を過ごして欲しいと思いますが、自分の選択にはリスクを伴うことを理解し、後悔しないようにして欲しい。」ということです。

 学生生活の過ごし方は人によってさまざまであることは多言を要しないと思います。しかし、学生生活の過ごし方について、どのような選択を行ったとしても、その選択によって得られるものと得られないものが必ず存在します。

 たとえば、私のように部活動でスポーツに全力を尽くす生活を送ることによって、単に競技力や身体能力が向上するだけでなく、スポーツを通じて、目標に向かって努力をすることや、コミュニケーション能力なども身に付けることができ、社会に出てからも重要となる能力を身につけることができます。しかし、大学卒業後の就職を見据えるなどして、資格試験の勉強等、何かの学問に励んでいる学生ほどの勉強時間を確保することはできません。社会に出てからはどのような方向に進んだとしても、勉強しなければならないことがたくさんありますが、学生時代から懸命に勉強し、そこで身に付けた知識等は、社会に出てからもその人の大きな強みになります。

 また、友人といろいろな場所に旅行に行ったり、何かイベント等を企画、実行するといったこともできません。アルバイトをしてお金を貯め、毎日友人と遊んで楽しく生活するということも学生時代にしかできないことの1つです。そして、そのような学生生活の経験も、創造的なアイデアを生み出すことに繋がったり、コミュニケーション能力や行動力を身につけることに繋がるなどして、社会に出てから役に立つことも多いと思います。

 では、さきほどのべたこれらの事柄について、バランスの良い学生生活を送れば良いかというと、必ずしもそうとは限りません。もちろんバランスの良い学生生活を送ることは大変素晴らしいことではありますが、1つのことに精一杯取り組むことによってのみ得られるものもあり、すべてが中途半端になってしまってはもったいないこともあります。

 以上のように、学生時代にできることは限られています。もう二度と取り戻すことができない学生生活をどのようなものにするか、これを自ら選択することにより、学生時代に得られるものと得られないものが決まってきます。

 しかし、何でも一生懸命に取り組めば、その経験は必ず社会に出てからも活用できる場面が多々あります。みなさんには、どのような学生生活を送るにしても、後悔のないよう、精一杯に有意義な学生生活を送って欲しいと思います。

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