甲南人の軌跡Ⅰ/植本 有海/弓道と宇宙 | 卒業生の活躍紹介サイト | 甲南大学

弓道と宇宙

植本 有海

Uemoto Arimi

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(JAXA)勤務

2016年 理工学部卒

趣味・特技

弓道

好きな⾔葉

為せば成る為さねば成らぬ何事も成らぬは人の為さぬなりけり

学⽣時代のクラブ・サークル

体育会弓道部/宇宙粒子研究室

夢に向かって

 学生時代は文武両道をモットーに、何ごとにも全力で取り組みました。

 「文」は、小さい頃からの夢である宇宙開発に携わるための勉強と研究、「武」は、日本一になることを目指した弓道。どちらも妥協することなく、全力で取り組んだ4年間でした。

 弓道では、大学3年次に王座決定戦という全国大会で優勝し、日本一になるという目標を達成することができました。しかし、それまでの道のりは決して順調ではありませんでした。2年次の秋から3年次の夏頃まで、弓道人生で最大のスランプに陥り、弓を引くことに恐怖心を抱いてしまうほど追い込まれてしまいました。研究室の配属を決める時期には、勉強を言い訳に弓道に背を向けそうになったこともありました。プラスに働くはずの目標が、「目標を達成しなければいけない」「逃げてはいけない」とマイナスの感情に変わり、自分で自分を苦しめ、悪循環にはまっていったのだと思います。そんなとき、私の状況を理解し、「逃げてもいいんだよ」と声をかけてくれた先輩がいました。その言葉のおかげで、一気に肩の荷が下り、悪循環から抜け出すことができました。今がどん底ならば、これからは登っていくのみだと考え、その後も、日本一になりたいという目標に向かって諦めずに立ち向かうことができ、スランプだったことが嘘のように調子も上がり、リーグ戦優勝、王座決定戦優勝(日本一)に貢献することができました。今思えば、どん底にいたその間の苦しみ、悔しさが最終的にはバネとなり、日本一につながったのだと思います。

 日本一になった後の学生弓道最後の1年間は、女子責任者(女子主将)として、日本一になったチームを引っ張っていくプレッシャーや、「2連覇」という期待の声等に応えられるように、ひたすら弓道と向き合い続けた1年を過ごしました。結果としては、2連覇の目標を達成することはできませんでした。もちろん、とても悔しかったのですが、日本一になったときよりも達成感があり、1年間取り組んできたことに対する後悔はありませんでした。結果は勝手についてくるものであって、本当に大切なのは、目標を達成するために最大限の努力を積み重ねてきた過程にあるということを学びました。もちろん、日本一になれたことは私の誇りとなり、自信となっています。しかし、今後の人生において、私の自信となり、強みとなるのは、目標に向けて諦めずに最大限の努力をし続けることができたということです。

次の夢へ

 小学生の頃、「宇宙に端はあるのか?宇宙自体はどこに存在しているのか?」と疑問に思ったのが、宇宙開発を志したきっかけでした。まだまだ未知の部分が多い宇宙に惹かれ、自ら研究して、宇宙の謎を解明していきたいと思うようになりました。高校の研修旅行でJAXAを訪れてからは、日本の宇宙開発の最先端をいくJAXAの一員として宇宙開発に携わることが夢となりました。また、宇宙開発といっても、ロケットや人工衛星、有人活動等さまざまな分野があるなかで、どの分野に携わっていきたいかと考えたときに、もともと環境問題に興味があったこともあり、宇宙の環境問題である「スペースデブリ(宇宙ごみ)」に携わることが目標になりました。大学では、物理学科の宇宙粒子研究室に所属し、卒業研究では、デブリ研究の一歩として、「地球を周回している人工物体の地上観測」というタイトルのもと、当時(2015年12月)、地球スイングバイを行ったHAYABUSA2を観測し、速度や軌道の解析を実施しました。

 現在は、幸運にもJAXAの一員となることができ、希望していたスペースデブリにかかわる仕事に従事しています。人類が宇宙開発を進めていくなかで、たくさんのロケットや人工衛星が宇宙空間に打ち上げられました。役目を終えて今は運用されていない人工衛星や、人工衛星を宇宙空間に運び終えたロケットの残骸等が無数のスペースデブリとなっています。それらが現在運用中の人工衛星等に衝突した場合には、貴重な人工衛星を破壊してしまうこともありえます。私は、こういったスペースデブリを監視し、人工衛星への衝突の可能性がある場合には、スペースデブリを避けるために人工衛星の軌道を変更するように、人工衛星の担当者に指示を出しています。

 イメージとしては、宇宙空間の交通管制官です。ロケットや人工衛星、探査機、有人活動等とは異なり、スペースデブリは、みなさんに夢や希望を与えられる花形ではないかもしれません。しかし、誰かがやらなければ、花形がきれいに花を咲かすことはできません。大切で重要な仕事だと思っています。ロケットや人工衛星等をスペースデブリの脅威から守り、安全で安心な宇宙環境を整えることで、宇宙開発の促進に貢献していくことが私の今の目標です。

4 年間の使い方

 私が学生時代に経験してよかったと思うのは、何かに対して全力で取り組むということです。楽しいことも苦しいことも、喜びも悲しみも、すべて弓道をとおして経験しましたが、諦めずに最後まで取り組み続けることができたという経験があることは、私の自信となっており、今仕事をするうえでも活きています。学生時代は弓道で日本一になるという夢に向かって全力で取り組み、現在は宇宙開発に貢献するという夢に向かって、諦めずに取り組み続けています。もちろん、自分の思うようにいかず、苦しいこともありますが、弓道をとおして得た諦めない力を武器に、夢に向かって立ち向かい続けたいと思っています。

 長い人生のなかで、大学で過ごす4年間は、特別で貴重な時間だと思います。部活でも、勉強でも、バイトでも、何でもよいので、何かに全力で取り組んでみてはいかがでしょうか。その経験をとおして得たものは、かたちを変えてこれからの人生において役に立つ貴重なものになると思います。

 私は中学生の頃、先生にいわれた次の言葉を大切にしています。「努力したが、夢が叶わなかった人は「悔しい」と感じます。努力せずに、夢が叶わなかった人は「後悔」を感じます。似ているようでまったくの別物です」。

 努力したら夢は必ず叶う、なんて無責任なことはいえません。それは神のみぞ知る、だと思います。しかし、夢に向かって自分にとって最大限の努力ができたかどうかで、結果が出たときに感じる思いや自身の成長度合いが大きく変わることを、身をもって実感しました。後悔を感じることがないよう、学生生活を送ってほしいと思います。ただ、失敗は成功のもとといいますし、もし後悔することがあったときには、そこで挫けてしまうのではなく、それを糧にして、さらなる成長を遂げてほしいと思います。

 甲南大学の一卒業生として、甲南大学のみなさんのご活躍を切に願っています。

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