えん罪事件の救済とえん罪原因の究明に関する研究・実践を通じて、公正な刑事司法を実現する | KONAN Action for SDGs|甲南大学|甲南大学
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法学部 法学科 教授 笹倉香奈

えん罪事件の救済とえん罪原因の究明に関する研究・実践を通じて、公正な刑事司法を実現する

 無実の罪に問われ、刑事裁判で犯罪者としての烙印を押されてしまう「えん罪」。日本にはこれまでも、足利事件、布川事件、東住吉事件、湖東記念病院事件など、誤った有罪判決を言い渡された人々がやり直しの裁判(再審)で無罪判決を勝ち取った著名な事件が多くあります。えん罪は究極の人権侵害ともいわれ、その救済をするのみならず、えん罪原因を分析してその結果を司法改革に活かす研究・取組みが必要です。

   

 海外に目を向けてみれば、アメリカではDNA鑑定によってえん罪を救済する活動を1992年に開始した「イノセンス・プロジェクト」などの取組みにより、これまでに3400人以上がえん罪を晴らされてきました。アメリカでは、これらの事件のえん罪原因を分析し、それを制度改革に活かすことで「イノセンス革命」とも呼ばれる刑事司法の大きな改革を実現しつつあります。イノセンス・プロジェクトを同じコンセプトの団体は1990年代以降に全米各地に登場しました。多数のイノセンス団体が大学の法科大学院に置かれ、学生がえん罪事件の弁護活動を行っており、次世代の司法の担い手の育成にも貢献しています。IPのモデルは世界に拡がり、現在では全世界を結ぶえん罪救済のネットワークがあります。

   

 日本のえん罪事件やえん罪原因について研究をするのみならず、このような海外におけるえん罪救済をめぐる目覚しい動きを日本に紹介し、日本でも同じ動きを作り、刑事司法をより公正なものにしていくことが本研究の目的です。えん罪救済は研究のみならず、実践が必要です。そこで、2016年にイノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)という団体を立ち上げました。IPJは、弁護士や研究者などの司法の専門家が、無償でえん罪事件を救済し、無罪判決を獲得するための支援活動を行う日本初の団体です。専門家として、法律家のみならず、心理学や法医学などの多分野科学者が所属しています。現在、40名を超える専門家が活動しており、すでに5つの事件を支援し(うち2件では無罪判決が確定)、現在はさらに4つの事件の支援活動を行っています。300名を超える学生ボランティアも所属し、中学校や高校に法教育をしに行ったり、えん罪被害当事者と交流したり、多数のイベント開催に関わったりするなど、若い世代に向けてえん罪の問題を啓発するために活発な活動を自主的・自律的に行っています。

   

 研究・実践・教育の三位一体で、日本の刑事司法をより公正なものに改革していくことが、本研究の究極的な目的です。刑事司法は社会の多くの関心を集める問題とはいえないかもしれません。しかし、えん罪は、誰の身にも降りかかる可能性がある重要な問題です。えん罪の問題を様々な観点から研究するのみならず、多分野の研究者、実務家、当事者、学生と実践・啓発に取り組むことで、一人ひとりが尊重され、適正な手続がすべての人に保障される司法・社会をめざしています。

▼参考HP

イノセンス・プロジェクト・ジャパン

研究者紹介

笹倉香奈

法学部 法学科 教授

笹倉香奈