ブータン山村における「コミュニティ経済」振興 | KONAN Action for SDGs|甲南大学|甲南大学
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マネジメント創造学部 教授 真崎克彦

ブータン山村における「コミュニティ経済」振興

経済学では従来、「経済」を各主体による自己利益追求のための「商品」取引の場ととらえられがちであった。自由市場においてこそ最適な取引や分業が自ずと出来上がり、効率よく富を生み出す経済合理的な体制が生まれてくる、という前提からである。

   

 こうした中、「経済」をわれわれの暮らしを支える活動総体として広くとらえ直そうとするのが「コミュニティ経済」研究である。われわれの生活では、自由市場での「商品」交換はモノ・サービスをめぐる種々の取引の一部に過ぎない。自給や物々交換や贈与など、貨幣を介さない形でもモノ・サービスをやり取りするし、フェアトレード商品や有機農産品などのような、経済的な損得に止まらないで社会的・環境的影響を配慮した取引も行われる。

   

 「コミュニティ経済」研究では、以上のような現実の経済実践の多様性を斟酌しながら、より倫理的で責任ある生計手段をコミュニティ成員で築く方途を考察する。ウェルビーイングの達成のためには、自己利益の追求による貨幣価値上の豊かさは大事であるが、それだけでなく、人どうしの関係性の質、自らが属するコミュニティとの関わりも欠かせない。こうした観点より「コミュニティ」を「経済」の修飾語として、ウェルビーング増進を探究する。

   

 本研究者はこうした問題意識より、「幸せの国」ブータンにて「コミュニティ経済」のあり方の検討を行ってきた。同国では近年、都市化や海外移住が進む中、一次産業を基盤とした村落振興による村落住民(全人口の約6割)の所得を上げる必要に迫られている。その後押しとなるのが、農作業での労働交換や地域祭りの開催など、隣人どうしが協力し合う慣行ではないのか。そうした協同性のもと、村落部での贈与や物々交換を含めた多種多様なやり取りに依拠した村落振興を図ることができるのではないだろうか。これらの問いにアクションリサーチを通して取り組んできており、その主要成果の一つが、国際協力機構(JICA)の支援による中部山村での乳業協同組合の立ち上げの支援についての調査である(上記写真や下記URLを参照)。

   

 SDGsが提起された背景には、環境破壊や自然災害につながろうと、感染症発生の原因になろうと、経済格差が拡大しようと、自己利益の追求やそれによる貨幣価値上の豊かさの向上が先んじられがちであったという時勢がある。本研究ではそうした中、持続可能な社会づくりのために今後どのような「経済」像が望まれるのかを明らかにしていきたい。

   

▼参考

JICA草の根技術協力事業「シンカル村における所得向上と住民共助による生活基盤の継承・発展」

JICA草の根技術協力事業の好事例(2022年度版、4ページ掲載)

研究者紹介

真崎克彦

マネジメント創造学部 教授

真崎克彦