文学部 社会学科 教授 阿部真大
ローカルクリエイティブ層の形成する「新しい公共」に関する研究

1990年代以降のモータライゼーションは、地方に生きる若者たちの消費、人間関係、仕事に大きな影響をもたらした。若者たちは、ショッピングモールに代表される快適な消費環境、友人と家族を中心に形成されるノイズレスな人間関係を享受しつつも、行き先が不透明な雇用状況、地域コミュニティの衰退のもたらす将来不安に苛まれてもいる。こうした不安が「昔は良かった」というノスタルジックな感情を人々に呼び起こすのだが、旧来の地域共同体に様々な問題(家父長制的、閉鎖的な性格など)があったことを忘れてはならない。
つまり、「新しい公共」は、「古い公共」の問題点を克服しながら、形づくられるべきである。本研究で注目したいのは、ローカルなクリエイティブ層による、地域の枠を超えた「トランスローカル」なネットワークの形成である(図1参照)。それは、自動車やインターネットをフル活用したアクティブなネットワーキングを特徴としている。彼らによる「新しい公共」の形成=「下からのグローバライゼーション」が、どの程度、ローカルなレベルで浸透しているのかを探ることは、地域社会の未来を探る上で重要な作業となるだろう。
ローカルクリエイティブ層の「サブカルチャー」は、どの程度の影響力をもって地域社会のローカルな文化を変えていくのか(統合)、あるいは変えていかないのか(すみ分け)。本研究では、彼らを、戦後若者文化の系譜に連なる「ソーシャル族」と名付け、その解像度を上げていくことを目指す。具体的には、ライフヒストリーの聞き取りを通して、ソーシャル族第一世代(30代から40代)、第二世代(10代から20代)の特徴を捉える。また、地域社会におけるアンケート調査を通して、彼らの文化の地域社会への浸透の度合いについても検討する。
ポストモータライゼーション、ポストインターネットの時代の「住みやすい地域社会」の形成に資することが、本研究の目標である。
