法学部 法学科 教授 濱谷和生
独禁法・競争政策を通じた環境価値の実現

我が国は「地球温暖化対策計画」(令和3年10月22日閣議決定)において、2030年度や2050年度の温室効果ガスの削減目標を明らかにしました。これらの削減目標を達成するためには、環境負荷の低減と経済成長の両立する社会(以下「グリーン社会」)を実現する必要があります。我が国の公正取引委員会(以下「公取委」)をはじめ、独禁法・競争法を執行する各国競争当局は、グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組に関する新たな技術等のイノベーションを妨げる競争制限的な行為を未然に防止するとともに、事業者等のグリーン社会の実現に向けた取組を後押しするために、グリーンガイドラインを策定し、それを実際の法執行に生かすなど様々な施策を行っています。
グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は、基本的に、新たな技術や優れた商品を生み出す等の競争促進効果を持つものであり、温室効果ガス削減等の利益を一般消費者にもたらすことが期待されます。そのため、グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は独禁法上問題とならない場合が多いと考えられます。他方、事業者等の取組が、事業者間の公正かつ自由な競争を制限する効果のみを持つ場合や、新たな技術等のイノベーションが失われたり、商品又は役務の価格上昇や品質低下が生じたりすることにより一般消費者の利益が損なわれる場合には、独禁法上問題となり得ます。このように、今後、グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組を積極的に後押ししていくためには、独禁法・競争法を具体的にどのように執行していくべきか、が重要な課題になります。
本研究では、諸外国の競争当局における取組みや法執行のあり方等も参照しながら、環境政策との関連における我が国における独禁法執行のあり方を、よりよいものにしていくための政策措置等について検討していきます。