理工学部 機能分子化学科 教授 渡邉順司
環境に優しい材料開発

ポリ塩化ビニルは難燃性の汎用樹脂であり、可塑剤の添加により硬質材料から軟質材料に変えることができる。この軟質化には、ポリ塩化ビニルに対して重量比で半分程度のフタル酸誘導体のような可塑剤(低分子化合物)が添加されている。
低分子可塑剤は、ポリ塩化ビニルの内部から表面に徐々に拡散して移行し、可塑化効果が低下して劣化に至る。また、アルコールなどの有機溶媒と接触すると可塑剤DEHPがポリ塩化ビニルから容易に抽出されてしまい、有機溶媒に対する耐性が低い。
多くの低分子可塑剤はEUで制定されている化学物質管理規則”REACH”や電気・電子機器に使用される特定有害物質規制”RoHS”などの薬品規制において規制対象物質となっている。
可塑剤の高分子量化技術が確立できれば、可塑剤の移行抑制や有機溶媒に対する耐性、さらには薬品規制の問題の全てが解決できる。
ポリ塩化ビニルは、世界的に使用量が多い汎用性のポリマー材料の一つであり、アジアおよびEU、北米で大半が消費されている。可塑剤の使用規制への対応と可塑剤の移行抑制が同時に達成できる環境負荷の低いポリマー可塑剤が創製できれば、世界の市場に与えるインパクトは極めて大きい。さらにポリマー可塑剤による移行抑制が実現すると、ポリ塩化ビニルの劣化が抑えられることから耐久性の向上につながり、設備の取り替えや更新の頻度を減らすことができ、資源の有効活用や廃プラスチックの削減に寄与できるサステナブルな材料科学に貢献できる。