全学共通教育センター スポーツ・健康科学教育研究センター 教授 曽我部晋哉
~転倒事故から人類を守る~ 世界共通の転倒予防法の開発

我が国は、世界稀にみる高齢化社会に突入しようとしている。2021年の高齢化率(総人口に占める65歳以上の者の割合)は28。9%であり、現時点ですでに3。5人に一人が高齢者である。この割合は今後さらに加速することが予想され、2065年の高齢化率は38。4%となるとされている。この高齢化社会は、確実に訪れ我々の社会環境に大きな影響を及ぼすことは間違いない。その一つが、医療費や介護の問題である。この介護の原因の第3位は「骨折・転倒」であり、場合によっては死亡することもある。実際に、厚生労働省「人口動態調査」から、65歳以上の転倒・転落の死亡者数を見てみると、死亡者数は交通事故の4倍にもなる。
また、世界的にも転倒は大きな問題となっている。WHO(世界保健機関)の報告によると、不慮の事故で亡くなる死因は、第1位が「交通事故」、第2位が「転倒」であり、毎年約68万4千人もの命が失われているという。更に死亡に至らなくても、転倒によって重篤な損傷を伴うものは3730万件も発生しており、世界中の人々を転倒から守るために、以下の様に提言している。
“Prevention strategies should emphasize education,training,creating safer environments, prioritizing fall-related research and establishing effective policies to reduce risk.”
「転倒を予防に取り組むために、教育、トレーニング、安全な環境づくり、転倒予防に関する研究の優先順位を上げ、転倒の危険性を軽減するための効果的な政策を確立すべきである」
そこで、我々は現在世界各国の柔道連盟と協力し、柔道の受け身という転倒予防の利点を生かした世界共通の転倒予防法の開発を行っている。2023年11月には13か国が参加した第1回目の” International Conference Safe Falling for the Elderly through Judo”が開催され、学会よりConsensus Statementが出された。本研究グループが、世界から不幸な転倒事故を無くすための知見発出の拠点となることを期待したい。