フロンティアサイエンス学部 生命化学科 教授 松井淳
PFAS(有機フッ素化合物)を認識して除去できる人工抗体高分子の創製

有機フッ素化合物(PFAS:ピーファス)は、炭素(C)-フッ素(F) 結合をもつ有機化合物の総称です。撥水・撥油性、化学的安定性、熱安定性、非粘着性などの優れた性質から、撥水・撥油剤、フッ素樹脂の助剤、泡消火剤、宇宙材料などさまざまな用途に使用されています。しかし、その特徴でもある高い安定性の結果として、環境中や生体内で長期にわたって残留することが明らかになっており、ヒトの健康への影響が懸念されています。PFASの分析には、HPLCやGCなどのクロマトグラフィー技術が有用ですが、特定のPFASを環境中から抽出したり、特定のPFASを簡便に検出できるバイオセンサーを開発したりすることは極めて困難です。その理由に、特定のPFASに対して分子認識能をもつ生体機能材料(抗体など)を調製することが難しいことが挙げられます。
そこで我々は、独自の高分子合成技術(モレキュラーインプリンティング法)を用いて、代表的なPFASであるパーフルオロオクタン酸(PFOA:ピーフォア)やパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS:ピーフォス)を分子レベルで認識することができる人工抗体高分子の創製に取り組んでいます。生体由来の材料では認識することが難しいC-F結合をフルオラス相互作用で認識するなど、生体材料(抗体など)を参考にしながらも合成化学の技術を生かす材料設計となっています。現在は、実試料分析に応用するための分子認識能の向上や、認識したという情報を光や色などの別の情報に変換する機能をあわせもたせることによる人工バイオセンサーの開発に取り組んでいます。このような特定のPFASを検出できる人工バイオセンサーが実現すれば、PFOAやPFOSなどの要監視項目であるPFASに対して、オンサイト・リアルタイム分析が可能になることが期待されます。
▼参考HP