甲南人の軌跡Ⅰ/水野 正人/「器」の大きな甲南生であれ | 卒業生の活躍紹介サイト | 甲南大学

「器」の大きな甲南生であれ

水野 正人

Mizuno Masato

美津濃(ミズノ)株式会社
元・代表取締役会長

1966年 経済学部卒

趣味・特技

ゴルフ・音楽鑑賞 誰とでも親しく話ができること

好きな⾔葉

備えよ常に。

学⽣時代のクラブ・サークル

サッカー部

幅広い経験をとおして
友人に恵まれた学生時代

 大学時代は自由な校風のなか、サッカー部で汗を流し、バンドでサックスを吹き、冬になれば志賀高原のスキー場でパトロール隊のアルバイトと、四六時中、何かしら活動している学生でした。そうやっていろいろなことをしているうちに、友だちの幅は随分広がりました。甲南のよいところは、幼・小・中・高の一貫教育のなかで、互いに親兄弟を知る者同士が多く、親しい付き合いが縦横さまざまに、甲南の枠を越えて広がっていくことです。そうした豊かな人間関係の生まれる土壌ができているため、大学から入学する人も、よい友だちをつくりやすい環境があります。

 私は子どもの頃、ボーイスカウトに所属していました。野外での活動を通じて、自主性、協調性、社会性、たくましさやリーダーシップなどを育むことを目的とした活動ですが、そこでもいろいろな学校から集まる友だちが大勢できました。とくに印象的だったのは、カナディアンアカデミーの子どもたちとの交流です。彼らのキャンプ用品は私たちのそれとは雲泥の差で、天井が高く、広いテントのなかには簡易ベッドまでありました。火起こしは苦もなくバーナーで一発着火です。北米の物質文明の豊かさを目のあたりにして、その世界に自分も入ってみたいという純粋な憧れが、甲南大学卒業後に米国カーセージ大学理学部に入学する動機となりました。入学に際しては、大学選びから推薦状の準備まで、ボーイスカウト時代からのアメリカ人の友人たちが力を貸してくれました。

 カーセージ大学では化学を専攻しましたが、最初は右も左もわかりません。ですが、そこでも友だちはすぐにできました。キャンパスの芝生の上で、甲南高校時代の授業で身につけた柔道の技を使い、自分より大きなアメリカ人をひっくり返す。体を使ったコミュニケーションは一気に人の距離を縮めます。彼らにとっても日本からの留学生は珍しいらしく、あれこれ世話を焼いてくれました。おかげで、ホームワークの評価はとてもよく、授業で苦戦しても、平均すれば合格点がとれて落第せずに済みました。そうした支えがあり、挫折することなく地道に勉強した結果、自分でも納得のいく成績で無事卒業することができました。甲南時代から留学時代まで、人に恵まれた学生生活でしたが、友だちづくりのコツがあるとするならば、それは「オープンマインド」。「私はこんな人間ですよ」と、アホなところも包み隠さずわかってもらうということではないかと思っています。

仕事に必要なことは
物ごとへの備えと責任感

 ミズノには甲南大学を卒業した1966年に入社しましたが、同年に留学したので、本格的に仕事を始めたのは帰国後の1970年です。小売営業部、総合企画室、取締役副社長などを経て、1988年に代表取締役社長となりました。国際オリンピック委員会(IOC)、スポーツ&環境委員会の委員や日本オリンピック委員会(JOC)理事を務めてきた経緯で、2011年に、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会副理事長をお引き受けすることになったのを機に、代表取締役会長を退任するまでの間、どの立場にあっても同じように心がけてきたことがあります。

 それは、何ごとも「事前の準備を大切にする」ということです。甲南学園の創立者、平生釟三郎先生の語録には「常に備へよ」という言葉がありますが、ボーイスカウトのモットーも「そなえよつねに」です。子どもの頃から心に刻んだわかりやすい教えですが、仕事をするなかで実感をともなった成功哲学になりました。何をするのにも、きちんと準備しておけばうまくいくし、予期せぬトラブルにも対応できます。また、自分に余裕ができ、他人を助けることもできます。実行する方法は単純で、手帳に「いつ何をする」ということを書き、そこから逆算して「いつには何をしておく」と書き込む。それを1つひとつ遂行していくだけです。しかし、実際にはやるべきことが重なってしまって、これを100パーセント実行することは難しい。そうなれば、一層早めの準備を心がけるようにします。

 もう1つ、仕事のなかで信条としてきたのは、言い訳をしないということ。個人でも会社という組織でも、間違いは起こります。わが社でも金属バットに不良品を出してしまったことがあります。危険や不安を招いたことを直ちに謝罪し、全品回収を手配しました。同時に、対策本部を設けて原因を徹底的に究明し、関係各所に改めてお詫びと原因報告に回りました。心から頭を下げ、真摯に再発防止に努める。失敗したときにやるべきことは、これ以上でも以下でもありません。間違いを隠そうとすると、問題はいつまで経っても解決しません。事の大きさに恐れを成し、あるいは自己の立場を守ろうとするあまり、間違いを認めないことが世の中には多いように思います。問題が起きたとき、逃げずに解決へ向けた努力ができるかどうかが、その人の責任感であり、プロ意識ではないでしょうか。

観察力を持って海外から
日本を見てみよう

 世界があらゆる面で変革期を迎えている今日、観察力を持つことが、これからを生きる「備え」となります。たとえば、地球規模で気候変動が起きているといわれますが、日本でも台風や竜巻の被害が増えていることは明らかで、今後もさらに増加するでしょう。これまで熱帯地域に特有とみられていた感染症も、地球温暖化はもとより、物や人が国境を超えて往来するグローバル化によって、もはや日本人にも無縁ではありません。

 経済や政治面では、まず中国、韓国、ロシアといった近接する国との間の領土問題があります。これらは漁業権や資源開発といった経済的な利害だけでなく、国民のナショナリズムを煽る側面があるため、日本が強硬な態度をとれば、対立の構図が明確になり、平和を脅かしかねません。日本社会の少子高齢化にともなう外国人の受け入れ拡大政策は、職場や地域、学校の身近な問題になってくるでしょう。また、米中間の貿易戦争が経済冷戦へと発展することが懸念されていますが、当然、世界経済に及ぼす影響も深刻ですし、平和の維持も脅かし兼ねません。さらに、AIと人類との共存は世界共通の課題です。

 しかしながら、自国の利益を追求するだけでは決して本質的な解決をみないのがグローバル社会です。これからの甲南生に期待することは「器」=“Capacity”の大きさです。現在、世界の超大国はそろって自国中心主義に傾き、国益重視の姿勢を示していますが、国家の利害や企業の利害を超えた、地球全体にとってのメリット、つまり「地球益」を考えたうえで、自国の今後のあり方を考え行動する「器」が必要です。

 「器」を大きくするためには、ぜひ、一度は海外から日本を見てください。1週間でも1ヵ月間でも、「現地で生活をしている」と実感できる程度の長さの留学が理想です。留学先で、ぜひ観察力を持って世界を、日本を、見てください。また、日本に居ても外に向かって積極的にコミュニケーションをとり、さまざまな人とつながることによっても、視野や考え方に幅が生まれるはずです。行動すれば何かしら失敗はつきものですが、その際、決して逃げずに問題解決に努力する責任感も、あなた自身の「器」を大きくしていくことでしょう。卒業生である私もまた、学び続ける「甲南生」の1人として、自己の「器」を広げながら、ともに社会に貢献し続けたいと考えています。

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