甲南人の軌跡Ⅱ/大山 富生/1 つひとつ、理詰めで考える そんな学びが道をひらいてくれた | 卒業生の活躍紹介サイト | 甲南大学

1 つひとつ、理詰めで考える
そんな学びが道をひらいてくれた

大山 富生

Oyama Tomio

アイリスオーヤマ株式会社
取締役副会長

1975年 理学部 経営理学科卒

趣味・特技

ゴルフ、ウォーキング

好きな⾔葉

念ずれば花開く

学⽣時代のクラブ・サークル

体育会スポーツ 愛好同好会 軟式庭球パート

夜中2 時の発見 ! わずか1 文字のミス

 大学受験に際して甲南を選んだ理由は、最先端のコンピューターサイエンスを学べる大学たったからです。当時、西日本の大学でIBMのコンピューター「360」を導入していたのは本学だけでした。理学部経営理学科に進んでゼミを2つ掛け持ちし、みっちりと指導を受けました。

 当時は東大阪に住んでいたのですが、1年生の時はもとより、4年生の時にも結構1限目から授業を受けていたこともあり、在学中を通して早朝に家を出て片道2時間かけて通学する毎日を過ごしていました。外書購読の講義では毎回コンピューターの専門用語に関するテストがあったため、通学時間はずっと英単語の暗記に努めました。長時間の通学が、行きは勉強で帰りは読書と、いずれも学びに最適な時間となったのです。

 授業の教材は、IBM社のコンピュータープログラムのマニュアルです。英語を読みながらプログラムを1つずつ学んでいき、COBOL、Fortran、アセンブラなど当時の主だったプログラム言語をひと通りマスターしました。学んだ言語を使って自分でもプログラムを作るのですが、いまだに忘れられないほど苦労した思い出があります。

 コードをすべて書き終えたはずなのに、プログラムが動いてくれない。おそらくは、どこかに間違いがある。それだけは確かだけれど、どこに問題があるのかがわからない。最初の一行から精読し直していきました。約半世紀ほども前のコンピューターですから今のようなモニターはなく、入力もキーボードで直接行ったりはできません。パンチカードにプログラムを示す穴を開け、そのカードをコンピューターに差し込むのです。

 一体、どこに間違いがあるのか。丸2日かけて見直し続け、深夜2時に見つけたのがカンマとピリオドの打ち間違いでした。本来ならピリオド=「.」を打つべきところに、カンマ=「,」を打ち込んでいたのです。ほんのわずかな入力のミス、それだけでもプログラムは動いてくれない。徹底的に緻密に取り組み、ミスなくものごとを進める大切さが身にしみました。これだけ苦労しただけあって、社会人になってからコンピューターに関する学びの恩恵をしっかりと受けました。

 授業で忙しい合間を縫って軟式テニスで関西リーグにも参加していました。また、リーグの書記として対戦表づくりをしたこと、テニスの仲間と合宿に出かけて、帰りに旅行したことなども良い思い出です。

コンピューターシステムの全面改革を主導

 授業で忙しい合間を縫って軟式テニスで関西リーグにも参加していました。また、リーグの書記として対戦表づくりをしたこと、テニスの仲間と合宿に出かけて、帰りに旅行したことなども良い思い出です。

 当社は当時も今もですが、外部の環境を先取りするような形で、社内の仕組みをどんどん変えています。ところが汎用コンピューターを使っていると、システム変更するたびにプログラムを一から書き直さなければなりません。その作業をコンピューターメーカーに依頼すると、まず調査だけで1か月程かかり、プログラム変更に数千万単位のコストがかかります。

 仮に汎用コンピューターをパソコンに置き換えられれば、システム更新が簡単になるので自分たちで対応可能、コストを抑えられます。ただし今から27年ぐらい前の話ですから、当時のパソコンの性能では到底無理だとメーカーから反対されました。

 けれども「ちょっと待て」と、自分でシステム構造を見直してみました。理屈で考えるとどうなるか。大型のコンピューターでこなしている作業を、細かく分割すればパソコンのスペックでもこなせるはずです。そこで営業拠点を10分割し、それぞれから集まる生のデータを10台のパソコンでまず処理する。一旦処理してコンパクトになったデータを集計し、ひとつ上の次元のパソコンでまとめる。今でいうクライアント・サーバー型のシステムを実現しました。

 私が大学で学んだ頃と比べれば、コンピューターはずいぶんと新しくなっていました。とはいえコンピューターというマシンが動く仕組み、基本的な概念そのものは何も変わっていません。だから理詰めで考えれば、必ず答えにたどり着ける。大学時代にみっちり学んだ成果が活きたのです。

 ものごとを筋道立てて考える力は、事業展開や商品開発にも活きています。たとえば当社は、小売店との取引に卸問屋を挟まずダイレクトにやり取りしています。間に卸が入ると取引に卸の意向が入り、消費者と直接向き合っている小売店の声が届きにくくなりがちです。

 こうした事態を避けるため、問屋機能を自社で持つようにしました。その結果、小売店と直接話をできるので、消費者が何を求めているのかがわかります。消費者の求めに応えるユーザーインの考え方を商品開発において徹底した結果、多くのヒット商品が誕生しました。

 その代表例が「なるほど家電®」です。ユーザーからは「こういうのが欲しかった」と歓迎され、いわゆる家電メーカーからは「そんな商品を我々は考えもしなかった」と驚かれる。同時に単価を上げるための余計な装飾は極力削ぎ落としました。

 具体的な商品としては炊飯器がIHクッキングヒーターにもなる「銘柄量り炊きIHジャー炊飯器」や、スティッククリーナーにモップがセットされた「極細軽量スティッククリーナー」などがあります。いずれも「ユーザーの声に基づいて理屈で考えれば、こういう家電製品があればきっと便利なはず」を突き詰めた商品です。

小さくまとまるな。
リーダーシップを持て!

 当社ではここ数年、毎年4~5名の甲南卒業生を採用しています。みんなまじめで、人柄もとてもいい。ただ残念なのが、こぢんまりとまとまっていておとなしい点です。いわゆる「ゆとり教育」の影響かもしれませんし、どちらかといえばのんびりしている甲南で育ったからでもあるのでしょう。

 ただ、何が起こるかわからないこれからの時代を、たくましく生き抜いていくにはハングリーさが必要です。自分なりの志、明確な目標を持って常にチャレンジする姿勢、そしてまわりの人間を引っ張っていくようなリーダーシップも持ってほしい。

 人を率いるには学生時代にコミュニケーション能力を磨いておく必要があります。といっても言葉巧みにしゃべれるようになれ、という話ではありません。自分の思いを、自分の言葉で、相手にぶつけるだけでは、相手の心には響かない。一方通行のコミュニケーションでは人を動かせないのです。

 スタートは相手の話を受け入れて、相手を正しく理解することから。相手の考え方や感じ方を自分なりに掴んだ上で、自分の考えを相手が間違いなく理解してくれるよう伝える工夫こそがコミュニケーションの真髄です。テキストメッセージをお互いに投げ合うLINEのようなやり取りだけをしていると、コミュニケーション能力が養われないリスクがあります。くれぐれも注意してください。

 スマホをいくら器用に使いこなせても、仕事ではパソコン操作が必須です。学生の間にブラインドタッチを身につけておけば、ポチポチとしかキーボードを打てない人の数倍の早さで書類や資料作成などの仕事を進められるようになります。

 「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」といいます。ありきたりですが、時間に余裕のある学生時代に読書に励んで下さい。歴史小説なら、楽しみながら歴史を学ぶことができます。

 そしてせっかく甲南を卒業するのだから、先輩たちが築いてくれた素晴らしいネットワークを積極的に活用してください。私は東北・甲南会の会長を務めていますが、同じような甲南会が全国にあります。この組織を思うように利用できるのが、甲南OBにとって何ものにも代えがたいメリットです。甲南を卒業する時点でみんな、一生の財産を与えられていることを、ぜひ胸に刻んでおいてください。


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